インフィニット・ストラトス -Supernova- 作:朝市 央
「しかし一夏、お前勝算はあるのか?」
「うっ、一週間くらいあれば基礎くらいはマスターできるだろうし、そんなに難しいもんでもないだろ。入試の時一発で動かせたし、なんとかなるだろ……」
「……まあ、いいか。一夏、ここは何が何でも勝って男の意地ってやつを見せつけてやろうぜ?」
「おお!がんばろうぜ!」
やはり一夏も俺と同じでほとんどISを起動させていない。
一方、代表候補生であるセシリアとはISの稼働時間が違いすぎる。
その差を一週間で埋めるのは中々厳しい物がありそうだ。
さらに、俺に至ってはISの起動どころかISの開発をしなければならないのだから。
(シオン、これから一週間は宇宙船開発はストップしてISの開発に集中してくれ。俺一人では来週までには間に合わん)
(わかりました。どこから着手しましょう?)
(現状できているのは基本システムとアーマー部分と脚部スラスターだけだ。おまけに動作テストが一切済んでいない。シオンは俺が考えている武装を一つ開発してくれ。一番構造がシンプルなアレなら一週間で作れるだろう)
(了解しました。他の武装は打鉄とラファール・リヴァイヴのものを使用しますか?)
(それしかないな。残りの武装はまだ設計すらできていない)
幸いにも新星重工はラファール・リヴァイヴを2機と打鉄を1機保有していたので、装備はそれなりに所持していた。
また、ちなみにIS開発はシオンが建造した宇宙船内で行っている。
宇宙船は食糧自給システムを除けば9割がた完成しており、春休みの最中にIS開発用のドックを宇宙船内に設置したばかりだ。
なぜ宇宙船内でISの開発を始めたかというと、セキュリティ性の高さが魅力的だからだ。
宇宙空間でほとんどスタンドアロン状態で作っているISなど、情報の漏れようがない。
問題となっていたのは宇宙船と俺との間でも物資のやり取りだ。
しかしこれはシオンにISコアを融合した結果、ISコアを用いた物資の量子化により、宇宙にいるシオンと俺の首にネックレスとしてぶら下げているシオン間でやり取りが可能になったため、無事解決している。
おまけに新星重工買収によって新たに得たISコア二つもシオンに融合したため、シオンは合計ISコア三つ分のエネルギー増加を行っている。
そのため、シオンの作業効率は現状とんでもなく高いのだ。
もっとも、ISコア一つ分のエネルギーは俺がISを起動するのにこれから使用するわけだが。
(シオン、俺は放課後になったら早速機体の動作テストを行ってくる。例の武装、開発は任せたぜ)
(あの程度の武装でしたら三日もあれば完成すると思われます。お任せください)
三時間目、四時間目の時間もほとんどシオンとの会話で過ぎていき、やがて昼休みの時間が訪れていた。
◇
午前中の授業も終わり、お腹をすかせた学生達はこぞって学食へと移動するが、その日は普段とは様子が違った。
織斑一夏と千道紫電、IS学園が設立されて以来初めての男子生徒である。
皆が注目するのも当たり前であり、ランチタイムは数少ないフリーな時間帯だ。
一夏と共に訪れた食堂では、是非とも姿を見たいと女子たちが押し寄せていたのである。
「しかしすごい混み具合だな。見たか紫電?列に並ぶとき、まるでモーゼの海割りだったぞ」
「それだけ注目されてるってわけだ。一夏、クラス代表戦では無様な負け方はできないぜ。俺は放課後アリーナに行く予定だが、一夏はどうするんだ?」
「俺?俺はもう帰るよ。参考書読まないといけないし、まだ寮も決まってないし……ってそういえば紫電も寮の部屋決まってないんだろ?」
「いや、俺は入学前から個室をもらっているが、一夏は個室じゃないのか?」
「個室ってまじかよ。俺もちょっと山田先生に確認して来る!」
そういうと一夏は教室の方へと戻っていった。
俺に個室が与えられたのってひょっとして親父の影響か?
そんなことを考えながら一夏の後を追うように教室へと歩いて行った。
◇
結局、この日は一日中ISについての講義だけだった。
そんな中、体力の有り余っている俺は早速アリーナを借り、ISの機動訓練へと繰り出していた。
(アーマーセッティング良し。PIC、ハイパーセンサー共に異常なし、起動するぞ!)
通常、放課後のアリーナは予約が一杯で中々確保することができないが、入学式初日ということもあり、運良く一時間分アリーナを予約することができた。
広大な空間へ向けて一人、勢いよくピットから飛び出す。
ISはまだ着色すら済んでおらず、銀色の金属色のみに染まったチープな機体だった。
(くっ、やはり早いな。この間の練習機より速度が出るように調整はしていたが、まだ最適化されていないからか?)
(紫電、まだスラスターの出力限界には遠いですよ。それしきのことで音を上げてもらっては困ります)
(音なんてあげてねーよ、こっから本気だ!)
スラスターの出力を一気にあげて全速力でアリーナを周回する。
(ぐっ、やっぱり慣性が強え、体が振り回される……ッ!)
それでも諦めず、何度も何度もアリーナ内で全速力飛行シャトルランを繰り返していると、シオンが語りかけてくる。
(お見事です、紫電。一次移行が終了しました。これよりデータを転送します)
キィィィンと、金属的な音と共に頭の中に急激な速度でデータが流れ込んでくる。
俺の体を包むISが光出し、粒子化して再度ボディアーマーを形成しだした。
(これが一次移行……設計通りのISになったのか……?)
(その通りです、紫電。このISは最早あなたの専用機です。今なら速度に振り回されることはないでしょう。試してみてください)
シオンの言葉に頷くと、再度スラスターの出力を全開にして加速する。
――世界がクリアに見える。
真っ先に出た感想はそれだった。
最適化される前までは速すぎる機体に慣れず、流れていく景色を目で追うのがやっとだったうえに、体も完成に振り回されていた。
だが最適化した今は全然違う。
――加速、停止、急加速、急停止。
重力に振り回されることなく、周囲がはっきりと視認できる。
空中で加速しながら自身の体を見回す。
最適化のおかげか、胸部、腕部、脚部のアーマー部分は綺麗な流線型を描き、極力空気抵抗を減らす形に変化している。
ただ、脚部のスラスターは完成しているものの、背部カスタム・ウイング部分のスラスターは依然システムが未完成であったため、外見こそできあがったものの機能としては使えないままだった。
(これがISの力なのか……)
俺はISのあまりの機動力の高さに内心震えていた。
機体コンセプトとしてはカスタム・ウイングがメインの空中制御を担い、あくまで脚部のスラスターは補助として使うことが目的だったのだ。
それが補助として使うだけの脚部スラスターのみで想定以上の速度を叩きだしている。
カスタム・ウイングが完成したらどれほどの機動力を得られるのだろうか?
俺は空中で静止すると、思考の渦に飲み込まれていった。
◇
(今日の訓練は大きな成果が得られた。これだけ動ければクラス対抗戦での機動に問題はないだろう。カスタム・ウイングの実装は後回しにして武装の開発を急ぐぞ。いつも通り俺はソフトウェアを開発するから、シオンはハードウェアを頼むぞ?)
(問題ありません、既に資材は調達済みです。加工にもそれほど時間はかからないでしょう)
シオンと話しながら寮へと戻る。
日はとっくに沈んでいたが、門限まではまだ余裕があるうちに自室に入ることができた。
俺の部屋は元倉庫だった場所をリフォームした場所のため、そこそこの広さがあり快適だった。
おまけにユニットバスまで設置したおかげで浴槽に浸かることもでき、わざわざ遠いトイレにまで通う必要もない。
ちなみにリフォーム業者はシオンと俺である。
(よし、シオン。武装の開発が完了するまでの間、ISに装着する武装を決めておこう)
(そうですね。といっても現状手元にある武装は打鉄とラファール・リヴァイヴの基本装備くらいしかありませんので、紫電の戦い方に合わせた装備の組み合わせを考えるべきでしょう)
(そうだな。まず使える武装は打鉄のものが近接用ブレード「葵」一本と、アサルトライフル「焔備」が2セットか。ラファール・リヴァイヴのほうは近接用ブレード「ブレッド・スライサー」、アサルトライフル「ヴェント」、連装ショットガン「レイン・オブ・サタディ」、スナイパーライフル「ワールウインド」、それとグレネードがいくつか、か。ただ、ISコアを融合したせいで俺の
(エネルギー量にも注意しましょう。私が持つエネルギーまでISにまわすと、最大で通常の4倍ものエネルギーをISに転用することが可能です。ですがそれではルール上の不正行為と変わりありません。今のうちにISに使用できるエネルギーと拡張領域を制限しておきます)
(ああ、それでいい。その状態での拡張領域はっと……それでも結構大きいな)
(ISコアによって拡張領域にも差がありますので、これくらいは許容範囲内でしょう)
(そうか、ならいい。さて装備だが――)
こうして自身のISへの装備を考える内に夜は更けていった。