HN社の魔獣配信サイトにようこそ   作:グランド・オブ・ミル

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episode.1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無数の星星が輝く宇宙。その一つのある惑星で一人の生命体が生まれようとしていた。

 

コポコポ……

 

とある研究室、その中心に縦に長く伸びるカプセルがあり、その中では長い金髪を持つ少女が培養液の中で眠っていた。少女は一糸纏わぬ姿__つまり全裸であり、体には生命維持のためのコードがたくさん繋がれている。少女の周りではたくさんの研究員が忙しなく走り回っている。

 

ガチャっとドアが開き、黒渕メガネをかけた天然パーマの男が研究室に入ってきた。

 

「お前達、"HOPE"の完成度はどうだ?」

 

「はい、予定と少々ズレがありますが順調です。代表の提案通りのシステムを組み込みました。細胞分裂は己の再生のみに働き、テロメアも半永久的に作用します。」

 

「ふむ、存続機能は上々か。戦闘能力は?」

 

「はい、そちらの方は予想以上の数値を叩き出しております。身体能力は予定の900%、物質無効化システムの機能は700%、魔力エネルギー変換システムの機能は800%です。」

 

「くくくっ……ふははははは!!!そうかそうか!さすが私だ!!ここまで上手くいくとはな!!」

 

研究員の報告を聞いた男はその場でふんぞり返り、高笑いをした。他の研究員もそれに釣られて笑みを浮かべる。

 

カプセルの中の少女の正体は人造最終生物兵器、通称"HOPE"だ。実はこの星では今現在進行形で戦争が勃発しており、研究員達が王城の研究室で彼女の制作を行っている。研究員達の国は敵国から劣勢を強いられており、さらに悪いことに物資や食料も底をつき絶対絶命のピンチに陥っていた。

 

そんな時、先程高笑いをした男"シキ"が提案したのが"HOPE計画"。国が誇る科学者を集め、最強無敵の生物兵器を開発し、一気に形勢をひっくり返そうというものだった。この計画には当初反対意見もあった。曰く、そんな資金はこの国には残されていない。曰く、そもそも最強の生物兵器など現実的ではない。曰く、戦争後はどう処理する?などだ。

 

だが、シキはこの星で一番の頭脳を持つ天才だった。彼は挙げられた反対意見を真っ向から叩き潰していった。資金が足りない?そんなものは他国から借金すればいい。戦争にさえ勝てばいくらでも返せる。現実的じゃない?この私を誰だと思っている。この計画書を見ろ。完璧な設計を組み立ててきた。戦争後の処理だと?分かりきったことを聞くな。戦争後も兵器として運用すればいい。こいつが実現すれば世界征服、いや、宇宙征服だって夢じゃない。

 

元々この国は独立を目的として戦争を始めた。長い間植民地支配を受けてきた敵国から独立し、自由と平和に満ちた愛の国を築こうとしてきた。だが、シキの言葉はそんな彼らの奥底に眠る人間の薄汚い欲望を引き出した。

 

俺達は何を目指していた?自由と平和?そんなもの本当に必要か?こいつを実現すれば世界を取れる。そうすれば今度は俺達が支配者だ。この星を、宇宙を、俺達が思い通りに支配できる。

 

自由と平和を夢見て戦ってきたはずの彼らはシキの計画を採用。人を傷つけ、世界を破壊し、宇宙を恐怖に陥れる"希望"という名の悪魔の制作を全力で援護するようになった。戦争でただでさえ食料不足の地域から根こそぎ食料を奪い、資材を集めるために人民を奴隷のように扱い、後先考えずにあらゆる国から多額の借金をした。

 

「代表!"HOPE"、最終調整に入ります!」

 

「ふはは!!そうか!偉大な科学者による偉大な兵器の誕生か!!よし!私も立ち会おう!!」

 

そんな人間の"希望"を詰め込んだ兵器が今生まれようとしていた。シキに報告した研究員の一人も興奮を抑えきれず声が震えている。

 

「細胞器官、異常なし!各臓器、異常なし!生命運動オールグリーン!生命維持装置解除!"HOPE"!起動します!!」

 

研究員が少女に繋がれたコードを外し、メインスイッチをオンにした。すると少女の瞼がゆっくりと開かれ、青色の美しい瞳が露になった。シキを含む研究員達はそれを見て顔を喜色に染めた。

 

それが悪夢の始まりだとも知らずに…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ………!!!」

 

少女が目覚めた瞬間、一人の女性研究員が短い悲鳴をあげて尻餅をついた。バサッと持っていた書類の束が床に落ち、女性は顔を恐怖と絶望と涙と鼻水でぐちゃぐちゃにし、失禁してしまったのか女性の周りでは水溜まりが湯気を出している。

 

ゾクゥゥ!!

 

「「「「!!?」」」」

 

一瞬、女性が何に怯えているのか分からなかった研究員達だが、すぐにそれを理解した。"HOPE"の瞳を見た瞬間、まるで蛇に睨まれた蛙のように彼らの背筋が凍りつき、体が震えだしたからだ。科学という強力な武器を手にした人間が感じることのない"天敵"への絶対的恐怖、それを研究員達は感じ取ったのだ。

 

「くくくっ…ふはは!!ふははははは!!素晴らしい!!素晴らしいぞ"HOPE"!!さすが我が兵器!!さすが我が娘!!さすが我が最高傑作!!並みの人間など睨むだけで膝まずかせるか!!」

 

研究員達の体が石のように固まるなか、只一人シキだけは狂ったように高笑いをした。"天才と狂人紙一重"、その言葉通りどこまでも傲慢なこの男は少女から感じる恐怖をはね除けてしまった。

 

シキは白衣のポケットに手をいれ、コツコツと音を立ててカプセルのメインコンピューターに向けて歩いた。彼が向かう先にはカプセルの開閉スイッチがある。彼は少女を解放する気なのだ。

 

「だ……だい……」

 

先程シキに報告していた研究員が必死に彼を止めようとする。カプセルを隔てた今でさえこれほどまでに恐ろしいのだ。あれが解放された日にはどんなことが起こるか最早想像するのも恐ろしい、いや、烏滸がましい。だが、少女への恐怖にとらわれてしまった彼はシキに声をかけることもできなかった。体が震え、汗や涙といった体液に邪魔されて思うように声が出せない。もっとも、最強の生物兵器として開発された少女はその気になれば自力でカプセルを破ることもできるのだが、それを判断する程の余裕は彼に残されていなかった。

 

ウィィ…ン。バシャァァ…。

 

シキは何の躊躇いもなく、口角を吊り上げてカプセルの開閉スイッチを押した。シキの指先が赤いスイッチに触れるとスイッチは淡く光り、ゆっくりと悪魔を閉じ込めていた檻が開いた。カプセルを内部から興味深そうにペタペタと触っていた少女は開き始めたカプセルから少し離れる。カプセルが開くと中を満たしていた培養液が研究室内にぶちまけられる。

 

ペタ……

 

「「「「!!?」」」」

 

少女の足が冷たい研究室の床についた瞬間、研究員達は一瞬金縛りから解放された。研究員達は動くようになった体を地べたを這いずり回る虫けらのように動かし、研究室の壁際まで下がった。天敵から離れようとする体の本能が彼らをそうさせたのだ。

 

そんな研究員などどこ吹く風、少女は初めて外に出た箱入り娘のように(ある意味そうなのだが)、キョロキョロと辺りを見渡している。その様子だけ見ると本当にただの少女だ。身体年齢大体10歳くらいだろうか。幼くも美しい顔と未発達の体は守ってあげたい魅力に溢れている。

 

「初めまして"HOPE"。私がお前の生みの親、シキだ。」

 

「……ホープ……親……シキ……」

 

「そうだ。くくっ…さすが我が娘、私に似て頭脳も優秀だな。」

 

そんな少女にシキは正面に立って話しかけた。それを見た研究員達は息を飲み、彼の正気を疑った。あんな化け物の正面に無防備に立つなど生物のすることではない。

 

対して、シキに話しかけられた少女は上目遣いでシキを見つめ、言われたことを繰り返している。生まれたばかりだというのに、それ相応の知能を持っているようだ。

 

「では早速王へ会いにいくとしよう。安心しろ。お前の力はあの無能な平和主義者の王とて認めざるを得ない。認めなかったとしても私がねじ伏せる。」

 

「………………」

 

シキの言葉に少女は返事を返さなかった。まさかシキの態度に少女の機嫌を損ねたか?研究員達の頭に最悪の結末が浮かぶ。

 

「……………」

 

コツコツ

 

「……………」

 

とてとて

 

やがてシキが踵を返し、歩き始めると少女はその後を無言でついていく。どうやらあの無言は肯定の意味だったらしい。シキと少女は研究室の扉を開けて出ていく。彼等が出ていった後もしばらく研究員達は動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わってここは王の間、地下の研究室から階段を登り、最上階にこの部屋は位置する。今この王の間には玉座に座る王と、歴戦の戦士が二人、そしてシキと少女がいた。少女からは絶えず恐怖が振り撒かれているが、シキは傲慢さで振り払い、戦士二人は長年の経験から学んだ方法で恐怖を押さえつけ、恐怖を誤魔化していた。今この場で恐怖に体を震わせているのは玉座の王ただ一人である。

 

「し、してシキよ。その者がかの生物兵器か?」

 

「えぇ、そうです。これが生物兵器"HOPE"です。」

 

「………………」

 

王の前だというのに少女は終始無言だ。本来なら不敬罪をとられる所だが、王は恐怖に震え、戦士二人は恐怖を押さえつけるのに精一杯であるため、誰も咎めようとはしなかった。

 

「(な、何だというのだこの震えは!!これが生物兵器……だ、だが、確かにこいつなら……)」

 

王は震えながら頭脳をフル回転させていた。人間、死に直結する恐怖を味わえば頭脳が普段からは想像もつかない程機能するらしい。王は恐怖の中で少女に欲望を見出だしていた。"HOPE計画"を提出する時シキは言っていた。こいつが実現すれば宇宙征服も夢ではないと。その言葉を信じて王は今日までシキに多大な援助を行ってきた。もちろんノーリスクというわけでなく、それ相応のリスクも背負った。国中から食料や資材、資金を根こそぎ奪ったため、形勢はさらに悪化したし、戦争中だというのに研究のために借金をしたことで、古くから寄り添って歩んできた隣国の信頼を完全に失ってしまった。

 

多くの犠牲を払って完成したのが目の前の少女だ。こいつなら確かに宇宙征服も夢ではないかもしれない。王は自分が宇宙の帝王の椅子に座る姿を想像する。王の震えに恐怖の他に興奮も加わった。

 

「う……く……」

 

そんな時、どこからかうめき声が聞こえた。出所を探ってみると戦士の一人からだった。彼は体中から汗を吹き出し、恐怖に必死に抗っている。

 

「馬鹿!抑えろ!俺達じゃ相手に……!!」

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

「馬鹿っ!!おい!!よせ!!!」

 

もう一人の戦士が抑えようとするが、彼はついに恐怖に耐えられなくなり、少女に向かって突っ込んでいく。少女は変わらず無表情で、シキはやれやれと溜め息をついてすっと少女から離れる。

 

ブゥ………ン……

 

戦士は少女に突っ込みながら右手の籠手に青白い光を溜める。

 

この星は宇宙でも上位に食い込む科学力を保有している。この星では宇宙に満ちる不思議な力(これをこの星では"魔力"と呼んでいる)をエネルギーに変換する技術が生み出され、装置を使えば誰でも利用できるようになっている。原子力のようなリスクに追われることもなく、太陽光とは違い効率的で、石油のようになくなったりもしない。理想的なエネルギーだ。そんな素敵なエネルギーだが、残念ながら人間は強力な力程戦闘に使おうとする。実際この星でも魔力に如何に戦闘に用いるかが積極的に議論され、戦士が使おうとしている籠手もその賜物だ。だが、別にそれは可笑しいことではない。力を敵との戦闘に使おうとするのは弱肉強食の世界に生きる生き物にとって当然のことだ。たまたま人間の敵が人間自身だったというだけの話だ。むしろ戦闘を遠ざけようとしている人間が異常なのである。

 

「はあぁぁぁぁっ!!!」

 

ズバッ!!!

 

戦士の掛け声と突き出した右手と共に、籠手からエネルギーの塊が放出され、少女に向かって一直線に飛んでいく。床を抉りながら突き進む光線はさながら某七つの龍の願い玉を集める戦闘アニメのようである。その光線は少女を容赦なく包み込み、消し炭にする。

 

「………………」

 

___はずだった。だが、それは叶わなかった。少女が両腕を左右に広げると同時に光線は少女に到達する。すると少女の腹部に命中した光線は少女の体に吸い込まれ、無効化される。

 

「なっ!?」

 

驚きの声をあげたのは王だった。歴戦の戦士の良質な籠手から放たれた光線だ。あれほど華奢な体つきの少女なら間違いなく骨も残らず消えてなくなるはずだ。なのに、少女は平然と無表情でそこに存在している。何か道具を使ったのか?いや、少女は今一糸纏わぬ姿だ。道具などどこにも所持していない。では、身体的能力だけで?いやそれこそあり得ない。何の道具も使わずに魔力を消してしまう生き物などいてたまるか。

 

これが生物兵器……!王は震えが強まったことを自覚した。

 

「あぁぁぁ!!!このっ!!死ねっ!!死ねっ!!消えろぉぉぉ!!!」

 

ズバッ!!!ズバッ!!!ズバッ!!!

 

半狂乱になった戦士は尚もエネルギーを撃ち続けた。しかし、何度やっても結果は同じ。エネルギーは少女の体に吸い込まれ、何の役割も果たさない。

 

「ちくしょおぉぉぉぉぉ!!!」

 

戦士は連続使用でオーバーヒートを起こした籠手を捨て、腰にぶら下げた剣を抜いて少女に斬りかかった。戦士は空高く飛び上がり、剣を頭上に構えて少女を斬ろうとする。

 

ブンッ!!

 

「………はっ?」

 

剣を降り下ろした戦士は間の抜けた声をあげる。自分は確かに少女を斬った。だが、手応えがまったくない。目の前の少女は確かに斬ったはずなのに傷口はどこにもなく、その姿は調子の悪いアナログテレビの映像のようにどこかブレている。

 

ザンッ!

 

「……れ?」

 

やがて目の前の少女はフッと目の前から消えた。それと同時に戦士は自分の視界が徐々にズレていくのに気づいた。そして程なくして戦士の首がボトッと地面に落ち、体は膝をついて前のめりに倒れる。薄れ行く意識の中で戦士が最後に目にしたのは自分に迫る少女の足だった。

 

 

戦士をいとも容易く葬った少女は戦士の落ちた首を足で踏みつける。王はその姿を見て恐怖を越えた何かを抱いた。少女がやったことには何の小細工もない。だだ人間には到底とらえることができない超スピードで動いただけだ。あまりのスピードに戦士の目には残像が残っていたのだ。実際少女は、自分の残像を前に剣を構える間抜けな戦士を後ろで無表情で眺めていた。

 

王はこれだけでも疲れる程に驚いた。だが、本当の恐怖・驚愕はこれからだった。

 

「……………」

 

首から血を流して倒れる戦士。その姿を少女はじっと見つめている。やがてとてとてと戦士の死体に歩みより、何を思ったのか戦士の死体を___

 

ガブリ……ぐちゅ……ぐちゅ……

 

食べ始めた。口の周りを真っ赤に染めて戦士の生肉を貪る少女の顔には少しばかり喜色が浮かんでいるようだ。まるでおやつを頬張る少女のように。

 

「うっ……おえぇ………」

 

「な、なんと………」

 

その姿にもう一人の戦士は胃の中のものをぶちまけ、王は自身の威厳のために胃から込み上げる酸っぱいものを根性で押さえつけた。只一人、シキだけは笑みを浮かべ、頷きながらその様子を眺める。

 

「………ぷっ……ケホケホ…」

 

その場の空気が凍りつく中、食事を終えた少女は口からぷっと丸い何かを二つ吐き出した。それは戦士の眼球だった。戦士の肉体を骨まで完食した少女だが、眼球は口に合わなかったようだ。

 

「それで、王よ。」

 

シキは少女のもとに再び戻り、王へ声をかける。

 

「どうでしょう、"HOPE"は。力は今しがた愚か者を葬った通りです。これで我が国の勝利は確実でしょう。」

 

「あ、ああ………そう、だな。早速……、戦場に派遣しよう。」

 

シキの言葉に王はそう返すことしかできなかった。今王を支配しているのは興奮と恐怖を越えた何かとシキの案を採用してしまった過去の自分への後悔だった。

 

「了解、早速一番近い戦地へ向かわせましょう。いくぞ"HOPE"。……………"HOPE"?」

 

「………………」

 

シキの呼び掛けに少女は応じなかった。少女は自分の拳をじっと見つめ、シュッシュッとその場で数発拳を突き出した。やがて何を思ったのかとてとてと城の壁へと歩いた。そして壁際に到着するとスッと無駄の少ない動きで拳を振りかぶり____

 

ドゴォォンッ!!!

 

壁を破壊した。少女に殴られた壁はまるで大砲にでも撃たれたかのように大穴が開いた。それを見たその場の全員が驚きの表情を浮かべ、声も出ない。シキでさえその状態だ。

 

少女は再び拳をじっと見つめる。その表情は相変わらずの無表情だ。そして少女は城の最上階から何の躊躇いもなく飛び降りた。

 

悪夢はまだ始まったばかり………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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