∞ - Kado: the Respective Answers -   作:沖黍州

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プロローグ1のリライトに合わせ、変更されたものです。


(邸和歌執筆分)





(ボツ:旧作、観測する■■)プロローグ2:Psychological Flegonix

 立山さんとの夕食を終えて帰宅する。この4ヶ月ほどで何度か連れて行ってもらっているお店だったが、相変わらずとんかつは大変美味しく、とても満足するものだった。その場で告げられた立山さんからの勅命は驚くものであったが。

 バッグから水筒とお弁当箱を取り出し、流しで洗う。夕食を作らなくて済むのは大変助かるが、楽をした分、夕食の残りを明日のお弁当に詰められなくなるので理不尽に損をした気分になってしまう。

 朝起きること自体は苦ではないので朝お弁当を作っても良いのだが、万が一寝坊でもしてしまった時のために早めに出来ることは済ませてしまいたい。

 私は自分のことをさほど信用していないのだ。

 周りからはそれなりに評価されるし、小学生のころから同級生の中では頭が良い方だという自負もあった。しかしそれは信用とは別物だ。

 私にはあまりよく分からないのだ。自分を信用するとは、一体どういうものなのか。

 テレビを点け、現実のニュースに思考を引き戻してもらいながら、私は明後日からの荷物の準備を始めることにした。

 

 

 2週間ほど前のことだ。

 柊子(ひいらぎこ)とスカイプをしていた時に相談を持ち掛けられた。

「あのね、私の家の近所の子どもがお父さんとお母さんの事が知りたいって言ってて……。あ、その子はめみこちゃんって言うんだけど、めみこちゃんのお父さんはもう亡くなっていてお母さんは仕事が忙しくてね、時々一緒に遊んでるの。それで、めみこちゃんが助けて欲しいって言ってきてね、私だけじゃ不安だから理桜ちゃんにも一緒に遊ぶついでに手伝って欲しいなぁって」

 柊子は相変わらず引っ込み事案な性格で、スカイプも文字入力の方が楽で普段はそっちばかりらしい。

 ただ、大学の心理学科に入学し、将来の夢がカウンセラーの彼女にとってコミュニケーションは欠かせないスキルだという事で、私とはいつも通話で会話をしている。

「へぇ、いいよー。今度東京に一度戻る予定だったしその子とも一緒に遊ぼう。でもいいの? 知らない人と一緒に遊ばせて保護者の方不安じゃない? まだその子って小学生でしょ」

 知らない人にはついて行ってはいけません、なんていう言葉はいつの時代にも共通して子どもたちに言い聞かせられているものだ。今のご時世誰に何をされるか分かったものではない。保護者も子どもの安全には敏感であろう。

「うーん、それは大丈夫だと思うよ。そのお母さん少し変わってて、初めて会った時、「鈴木です」って自己紹介してたんだけど、めみこちゃんに名前聞いたら「在原です」って答えたんだよね。生まれてこの方お母さんも在原ですって」

 怪しい。柊子の判断基準も怪しいものだが、お母さんが偽名を使うなんて怪しさしかない。むしろ身の危険を覚えるべきなのはこちら側なのでは無いだろうか?

 しかし、子どもに罪はない。柊子とも仲良くやってるくらいだからしっかりしたとても良い子なのだろう。

「ふーん、分かった。それならいいか。ところでやややはその日ダメなの?」

 やややは大学生になってからというものアクティブに拍車がかかり、色んな所に旅をしに行っているらしい。たまにお土産が届いたりする。この前は「ボリビアの温泉たまご」とやややの字で書かれたビニール袋が届いたが、中身は腐っていた。

「やややちゃんは、「ミステリーハンターになる!」って言って、その週末はエジプト旅行の予約したみたい」

「へぇ、やややでも旅行の予約するのね」

「この前夕方から急にボリビア行っちゃってお父さんに怒られたんだって。だから予約して請求書が事前にお父さんの手元に届くようにしたって」

 やはりお金持ちは違う。うちならその多額な出費に対してまずは怒られるだろう。

 娘好きのお父さんにとってはやややの冒険好きは悩ましいかもしれないが、それでも好きにさせているあたりとても娘想いで、やややが羨ましい。

「そっか。それなら仕方ないわね。今度は生モノのお土産はやめなさいって言っておかなくちゃ」

 それからはお互いの近況などのおしゃべりをして、遊ぶことについては細かい時間などは後日相談することにしたのだ。

 

 とんかつ屋で立山さんが席を離れていた間、土曜日からの帰省で柊子とめみこちゃんと遊ぶことを想像してはいたが、立山さんが席に戻ってきたと思ったらまさか長期の東京出張が決まったとは思ってもみなかった。

 配属された部署の性質上、京都からそうそう離れることはないと思っていた。立山さんから急に「東京に長期出張だ。理桜ちゃんは来週の月曜からだから明日はその準備だけすればいいよ」なんて言われて驚かない方が無理だ。あまりにも急すぎる。理由を聞いても上からのお達しだとだけ。詳しいことは新人には教えられないのだろう。

 次の日、私は職場で一人寂しく荷物の整理をした。立山さんは昨晩とんかつ屋で新幹線の席の予約状況を見て思わず天井を見上げた姿を最後に、その日の最終でそのまま東京へ向かってしまっていた。

 カドが出現してから、羽田空港はもちろん成田空港も一部便が欠航している。東京への空路がほぼ閉ざされている今、陸路が盛況となるのは自明であった。私は前もって席を予約していたから良かったものの、週末の新幹線はどの時間帯も満席で、平日でも自由席の乗車率が100%を超えることがざらになっていた。

 ちょうど土日で東京に帰る予定だったと伝えたら、行きの新幹線代は自由席代分を経費で後日落としてもらえることになった。「運のいいやつめ」と自由席の立山さんに何故か悪態をつかれた。帰りの新幹線は勅命を受けたその場でキャンセルした。

 仕事や荷物の整理をし終え、定時で誰もいない仕事場に向かって「お疲れさまでした」と告げ、花金で賑やかな京都の街を横目に、特に寄り道もせずに大人しく帰宅した。

 帰宅しても特に一息つかせもせず、食材の整理をするため豪勢な夕食を作り、長期出張用のスーツケースの中身を確認して、少し早めの就寝にすることにした。

 月曜からの予定が変わったにせよ、明日明後日の予定は変わらない。元気に遊べるようぐっすり寝たかった。

 

 土曜日。今日は本州どこも晴天らしい。いつもより少し遅めの起床から、ガスの元栓を閉め、一応ブレーカーも必要のないところは落として京都駅へと向かう。

京都から東京までは2時間と少し。少なめながらも6月末に初ボーナスをもらって懐が暖かったせいもあって、昼食には早いのに駅弁なんか買ってしまう。朝食をしっかり食べていたこともあり、駅弁は静岡を過ぎたところで食べることにした。

 何もする必要のない移動時間。車内の電光掲示板にカドのニュースが流れたこともあり、カドが出現してからのこの数日を思い返そうとする。

 しかし、一番初めに思い返されたことはなんてことの無いはずの会話だった。

『なんか理桜ちゃんなら奇想天外なアイデア出してくると思ったんだけど』

 その言葉に対し、なぜあんな言葉が口から出てきたのだろう。

『そういうの得意な友達ならいましたが……』

 奇想天外なアイデアを出すような友達。やややは少しそれに近いかもしれない。けど、そんな台詞をついて返すほど直感的に思い当っていたわけではないはずだったのに。

『はい、それはもう。――それで?』

 自分の言葉に驚いてあの時返しに少し間があいてしまったのだ。そんな少し変だった私に変な質問をしてしまう。

 ――私には、そんな奇想天外な友達なんていたのだろうか。

 

 熱海を通過した。ちょうど進行方向右側の窓席であるため、少し頑張って窓から前方を見るとカドが見える。

 遠くからでもとても大きい。高さがおよそ2000mあるらしい。富士山の5合目と同じくらいだ。熱海でも少し登ればスカイツリーも見えるらしいからカドが見えることだっておかしくはないはずだが、やはりこの世の物とは言い難い違和感を遠くからでも覚える。

 自衛隊を出動させてみたものの成果はなし。日本政府は謎の存在を前に対処を考えあぐねている。

 あの物体は、一体いつまであそこに居続けるのだろうか。

 映画であれば短期間の内に解決に至り、ハッピーエンドで終わりそうなものだ。現実も同じように上手くいけば良いのに。

 新幹線は海岸線に沿って少し右にカーブをし、カドは私の視界から消えた。

 

 東京駅からは乗り換えなしで吉祥寺まで行ける。はじめは旅行者ばかりだった乗客が、停車駅ごとにだんだん日常に分散し埋もれていく。

 京都で働き始めてから帰省の度にその車内ををぼーっと眺めているが、飽きない程度には好きな光景だったりする。一段ずつ実家に帰る手順を踏んで向かっているような気分になる。特に眠らない程度の眠気に包まれながら眺めている時はなんだか少し切なくもなる感じがたまらない。

 吉祥寺駅に着き、南改札を出たところに柊子がいた。隣には女の子もいる。あれが在原めみこちゃんだろう。

「久しぶりー。元気だった?」

 嬉しそうな柊子は前に会った時よりも少し明るい印象を受けた。大学の友達の影響だろうか、良い傾向だと思う。

「久しぶりー。うん、元気だったよ。時々スカイプやっているからそんなに離れてた気がしないけど、それでも2ヶ月ぶりなんだね。それで、この子が?」

 改めてめみこちゃんを見ると、とても可愛い。可愛いだけではなく綺麗でもあった。きっと将来は嫌でもモデルさんになってしまうのではないだろうか。今まで見たことがないくらい綺麗で可愛い子だ。

「うん、この子がめみこちゃん。めみこちゃん、このお姉さんが理桜ちゃんだよ」

 柊子がめみこちゃんに挨拶を促す。少しもじもじして、私の顔を覗くように見てきた。

「こんにちは。在原めみこです。よろしくお願いします」

 控えめながらもしっかりとした挨拶で、これだけでとても良い子なのだろうと思ってしまう。

「こんにちは。はじめまして。私が柊子の友達の理桜です。よろしくね」

 握手を求めるとめみこちゃんもしっかりと返してくれた。

 こんな風に皮膚同士がしっかり密着していても、その実お互いの内部までは互いの身が浸透することは無く、気持ちも精神も推し量ることしか出来ず何も確実な交流はなされていない。

 この握手は、この瞬間の手と手は、フレゴニクスであったりするのだろうか。

 大袈裟に言えば非現実的とも言える美貌をもった小学生を前に、凡人の私はなぜかそんなことをふと考えてしまった。

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