ビルス星よりおよそ25分。ウイスの肩を掴むビルスとゼノの前には美しい水と緑が広がる星が広がっていた。
「やっぱりいつ見ても宇宙の中で一番環境が整ってるねぇ」
「うわぁ…これが俺のいた星…」
久しぶりに見るその地球にゼノは驚きを隠せなかった。
「では、どちらに降りましょう?」
「そうだねぇ。まずは最近、騒がしい『駒王町』にしようか」
「はい!」
ビルスに頷いたウイスはそのまま地球の中でも一際小さな島国『日本』へと急降下していった。
「ぎゃああ!!!!速い!速すぎるよウイスさぁぁぁぁあん!!!」
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五大宗家
それは人間でありながら特殊な能力を持って生まれた人間達からなる家系であり、その中でも優秀な部類を集めた5つの家系である。
だが、その家系は優秀でありながらも、過去の一件か、自身らの家の者が代々受け継ぐ『異能』を持たないもの、更には悪魔や堕天使といった人外の者を忌み嫌う鎖国的な風習が残っていたのだ。
そして、そのうちの一つ『姫島家』はまさにその渦中に立たされていた。
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「母様!!母様ぁああ!!!!」
駒王町の神社の社にて1人の少女の叫び声が響き渡っていた。その少女の目の前には口元と腹から血を流し倒れ臥す女性の姿があり、泣き叫ぶ彼女へと細い声を
「朱…乃…逃げ……」
「嫌だ!!母様!!やだよ!!!」
その時であった。
「全く、こんな『汚点』を庇うとは馬鹿な奴だ」
「!?」
背後から男の声が聞こえると共に、振り向くとその鍛え上げられた腕が少女の首を掴んだ。
「が…」
「そう悲しむな。お前もすぐ母親の元に送ってやる。汚点ながらも贅沢な最後に喜ぶが良い…!!!」
その言葉と共に男が手に持ったナイフを近づけてくる。
やだ…やだ!!嫌だ!!死ぬのはやだ!母様も死んでない!!死んでない!!
やめて!!やめて!!!
その時であった。
「ぎゃぁあああああ!!!!!!」
「「「「「!?」」」」」
ドオオオオンッ!!!!!
突如として空から謎の物体が飛来し、背後に立っていた宗家の面々を吹き飛ばした。
「え…?」
何が起こったのか?男は手を止め、朱乃も理解できず目の前の立ちこめる砂煙の中を見つめる。
すると
「あ〜!!!もうまただ!また放り出された!!」
煙の中から人影が見え、その影の正体が露わとなった。
「え…?」
その中に立っていたのは自身とは全く同い年に見える子供であったのだ。
「だ…誰…?」
突如として空から現れたこの子は一体何者なのか?
そもそも、なぜこんな所に?
彼らの仲間なのだろうか?
様々な疑問が浮かび上がってくる中、自身を掴み上げていた男が警戒心を露わにして、少年へと目を向ける。
「貴様…何者だ…?」
「え?」
名前を聞かれたのか、その少年は立ち上がると服の埃を払い頭を下げる
「『ゼノ』デス。ヨロシクお願いシマす。ビルス星から来た。ここは何処だ?」
「ビルス星…?ふざけてるのか?…まさか貴様…!堕天使共の使いか!!」
「は?」
男が槍を向けるも少年は首を横にふる。
「いや違うって。ただビルス星から来て、降り立つ前に放り出されてここに落ちたんだって」
「そんなふざけた理由がまかり通ると思っているのか!?」
男はすぐさま異能を発動させる。すると、男の手に持つ槍が炎に包まれた。更に少年によって吹き飛ばされた男達も立ち上がり、全員が異能を発動させる。
「貴様も此奴らと同じくここでくたばるが良いッ!!!」
「…!!」
そう叫んだ男達は一斉に少年へと向かっていったのだった。
その瞬間
「いや、違うって言ってんだろ」
____ッ!!!!
複数の打撃音が響き渡ると同時に、向かっていった男達全員の胸部が深く陥没し、その場に崩れ落ちた。
「え…?」
何が起こったのか、全く理解できなかった。ただ瞬きした時には既に終わっており、自身を殺そうとした宗家の者達は、皆、地面に倒れ伏していたのだ。
その一方で、少年は倒れた男達へと目を向けていた。
「あ〜あ。思わず心臓殴って殺しちゃった。まぁいいか」
すると
〜♪
突然とその場に謎の電子音が流れ、その音を耳にした少年は懐から何かを取り出すと耳に当てた。
「あ、ウイスさん!?ちょっと!また振り落とされたんですよ!?今どこですか!?」
『ホッホッホ!これは失礼しました。私達は今、『駒王学園』という学舎の近くにいますよ。恐らくそこからさほど遠くないので、すいませんが、歩いてきてください♪』
「えぇ!?分かりましたよ…」
その通話が終わると、その少年は不機嫌そうに鳥居から見える街に目を向ける。
「ったく。駒王学園は…あっちか」
そう言い少年は此方に目を向けることなく、この場から外へと駆け出していった。
「…」
後に残された朱乃はようやく我に帰る。自身らは助かった。殺そうとした宗家の者達も死んだ。故にすぐさま自身を庇って倒れた母の身体を揺さぶる。
「母様!母様!!!助かったよ!ねぇ起きて!起きて!」
朱乃は必死に自身の母の身体を揺さぶる。だが、その身体からは返事も、動くことも、それどころか温もりも無かった。
「起きてよ…ねぇ…母様…!!」
揺らしていくうちに、その母の顔に少女の涙が流れて落ちていく。そんな悲痛な声と涙が触れても、母の目は開くことはなかった。
「いやだ…母様…母様ぁあ!!!!」
暗く静寂な神社の中に取り残されたのは、ただ泣きじゃくる幼い少女と、暖かさを失ってしまった母だけだった。
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場所は代わり、駒王学園へと到着してビルス達と合流したゼノは駒王町を調べていた。
「ふむふむ…」
「何か分かったんですか?師匠」
ゼノが尋ねると、周囲を見渡していたビルスは答えた。
「まさにビンゴだったよ。この町だけ、特殊な力の残滓が感じられる。しかも、違う世界への入り口の時空の歪みも感じられる」
「へぇ!なかなか面白いじゃないですかそれ!ワクワクしますよ!すぐ行きましょう!」
ビルスの答えを聞いたゼノは目を輝かせるものの、ビルスは顎に手を当てる。
「いんや、行ったらめんどくさい事になる。いちいち、星のいざこざ如きに首を突っ込むのは気が進まないからねぇ」
「でもそんな感じでやってきたから人間レベル低かったんでしょ?」
「やかましい!!」
ゼノを一喝したビルスは考え込むと、ある提案をする。
「じゃあこうしよう。4年後、君が16歳になったら、修行として君にこの星の調査をお願いするよ。悪魔だの堕天使だの、そいつらが、人間レベルを下げる様な連中なら迷わず破壊して良い。何なら、種族ごと消しても構わないよ」
「えぇ?」
その提案についてゼノは首を傾げる。
「それってつまり、独り立ちって事ですよね?流石にいきなり一人暮らしとなると金とか色々と…」
「その辺は心配ないよ。ちゃんと、経費として仕送りはする。だけど!それは最低限!娯楽は自分で稼げ!あと月一はスイーツを送るんだ!」
「なるほど〜」
その提案について、ゼノは改めて考えると、笑みを浮かべながら頷いた。
「分かりました!じゃあ受けます!」
「よしウイス!帰りに『名古屋』に向かうぞ!『味噌カツ』とやらを食べるんだ!!」
その後、3名は他の場所でも“色々とやらかしながら”調査を終えると軽く観光し、地球を後にしたのであった。
だが、彼らは知らなかった。彼らが地球での食事の際に、あまりの美味さによって気を抜いたその僅かな一瞬のうちに漏れた巨大な『気』によって、世界中の神器達を無意識にも目覚めさせてしまった事を。