【一時休載中】ドラゴンクエスト 勇者アベルともうひとつの伝説   作:しましま猫

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久々の投稿です。
入院を含め、少しドタバタしていました。
かな~り時間が開いてしまいましたね。
執筆時間を確保するのは難しいです。
文章を短くすると淡泊になる、しかし思うとおりに表現しようと言葉を連ねると長ったらしいだけに。こういうのを文才がないって言うんだろうなぁ。
さて、今回からちょっと原作キャラの出番がない回が続きます。オリ主サイドの戦力を整える回ですので、ご了承ください。

※2019/7/9 誤字脱字を修正しました。
※2017/9/10 ソフィア様、誤字報告いただきありがとうございました。


第12話 謁見 スライム島のキングスライム!

 ヒカルが手を触れた瞬間、手形が光を発し、硬質な機械音声と友に中空に何か光の塊のような物が浮かび上がり、次第に形を変えていく。数秒の後、それは美しい女性の姿へと変化した。ただし、背中から一対、巨大な純白の翼をはやしている。純白の肌にウェーブのかかった金色の長い髪を腰まで伸ばし、目を閉じて両腕を胸の前で交差させている。どう見ても衣類をいっさいまとっていないようだが、ヒカルを含めた一行は誰1人状況が飲み込めず、もれなくその場に固まってしまうのだった。

 

「一体どういう状況なんだこれ? いや、まあ不用意に動かしたのは俺なんだけどさ。」

「何で急に翼をはやした娘っこが出てくるんだべ?」

「天使? でしょうか? 全裸なんて刺激的すぎますわ。」

 

 ヒカル、もりお、モモがそれぞれ疑問を口にする。ミミなどは思考が追いついていないらしく、口を半開きにしてただ呆然と突っ立っているだけだった。

 

「ご主人様って、この状況からしてもしかしなくても俺のことだよな? 新しい? なんのことだかさっぱりだ。」

 

 ヒカルがそんなことをつぶやいた瞬間、右手の下、ちょうどそれが置かれているくぼみの部分が一層強く光り輝き、同時に何かがヒカルの頭の中へ直接流れ込んでくる。

 

「こ、これは……!」

 

 ――はるか昔、超古代文明を築き上げたエスターク人は、愚かにも世界征服という自らの野望を成し遂げるため、ゾイック大陸全土へ侵略の手を伸ばしはじめていた。しかし、ごく少数の善意ある者たちが、自分たちの生み出してしまった汚染水である『死せる水』による世界への悪影響を懸念しており、竜の翼はそれを浄化してきれいな水に戻すための研究をしていた施設であった。しかし、野望に燃える悪しきエスターク人たちは、竜の翼を破壊するため攻撃を仕掛けてきた。その攻撃から逃れるため、竜の翼は防御を固め、要塞のような作りになっていった。戦いが長引くと予想した善良なるエスターク人たちは、当時のエスターク文明においては最高峰の技術力を用い、竜の翼を空高く浮上させ、悪魔に魂を売ってしまった同胞達の手から辛くも逃れることができたのである。それからまもなく、エスターク文明は滅亡し、ゾイック大陸には死せる水による汚染と戦いによる傷跡だけが残された。

 竜の翼に残されたエスターク人たちはトフレ大陸に居住地を移し、そこで竜伝説に記された、伝説の竜の力を知ることになる。彼らは長い時間をかけ、伝説の竜に汚れた水を浄化する力があることを突き止め、勇者と聖女の力を借りてゾイック大陸を浄化するという考えに至る。しかし、勇者や聖女は世界の危機にしか現れず、少なくともそれは今ではないらしい。エスターク人は世界の危機について調べる内、それが魔王と呼ばれる、モンスター達を束ねる悪の王による侵略であることを知る。さらに調査を進める彼らだったが、そんな折に世界を大地震、台風、水害、山火事などの大災害が襲った。特に、竜の翼を中心として建設された善良なるエスターク人たちの新しい都、このモーラの周辺は大変な大災害に見舞われた。エスターク人たちは本来は都市機能の管理のために使っていた竜の翼のエネルギーを防御に回し、なんとか都の破壊を免れた。しかし同時に、竜の翼は蓄積していた膨大なエネルギーのすべてを使い果たし、モーラの都は高度なその機能のほとんどを失ってしまった。都を統率していた年長者の集団である長老会は、竜の翼を長い眠りにつかせることを決断し、都市機能を失ったモーラの都は寂れてゆき、やがて滅んでしまった――。

 

「な、何だったんだ今のは……?」

 

 それは端から見れば一瞬の出来事だったのだが、ヒカルにとってはかなり長い時間に感じられた。頭の中に入ってきたものは、この『竜の翼』に関する膨大な情報だったからだ。そして、それと同時にこの部屋が竜の翼の中枢であり、かつての都市機能や竜の翼そのものを動かしていた部屋だということも分かった。

 ヒカルはまだ現実に戻ってこられずに呆けている仲間達をよそに、都市の管理機能を司る存在を呼び出すため、頭に浮かんだキーワードを口にする。

 

「翼を司る者よ、新たな主たる我の名を刻め、我が名はヒカル。」

「ショウチイタシマシタ ヒカルサマ サイショウコウセイデ カンリキノウヲ サイキドウシマス。」

 

 一瞬、眩い光が部屋全体に放たれ、それが収まり全員が目を開けたとき、先ほどまで空中に静止していた女性型の何かが、静かに目を開いた。

 

「おはようございます。ヒカル様。」

「おまえが、モーラの大王か?」

「う、うわあああん!!」

「え?! ちょ、何? 何がどうなってんの?」

「はっ、ご主人様? あら? え? いったいこれはどういう状況ですの??」

「あ、れ? ご主人様? 裸のお姉さんが、泣いてる?」

 

 落ち着いた声で話しかけてきた女性を模った『それ』は、ヒカルの言葉を聞いて急に顔を覆って大声で泣き出してしまった。その声に呆けていた残りの3人はようやく現実に引き戻された訳だが、いったいどういう状況なのかわからずに困惑するばかりである。

 

「あの、えっと、これってどういう状況なのかな? ミミわかんない。」

「ご主人様が翼のはえた裸の女の人を泣かせていますわ。」

「いやいやいやいや、その表現だと誤解されるから、絶対女の敵として認識されるからね?!」

 

 ミミとモモの反応、特に姉の方の言い草に、ヒカルは半ば絶叫しながら反論する。一体何がどうなっているのか、ヒカルにもまったくわからないのだ。泣きたいのはむしろ彼の方である。

 

「あのねえ君、急に泣き出されちゃ訳がわかんないでしょう。とりあえず落ち着いてくれないかな?」

「ぐすっ、えぐっひっく。もうじわげござびまぜん。」

 

 泣き崩れた彼女が落ち着くのには、結局それなりに長い時間を要した。ようやく落ち着いた彼女によると、モーラの都と竜の翼の機能は多岐にわたっており、そのすべてを円滑に管理するために古代魔法技術によって作られた存在が、彼女のような『管理者』というものだそうだ。この世界にコンピュータもその概念もないが、その系統に当てはめるなら、対話型のUI(ユーザーインターフェース)といったところだろう。恐ろしく先進的な技術である。しかもヒカルには電子的な仕組みもなしにこれらがどうやって動いているのか皆目見当がつかない。まあ、古代文明の遺産であるため、ほかの者たちにも理解できる代物ではないのだが。

 

「なるほど、管理者がこの世界にもう存在しないんで、一番近くにいた俺を管理者として認識したのか。」

「はい。どうぞご命令を、新しいご主人様。」

 

 命令しろ、などといわれても、何も思いつくはずはない。そもそも起動するつもりもなかったわけだから、それは当然といえよう。悩んだヒカルはとりあえず、気になったことを聞いてみることにした。

 

「う~ん、命令っていわれても困るんだけど、とりあえずさ、なんで急に泣き出したのか教えてくれる?」

「それは……ううっ、ぐすっ。」

「あ~ほらほら泣かないで、困ったなあもう。」

「すみまぜん。ですが、わ、私、確かに作られた存在ですけど、その、一応、女の子なんです。な、なのに、だ、大王なんて名前、あ、あんまりですっ! うわあああん!!!」

 

 再び泣き出してしまった彼女。どうやら『女性』としての意識はあるらしい。ヒカルは頭に流れ込んできた情報をもとに、その名前を口にしただけなのだが、確かにこれだけ外装を美しい女性の容姿にしておいて、名前が『モーラの大王』などというのは、制作者のセンスが疑われても仕方がない。

 

「それは確かにひどいですわね。」

「う~ん、メスにオスの名前つけるようなもんだからなあ、わりと適当なモンスターの名前でも、ちょっと考えられないべ。」

「かわいそう、ご主人様、どうにかならないの?」

 

 三者三様に、同情の意を表す仲間達に、ヒカルは先ほど入ってきた情報の中に、解決策がないか探りを入れる。

 

「う~ん、これかな。都を管理する物よ、主の名において汝に名を与える。」

 

 ヒカルは目当ての機能だと思われるキーワードを口にする。途端に、今まで泣いていた彼女の動きが止まり、再び硬質な機械音声が部屋に響いた。

 

「メイレイヲ ジュダクシマシタ カンリシャノ アタラシイ ナマエヲ オキカセクダサイ。」

「う~ん、女の子の名前なんて自信ないけど、どうすっかなあ。」

 

 どうやら新しい名前の入力を受け付ける待機状態に入ったようだ。しかし男のヒカルに女の子の名前などとっさには思い浮かばない。なんとか考えてみるも、

 

「ええと、ユリカ、マイコ、アサミ、マユミ、トモエ、ミユキ……ダメだな日本人名しか思い浮かばない。」

 

 どれもこれも、金髪色白な彼女にふさわしい名前とは思えない。困ったヒカルは従者のエルフに知恵を借りることにする。

 

「モモ、何かいい案ない?」

「そうですね……エレオノーレ……なんてどうですか? エルフの古い伝承に記されている大魔法使いの名前なのですが……私たちは親しみを込めて、普段はエレンという略称で呼んでいますわ。」

「よしっ、それでいこう。ええと、汝、命名、エレオノーレ。」

「ニュウリョクヲ ウケツケマシタ カンリキノウヲ サイキドウシマス。」

 

 部屋に一瞬眩い光が放たれ、新しい名前を与えられた彼女は、再び目を開いた。

 

「ヒカル様? 私、いったいどうしたのかしら??」

「お目覚めかい? 気分はどうかな? これで名前が変わっているといいんだけど。」

「!! ありがとうございます! エレオノーレ、なんて女らしい名前なのかしら……。ありがとうございますヒカル様。」

「うんうん、よかった。そこにいる大きい方のエルフ、モモがつけてくれたんだ。愛称はエレンらしいよ。改めて、俺はヒカル、で、モモの隣にいるちっこいのがミミ、あのこうもり男はもりおさんだ。」

「モモ様。素敵な名前をありがとうございます。ミミ様、もりお様、お騒がせして申し訳ありませんでした。」

 

 エレオノーレト名付けられた『管理者』は、皆に深々と頭を下げた。顔を上げた彼女の表情は、優しいまなざしをしており、口元には優雅な微笑みをたたえている。ようやく場が一段落したところで、ヒカルは次の行動に移ることにする。

 

「早速で悪いんだけど、勇者に渡す予定のアイテムって入れ替えられるか?」

「え?! 入れ替えるのですか? 聖なる水は死せる水をわずかですが浄化させる力がありますし、はがねの剣なんて滅多に手に入らない貴重な品なんですよ?!」

 

 エレオノーレ、エレンの言葉に、一同は唖然とする。聖なる水はともかく、はがねの剣など多少高価ではあるが、普通に武器屋で売っているアイテムだ。それが貴重品とは一体どういうことなのだろうか?

 

「あ~、なるほどね。 いいかいエレン、君が造られたころは鋼鉄の製錬技術は貴重な物だったかも知れないけど、今や技術が発達して、鋼鉄なんて設備があれば増産できる代物なの。だから珍しいものでも何でもないわけだよ。」

 

 人間の技術とは日々進歩する物だ。ザナックのところで読みふけった歴史書によると、魔法金属などの制作過程に魔力が絡むような代物は別として、銅や鉄などの生成技術は古代文明の頃にはたいしたものではなかった。神代の武具、伝説の名工などの有名人が作成した武具などを除けば、通常の武装において精錬された金属の使用は一般的ではなかった。それはヒカルが元いた世界の古代史と何ら変わるところはない。そういった時代に、モーラの都のような大都市でのみ作られていたらしい鋼鉄製の武具は、一般人が手にできる中では相当に貴重なものだったようだ。しかし、現在ではこの世界でも鋼鉄の武具は王宮の兵士などに標準装備として支給されている国もあり、金さえ出せば武器屋で普通に購入できる程度の代物である。

 

「そうだったんですか。私が眠っている間に、世界もいろいろと変わっているのですね。ええと、入れ替えは可能です。代わりのアイテムを持ってきて頂ければ、私の方で処理させて頂きます。」

「よし。それと、この竜の翼を浮上させるアイテムの名前と所在(ありか)は分かるか? 多分ここの力を完全に引き出すのに必要だと思うけど。」

「名前はゴールドオーブとシルバーオーブです。申し訳ありませんが、どうやら何らかの方法で隠されているらしく、私の探知能力では場所までは特定できません。竜の翼が飛べなくなった時点で、封印されたと記録されていますが、経緯についての詳細までは分かりかねます。」

 

 どうやら、ゴールドオーブとシルバーオーブは、存在することだけは確かなようだ。しかし、今は両方ともどこにあるのかわからない。ヒカルはとりあえず、2つのオーブの腱は後回しにすることにした。

 

「この竜の翼は、2つのオーブがあれば飛べるのか?」

「はい。竜のカギによって水晶の力を解放し、その上で2つのオーブを祭壇に捧げれば、竜の翼は再び浮遊することができるはずです。」

「よし分かった。それじゃあ、次に俺が来るときまで、この場所を見つからないように隠すことは可能か? 勇者じゃない奴が来るたびに呪文で撃退するとかちょっと物騒だからな。」

「それは可能です。モーラの都は現在、半分以上地下に埋もれた状態にあります。周囲を魔法のフィールドで隠し、通路を特定のアイテムを使わなければ通れないようにしておけば良いかと思われます。」

 

 ヒカルはエレンにしばらくの間都を外部から見えないようにするように指示し、それはまもなく果たされた。かなり大がかりな装置のはずだがたいして待たされることもなく処理は完了。通行不可となった都へ通じる道を通ることができる通行証の役目を持つアイテムを受け取り、彼のここでの目的は果たされた。

 

「じゃあ、エレン、悪いけど次に来るときまで、もう少し休んでいてくれ。」

「はい。少しさみしいですが……お帰りをお待ちしています。」

 

 エレンはそう言い残すと、光の球となり、やがて静かに消えていった。一行が部屋を出、扉を閉めると、再びガチャリとカギのかかる音が聞こえ、竜の翼は再び、しばしの眠りにつくことになるのだった。

 

***

 

 旅の扉を通り、ほこらの入り口を抜けると、いつの間にか外は日が落ちかけるような時刻になっていた。今までずっと暗い屋内にいたために、時間の経過を正確に把握できていなかったようだ。朱色に染まった空は水平線の向こうまで続き、きっと明日の天気も良いのだろうと予測できる。後ろを振り返ると、さほど大きくないほこらの裏手には森が広がっており、その先を見通すことはできない。いきなり森の中へ入るのは、これから夜になることを考えると危険と思われたため、ヒカルらはとりあえず海岸線を歩き、住人がいないかどうかを探してみることにした。

 ドラきちのいうとおりであるなら、ここがスライム島ということになるはずだ。海岸線に沈んでゆく夕日を見ながら、適当に歩を進めていると、意外にもすぐに森は途切れ、草原の中に城らしき建物が見える。まだ遠くてはっきりとは見えないが、城の周りに町のような集落が広がっているようだ。歩いて行っても日が沈みきる前にはあそこまでたどり着けるだろうと目算を立て、ヒカルたちは町へと歩を進めていった。

 

「みなさん、お待ちしていました。ようこそスライム島へ。」

 

 町にたどり着き、門のところで見張りをしていたスライムに話をしていると、どこからかドラきちがやってきて、ヒカルたちを町へ案内してくれた。この島には基本的に弱いモンスターしかおらず、駆け出しの戦士にも一撃で倒されてしまうようなレベルの者がほとんどだという。島は1匹のキングスライムが治めているが、彼はキングスライムの中でも特に弱い個体らしく、今までの戦いでは数少ない城の兵士であるさまようよろいたちが奮戦し、どうにか敵を撃退していたということだった。

 

「とりあえず、この島の長であるキングスライム様に会って頂けますか?」

「もう夜だけど、かまわないのか?」

「はい、城には連絡してあります。襲撃への備えは早いほうが良いと、長もそのように申しておりましたので。」

「わかった、じゃあ行こうか。」

 

 ヒカルたちは小さな町の中を、その中心にそびえ立つ城へ向けて進んでいった。周りの風景とはあまり調和の取れていない大きな城の前にたどり着いたときには、日はすっかり暮れ、空には月が顔を出していた。

 ドラきちが城門の前に立つさまようよろいに何かしら話をし、ほどなくして門はゆっくりと開かれた。スライム系の小さなモンスター数匹に案内され、城の奥にある謁見の間へと通されると、玉座には巨大なキングスライムが鎮座していた。

 

「良く来たな、旅人たちよ。儂がこの城の主、キングスライムのキングスじゃ。」

「ええと、なんて応対すりゃ良いのかな? 初めましてヒカルです。ご尊顔を拝し恐悦至極?にございます。」

「わっはっは、別に普通に話してくれてかまわんぞ。このしゃべり方はただの癖のようなものじゃからして、別に儂はほかの者と比べて偉いわけでもなんでもないからのう。」

「は、はあ、そうですか。」

 

 それではなぜ大きな城に住んでいたり、ほかのモンスターが召し使いみたいなことしてんだよと突っ込みたくなるヒカルであったが、漫才をかましている時間もないので、話を進めることにした。

 

「ねえねえ、ミミお腹すいた~。」

「こらミミ、大事なお話をしているんだから、もう少し我慢しなさい。」

「だってぇ、歩き続けて疲れたよう。」

「わっはっは、すまんすまん、少し急ぎすぎたようじゃな。どれ、儂も夕食にするか。少し待っておれ。」

 

 キングスはそういうと、どこから取り出したのか小さなベルをチリンチリンと鳴らす。まもなく何匹かのいっかくウサギが現れ、夕食の用意を命じられて退室していった。そして、ヒカルたちはキングスの案内で、大きなテーブルのある部屋に通され、しばし待つと給仕らしきモンスター、長い舌をたらしたつちわらしたちが様々な料理を並べはじめた。

 

「さあさあ、遠慮しないでたくさん食べるのじゃぞ。ときに小さきエルフの娘よ、名前はなんという?」

「ミミだよ! うわ~おいしそう、お魚に、野菜に、果物もあるぅ~~♪」

「ふむ、ではミミ、待たせてすまなかったの。皆でいただくとしよう。」

「わーい!」

 

 ミミはかわいらしくいただきますをして、目の前にある料理を食べ始める。ヒカルたちもキングスに促されるまま、テーブルの上の料理を口に運んでいく。どれも新鮮な食材を、素材の味が引き立つように調理しており、旅で疲れた一行の胃袋に染み渡っていく。食事しながら自己紹介やこれまでの旅についてなどを、一通りし終えたあたりで、大量にあった料理は見事に平らげられていた。

 

「さて、ドラきちの頼みを聞いてここまで足を運んでくれたこと、改めて感謝しよう。」

「いえいえ、実際役に立つかどうかわからないですし。それで、襲ってくるモンスターはどれくらいなんですか?」

「数はいつも、多くても30体がいいところじゃろう。空から来る奴はおおがらすやさそりばち程度じゃから、たいして脅威にはならん。この城の唯一と行ってよい戦力、さまようよろい総勢5体が相手をし、ホイミスライム達に回復をさせながらどうにか戦っておる。」

 

 食後のデザートを楽しみながら、ヒカルはキングスから襲撃してくるモンスターについての情報を仕入れていた。空と海から襲ってくるモンスターのうち、空の襲撃者についてはどうにか対処ができているそうだ。さまようよろいの攻撃力とホイミスライムの回復呪文(ホイミ)の組み合わせなら、低レベルの敵が相手であれば安定して有利に戦いが進められるだろう。

 

「問題は海、ですか。」

「うむ。さすがにあまり大型のモンスターはやってこないが、頻繁に責めてくるマーマン達だけでも手こずっておる。奴らは陸地に上がれば弱体化しよるから、陸におびき寄せてなんとか、といったところじゃな。」

「ふ~む、今以上に数が増えたり、面倒な呪文を使う奴が出てくると危ないですね。」

 

 現状の戦力はさまようよろいとホイミスライムくらいしかまともに役にはたたず、これ以上攻め込んでくる敵が増えたり、レベルの高い相手が現れたりすると耐えきれないだろう。ヒカルはどうしたものかと考えを巡らせる。

 

「まあ、今聞いたくらいの強さの奴なら、距離取って俺とミミの攻撃呪文で倒すことはできるけど、たとえ一度撃退したとして、今までのパターンだとまた襲ってくるのは目に見えてる。その辺も含めて、なんとかできる手段があればいいけどなあ。」

「なんと! あれだけの数を相手にできるほど、高度な呪文が使えるのか?!」

「まあ、俺はベギラマとバギマ使えるし、ミミはヒャダルコ使えるからなんとか。」

「う~む、エルフの娘はそういう能力なんじゃろうが、そちは人間じゃろ? いや人間でなくても高等呪文を複数使いこなせる者など、この世界にはそうはおらんぞ。」

 

 ここでも魔法の才能を褒めちぎられ、少し照れくさい思いをするヒカルであったが、首を振って思考を切り替える。複数の敵を永続的に退けるような魔法の罠や、アイテムなどがなかっただろうか、と。

 

「1つだけ、あるにはあるな。」

「む? 何か良い考えが浮かんだのか?」

「破邪の呪文なら、邪悪な魔王の手下をこの島に入れないように結界を張ることができるはず。」

 

 ザナックのところで目にした古代の呪文書に、どこかの漫画で出てきたオリジナル呪文がしっかり記載されていたことを、ヒカルは思い出していた。遊び半分で契約の儀式を行ったところ、拍子抜けするほどあっさりとそれは完了してしまったのだ。ただし、行使するとなると膨大な魔法力(マジックパワー)を必要とするため、今のヒカルでは何かの魔法的媒介を用いて島全体に五芒星を形作るように配置し、その中心で呪文行使を行う必要があった。しかもそれなりに強い魔力を帯びた媒介でなければ、大きな結界を作り出すことはできないのだ。ヒカルの話を聞いていたキングスは、しばらく目を閉じて考えていたようだったが、ほどなくしてゆっくりと目を開き、静かに語りはじめた。

 

「この城の宝物殿にある、魔力を帯びた鉱石である魔石を使えば、媒介としては申し分ないじゃろう。本来は高度な魔法の武器なんかを作るために保管してあった物じゃが、そういうものを作る職人もいなくなって久しい。マホカトールの行使のため、使うとよい。」

 

 キングスはどこか寂しげに、天井を見つめながらそう言い、いっかくウサギを宝物殿へ向かわせた。ヒカルはキングスの態度が少し気にはなったが、詮索している場合でもないと思考を切り替える。魔石を用いれば可能であるとはいえ、あくまでも計算上の話であって、おそらく成功したとしてもヒカルのマジックパワーはほとんど空になってしまうだろう。つまり、失敗すれば敵を迎撃できる手数が減ることになり不利である。加えて、いつ襲撃が起こるのか細かいことは不明なため、できる限り迅速に準備する必要があるだろう。

 そこまで考えたとき、ヒカルたちのもとへ光り輝く美しい鉱石がいくつも運ばれてきた。どうやらこれが魔石のようだ。魔石は魔法石とも呼ばれ、例えば使うと特定の呪文の効果を発揮するアイテムなどを作るときに用いられるそうだ。ヒカルは強い魔力を内包しているものをいくつか選び、それらを道具袋にしまうと、キングスに明日の早朝から作業を開始すると告げ、仲間達と友にあてがわれた部屋で休息を取るのだった。

 

***

 

 ヒカルたちが去った後、キングスは玉座に戻り、目を閉じて瞑想にふけっていた。彼が思い浮かべるのはこの島に来てからのことだった。この島で力の弱い動物やモンスター達と過ごすようになってから、どれだけの時間が過ぎたのだろうか。それなりに長かったはずだが、一瞬のことだったような気もする。過ぎ去った時間など、思い出してみればそんなものなのかもしれない。

 

「ヒカル、か。おもしろい男じゃの。」

 

 ドラきちが助っ人として連れてきたのは人間の青年であった。一見何の力もない、戦いなどとは無縁なようにも見える。実際、それは当たっているのだが、さすがに頭の良いキングスも、ヒカルが異世界の住人だなどという現実離れした真実には、初見ではたどり着かない。それでも、ほかの人間達とは何か違う雰囲気を、わずかばかり感じ取っていたのも確かだった。

 

「どのみち、もはや儂の力ではここを守り切ることはできぬ。この城にある数々の伝説の武器防具も、それを使いこなすだけの者がおらねば、まさに宝の持ち腐れ。……あの若者に賭けてみるとするかの。」

「キングス様!! 大変でございます!」

「何事じゃ?! もう敵が攻めてきよったか?!」

「いえ……それが、アン様がお一人で、試練の洞窟へ赴かれました!」

「なんじゃと?!」

 

 敵の襲撃ではないと一瞬安堵したのもつかの間、スライムの王は激しく動揺し、その青く輝く粘体をふるわせた。

 

「あの馬鹿者め! 早まるなと申したであろうに……!」

 

 発せられた嘆きの声は、しかし思い人には届くことなく、謁見の間にむなしく消えていった。

 

to be continued




※解説
はがねの剣:原作でモーラの大王がアベルに渡したアイテムの1つ。この剣の切れ味に調子に乗ったアベルはヤナックの忠告を無視してバラモスに立ち向かうが、結果はお察し。はがねの剣で魔王を倒せたら伝説の剣はいらんのですよ。……まあゲーム的には素手で魔王に会心の一撃を連発する女の子も、いるにはいるのだが。
モーラの大王:原作で女性声だったのを、作者なりに解釈してこうなりました。あの声で大王とか、当時のスタッフは何考えてたんでしょうね。……何も考えてなかった、のか?
マホカトール:五芒星の魔法円を用い、邪悪な力を拒む結界を作り出す呪文。某有名漫画のオリジナル呪文。どうやら発動すれば永続的に維持されるようだが、一定以上の力を持つ者であれば無理矢理通ることも可能。また、おそらくだが何らかの方法で魔法円を壊すことができれば、結界は消失するものと考えられる。

さて、マホカトールは敵を退けることができるか? そして、キングスは一体何を動揺しているのか。アンって誰よ?
ということで、次回もドラクエするぜ!

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