翌日。
「…さて。今日からまた学生生活か」
朝日を浴びながら起き上がったゼノは事前に支給された制服に腕を倒し、長い髪を三つ編みにして整えると支度をする。
あれからゼノは学園へ入学する事に決めたのだ。入学する目的は勿論、彼女達により、つけ込まれないためでもある。仮にここで断ってしまえば、日常生活全て監視されてしまう可能性があるだろう。それを防ぐために敢えて彼女達の近くにいる事に決めたのだ。
それから数日かけて編入試験やら色々とリアスを通じて用意してもらい、入学する準備は整った。
ゼノにとっては学生生活など義務教育を受けるために設立されたとある惑星での『スペーススクール』以来である。
だが、今回は学習よりも悪魔の監視が主であるために必死に勉学に取り組む必要はないだろう。
それでも、学園は学園。最低限でも勉学に励むのは必要となってくる。
すると
『おはようございますゼノさん。調子はどうですか?』
「ウイスさん」
携帯が光だし、ウイスからの通信が届いた。
「問題ないよ。衣食住は手に入れたし、悪魔共と接触できたから、入学してアイツらと一緒に行動する。あとは、日本の神話の代表の天照に挨拶するために高天原にもいかないと」
『それはそれは。あ〜悪魔の件についてですが、私なりにも調べてみたところ、現在の駒王町をまとめているリアス・グレモリーというお嬢さんのお兄様がどうやら悪魔をまとめる魔王らしいですよ?』
「兄が魔王…?」
『えぇ。なので彼女と交流を深めればより深く入り込めると思いますよ〜』
「確かに…そうなると、奴とは最低限の交流を持っておいた方が良いのか」
その後、通信を終えたゼノはブレザーを着用せず、ネクタイを着用したのち半袖のセーターの上にトレンチコートを身に纏うと玄関を出る。
「さて…行くか」
ドアを開け、玄関を出ると_____
「おはようございます。ゼノくん」
「え?」
何故かニコニコと笑みを浮かべる朱乃の姿があった。
○◇○◇○◇
あれからゼノは待ち伏せしていた朱乃と共に通学路を歩いていた。
「何でここに?」
「あらあら。貴方の護衛なんですから当たり前ですわ。それに…貴方のお力も見られるかもしれないので」
「はぁ…住所もまさか…」
「勿論、部長から聞きましたわ。それと先程誰かとお話されてた様ですが、誰と話されてたんですか?」
「…………師匠だな。俺に闘い方とか色々と教えてくれた。俺が心配で連絡を寄越してきたんだよ」
「あらあら。随分とお弟子さん想いですのね」
そんなこんなで談笑していると、もう駒王学園が見えてきた。
『私立駒王学園』
小中高大の一貫教育システムのある都内有数の進学校であり、設備は勿論だが、教育も高水準である。そして学費も…(小声)
因みに元々は女子校であったためか、女子の比率は高くそれを目当てで来る男子生徒も少なくはない。
すると
__きゃああ!朱乃お姉様よ!いつ見てもお美しいー!!
朱乃の姿を見た途端、周囲の多数の女子達から歓声が巻き起こる。そしてそれは転入生のゼノも例外ではない。
__隣にいる男子は誰かしら!?随分と小さいけど
___きっと甥っ子様か何かよ!
___しかも見たことないから転入生よ!新たなマスコットの誕生よ〜!!
__でも何でコートなんか
何故か自身にも向けられる声もあったが、内容以前にその甲高い声にゼノは若干ながらも苛立ちを覚える。
「うるせぇな…」
「あらあら。相変わらず元気な子達ですわ」
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
ー
そんなこんなで教室へと到着し終えると、教師の紹介の元、挨拶をする。
「…“黒崎ゼノ”。どうぞよろしく。他に何か?」
簡単すぎる上に無愛想なその雰囲気に、高い声を上げそうになったクラスの雰囲気は一気に冷めていく。それもそうだ。マスコットのような見た目とは別に、転入初日に渋みのあるロングコートに加えて無愛想な表情など、とっつきにくい以外にない。
「じゃ…じゃあ席はどうしようか!?」
「う〜ん。じゃあ…」
ゼノの無愛想な雰囲気にオロオロとしながらも、担任が声を掛けると、ゼノはあたりを見回す。
すると
「あの…私の隣…どうでしょうか…?」
後ろに座っていた一人の少女が挙手をした。
「ん?アンタは」
その白い髪の少女には見覚えがある。昨夜、オカルト研究部で、出会った部員『塔城小猫』であった。
一方で、彼女が手を上げた瞬間 クラスの数人の男子達が反応する。
「な…なにぃいい!!?塔城さんが自ら!?」
「なんなんだ!?一体どう言う関係なんだ!?」
「静かに!!静かに!!じゃあゼノくんは塔城さんの隣で!」
「…分かりました」
教師の指示に従いゼノは彼女の隣の空いている席へと座る。その際に周りから羨ましがる声が次々と聞こえてくるが、そんなものには耳を傾けなかった。
「なんで俺を隣に?」
「隣の方が、色々と都合が良いと思うから…それに数少ない…同学年だし…よろしくゼノくん」
「…部員…か。まぁよろしく」
その後、通常通りの授業が始まった。
内容としては、既に履修した範囲であり、ゼノはとても退屈するのであった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
それから時間が過ぎて、授業は無事に終了して放課後。
「ふわぁ…終わった…。さて、駅前のラーメンでも食いにいくか」
授業を終えたゼノは欠伸をすると荷物をまとめて下校の支度をする。
すると
「ゼノくん…一緒に部室に行きませんか…?」
「ん?」
いつの間にか目の前には小猫が立っており、まるで通せんぼするかのように立ち塞がりながら部室へ誘われた。
「お前は確か…猫?」
「塔城小猫です。忘れないでください。それより、部室に行きましょう」
「なんで俺が…」
「ゼノくんはこの件が片付くまでは私達の保護下に置かれることになってます。だから顔出しで」
「そんなもんいらないよ」
小猫が何度も説明するが、ゼノにとっては煩わしいものでしかないためにその場から立ち上がりコートを着ると教室を出た。
「朱乃さんに…怒られますよ?」
「別に予定が済んだら顔出すよ。それより俺は駅前のラーメン____」
その時であった。
「___!!」
突然と、街のある店から妙な気を感じ取った。それは悪魔であるがその悪魔よりもやや濃いものであり、怨念や悪意が感じ取れる。
「ラーメン?でしたらお付き合いします。……どうしましたか?」
「…急用ができた」
「え?」
小猫が答えるよりも早く、ゼノはその場から消えた。
「消えた!?」
ーーーーー
ーーー
ー
その後、小猫は部室へ向かうと一部始終をリアスへと報告した。
「ゼノが突然と?見間違えじゃないのかしら?」
「いえ…確かにこの目で見ました…。ゼノさんが一瞬で消える所を…」
「おかしいわね。移動なんて…私達の場合は悪魔でないと転移は出来ないはず…」
小猫の話を耳にしたリアスは益々、得体の知れないゼノの特徴に疑問を抱き、朱乃へと尋ねる。
「朱乃、あなた何か知っているのかしら?」
それに対して朱乃も首を横に振る。
「いいえ。私も初耳ですわ」
「彼と一番交流がある貴方でさえも知らないとなると…益々気になるわ…あの子は一体、何者なのかしら…?」
考えれば考える程、ゼノに対して疑問が湧き出てくる。そもそも、朱乃から話を聞いた時点で不思議に思っていた。
なぜ空から?
なぜ大人の術者達を容易に殺せた?
その強さを教えた師匠とは?
「う〜ん…」
「あの…大丈夫っすか…?」
次々と溢れ出てくる疑問にリアスは頭を掻きむしり、それをイッセーは心配する。
「大丈夫よ。考えすぎたわ。それよりも、イッセー。今日は駒の特性を教えてあげる」
「え?特性って…」
「貴方を悪魔に転生させた“悪魔の駒”のことよ。大公から、近辺ではぐれ悪魔が潜んでいるという情報が来たから、討伐も兼ねてレクチャーするわ」
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
ー
「あの部長…はぐれ悪魔ってなんすか?」
「元々は主に使えてたけど、力に溺れ…その眷属のみならず主まで殺した悪魔のことよ。その強さはランクごとに分かれていて、それぞれで強さが異なるわ」
リアスがイッセーへと説明している合間に、眷属の紋章によるワープによって、目的地である場所に到着した。
「ここは…」
着いたのは駒王町のはずれにある廃墟であり、辺りに人気は全くない。初めて来たこの場所にイッセーがあたりを見回していると朱乃が補足する。
「報告のあった場所ですわ。発見されたはぐれ悪魔がここに迷い込んだ人間を食べているとの報告がありましたの」
「えぇ!?じゃ…じゃあそれ不味いんじゃ…」
「だから私達に対処する義務があるのよ。あら?朱乃、ゼノは?」
「あ…言われてみれば」
リアスの言葉にようやくイッセーも気づいた。本来ならば、同じ部員であるゼノもこの場にいる筈であるにも関わらず、彼の姿がなかったのだ。
「小猫から消えたって聞いたあと、連絡を頼んだんだけど」
「それが、何度掛けてもお電話に出ないのですわ」
そう言い朱乃はゼノとの連絡画面を見せると、そこには何度も朱乃の方から通話を掛けた履歴が残っているが、全て応答がなかった。
いない上に電話にも出ないとなるとしょうがない。故にリアスはもう決めた。
「しょうがないわね。彼にはまたの機会に____」
その時であった。
「ギャァアオオ!!!!」
「「「「!?」」」」
中から悍ましい断末魔が聞こえた。その悲鳴に一同は驚くと、すぐさま中へと入る。
ーーーーー
『『『…!!』』』
中へ侵入した一同は驚愕する。
そこには、はぐれ悪魔らしき異形の怪物が、肉片となって地面へと散らばっていた。
いやそれだけだはない。その近くには、肉片を見下ろす、白いフードマントを被った子供が立っていたのだ。
「バイザー…!?いや…それよりもなんでこんな所に子供が…!?」
リアスが警戒していると、その子供はゆっくりと振り向く。
その顔はフードで完全に覆われており分からないが、小猫と変わらない背丈でありながらも、やや逞しい体型から、ただの子供とは言い難い。
だが、
「…!!」
そのフードの奥からはとてつもない威圧感を放っていた。
「部長…」
「朱乃、魔力の準備を…。悠斗も。どうやら味方じゃないわ」
朱乃に指示を出したリアスは前に立つと、その子供に近づいた。
「ごきげんよう。私はリアス・グレモリー。この辺りにはぐれ悪魔『バイザー』がいたらしいんだけど、貴方が倒したのかしら?」
「…」
それに対して、子供は肯定するかのように頷いた。意思疎通ができると知ると、リアスは朱乃と木場、小猫に小声で指示を出しながら質問を投げかけていく。
「どうやって?それと…貴方は一体、何者かしら?」
だが、今度はその質問に答える事はなかった。
「なるほど…言葉は出ない…いいえ、出せないみたいね。___ん!」
その時であった。その子供は、自身の背後にある廃墟の出口へ目を向け、逃走を測ろうとした。
それを即座に見抜いたリアスは指示を出した。
「悠斗!!」
「はい!!」
その言葉と共に、背後に構えていた木場の身体が空気に消えた。
「消えた!?」
「早すぎて見えないのよ。悠斗の駒は『騎士(ナイト)』その名の通り特性は達人級の剣術と、神速よ」
イッセーへと説明していると、消えた木場の身体は子供の背後に現れた。
「悪いけど、峰打ちで行かせてもらうよ…!!」
そう言い木場の腕に握り締められた剣が少年へと振り回された。______
______だが、それは空気を斬った。
「…!」
避けられた!?
それを見た木場は驚きながらも、次々と剣を振るうが、子供はそれと同等かそれ以上の速度で避けていった。
その光景にリアスも予想外だったのか、驚きを隠せなかった。
「悠斗の剣が見切られてる…!?」
木場の速度と剣術は全ての騎士の中でも上位に届く程だ。それほどの強さを秘めた彼を圧倒する子供の反射神経に、リアスは驚きながらも次の作戦に移る。
「小猫!」
「はい!」
その指示に応え、今度は小猫がフィンガーグローブを装着しながら前に出る。
「えぇ!?小猫ちゃんだけじゃ…」
「大丈夫よ。小猫の駒は戦車(ルーク)特性は何物も寄せ付けない頑丈な身体と怪力よ!」
その言葉と共に小猫は少年の目の前まで迫ると、拳を放つ。
「ぶっ飛べ…!!」
だが、
その拳を少年はアッサリと受け止めた。
「!?えい…!!」
防がれた小猫は続けて拳や蹴りを放つものの、その少年は全て拳で捌くような形で受け流していったのだ。
「小猫まで…!?」
神速の木場のみならず、怪力な小猫までも圧倒する子供にリアスは汗を流しながらも即座に朱乃へと指示を出す。
「朱乃!!準備はいいかしら!?」
「はい!」
イッセーを除いて最後の砦である朱乃へ呼び掛けると、魔力が溜まったのか、全身が雷のオーラに包まれた朱乃が頷き、その子供へと飛び掛かる。
「二人とも!!離れて!!!」
「「…!!」」
リアスの呼び掛けに木場と小猫が子供から離れると、入れ替わるようにして迫った朱乃が、その子供目掛けて最大出力の魔力を放つ。
「ごめんなさいね!雷よ…ッ!!!!」
その瞬間 その場一帯が閃光に包まれると共に巨大な落雷が落ちた。
「ぐぅ!?なんすかこれぇ!?」
「ウチの『女王(クイーン)』朱乃の力よ。その特性は戦車と騎士の能力に合わせて巨大な魔力を操る最強の駒。特に朱乃の雷は私達の間でも評判だわ」
「小猫ちゃんだけじゃなく朱乃さんも怖ぇ…!!」
すると、閃光が少しずつなくなり、辺りの景色が鮮明になってくる。
「やったかしら…?」
手に滅びの魔力を放出し、構えながらリアスはその場を見つめる。
光が消え、その場にあったのは______
_______魔力を放った朱乃ただ一人だけであった。
「朱乃!あの子供は!?」
「…」
リアスが尋ねると、朱乃はバツが悪そうな表情を浮かべながら振り向いた。
「すいません部長…間一髪のところで避けられ、その隙に逃げられてしまいましたわ…」
「なんですって!?」
その言葉にリアスはすぐさま感知範囲を周囲に広げて集中するも、先程の子供の放つ独特な威圧感などは消え去っていた。
「本当だわ…もう気配も感じない」
「どうしますか?」
「行方が分からない上に得体の知れない相手である以上…こちらから接触するのは危険だわ。報告だけしておきましょう」
「はい…」
リアスの言葉に朱乃は頷きながら魔力を身体に納める。
それからリアスは再びイッセーに目を向けた。
「ごめんなさいねイッセー。今回はトラブルが起きてしまったわ。また別の機会に詳しく説明してあげる」
「あ…はい!えっと、因みに俺の駒って…」
イッセーが恐る恐る尋ねると、リアスは答えた。
「兵士(ポーン)よ。イッセーは」
「兵士(ポーン)!?」
○◇○◇○◇
場所は代わり、駅前のラーメン店にて。
「ふへぇ…」
長めの中華風の戦闘服を身に纏っていたゼノは大盛りのラーメンを美味しそうに啜っていた。
「ん〜!!!やっぱ一仕事終えたラーメンは最高〜!!」