インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

11 / 75
■クラス代表決定戦(2)

(結局一晩だけでは武装はまとまらなかったか……)

 

時は入学式翌日の朝8時。

俺は一年生寮の食堂にて和食セットを頼むと一夏の座る席へと近づいていった。

 

「よう、一夏おはよう。それにそっちの子もおはよう」

「ああ、紫電おはよう」

「……おはよう」

 

一夏の隣の席に座ってわかったが、どうやら二人の間には微妙な雰囲気が流れている。

特に、黒髪ポニーテールの子は不機嫌らしい。

 

「なあ一夏、そっちの子はお前の知り合いなのか?昨日から随分仲良さそうだったが」

「ああ、こいつは俺の幼馴染で、篠ノ之箒っていうんだ」

「へえ、新しく入った学校に知り合いがいるっていうのは羨ましいぜ。俺は千道紫電だ、よろしく頼むぜ、篠ノ之」

「すまないが、苗字で呼ばないでくれ」

「ん、そうか?じゃあ箒、よろしくな。俺のことも紫電で構わないぜ」

「ああ。……私は先に行くぞ」

 

そう言うと、さっさと食事を済ませた箒は席を立って行った。

 

「随分冷たいんだな、お前の幼馴染は」

「いや、普段はあそこまで冷たくないんだけど、その、なんていうか……」

 

一夏の方から何かやらかした、といったところか。

女性は何かとデリケートなところがあるからな、無神経っぽい一夏が箒の逆鱗にでも触れたか?

 

「いつまで食べている!食事は迅速に効率良く取れ!遅刻したらグラウンド十周させるぞ!」

 

織斑先生の大声が食堂内に響き渡る。

 

「おっと、さっさと食って行こう」

「あ、ああ」

 

一夏の方はメンタル的には特に問題無さそうだが、クラス代表決定戦のほうは大丈夫なのだろうか……。

 

 

今日の授業も昨日に引き続き、IS関連の授業が目白押しだった。

最前列の席で一夏は苦戦しているようだが、俺にとってこの講義は既に無意味なものでしかない。

なので再びISの武装について詳細なデータを確認しなおす。

 

(近接用ブレードである「葵」と「ブレッド・スライサー」はあまり差が無いな……せめてブレッド・スライサーが両刃だったら差別化できたんだが。仕方ない、ブレードを使う際は少しでも使い慣れた「葵」のほうを使うとしよう。問題は銃器のほうか……)

(アサルトライフル、ショットガン、スナイパーライフル、いずれも使用用途は異なります。それぞれの特性は把握できていますか?)

(ああ、わかっている。ただ使い方を理解しているのと実際に使えるかはまた別問題だ)

 

それに残念なことに来週までアリーナの予約はいっぱいで確保できなかった。

武装をぶっつけ本番で試すしかないのが惜しい。

 

「ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話――つ、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします。それによって相互的に理解し、より性能を引き出せることになるわけです。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」

 

山田先生が教科書の中で俺が唯一気にしていた部分を解説する。

 

(ISにも意識に似たようなものがある、か。シオン、どう思う?)

(……私と似たようなものでしょうか。ただ、私たちの持つISコアからはあまりそのようなものは見受けられませんでしたが)

(……ISコアを融合したことか、あるいは篠ノ之博士への情報送信仕様を解除したことか、何かしらがISコアへ影響を与えてしまったかもしれないな。だが操縦時間に比例してISが操縦者側の特性を理解する、ということ自体は昨日の一次移行が証明してくれている。これからもっとISの稼働時間は増やしていくべきだな)

(ええ、それが正しいと考えます)

 

キーンコーンカーンコーン――

 

「あっ、えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね」

 

山田先生の授業は確かにわかりやすいが、すでにわかりきったことを復唱されるだけで意味がないのがもったいない。

 

「一夏、ところで専用機は持っているのか?」

「いや、持ってない」

「いいや、織斑。お前にも専用機はある。学園で専用機を用意するそうだが、まだ完成していないだけだ」

 

織斑先生曰く、一夏にも専用機が用意されるらしい。

学校側で用意してくれるとは羨ましい限りだ。

俺はISコア一つ手に入れるのにスパイ紛いのことまでしたというのに。

 

「え、まじで!?」

「本来ならIS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」

「な、なんとなく……」

 

もし一夏に専用機を与えないのだとしたら、俺は専用機を与えようとしなかった組織を罵倒していたかもしれない。

希少な男性パイロットのデータを収集しないなんて研究者、開発者として失格だ。

 

「それと千道は専用機は持ってきているな?新星重工からISコアの提供を受けていると連絡が来ているぞ」

「ええ、持っていますよ。ただまだ未完成なので簡単に動くくらいしかできませんが」

「……ISの開発も一人で行っているらしいが、来週のクラス対抗戦には間に合うのか?」

「ええ、問題ありません。間に合わせて見せますよ」

「それならいい。ISが動かず不戦敗ということは認めんぞ」

「それは絶対にありえません。期限に間に合わない、というのは企業云々ではなく人として認められるものではありません」

「ふっ、ならいい。さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」

「は、はいっ!」

 

 

無事授業も終わった放課後。

俺は教室に残りクラス代表決定戦の戦い方について考察していた。

 

(セシリア・オルコットの機体『ブルー・ティアーズ』は第3世代型、中距離射撃型の機体です。その特徴はなんといっても機体名と同じ名前の自立機動兵器「ブルー・ティアーズ」でしょう。遠隔無線誘導型の兵器で、こちらの死角からのオールレンジ攻撃が脅威となります。装備数も6基あり、対策が必須と思われます。主力武装であるレーザーライフル「スターライトmkⅢ」も十分な威力を誇り、これらをいかに回避できるかが鍵と考えます)

(ああ、それだけ情報があれば十分だ。それなら既存のものだけでも十分対策できる)

 

「あら、あなたまだ残っていましたの?どれだけ頑張ってもわたくしに勝てるとは思えませんが?」

「……オルコットか。ああ、今まさに対『ブルー・ティアーズ』用の戦術を練っていたところだ」

「わたくしの専用機のことは調べたようですわね。それでも稼働時間という差はどうあがいても埋められませんわよ?」

「それはどうかな?先に言っておくけど、俺の機体は完成には程遠い状態で挑むことになる。おまけに武装はほとんど『打鉄』と『ラファール・リヴァイヴ』のものを使うことになる。それに負けたら恥だと思わないか?」

「あらあら、未完成の挙句武装も訓練機のものしか無いだなんて、そんな貧相な機体でわたくしに勝てる、と?」

「ああ、勝つぜ。来週の月曜日、お前は俺の革命を喰らうことになるんだからよ?」

「っ!革命など起こりえませんわ、勝者はわたくしですから!」

 

そういうとオルコットは教室を出ていった。

 

(紫電、本気で革命を起こす気なのですか?)

(ああ、一般人からの手痛い革命劇を貴族サマってやつに見せつけてやるさ)

 

俺は自分で言ったことは全て実現させてきた。

革命、楽しみにしてろよ?オルコット――

 

 

そして翌週の月曜、クラス代表決定戦の日が訪れた。

 

(紫電、例の武装、既に完成していますが対セシリア・オルコットには使用しないのですか?)

(ああ、オルコットへの対策は既存の武装だけで十分だ。新武装についてはまだ情報の無い一夏のISへの秘密兵器にしたい)

(わかりました。ご武運を)

 

やがて第三アリーナにて織斑先生の声が響き渡る。

 

「先週言った通り、今日はクラス代表決定戦を行う。戦闘方式は総当たり戦だ。戦う順番は織斑のISがまだ届いていないので織斑は後回しだ。初戦はオルコットと千道に行ってもらう。また、2戦目については稼働時間の長さを考慮し、オルコットに連戦してもらう。よってオルコットと織斑の戦いとする。最後は織斑と千道の試合になる、以上だ。初戦の二人はさっさと準備しろ」

 

第三アリーナのピットを出ようとした矢先、俺はモニターに表示された山田先生に呼び止められていた。

 

「あの、千道君のIS名がまだ登録されていないので、今のうちにIS名を登録してくださいね」

「IS名……?ああ、そうだ登録するの忘れてた」

 

大丈夫ですよ山田先生、名前はもうとっくに決まっていますって。

そう言うと俺は空間キーボードでIS名を登録する。

 

人類はずっと昔から宇宙への憧れを追い続けてきた、そしてそれは俺も同じ。

先人たちは宇宙へ向かう船に対し、様々な名前を付けてきた。

例えば挑戦者(チャレンジャー)発見(ディスカバリー)努力(エンデバー)……。いずれも宇宙という広大で、強大な空間に向けた意味をその船たちに名付けてきた。

だからここは、先人たちに倣って機体に名前を付けさせてもらうぜ。

俺も宇宙に対しては誰にも負けない、確固たる不屈の信念がある。

だからこそ機体名は――

 

「……山田先生、機体名を登録したんでもう行きます」

「わかりました。がんばってくださいね」

 

――不屈の信念(フォーティチュード)試作型(プロト)、出撃する!

 

モニターが消えるのを確認すると、まだ着色すらされていない銀色の機体はスラスターを吹かしてアリーナの方へと飛んで行った。

 

 

アリーナの中央付近にはオルコットが既に待っていた。

鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』をその身に纏って。

 

「そんな貧相な機体で逃げずによくここまで来たものですわね。どうせあなたの言う革命とやらは起こりえませんわよ?」

「いいや、革命は起きるさ。勝負は実際にやってみないと分からないもんだぜ?」

「二人とも準備は良いようだな。互いに距離をとれ、試合を始めるぞ」

 

織斑先生に言われた通り、オルコットから距離を取る。

その距離およそ20メートルといったところか。オルコットに有利な距離だな。

 

「それでは、試合開始!」

 

織斑先生の号令とともに試合開始のブザーが鳴り響く。

準備はできているか、オルコット?ここから俺の革命の始まりだぜッ!

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。