因みに今回は文字数が6000を越えました
司馬孚率いる部隊と賊が集まった集団との峡谷での戦闘、当初、地形の利用や完璧な布陣で迎え撃って優位たっていた、司馬孚であったが、賊の中にいた腕の立つ豪傑により、司馬孚の部隊の優位を覆され一度は劣勢に追い込まれた。
しかし、賊の集団の背後からの響率いる八神隊の突撃で賊達の統率を崩し、辛くも勝利を収めた。
今回の司馬孚達の部隊の被害は、八神隊が死者23人、そして一度は瓦解した司馬孚隊は死者が953人と犠牲が多かった。
(やっぱり、奇襲して統率を瓦解させたけど、無傷とはいかないんだよな…)
司馬孚隊と同じく司馬防軍の陣地へと向かっている響は少しでも犠牲が出てしまったことに嘆く。
人を斬ることに既に躊躇いなど無いとしても、人が近くで死ぬ、そして死体を大量に見れば元々平和な現代の日本に住んでいた響にとって大勢の人の死は彼の心に重くのしかかるものだった。
その時、響の頭の中では一つの思ったことが脳裏に浮かんだ。
自分は何故こんな戦いに参加してしまったのだろうか
そんなことを思っていると次に浮かんだ言葉は生き残るためであるとおもう。
当初の目的はこの戦乱の世で生き残ること、そのために響は犯罪である殺害を肯定し今まで何人も命を奪ってきた。
しかし、今回の戦は別に響にとってはメリットがないものである。
それなのに、自ら出陣するということは、自分の命を危険にさらすことになり、彼にとっては最大のデメリットといえない状況に自ら飛び込んでいった。
主君への忠誠のため?、自らの出世のため?はたまた、ただ闘いたかったため?といくつもの理由が響の頭に浮かぶが自分自身分からないことであったために、頭を少し手に当てて思い悩む。
そんな響の抜け道が分からない自問自答の問いかけに悩んでいると、不意に横にいた司馬孚が声を掛けてくる。
「あの、もう少しで如月お姉ちゃん達がいる陣地へ着きますよ?」
そう司馬孚は思い悩んでいる響を見て、もうすぐ陣地に着くことに気がついていないであろうと思い、優しく声を掛けると、響も漸く思考の海から浮かび上がって、しっかりと前に見ると目視で陣地が見えるところまで帰ってきていたことに気がついた。
そして、何事もなく陣内に入ると生還して帰ってきたからか陣内に残っていた残りの司馬懿と司馬朗の兵は歓喜で生還した兵達を祝福する。
それを受ける響も生き残れたと生きている実感を身にしめていると、陣幕の方から急いで駆け寄ってくる司馬懿と司馬朗の姿を捉える。
「や、弥生ちゃーん!!」
そう、司馬懿より先に響と司馬孚の元へたどりついた司馬朗は帰ってきて馬から下馬した司馬孚にタックルをかますように抱きつくとそんな抱きつきに、体が支えられるわけもなく司馬孚は体制を崩して仰向けで倒れた。
「怪我してない!?賊達に疚しいことされてない!?」
そう、心配の声を次々と司馬朗の言葉から出てきて、漸く響の元へ来た司馬懿と響は思わず苦笑いの笑みを浮かべる。
「だ、大丈夫、響さんが助けてくれた」
司馬朗の次々と出てくる心配の言葉を一括で纏めて響が助けてくれたから問題なかったと告げるとそっかと、司馬朗は司馬孚に向けていた視線を響に向ける。
「響さん、ご苦労さまでした、此度の働きのお陰で妹の窮地を救ってくれたこと心より感謝いたします」
「響さん、弥生ちゃんを助けてくれてありがとね!」
今回の戦の功労者である響に対して、まず、司馬懿がいつもとは違い丁重な言葉で響にお礼を言い、その後に司馬朗からはいつも通りの口調でお礼を述べられた。
「いえ、私など、褒められたことではございません、今回の戦は司馬懿様のお力があったからこそです」
主君である司馬懿からのお礼を響は上である司馬懿の力があってこその今があるとまるで自分は何も出来ていないと自虐的なことにも聞き取れる言葉を丁重語で返した。
これには、お礼を言った司馬懿も戸惑ったが回りに顔の色を伺われないようにするために平然を装ってそう…ありがとうと、お礼を受け取った。
その場にいた司馬朗と司馬孚には響と司馬懿のやりとりを見て不服なことがあるのか、むくれた表情で響を見るがそんな視線を気にすることなく響は陣を取り払い、帰還する支度を手伝いにこの場から離れていく。
陣を取り払い、長安へと帰路へと入るときには既に日が沈みかけている時間になっており、そんな中で響達は長安への道を戻っていく。
ゆらりゆらりと馬に揺られながら長安へと向かう一行、先の戦いの疲労と馬の歩きにあわせて動く揺らされ、その揺れが居心地がいいのかうとうとと響が眠気に襲われる。
そんな眠気と響は必死に諍い、そして空に星が輝く夜空になったときに漸く響達は長安へと帰ってきた。
長安に入ると引き連れた兵を兵舎へと戻し、それを終えた後軽く身嗜みを整えた後司馬孚を先頭に4人は政庁へと赴く。
政庁の中は夜ということもあるのか玉座には司馬防が目を瞑り、何かを待っているかのように泰然とした態度で座っており、その辺りには士官らしき人物が何人かいてそれと護衛のための兵が数人と響達が依然訪れた時より人気が少ない。
そして玉座から3メートルほど離れた場所に司馬孚達はとまると直ぐさま臣下の礼を取った。
「…帰ったか」
司馬孚達が臣下の礼を取った直後、戻ってきたのを察した司馬防は瞑っていた目を開けて、玉座に座りながら司馬孚達を身を下ろすかたちで、司馬孚達に対し短く述べた。
「申し上げます。此度の賊討伐の任、父上の主命通り、完遂しました。」
そう、司馬孚は司馬防に対して報告を述べる。
勿論、この言い方であるならば響が加勢したという事実を隠蔽していることになっておりそれを聞いていた響は内心でひやひやと肝を冷やしていた。
そして報告を聞いた司馬防は何か考える仕草を取り、視線は司馬孚から司馬懿と司馬朗に向く。
「伯達、仲達、叔達は無事に私の命を全うしたのだな?」
本人の証言だけでは信用できないのか、戦場まで同行して立会人として司馬防が連れて行かせていた司馬懿と司馬朗にもそう訪ねる。
「はい、叔達は見事に私と伯達の力を借りずに賊を討ち取り、主命を全うしました」
「うん!私たちは本陣でずっと待機してました」
まず、司馬懿が簡潔に自分たちの行動を話し、それに続くように司馬朗も同じように司馬孚の報告に偽りがないと告げる。
「……そうか、ならばよい」
2人の証言も聞いた後、司馬防は少し考え事をした後、司馬孚の報告を信じたのか平然とした顔つきでそう言った。
「正確な状況は後日、報告書に纏めて報告してもらう。今日はご苦労であった」
後日に報告書を提出するように司馬防は司馬孚達にいうと、最後に戦いの苦労を労う言葉を口にした。
司馬孚達は司馬防への報告を終えると再び一礼して政庁から去って行き、司馬孚達が去った後、見計らったように文官が司馬防の前に立つ。
「司馬防様、ご報告します。」
「っで、どうであった」
「司馬孚様の引き連れた兵に紛れ込ませていた間諜からの情報がまとまりました。司馬孚様達が先程仰ったお言葉に偽りはありません……ですが、司馬懿様の横におりましたあの男、かの者が司馬孚様に加勢したと」
文官は司馬防に対して臣下の礼をとって、主君の命で司馬孚隊に間諜からのを紛れ込ませ、その間諜からの情報を聞き、それを司馬防に偽りなく伝える。
初めから、司馬懿達が主命に反する行為をしないかのお目付役が紛れ込んでいて、勿論、響が司馬懿の命で出撃したことも司馬防の耳を入った。
間諜からの情報も聞き、深く考える司馬防。
そんな司馬防に文官は更に口を開けて進言する。
「司馬防様、あの者は司馬懿様の世話役とお聞きします。そのような者に一軍を率いさせたこと、これは見過ごせるものではございません。あの者に処罰を与えるべきかと」
文官は何処の骨かも分からない一般人であった響が一軍を率いたことを良く思っておらず。響への処罰を与えるように進言する
しかし、そんな文官の進言に対して司馬防は考えずにすぐに返事を返した
「かの者に対しての処罰は不問だ」
響を不問とするその結論に文官は大きく響めく。
「何故でございますか!?」
「馬鹿め!貴様は分からぬか!?ならばよく考えることだな」
結論の理由を聞こうと文官は訪ねるが司馬防はその文官に理由を言わずに罵声を浴びせ、不問にした理由を自身で考えろとそう言うと文官を下がらせた。
一方そんな話があるとは知らず政庁から出た響達は司馬懿の自宅へと来ていた。
政庁から出た後、そこで解散するであろうと思っていた響であったが、司馬懿の提案で解散はせずに司馬懿の自宅に行くことになった。
そして自宅のリビングに当たる部屋に集まっている響達。
4人とも椅子に座り彼らの目の前の机には取り寄せた、食材で軽く作った料理と酒が並んでいる。
「それじゃあ、此度の弥生ちゃんと響さんの初陣勝利を祝しまして乾杯!」
そう司馬懿が宴会の音頭をとる。
何故、4人は解散せずに司馬懿の家に集まったか、それは響と司馬孚の初陣を労い、小さい宴会をあげたのだ
「あの、本当に俺も祝られてよかったのか?…俺は身分の低い平民上がりなわけだし」
そんな中司馬懿達と一緒に楽しむことに場違いではないかと、遠慮姿勢の響は恐る恐る司馬懿に聞いてみる。
「別にいいじゃない、今いるのは私たちは4人だけだし、それに身分なんて今更でしょ?」
一向に構わないと言い切る司馬懿に司馬朗と司馬孚もそれに賛同するように頷く。
それを見た響もそれじゃあと何とか割り切って小さな宴会を楽しむ。
そして響達が宴会をやり始めてから二刻ほどが過ぎた。
長安の町は静まりかえり、少し前まで宴会で騒いでいた司馬懿の家も静まりかえっていた。
そんな司馬懿の家の中庭に響は一人草むらに寝転がって空に見える月を眺めていた。
「……」
元の世界ではそれほど見上げたこともない夜空。
明かりも少ないために夜空は響の元の世界より輝いて綺麗に見える。
「……父さんも母さんも……元気かな…」
ふと空を見上げていると響は家族のことを思い浮かべる。
初めは本の少し離れるだけの学業だったはずであったが既にこの漢に来て約8ヶ月か経過しており例え、親との関係が悪いとしても親や故郷が恋しくならないわけがない。
と響は親のことを思ったところで帰る手掛かり見つかるわけがなく。夢見がちかと少し溜め息を付く。
「…ん?」
響が溜め息を付いた後、誰かの足音が響の耳に聞こえてきてその方向に視線を向けるとそこにはお酒と2杯の御猪口をもった司馬懿の姿があった。
「響さん、こんなところにいた」
探したのよと、顔が少し赤らめながら告げると響の横に座る。
「響さんいつの間にか居なくなってたから、来ちゃった」
「来ちゃったって、伯達様と司馬孚様はどうしたんだ?」
居なくなった響を探しに来た司馬懿に響は今も部屋にいるはずの2人はどうしたと返事をすると返答は直ぐに帰ってきた。
「2人とももう寝ちゃったわ、弥生ちゃんは戦闘の疲れだと思うけど、睦月ちゃんはお酒飲みすぎて酔いつぶれたみたい」
と、響が居なくなった後の2人の経緯を簡単に述べるとおいおい、苦笑いの笑みを零す。
そんな響を見て、少し思ったことがあったのか司馬懿は響に顔を近づけ訪ねた。
「そういえば響さん、今回の宴会楽しみましたか?」
と宴会の殆どを準備していたしていた司馬懿は響にどうだったか訪ねると響は笑みを浮かべて直ぐに返事を返した。
「ああ、勿論楽しんだよ」
と嘘偽りのない言葉を喋るがそれでもなにやら思うことがあったのか、その思うことを司馬懿は響に対して答えた。
「それじゃあ、響さんお酒飲んでなかったですけど、どうしてですか?」
確かに響は宴会を楽しんでいた。
しかし、一つだけ司馬懿には気になる点があった、それが酒である。
姉妹達と響と楽しみながらも何故か注がれていた酒に手を出さなかった響に司馬懿は疑問を感じていた。
「ああ、俺が居た国だと酒を飲める年齢二十だから…まだ飲めない年齢だから、のまなかった」
司馬懿の疑問の問に、そんなことかとなにやら深刻なことではないのかと思っていた響は苦笑いの笑みを浮かべて、自分の国での規制を話す。
「なるほどね…けど、この国だとお酒飲めるでしょ?だから…はい」
そう、響の話しに納得したが司馬懿は響がいる国は漢であるため、今の年齢でも飲めるだろうと笑みを浮かべながら指摘され、持っていた御猪口に酒を注ぎ注いだ御猪口を響に渡した。
響は渡された御猪口を少し戸惑いながら貰い、入っている酒を見た後、司馬懿の方に顔を向ける。
向けると司馬懿はもう一つの御猪口に酒を注いでおり、注ぎ終わると司馬懿も響を見て目が合う。
「それじゃあ飲みましょ」
と司馬懿はそういうと、酒を飲むことに抵抗があった響は諦めて、御猪口に入った酒を一気に飲んだ。
「うっ、酒なんて飲んだことないから独特な味…」
飲んだ後、初めて酒を飲んだこともあり苦い顔を浮かべる響、それを見て司馬懿は笑みを零して小さく笑う。
「本当にお酒飲んだことないのね、それと今日はお疲れ様、響さんがいたおかげで弥生ちゃんが助けられたわ、姉としてお礼を言わせて、ありがとう」
「べ、別にたいしたことじゃないだろ……家臣として主君の命を全うするのは当然のことだろ?」
今回の響の活躍にお礼を言う司馬懿、それに対して、響はあくまで直臣として命令を全うするのは当然のことだと述べる。
「それでも……そうね…響さん…」
それは分かっている司馬懿であるがそれでも何かお礼がしたいと考えると直ぐに一つ思い浮かび、響の名前を呼ぶ。
「なんだ?」
「ねえ、今朝の続きする?」
と司馬懿は突然上目遣いで響を甘い声で誘ってきた。
「今朝…って!?」
響は一瞬何のことかと分からなかったが今朝何があったか思い出すと直ぐに顔が赤くなっていく。
今朝、異様に司馬懿に攻められて理性が危険な状態に陥った。
その事実を思い出しそれの続きといえばもう何をしようとしているか分かるだろう。
「いやいや、冗談きついですよ!?あれも事故であんなことに」
先程の楽しい宴会はどこへやら、響は再び来た危機的状況になんとか回避するため司馬懿を説得する。
だが、これで止まる司馬懿ではない。
司馬懿は更に響に詰め寄り、一気に流れを掴もうと甘い声で誘惑することを続ける。
「私…響さんから見て…そんなに魅力無い?」
と、司馬懿は今も続く上目遣いで響に問いかけると、響はその問の答えに言葉を困らせる。
確かに司馬懿は魅力的な女性だ。もし、自分と結婚できるなら是非と言いたいぐらい。
しかし、付き合うにつれて一つだけ障害がある……身分の格差だ。
司馬懿の補佐のとはいえ響は平民の出ということは変わりない。
対する司馬懿は太守の娘、身分など天と地の差もある。
もしその2人が夫婦となったとしよう、世界が…そこに住まう民や重鎮達が認めるであろうか?
あり得ない、叶わない夢であることなどわかりきっていることだ。
「仲達様、あなたに魅力はちゃんとあるよ…けど、そういうことはしっかりと身分がある人じゃないと駄目だろ?」
「響さん?」
「けど、もし…仮に俺と仲達様が結婚して…長安の民や重鎮…なにより司馬防様が認めるとは思えない」
現実的な予想を述べていく響、それを司馬懿は聞いて顔を俯かせる。
司馬懿もそれは分かって入る…しかし、中々受け入れられないのが正直なところであろう。
「はい、この話し終わり、祝杯なのに重い空気になったな、よし!仲達様、酒飲みましょう!こういうときは酒を飲むのが一番なはず!」
俯いて落ち込んでいる司馬懿を見て何か空気を変えないと、そう思った響が先程は抵抗していた酒を飲もうと先頭だって提案し雰囲気を変えようと画策する。
「少し部屋に酒とってくる、だから此処で待っていてくれ」
そう響は睦月達が眠っている部屋にある酒を取りに急いで走って行く。
それを司馬懿は見ているだけしか出来ず響が視界から外れると思っていることを口にして零した。
「身分の…差…」
響が告げたその言葉…この言葉が司馬懿の心に重くのしかかる。
「…響さんは平民で……私は太守の娘…」
こんな身分の差なんて無ければ良いのに……と司馬懿は初めて自分の出世を呪った。
そして、酒を持って戻ってきた響と嫌な思いが消し去るほどに酒を飲み交わし続けた。
余談であるが響と司馬懿、そして司馬朗は酒の飲み過ぎで二日酔いに倒れ、唯一ならなかった司馬孚は響と司馬懿の二日酔いを見て首を傾げた。