エンディング
ポケットにしまい込んでいた携帯が、バイブレーションとともにフニクリ・フニクラを唄い始める。
ペパロニの料理の手が止まる、一体誰だと液晶画面を見てみれば――二番目に見慣れた「名前」が、目に飛び込んできた。
「――ん、どした?」
『あ、えーっと、いま……大丈夫?』
「大丈夫。で、用事は?」
『あ……えーっと……その……』
「うん」
電話の向こう側が、色濃く躊躇い始める。それに対してペパロニは、はて、とおさげをいじり始めた。性格は自分と似て、イケイケドンドンであるはずなのに。
けれど、「珍しいこともあるもんだ」と処理した。
それ故に、相手の出方を待ち続けることにする。
『……えーっと』
「焦る必要は、ないからな」
『うん』
心から言う。木のスプーンを軽く揺らしながら。
『……えーっと……っし、っしッ』
電話越しから、力んだ声が聞こえてきた。
口元が思わず曲がる。相手はきっと、拳を強く握りしめて、両肩まで上下に動かしているに違いない。
目に見えるようだ。
『あのさ』
「ああ」
『――明日って、その、バレンタインだよな?』
間、
――ペパロニの口元が、もっとひん曲がった。
「ああ、そうだな、そうだったな」
『……それで、その』
「おお」
深呼吸。
『――どうやって、チョコを渡せばいいかな。あ、義理、義理の話な!?』
なるほどなあと、ペパロニが三度も頷いてしまう。表情なんて、喜色満面まみれに違いなかった。
少し動揺はしたが、不思議と冷静さは拭えなかった。たぶん、自分も辿った道だからだと思う。
――だから、
「そう、だな」
木のスプーンを、フライパンの上に垂らせる。何となく自宅の天井を眺めてみて、
「そだな」
私は――
――
時の流れとは早いもので、いつの間にか2月13日がアンツィオへ訪れていた。
窮屈な授業があって、様々な屋台が立ち並んでいて、沢山の観光客がアンツィオ名物を口にしている。ここまでは、何ら変わらない平日そのものだ。
そんな中で、ビスコッティは上機嫌に、昼休みの屋台広場を歩んでいた。
原因なんて決まっている。明日になれば、「祭り」が開催されるからだ。
左を見て見れば、「もらえるかなーチョコ」と談話する男子二人組が。右を見てみれば、「渡す、絶対に渡すッ!」と気合を込めている女子グループが覗える。ビスコッティは共感するように、「がんばれよー」と心の中で応援する。
――そう。
2月13日といえば、バレンタインブームで最も楽しい日だ。
2月13日といえば、アンツィオが恋の炎で燻りまくる日だ。
当初といえば、義理チョコを食って「グラッツェー」と礼を言ったものだ。そして、「お返しよろしくー」と言われるのもお約束の一つ。
けれど今年は、その伝統から外れることが出来そうにある。原因は、もちろん、
「ビスコッティー!」
喧騒が絶えない屋台広場の中で、聞き慣れ過ぎた呼び声が、ビスコッティの耳に届く。
瞬間、胸の内なんてみっともなく躍り始める。顔なんて、みっともないくらい歪みきっていると思う。
「や、ペパロニ」
「おっすー、食ってけ!」
「食って」のタイミングで、ビスコッティは財布を取り出す。ペパロニが経営する屋台の看板を目にして――300万リラを取り出した。
「鉄板ナポリタン一つ!」
「あいよー!」
見飽きることのない笑みを、カルパッチョが浮かばせる。
「いつもありがとうございます、ビスコッティさん」
「いえいえ。ここのメシは美味しいですし」
「ドゥーチェの恋人ですもんねー」
屋台のキッチンで皿洗いをしている、茶色のミディアムヘアの少女――ペコリーノこと三代目ドゥーチェが、めちゃくちゃ嬉しそうに「いひひ」と笑う。
全くもってその通りなので、ビスコッティもペパロニも笑顔で「まーなー」と肯定する。カルパッチョも、柔らかく微笑してくれた。
「……って、ドゥーチェはお前だろ、お前」
「そりゃそうっすけどー。卒業するまで、ねーさんはドゥーチェっすよ」
「ええ、ペコリーノの言う通りよ」
「俺もそう思うぜ」
ペパロニが「っかー」と、手でナポリタンを調理しつつ、
「ビスコッティが言うなら」
「どーも」
ペコリーノから、口笛を吹かれた。ビスコッティは、「でへへ」と後ろ手で頭を掻く。
ペパロニは「ったくう」と唇を尖らせながらも、
「そっか……卒業まで、か」
卒業。
その単語を聞いて、「いつまでだっけ」と思考する。間もなく、「あと一か月ほど」という具体的な数字が思い浮かんだ。
そしてペパロニも、似たようなことを考えたらしい。先ほどとは違う、どこか眠そうな目で、ペパロニお手製のケチケチしない鉄板ナポリタンを手掛けつつ、
「……楽しかったな」
「ああ」
ペコリーノが、ペパロニめがけ視線を合わせてきて、
「本当、ドゥーチェのお陰でめちゃくちゃ楽しかったっす」
「グラッツェ」
「正直未練たらたらなんで、留年できないっすか?」
そこでペパロニが、「ばっきゃろおめー」とふざけ半分で罵倒し、
「せっかく推薦貰ったんだぞー? オメーは、私のプロ街道を妨害する気かー?」
「仲間とプロ、どっちが大切なんすか!」
「両方だよ! ……まあアレだ、そんなに未練があるんなら、一緒にプロになって私についてこいっての」
「うっは、簡単に言うっすねー」
とはいうものの、ペコリーノはちーともめげていない。
ペパロニ、そしてカルパッチョは、戦車道全国大会の功績に伴い、とある推薦を貰っていた。その先は勿論、戦車道に深く携わる大学。そこには初代ドゥーチェ――安斎千代美も通学しているらしい。
それを知った瞬間、ペパロニは、カルパッチョは、アンツィオ戦車道履修者達は、電話越しのアンチョビは、そしてビスコッティも、「やったぜ―――ッ!!!」と叫んだ。おまけに鉄板ナポリタンの値段も、100万リラまで値下げされた。
勿論、人という人が殺到したのは言うまでもない。けれどそれは値段によるものではなく、純粋に「おめでとう即席パーティ」に参加する為のものだった、と特記しておく。
そうして皆が皆、ラザニアや鉄板ナポリタンを食している中で、皿洗いのペコリーノはノリと勢いでこう言ったのだ。
――よし! 私も、プロになるっす!
瞬間、パーティー参加者全員が、ペコリーノの門出を祝いまくった。戦車道履修者からは頭を撫でられ抱き締められ、ビスコッティも即席でペコリーノの絵を描いたものである。
――だから、ペコリーノはちーともめげていない。いずれは、ペパロニと一緒になれるだろうから。
「ま、数年後に会いましょう」
「ああ、待ってるぞ」
ペパロニとペコリーノがピースサインを交わしあう中、カルパッチョがこちらを見つめて、
「そういえば、ビスコッティさんはやっぱり美大に?」
「ええ。俺は、」
ペパロニに、目を合わせる。
たったそれだけで、ペパロニは嬉しそうに、ほんとうに嬉しそうに、歯を見せてウインクしてくれた。
「絵が、大好きですから」
カルパッチョが、「ですよね」と頷く。
――ペパロニが、ようやく鉄板ナポリタンを完成させて、
「頑張れよ、応援してるからな! ……はい、鉄板ナポリタンサービス盛りだ!」
「グラッツェ! いただきます!」
「召し上がれ!」
鉄板ナポリタンを受け取り、フォークを使ってナポリタンを口にしていく。
舌に甘さが沁みていき、口の中が熱くなっていく。ナポリタンを飲み込んだ瞬間に腹が満たされていって、ペパロニと目が合い「うまい」と感想を口にする。ペパロニも、「だろー?」と言いながらで、ずっと、ビスコッティのことを見つめたまま。
ここまでは、いつものアンツィオ日和だった。
ふと、後ろから、女子二人組の会話が耳に入る。
「で、で? タレッジョは、本命チョコ送るの? カレに送っちゃうの?」
「送るっすよー、もうじき卒業すっからねー。覚悟決めたっす」
びくりと、ビスコッティの脳ミソが震える。今更ながら、2月13日特有の緊張感を思い起こす。
ペパロニは、真顔だった。
「……で、告白は?」
「……するっす」
――それきり、ビスコッティは、ペパロニは、黙ってしまった。
先ほどまでペパロニのことばかり見ていたくせに、何だかめちゃくちゃ恥ずかしくなって、つい目を逸らしてしまう。その先は、香ばしい匂いを広げていく鉄板ナポリタンだけ。
おかしいなあ、と思う。
だって自分は、ペパロニと、恋人同士であるはずなのに。互いの道を、支え合うと決めた仲であるはずなのに。だのにどうして、2月13日の話題を切り出せないでいるのだろう。
恐る恐る、ペパロニめがけ視界を向ける。
今のペパロニといえば、間違いなく顔を真っ赤に染めながらで、視線を斜め上に逸らしつつ、口笛を吹き始めた。そんなペパロニを見てしまったビスコッティは、緊張と、恋愛感情が暴発した含み笑いを、思わずこぼしてしまった。
「――なんだよう」
「あ、いや、その……」
ビスコッティが、ざーとらしく咳を漏らして、
「あ、あしたはバレンタインだなー」
「そ、そだな」
「ぺ、ペパロニは、チョコを渡す予定はあるのかい?」
「あ、あー……あるよ、うん、ある」
「そ、そかー。で、で……渡す相手は、いる?」
口も、本心も、緊張丸出し。
ほんの少しの沈黙、ほんのちょっとだけの間を置いて、ペパロニはぎりぎり聞こえる声量で「やる」と呟き、
「やる! やるよ! 気合ブッ込んだ奴を! お前にッ!」
「やったぁッ!」
「馬鹿喜ぶな! 恥ずかしいだろっ人前でっ!」
「えー? 俺らはもう恋人同士だろ? いいじゃん別に……」
「そ、それはそうだがー……いやほら! カルパッチョやペコリーノの前でその、そういう話題は恥ずかしいというか!」
そして、今更になって、ビスコッティとペパロニは気づく。
カルパッチョが、ペコリーノが、どこにもいない。しかもご丁寧に、全ての皿は洗浄済みだった。
――やられた。「カップルの邪魔はしない」という、アンツィオの流儀に。
言い訳も、逃げ道も塞がれた中で、ペパロニは諦めたように、小さくため息をついた。
「……あのな」
「う、うん」
「朝から、その、けっこう緊張してたんだからな」
「どして?」
ペパロニが、ふてくされたように唇を尖らせながら、ビスコッティめがけ控えめに目を向けて、
「……お前のせいだ」
――ビスコッティは、必死になって言葉を探して、
「ペパロニ」
探して、
「な、なに」
結局、気の利いた言葉を掘れないまま、
「……すげえ嬉しい」
惚れた気持ちそのものを、口にした。
ペパロニが、目と口を丸く開けたままで固まる。しばらくはそのままで、けれどもやがては「へへ」と苦笑してくれて、ビスコッティの肩をぽんと軽く叩き、
「覚悟しろよぉ? 超あめーやつを食わせてやるからな」
「やべえ、幸せ過ぎて死ぬかも」
「おうおう召されろ召されろ。この私に看取られるとは光栄な、」
ペパロニが、全力で首を横に振るい、
「あ、いや、ダメだぞ、食っても生きろよ! お前とは、長い付き合いでいるつもりなんだからなッ!」
「! そうだった! よし分かった! 何とかして生き残るッ!」
「よく言った! で、具体的にどう耐えるんだ?」
「え、知らね。……いやそもそも、幸せ過ぎて体調を崩すってことはあるのかな?」
「言われてみれば――なーそこの兄さん姉さーん、幸せ過ぎて体を壊すってこと、あると思うかー?」
観光客であろう、青いジャージを着こんだ男女二人組が、「うーむ」と両腕を組み、
「確か、ストレスゼロだと、かえって体に悪いって聞いたことがあるよ。どういう理屈だっけかなー」
「お、マジでか? ストレスってのも大事なんだなあ」
寡黙そうな赤い髪の女子が、静かに頷いて、
「何回か苦しい状況下に置かれたことはあったけど……でも、それを乗り越えるのが楽しいんだよね。それがなくなるのは、うん、つまらない」
「……だなあ。あれだよな、疲れている時に寝るからこそ、すっげえ幸せになれるっていうか」
男女の意見に対し、ビスコッティは「わかる」と同意した。
戦車道にしろ、美術道にしろ、祭りにしろ、それらが「楽しい」と思えるのは、ストレスからの反動があってのものだ。人生に落差が生じるからこそ、幸せというものが目に見えてくる。救われた、と実感できるようになる。
絵に対する苦境がなければ、自己嫌悪がなければ、俺はきっと、
ペパロニと、出会えなかった。
――ペパロニも、納得したように頷き、
「……難しいな、幸せってやつは。グラッツェ、参考になった」
ペパロニが、納得したように礼を言う。ジャージのカップルも、「どうも」と返してくれた。
――ひと区切りがついたところで、
「あ、ナポリタン食う? 教えてくれた礼に、100万リラまけてやっから」
「うん食うー!」
ここは、ノリとメシとナンパの本場、アンツィオ高校学園艦。こんな風に観光客とやりとりすることも、こんなふうに男女が付き合うことも、この艦にかかれば日常茶飯事と化す。
カルパッチョとペコリーノが、何でもないように戻ってきたのは、それから数分後のことだった。
―――
2月14日の訪れを自覚した瞬間、ビスコッティの眠気なんてすぐさま吹き飛んだ。
普段は夜の11時ぐらいで眠るタチなのだが、2月13日の夜ときたらまるでそうもいかない。ビスコッティの頭の中はペパロニのチョコでいっぱいで、渡される際にどんな言葉を投げかけられるのかが楽しみ過ぎて、いよいよもって明日が待ちきれなくなった。
それ故に、絵を描くこともないまま、夜の9時にベッドへ飛び込んだのだが――極度の興奮状態と、前向きな感情がぐるぐる渦巻いているせいで、中々寝付けなかったものだ。
このまま朝まで過ごすのかなあ、まあぜんぜん眠くないしなあ、今頃ペパロニは何してんのかなあ。
そんなことを考えていれば、いつの間にやら朝6時の日光が、カーテンを薄く照らしていた。目覚ましが鳴るには、あと一時間ほど早い時間帯だった。
そんな健全なトラブルを体験しながら、朝8時になって「いってきまーす」と寮を出る。春だからか朝から温かい、鳥の音が聞こえてくる、機嫌のあまり口笛まで吹いてしまう。
そうして、いつものように門を潜ろうとして――サングラスをかけた女子と、目が合った。
ここで「何?」とは聞かない。何故ならその女子は、黄色い包装紙がくるまれた箱を手にしていたからだ。いちアンツィオ男子として、無言で「がんばれ」と手で挨拶を交わす。サングラスの女子も、「へへ」と笑い返してくれる。
2月14日特有の現象は、ここだけに留まらない。道端で待機している女子、電柱に寄りかかっている眼鏡っ娘、歩道で右往左往を繰り返している女の子と、「なるだけ被らない位置」で、何者かを待ち続けていた。
――こうした光景を見るのは、別に初めてのことではない。これも、古くから伝わる「アンツィオ祭り」の一つだ。
そして今年は、自分も祭りの参加者になれた。その嬉しさが顔に出てしまっているのだろう、ライオンヘアーの女の子から、親指を立てられた。サムズアップ返し。
さて。
ペパロニは何処にいるのだろう――そう考えた瞬間、携帯が震えた。
――ペパロニか!?
過剰な速度で、ポケットから携帯を引き抜く。画面には、「ペパロニからメールが届きました」の文字。
ビスコッティは、冷静なそぶりで電柱に背を預ける。内心は「ヒャッホホイッ!」と興奮しながらで。内容はなんだろう、待ち合わせ場所の指定とかかな。
指で、画面をスライドさせる。
2月14日 8:12 送信者:ペパロニ
ごめん、風邪にかかった。けっこうだるいから、学校へは行けそうにないと思う。馬鹿は風邪をひかないっていうけど、私も賢くなっちゃったみたいだ。
ごめん、本当にごめん。今日は大切な日なのに、本当にごめん、ビスコッティ。
――文脈なんぞを考える前に、返信したと思う。『気にしないで、俺達は恋人同士だから来年でも楽しめる。自分のことは気にせずに、元気になって戻ってきてね。愛してる』
画面の火を消して、「はあっ」と息をつく。それは失望によるものではなく、これから何をすべきかという、前向きへの準備動作のようなものだ。
通学路を歩みながらで、思考する。最初に考えたのは「通話」だったが、それだとペパロニに負担がかかる可能性がデカい。病人を無理矢理喋らせるなんて、愚行以外なにものでもないからだ。
チョコレート入りの箱を持った女子生徒と、すれ違う。次に考えたのは「お見舞い」だが、二秒、三秒ほど「いやしかし」と考えて、数十秒後には「だめだ」と却下した。
雰囲気がユルいアンツィオでも、「女子寮に男子が入り込むことを禁ずる」という校則がしっかりと存在している。一見すると危うそうなものだが、これが破られたケースは、今のいままで一度も無いのだとか。
当たり前の話だった。ノリと勢いで生きているアンツィオ生徒であろうとも、やっぱりわが身が可愛いものであるし、そもそも意中の異性にいらぬ迷惑をかけてしまう恐れがある。恋には情熱的で、生真面目だからこそ、今のいままで「問題」が発生しなかったといっても過言ではない。
考えろ。俺はペパロニの恋人だぞ、男なんだぞ、支え合うと決めた仲なんだぞ。こんな謝罪メールを見てしまって、何もしないわけにはいかないだろうが。
電話を使うことなく、女子寮にも入らず、ペパロニと関われる手段といったら――また、女子とすれ違う。箱を両手で抱きしめながらで、誰かを待ち続けているらしい。
――女子か。
超当たり前だが、女子寮の対応は女子が最適だ。こんな俺の言い分を聞いてくれる、女子といえば、
あ、
俺には女子の、それもペパロニと近しい人を知っているじゃないか。
その人に、俺の願いを伝えられれば――
□
二つほどやるべきことをやり終えた後で、ビスコッティは、すぐさま屋台広場へと全速力で駆け抜ける。運動音痴なせいですぐに息が切れそうになるが、それでも両足は止まらない。
時間が惜しい。そして往く先々で聞こえてくる「はい義理チョコ」「グラッツェー」「あ、あのさ! こ、これ、ぎ、義理だからな!」「お、おう。ありがと」「ねえ! だ、誰かからチョコ貰った?」「いや、ねーわ」「何だあの配達ヘリ……俺宛て!? これ千代美から!?」
祭りの残響を耳にして、だからこそ思う。俺なりの力で、ペパロニを支えたい。余計なことかもしれないけど、何もしないなんて、できそうにもない。
時計を見る。昼休みが終了するまで、あと数十分も先だというのに――けれど己が意志が、身体が、勝手に焦りを生じてしまう。かなりキツかったが、こんなにもペパロニのことが好きだったんだなと思うと、肉体ときたらノリと勢いで動いてくれるものだ。
幾多の匂いを鼻孔で感じ取って、沢山の観光客を回避しながら、いつもと違う男子と女子のやりとりに憧れを抱きつつ、ついに見えてきた。
――P40の看板と、俺の絵が貼られた、戦車道屋台を。
「――か、カルパッチョさん! ペコリーノー!」
苦し紛れに声を出してみれば、カルパッチョが「ど、どうしたんですか!?」と心配してくれた。ペコリーノの皿洗いも止まって、「何があったんすか!?」と近づいてきてくれる。
「あ、いや、大丈夫、急いでここに来ただけだから。……あ、それよりも、知ってる? ペパロニのこと」
「――はい。その、何というのか……ビスコッティさん」
先に続く言葉を止めようと、ビスコッティが手で制する。
「俺はいい、俺はいいんです。それより、あーくるしっ。それよりっ、今日は、ペパロニのお見舞いに行く予定などは?」
「放課後に行きます」
「当然っす」
自然と笑みが漏れる。戦車道履修者の絆とは、何物よりも深い。
カルパッチョはいつもの笑顔で、ペコリーノはビスコッティの背中をさすってくれている。
「ありがとう、ペパロニも喜んでくれる」
「友達ですから」
「ドゥーチェでもありますから」
ビスコッティは、今日はじめて安堵した。
だから、
「えっと……本当は俺もお見舞いに行きたいんだけれど、ほら、俺ってヤローじゃない?」
「ああ……そっすね」
「だから、これを渡してほしいんだ」
カルパッチョとペコリーノに対して、手紙と、一枚の絵を手渡した。
□
放課後。
カルパッチョとペコリーノは、アンツィオ戦車道履修者代表として、ペパロニの部屋の前に立つ。あらかじめメールで「お見舞いに行くからね」と伝えておいたので、ペパロニを驚かせてしまうような事態にはならないだろう。
インターホンを押して、「お見舞いに来たわよー」とドア越しから伝えてみれば――何とか歩けるまで回復したらしい、パジャマ姿のペパロニが、ちょっと苦しげな笑みで出迎えてくれた。
すぐにペパロニを横にさせては、ペコリーノが「食欲あるっすか?」と問う。ペパロニは「うん」と応え、ペコリーノは「任せるっす」とキッチンを借りてはリゾットを調理し始めた。アンツィオにとっては、定番の健康食だ。
カルパッチョは、水に濡らしたタオルを、ペパロニの額の上に乗せる。それが安堵を誘ったらしいのか、ペパロニは「グラッツェ」と礼を言ってくれた。
「――大丈夫っすか?」
背を向けたままのペコリーノが、ペパロニへ声をかける。ペパロニは「ああ」と苦笑いして、
「すまない、手間をかけさせて」
「そんなこと言わないの。誰だって風邪はひくものなんだから」
「そうだっけ? ほら、馬鹿は風邪をひかないって言うだろ?」
「ねーさんが馬鹿? そういうしらじらしい嘘をつくのはやめてほしいっす」
「そうそう」
そっかそっかと、ペパロニが力なく笑う。やはり全体的に弱々しい雰囲気が否めなかったが、とくべつ重い病を抱えた気配はない。この調子なら数日で完治出来るはずだ。
カルパッチョは、ほっと胸を撫でおろす。
「戦車道履修者のみんな、心配してたよ。十分に休んで欲しいって、また元気な姿を見せて欲しいって」
「そっかー。みんな、いい子だなぁー」
「愛されてるっすね、ドゥーチェ」
「すげーだろ」
「すごいすごい」
カルパッチョが、にこりと笑う。ペパロニの頭を揺らさない程度で、頭を撫でる。
「今まで頑張ってきたんだから、無理をしないでね。休んでいいんだからね。前みたく、無茶しちゃだめよ?」
「わかってるわかってる。ちゃんと食って寝て遊びながら戦車道歩んでるから」
「そーそー、あとのことは私に任せりゃいいんすよ」
「期待してるぞー」
ひとまずのことは、話し終えられたと思う。
だからか、ペパロニは「はあ」とため息をついて、
「……でも、今日という日は、絶対に登校したかったなぁ」
「そうね、その気持ちはよくわかるわ」
ペパロニの惜しさを耳にして、カルパッチョは「うん」と首を縦に振った。
カルパッチョは、ペパロニの初恋をずっとずっと見届けてきた。そこから生じた2つの苦難を、カルパッチョは長く長く見守ってきた。
ペパロニは総統としての威厳を、ビスコッティは絵描きとしての苦悩を、生真面目に背負い続けてきた。互いは「それ」に共鳴し、励まし合い、ようやくをもって自分なりの道を歩み始めることが出来たのだ。
カルパッチョは、心の底からこう思っている。
――二人には、これからもずっと、幸せであり続けて欲しい。
だからこそ、今のペパロニの言葉には、共感するほかなかった。
「どうだった? 賑やかだったか? 外」
「ええ。今日はチョコ日和だからか、売り上げがすこし落ちちゃった」
「だよなあ」
ペパロニが、くっくと笑う。
「ペパロニ、チョコはあるの?」
「冷凍庫に」
「お手製?」
「もちろん」
「さっすが」
たぶん、気合を入れた一品なんだろうな、と思う。
バレンタイン前夜になって、ペパロニは初めてチョコレート作りに手掛け始めて、あれやこれやと試行錯誤しながらで、満面の笑みで「出来た!」と言ったに違いない。これでもペパロニとは長い付き合いだから、簡単に予想がついてしまう。
――だからこそ、心底から悔しがっているのも、よくわかる。
「……ビスコッティにはさ」
「うん」
「一応、謝罪メールは送ったんだけれど……がっかりさせちゃったな、うん」
「そんなこと言わないの」
「いやでも、なあ?」
「マイナス思考禁止っすよ、ねーさん」
「そうそう。それに、ビスコッティさんから伝言を預かってきたんだから」
――え?
顔全体に苦笑いを沁み込ませていたはずのペパロニが、目を丸くしながらで真顔になる。
「手紙とね、絵を、預かってきたんだ」
「……マジ?」
「マジ。あ、手紙は読まなくてもいいからね、私が朗読するから」
――病人に、文字を読ませるのは負担になるでしょう。ですから朗読してください、見てもらっても構いません。
そう言って、ビスコッティは、自分に手紙を託してくれた。
カルパッチョとペコリーノは、「はい」と快諾した。
――あとのことは、お任せします。
「じゃあ、読むね」
うん。ペパロニは無言で、小さく頷いた。
「『親愛なるペパロニへ、今日は災難でしたね。ですが、風邪というものは誰にでもかかってしまうものです、自分もそうでした。
なので、今日のことは本当に気にしないでください。あなたとはこれからも長い付き合いになるのですから、来年に期待します。その方が、楽しみも増すでしょう。
ですから、俺の事よりも、自分の体のことだけを考えてください。無事に完治するまで、絶対に無理をしないでくださいね』」
リゾットの匂いが、部屋に伝わってくる。
「『色々ありましたが、あなたのお陰で、自分はアンツィオのことが、もっと好きになりました。絵が、もっと大好きになれました。戦車を描く楽しさに、気づけました。
あなたには、感謝してもし尽くせません。これからも、あなたを支えます。
また今度、どこかへデートでもしましょう。またいつか、あなたの絵を見せてください』」
夕暮れが、部屋を赤く淡く染めていく。
「『長くなりましたが、ここまで聞いてくださって、本当にありがとうございました。また、いつもの元気な姿を、俺に見せてください。
手紙を書いたついでに、一枚の絵も送ります。急いで描いたものなので、アラだらけかもしれませんが……ですが、一番書きたかった絵を、描けました』」
戦車の通り過ぎる音が、どこか遠くから聞こえてきた。
「「――これからもずっと、あなたのことを愛しつづけます」」
ペパロニが、声にならない声を上げている。すがるように、カルパッチョに眼差しを向けている。
「はい」
手紙を朗読し終え、カルパッチョは、手渡された絵を広げてみせる。ペパロニは、「あ」と声を上げた。
P40の上に座り込む、プロリーガー仕様のジャケットを着こんだ、笑顔のペパロニ――TI amo
それが、ペパロニへ捧げられた絵だった。急いで描いたものらしく、白黒ではあった。
喉から震え出る、ペパロニの声が、しんと聞こえてくる。カルパッチョはそっと、絵をペパロニへ手渡した。
「カルパッチョ、ペコリーノ」
「うん」
「はいっす」
「私、わたしさ、」
ビスコッティの意志は、まちがいなく、ペパロニへ伝わった。
だって、
「――戦車道を歩めて、ほんとうによかった」
――
数日後、ビスコッティは朝っぱらから目覚まし時計に叩き起こされた。
時刻は七時――これまで通りの起床時間だ。ビスコッティは力なく欠伸を漏らし、制服に着替え、歯を磨き、顔を洗って、朝のメールチェックを携帯で行い、
送信者:ペパロニ
完治した!
途端に、内から歓喜が溢れ出てくる。あまりにも「らしい」文面を見て、含み笑いがこぼれ出てしまう。
よかったよかったと呟いて、「良かった。これで鉄板ナポリタンが食えるんだな」と返信する。後は軽く朝食をとって、学生鞄を肩にかけて、部屋めがけ「いってきます」と告げる。
寮の階段を降りていき、朝日を浴びてはオヤジ臭く「あー」と伸びをする。リラックスの為に指をくねくねと動かして、後はそのまま寮の門を潜り抜けて、
「よっ」
声を、かけられた。
思わず小さく飛んでしまって、俊敏に音のした方へと首を向けてみれば、
「おはよ、ビスコッティ」
――見慣れ過ぎた顔が、そこに居てくれた。
数日ぶりに顔を合わせるからか、何だか恥ずかしくなって、それでいて嬉しくなってしまって、
「おはよう、ペパロニ」
ハイタッチを交わしあい、あと数日しか歩めない歩道を、共に歩み始める。
「風邪はもう大丈夫か?」
「ああ、見ての通りさ」
元気だぜといわんばかりに、ペパロニがその場で二度、三度ほど跳ね始める。
それを見て、ビスコッティは、もう心配いらないなと安心した。
「よかったよかった、あーよかった」
「へへ。……な、ビスコッティ」
「ん?」
ペパロニが、どこか大人しそうに微笑して、
「手紙と絵、本当に感激した。あれ一生の宝物決定な」
「えー、ハズいなあ」
「愛ってのは、恥ずかしいくらいがちょうどいいのさ」
「それもそうか」
ペパロニの論は正しい。特にこの艦においては、一般論といっても過言ではない。
「な、ビスコッティ」
「んー?」
「……えー……と……」
はてと、ビスコッティの首が傾く。ペパロニが、空いた手でおさげをいじりはじめる。
なんだろう、と思う。
最初は「問題を抱えたのか?」と思った。けれどペパロニの、横目に逸らしながらの赤面を目の当たりにして、いよいよもって疑問が色濃くなっていく。
「なんだ、何かあったか? 言ってみろよ、秘密にするから」
「あー……いや、それほど深刻ってわけじゃないんだけれど」
「うん」
そして、ペパロニがぴたりと足を止めた。
ビスコッティの口から「む」が漏れる。
「……ビスコッティ」
「ん?」
ペパロニが、両こぶしをぐっと作り始める。「ッし」と意気込んで、学生鞄から何かを取り出して、あれはなんだとぼんやり思考して、
――あ、
「少し、遅れたけれど」
そしてペパロニは、屋台で見せてくれるいつもの笑顔を、俺に見せてくれた。
青い包装紙がくるまれた、ひとつの箱を差し出して。
「いつも、付き合ってくれてありがとな。はいチョコ! 手作りだぞ! ちゃんと食えよー!」
――
「……って、言えばいいんじゃないか?」
対して電話の主は、『えー』と不満そうに声を漏らして、
『そんなストレートな……』
「じゃあ、お前が考えればいいじゃないか。義理なんだし、『ほれ義理』でも文句はないだろ?」
『い、いや、そ、それはちょっと……』
ペパロニは、からっからと笑い、
「ま、そう難しく考える必要はないさ。こういうのはな、自然と言いたいことを言えるもんだよ」
『そーなの?』
「そーなの。普段の私の言動を思い出してみろ、ノリばっかだっただろ?」
電話越しから、「あー、だよね」と納得された。
ノリと勢いとは言うが、動いてみると案外成功してしまったり、時折は失敗したものだ。いくつになっても、この性根は変わらないらしい。
「――とまあ、そういうのも必要なんだがな」
『うん?』
「一つ、大事なことを聞くぞ」
恋焦がれし世界、アンツィオ高校学園艦で育んだ者として、絶対的なことを問う。
「お前さ」
『うん』
「……その人に、必ず、チョコを渡したいと思ってる?」
心地良い、間。
『……うん』
「そっか」
十分すぎる返答を聞けた。
「ま、頑張れよ、良い結果を期待してる」
『どうも』
ふと、壁にかかっている時計を眺める。現在は夜の六時、それを見て「あ」と一声出て、
「そうだ……今夜八時に放送される、『日本戦車道を歩む者たち』は必ず見ろよ。今日出演するのは、」
『あー、はいはいわかってるわかってる。メールでも言ってたじゃんそれ』
「必ずだぞ? 録画もしろよ?」
『はいはい』
可愛げのない返事を耳にして、「成長したなあ」とペパロニは寂しく思う。
けれど、この流れは何物にも変えられない道の一つだ。だからこそ、嬉しくも想う。
『――ママ』
「ん」
『まあ……その……聞いてくれて、ありがと。それじゃあね』
「うん。お疲れ」
ぷつりと、通話が切れる。
携帯を、そっとポケットにしまう。音もなく、スプーンを手にとる。点火ツマミを捻り、静かに青い炎が立った。
ひと息つけて、調理の手を再開し始める。オリーブオイルをケチケチしない量程度につぎ込みながら、ペパロニは呟く。
――悩め、たくさん恋に悩め我が娘よ。アンツィオでは、それがとっても正しい事なんだからな。
□
それから少しして、ドアの開閉音とともに「ただいまー」が聞こえてきた。
まずは「お」と漏れて、お次に喜色満面の笑みがこぼれ落ちる。今日の主役が、帰ってきてくれたからだ。
「おっかえりー! いやー、夜8時が楽しみだなー」
「なぁにがぁ」
分かってるくせに。
「もちろん、番組は録画済みだからな。この私が、お前の立ち振る舞いをじっくり評価してやる」
「えー!? やめろよもー」
ビスコッティが、自分の夫が、実に気恥ずかしそうにへらへら笑う。もちろんノリの一手を止めるつもりはない、自分はアンツィオ気質なのだ。
「どだ? インタビューに対して、ちゃんと上手いこと言えたか?」
「知らないよ、真面目に答えただけだよ」
「んだよアンツィオ出身のくせにー、気の利いたことの一つや二つ、言えてねーのかよー」
「知るか。お前だって、試合自体は真面目にこなすくせに」
「それが戦車道だからな」
立場は、随分と変わってしまったと思う。自分は戦車道の世界選手として、ビスコッティは有名な戦車画家として、世の中を渡り歩いている。
――けれど、
「ビスコッティ」
「うん?」
「……お疲れさん」
そして、いつものように、ビスコッティと口づけを交わしあう。
――タランテラで踊り合ったあの頃と、仲は全く変わってはいない。誰にも、変えさせない。
□
一つのテーブルに、隣同士で腰かけながら、戦車道特集番組「日本戦車道を歩む者たち」を視聴し始める。これでも夕飯である鉄板ナポリタンを食しているつもりだが、そのペースいつもより遅い。
『今日のゲストは……男性でありながら、戦車を描き続けている新鋭美術家、黄田さんです』
『どうも』
何故なら、私の夫がテレビに出演しているから。
司会者である女性と、夫――ビスコッティが、向き合うようにしてそれぞれの席についた。
『――黄田さんの絵を拝見させていただきましたが、とても素晴らしかったです。戦車の真後ろを、あれだけ重厚に描けるなんて』
『戦車は、どのアングルから描いても映えるものです。僕は、戦車に敬意を表しながら、描き切ったにすぎません』
私は「うわー! キャラ違う! 誰こいつ! ビスコッティか!?」と笑ってしまう。ビスコッティは「んだよ文句あっか」と、私と同じ表情を浮かばせた。
――呼び方も、まるで昔と変わってはいない。私たちの恋は、決して終わりを迎えることなどはないからだ。
しばらくのインタビューの後、ナレーションとともに、ビスコッティの絵が次から次へと映し出される。それは真上から描かれたラーテ、斜め45度から描写されたARL44、真正面の視点から勢ぞろいしているカルロベローチェ、P40、セモベンテ――この絵を目にした時、私は、ビスコッティに「かっこいいな」と告げた。「グラッツェ」と返してくれた。
画面が、スタジオに切り替わる。
『それにしても、本当に珍しいですよね。男性が戦車の絵に携わるとは……何か、惹かれるものがあったんですか?』
『――妻の影響です。妻のお陰で、戦車のことが好きになりました』
思わず、「がッ!?」と叫んでしまった。ビスコッティは「へっへー」とピースサイン。
ちくしょう、何が「真面目に答えた」だ。ぜんぜんそんなことないじゃないか。
『なるほど……黄田さんの奥さんは、戦車道世界選手の一員として、ご活躍中でしたね』
『ええ。妻は、美術道を歩む僕のことを、ずっと支えてくれました』
『おおー、いい話ですねえ……やっぱりアンツィオ高校は、恋に情熱的なんですね』
『ええ、それはもう』
何度も何度も、ビスコッティのことを肘で小突く。やめろよばかーと、ビスコッティはいいようにやられっぱなしだ。
――それからは、絵に対する信条について聞かれ、次は日本戦車道に対する意見を問われ、更にはこれからの目標について質問された。テレビの向こう側のビスコッティは、それらに対して生真面目に返答し続ける。
よくテキパキ答えられるなあと、鉄板ナポリタンを口にしながらで思う。
対してビスコッティときたら、「今思うと、よく出来たなこんなやりとり」と、軽薄にモノを言った。やっぱりこいつはビスコッティだ。
『――さて、そろそろ終了のお時間がやってきましたが、最後に一つ、定番の質問を』
もうそんな時間だったのかと、私は素で思う。時計を見てみれば、もう九時近かった。
――「日本戦車道を歩む者」たちの、定番の質問。それは、
『あなたが、一番好きな戦車は?』
ビスコッティは、にこりと微笑み、
『妻が乗る、P40です』
――私は、ビスコッティの肩を抱き寄せた。世界一気の利いた言葉を、私に投げかけてくれたから。
ビスコッティは、ただ、ただ、「愛してる」と、それだけを言ってくれた。
そうして、ビスコッティと笑い合う。何度も交わされ続けた「コミュニケーション」だが、これからもずっと、これから先も、夢が叶った後も、結ばれた今でも、命を育みながらも、老いてからも、同じように笑顔を向け合うだろう。
だって私達は、アンツィオ高校学園艦で出会えたのだから。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。