STATELESS SLAVE's STORY 作:UNKNOWN WRITER
めをさますと、そこはいつものさむくてうすぐらいそうこじゃなかった。かべがおおきくこわれた、どこかのたてもの。さしこんでくるひかりがまぶしい。
わたしはそのたてもののおくのほうで、もうふにくるまってねていた。
どうして、こんなところにいるんだろう。みんなはどこにいったの?おばさんはいないの?
そうおもってからだをおこしてまわりをみると、だれかがすぐよこでしゃがんでいた。そのひとがしゃべった。
「お目覚めか」
そのおとこのひとをみて、わたしはきのう、このひとにかわれたことをおもいだした。
「食え」
そういっておとこのひとは、わたしになにかかたいものをくれた。
わたしは、そのたべものをみたことがなかった。おばさんがいちにちにいっかいくれるごはんは、どろどろのスープだけ。かたいものは、たべたことがなかった。
たべかたがわからないのでそれをもったままじっとしていると、おとこのひとはそれをかじってたべていた。
わたしもかじってみたけど、かたすぎてはがたたなかった。
それをみたおとこのひとは、いきなり、わたしからかたいものをとりあげた。
(……きっと、わたしがちゃんとたべられないからおこったんだ)
そうおもって、わたしはうつむいた。
すると、わたしのめのまえに、ちいさくわられたかたいものがさしだされた。
「これで食えるか?」
おとこのひとは、おこっていなかった。
「……うん」
うなずいて、わたしはそのちいさいかけらをたべた。あまりおいしくはなかったけど、おなかがすいていたのでけっきょくぜんぶたべてしまった。
おとこのひとは、それをじっとみていた。
おひさまがそらたかくのぼってから、わたしとおとこのひとはたてもののそとにでた。
そとはこわれたたてものがいっぱいたっていた。たおれているのもあった。くずれているのもあった。
「ここに、すんでるの?」
わたしはきいた。おとこのひとは、いや、とこたえた。
「特に決まった家はない。あちこちに泊まっている」
おとこのひとは、たてもののよこにあったくるまをうごかした。そして、わたしをとなりにのせて、くるまをはしらせた。
「なんで、わたしをかったの」
とちゅうで、わたしはおとこのひとにたずねた。
「お前の目だ」
おとこのひとはこたえた。
「お前の目が、『生きたい』と言っていた」
「…………?」
おとこのひとのいっていることは、むずかしくてわからなかった。
また、わたしはきいた。
「……あなたは、わたしのパパになってくれるの?」
おとこのひとは、こうこたえた。
「お前がそうしたいなら、そうしろ」
このときから、おとこのひとはわたしの「パパ」になった。
しばらくすると、おおきなまちがみえてきた。
「ここに知り合いがいる」
パパは、そういってそのまちにはいった。
せまくてほそいみちが、たくさんあるまちだった。あちこちにあかりがついたドアがあって、おんがくがきこえてきたり、いいにおいがしたりした。
「ここだ」
そのうちのひとつに、パパはわたしをつれてきた。
ドアのよこに、うさぎのえがかいてあるいたがついていた。そのしたになにかかいてあるけど、わたしにはなにがかいてあるかわからなかった。
なかにはいると、すらっとしたおじさんがてーぶるのむこうにたっていた。てーぶるのむこうには、びんがたくさんおいてあるたながあった。
「マスター、俺だ」
「おや、いらっしゃいませ。久しぶりですね。……そちらの娘さんは?」
「ミリルで買った。それより、酒を一杯。それと『メニュー』を用意してくれ」
「承りました。この子には、ジュースでいいでしょうか」
「ああ、頼む」
おじさんがてーぶるのむこうにきえると、パパがきいてきた。
「腹減ったか?」
おなかはすいていないので、くびをよこにふった。
「ならいい」
「あのひとが、しりあい?」
「ああ。今、仕事を探してくれてる」
「しごと?」
「主に殺しのたぐいだ」
しばらくすると、おみせのおじさんが、いろいろなものをのせたいたをもってきた。
「お待たせしました。カクテルとジュース、それに『メニュー』をお持ちしました」
おじさんがパパにほそいカップとおおきなほんを、わたしにきいろいみずのはいったコップをわたしてくれた。これが「ジュース」らしい。
「……いただきます」
ジュースは、あまくておいしかった。きがつくと、はんぶんぐらいをのんでしまっていた。
パパはカップのおさけをのみながら、なにかおじさんとはなしをしている。
「そうだな……マスター、この情報は確かか?」
「ええ、勿論ですとも。ですが、こちらは正直胡散臭いですね……」
「ますたー」とよばれたおじさんが、わたしのほうをみた。
「ところで、この子の名前は?」
「……」
さいしょのパパがわたしをよぶとき、なんてよんでいたのか、おぼえていない。わたしは、だれだっけ?
なんだかすこしさびしくなって、わたしはうつむいた。
「ねェのか?」
「……うん」
うつむいたままこたえると、
「ないんだったらやる」
そういってくれた。
そして、パパは、わたしにそのなまえをくれたんだ。
次回は三年後のお話です。
なお、登場人物の年齢は
主人公の少女・6歳
「パパ」 ・27歳
「おばさん」・38歳
「ますたー」・36歳
でイメージしてます。