俺の名は。   作:a0o

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 三者が(一応)顔を合わせます。




知らない因縁

 

 早起きして出発した甲斐もあり、昼が少し過ぎた頃に糸守に着いた流は周りからの視線を受けながら首を傾げていた。

 

(余所者が珍しいのか?でも何かしっくりと来ない・・・何故だろう?)

 

 そう思いながら到着の知らせを瀧と三葉に送ると、タブレットから音が鳴り起動させると画面に屋上と思しき場所に居る瀧の姿があった。

 

『着いたんですね。じゃ、早く説明を』

 

 急かしてくる瀧の背後には二人の男子が興味心身で割り込んできた。

 

『瀧、お前そんなモンいつ買ったんだよ?』

 

『ってか、この兄ちゃん誰?』

 

「あー、はじめまして。瀧君の知り合いで、若茶流と言います」

 

 律儀な自己紹介に二人は居直るように名乗る。

 

『はじめまして、瀧の友達の藤井司です。昨日は失礼しました』

 

『同じく高木真太です』

 

「ああ、昨日の・・・君達も奥寺ミキの事を聞きたい口かい?」

 

『い、いえ・・そんな・・・・』

 

『そ、そうですよ・・・そんな、恐れ多い・・・』

 

 照れるように勢いを削がれる姿に笑みを浮かべる。

 

「照れるな、照れるな。瀧君なんか美人が居る仕事場って聞いたら鼻の下伸ばしてたんだから」

 

『ちょ、ちょっと!なんて事言うんだよ』

 

「だから照れるなって、健全な男子であるならば、奥寺の魅力に当てられるのは真っ当だ。

 あんな〝いい女〟は滅多にお目にかかれるものじゃないからな」

 

『まぁ、確かに』

 

『奥寺先輩、美人ってだけじゃないもんな』

 

 流の言葉に納得してしまう司と高木、すっかり会話のペースを握られていた。

 

「で、今日も瀧君はその美人の先輩と一緒にバイトかな?」

 

『え、あ、はい』

 

「じゃ、話は帰ってからにしよう。まだ町に着いたばかりで目的地には着いてはいないんだ。それじゃあ」

 

 奥寺をダシにして会話を切り上げて通信を切る。東京(むこう)では、抜け駆けか何かと勘違いした友達に詰め寄られる場面が想像するが、そこは丁重に心の中で手を合わせる。

 

 そうして暫く歩いて行くと宮水神社に着きお参りをする。そして直ぐ近くの宮司の家に向った。インターホンを押し待っていると扉が開き、中からお婆さんが出迎えた。事前の連絡も無い訪問に良くは無い対応をするか、珍しがるかと考えていたが、出て来た第一声に流は度肝を抜かれた。

 

(よう)くんかい?ほんに久しぶりやねぇ」

 

「・・・・・・・父をご存知なんですか?」

 

 驚愕に目を見開いて流は尋ね返した。

 

「おや、ほいなあんたは―――――」

 

「はい、若茶葉は俺・・じゃない私の父です。

 あ、申し遅れました。私は息子の若茶流と申します。

 宮水一葉さんでしょうか?」

 

「これはこれは、ご丁寧な挨拶を。ま、立ち話もなんやし、上がりんさい」

 

「宜しいんですか?」

 

 余りにもすんなりと歓迎され居間に通される中、流は考えを整理していた。

 

(父さんが小学校までは田舎で暮らしていたのは聞いてたが、まさかそれが糸守?いや、ここは呼び辛いが確かに町だし、住んでいた()は無くなってしまったとハッキリと言っていた。だが、来る途中の町の人たちの視線、当たり前だが父と同じくらいの大人ばかり・・・駄目だな、情報が少なすぎてさっぱり分からん)

 

 そんな思考の中で一葉が冷たいお茶を持って来た。

 

「それにしても、本当によう似とるなぁ。葉くんは元気かい?」

 

「すみません・・・その、お・・私が中学の時に・・・・・・」

 

「そっか。すまんこと聞いたな。それとそんなに畏まらんでいい、楽にしんさい」

 

「あ、どうも。それで父・・・若茶葉は昔、糸守に?」

 

「いいや、葉くんは糸守から山一つ向うにあった村の子さ。昔はそこと糸守の小学校合同でいくつか行事を執り行う事があったんよ」

 

「じゃあ、その際に」

 

「本当に何も聞いとらんのか・・・その頃は二葉、娘を嫁にと親御さんとも話しとったんに」

 

「・・・それ、小学生の時の話ですよね?」

 

(もしかして、話さなかったのは気恥ずかしかったからか・・・)

 

 疑問もほぼ解けたことで緊張も解け、表情に余裕が出て来たところに一葉から声が掛かる。

 

「それで、今日は何の用で来なさった?」

 

「はい。実は大学の研究で糸守湖周辺の調査をしたく、町長さんに連絡したところ、調査する範囲に宮水のご神体があるので、宮司である一葉さんの許可さえ貰えればOKだと打診されたので・・・・本当はもっと手中を踏むべきなのですが、事情があり突然押しかけてしまった次第です」

 

 調査、町長の辺りで一葉は不機嫌な顔をして問うてくる。

 

「あんたも民俗学かなにか?面白おかしく見当違いのことを書き散らす」

 

「いいえ、完全に分野(はたけ)違いです。

 俺が調査したいのは歴史ではなく電子工学、科学の分野に当たります」

 

「ならワシには余計分からん」

 

 話しが拗れそうな雰囲気になりそうになるが、流はその流れを強引に変える言葉を出す。

 

「では、時折〝自分で無い誰かになる〟と言った夢を見る事が、宮水の家系にはありませんか?」

 

「・・・・あんた何を知っとる?」

 

 完全に憶測から出た言葉だが、一葉の反応で確信に変わり簡潔に説明する。

 

「糸守湖は1200年前に隕石が落ちて出来たもの、その際に生じた・・歪んだと言うべき異変が起きた。それは誰にも気付かれない類のもので、その影響は湖の側にご神体を置き管理してきた一族にだけ起こった。と言うのが、俺が考えた仮説(・・)です」

 

「何処でそないなこと」

 

「う~ん。巡り巡って父が導いてくれたとしか・・・詳しく話すと―――――」

 

 一葉は手を振って饒舌になりそうな流を制す。

 

「ええ、ええ。今更ワシが知ってもどうにもならん。その話は孫達に聞かせてやれ」

 

「それじゃあ」

 

「調査とやらは許可するけ、今日から家に泊まっていき」

 

 喜びも束の間の投げられた言葉(ばくだん)に焦る内心を押えて冷静に対応しようとする。

 

「お言葉はありがたいですが、近くの町に宿を取ってますし・・・その、女だけそれも年頃の娘さんが居る家にと言うのは常識的にも・・・・」

 

「構わん。そうなったら世代を超えて念願が叶う・・・それとも、から手で帰るか?」

 

「・・・・・・父の事を聞きたいだけなら、何も泊まる必要は―――――」

 

 尚も食い下がる流に一葉は面白そうに言葉を重ねる。

 

「アンタにもね。二葉、娘のことを知って欲しいんよ。それとも年寄りの相手をするのは嫌か?葉くんはよ~く話を聞いてくれたんけんどね」

 

「でも・・・父親である町長さんが」

 

「あんな奴気にせんでええ!とうに縁は切った、どうこう言われる筋合いは無い」

 

「・・・・・・・・・謹んでお受けいたします」

 

 一葉の剣幕に流は折れた。このままでは調査の許可が取り消されるかもしれないし、長々としている時間もない打算的なものもあるが、このお婆さんがほんの一時でも昔の夢の続きを見たいという願望も潰すには忍びないと言う同情の念もある。

 自身に不本意な噂が立つだろうが、目的の為の対価である割り切り、宿の予約をキャンセルし車に積んであった荷物を降ろしに行った。

 

 

 ***

 

 

 三葉は学校が終わるとテッシーとサヤちんが誘う間もなく一目散に家に帰った。家に入ると四葉が満面の笑みで出迎え、嬉しそうに声を出す。

 

「おかえり~、お姉ちゃん。お客さん・・じゃない居候さんが来てるよ」

 

「居候さん?」

 

 訳が分からず四葉と居間に行くと、珍しく祖母が楽しそうに自分の待ち人と話している姿に面食らった。

 

「なにこれ?」

 

「なんか、お母さんの昔の知り合いの息子さんなんだって。思い出話が出来るってお祖母ちゃん喜んじゃって」

 

 四葉自身も嬉しそうに語り、三葉は目を引きつらせて再度問う。

 

「・・・ねぇ、さっき居候って」

 

「糸守に居る間は家に居るって」

 

「ありえない・・・・・・」

 

 そこでやっと三葉に気付いた流は声を掛ける。

 

「お帰り、暫く世話になるんで宜しく頼む」

 

「ちょ、ちょっと何考えて―――――」

 

「勿論、只で世話になるつもりは無いから」

 

 三葉の言葉を遮ると四葉が抱きついてくる。

 

「そうそう。台所来てみぃ、美味しそうな物、いっぱい持ってきてくれたんよ。今夜はご馳走!」

 

 食べ物で買収された妹に不満を募らせるが、流が耳元に近づいて小声で言う。

 

「言っとくけど、これはお祖母さんが言い出したことだよ」

 

 そして、いつもより豪華な晩御飯を食卓で囲み、辺りがすっかり暗くなった時間に三葉が流の居る客間に入ってくる。流は並べてある資料とタブレットを交互に見ており話しかけ辛い空気に戸惑っていると相手から声が掛かる。

 

「ここは君の家なんだから、遠慮せずに堂々としてればいいのに」

 

 その言葉に三葉はムッとしながら近づき、怒った声で言いたい事を言う。

 

「なら言うけど、見ず知らずの人の家に泊まるなんて非常識でしょ!」

 

「同じ事をお婆さんにも言ったんだけどね。今日は君にこれだけ渡して宿に泊まるつもりだったのに」

 

 三葉に瀧に渡したのと同じタブレットを差し出す。

 

「余程、父の事が知りたいみたいでな、一緒に聞いた娘さん、ああ君たちのお母さんとどれだけ仲が良かったかを話してくれた。まぁ、多少は美談に脚色されてるようだがね」

 

 対して冷静な分析を交えた返しに怒りもやや収まり、タブレットを受け取って、仕切り直すように近くに座る。

 

「それで、昨日のことの説明は――――」

 

「それはもう少しだけ待って、時間的に考えて、もう二十分くらいで連絡が来るはずだ」

 

 三葉は時計を見て何の事なのかを理解して大人しく待つが、その間、流はずっと資料と睨めっこをしており何も話すことも出来ず只管に長く感じる時間は苦痛に近かった。

 そうしてタブレットから着信が入り起動させると、昨日見た自分の顔、立花瀧が画面に映っていた。

 

「待っていたよ、瀧君」

 

『それはこっちの台詞、と言うか・・・お前、三葉か?』

 

「瀧くん・・・」

 

 画面越しとは言え対面を果たした二人に感傷に浸るかと思いきや、出てきたのは罵りあいだった。

 

「ちょっと、瀧くん!私の胸触ったて・・・このバカ!変態!」

 

『なっ、一回だけだよ・・・それにそっちだって昨日は若茶さんダシに奥寺先輩と仲良くしてたって、他の先輩達に詰められたんだからな・・あと、今日はミスするなよとか警告されるし』

 

「やったこと無いんだから仕方ないでしょ。それにこっちだって・・・昨日一日、髪はボサボサで制服も着れてなくて・・・凄く奇異な目で見られたんだから」

 

「はいはい、そこまでにしよう」

 

 手を叩いて打ち切らせると瀧と三葉が声を揃えて怒鳴る。

 

『「全部アンタが原因だろうが!!」』

 

「仰るとおり、だから何故こうなったかを順を追って説明する」

 

 やっと待ちに待った時が来た事で場に緊張が走り、三葉は正座し瀧も静かにするのを見て流は語り始める。

 

 





 次回でトンでも科学の説明になります。

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