インフィニット・ストラトス -Supernova- 作:朝市 央
「さっそくですが決着をつけて差し上げますわ!さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」
早速オルコットは俺目掛けて射撃を繰り出してくる。
そんな中俺はオルコットが撃ち出してきた弾丸を見定めていた。
――なんだ、これは。遅い、遅すぎる。
俺とオルコットの距離はおよそ20メートル。
ブルー・ティアーズのスターライトmkⅢからしてみれば十分な射程距離内であった。
それにしてはおかしい、こちらに向かって飛んでくる弾丸が俺にはすごく遅く見えた。
ほんの少し半身を捻って一発目の射撃を回避。
二発目の射撃は左に半歩ほどずれるだけで回避。
三発目は元の位置に戻るだけで回避。
俺はスラスターを起動するどころか、ほんの少し体を動かすだけで全ての射撃を回避することに成功していた。
「……っ!?なかなかやるようですわね!それならこれはどうですの!?」
ブルー・ティアーズから四基の自立機動兵器が飛来してくる。
なるほど、そいつが機体名にもなったビット兵器、ブルー・ティアーズか。
だがそいつの対策ならとっくに考えてあるんだぜ!
俺はスラスターを吹かし、勢いよくオルコットからの距離を取ると、地に足を付けてアリーナの壁にもたれかかる。
「距離をとったところで無駄ですわ、もはやあなたは袋のネズミ。ブルー・ティアーズから逃げることはできませんわ!」
「……本当に逃げたと思うのなら攻撃して来いよ。袋のネズミなんだろう?」
四基のブルー・ティアーズが俺の死角目がけてレーザーを放とうとする。
そうだ、それを待っていたんだぜ――
(ブルー・ティアーズは死角から射撃するもんなんだろう?だが俺の後ろは壁、足元には地面がある。ほんの少し下を向けば、そうすれば俺の死角は当然……上しかないよなッ!)
俺は足元を向いたまま連装ショットガン「レイン・オブ・サタディ」を構えると上空のビットへ銃口を向け、引き金を引いた。
バキンッと音がしてビットが一つ砕け散る。
続いてもう片方の手でスナイパーライフル「ワールウインド」を構えると、スコープも覗かずに引き金を引く。
再びバキンッと音がして二つ目のビットが砕け散った。
◇
「織斑先生、すごいですよ!初見のブルー・ティアーズを相手にいきなり善戦しています!」
「壁を背に付け、地面に足を付けることで自身の死角をむりやり消し、ビットの攻撃方向を制限したか。そして下を向いてしまえば、ビットは上方向からの射撃が死角と思い込む、か。策士の戦い方だな」
「ですが下を向いたままどうやってビット兵器を破壊できたのでしょうか?ショットガンとスナイパーライフルの射撃はいずれも正確にビットを撃ち抜いていましたよ?」
「……それについては私もわからん。ハイパーセンサーを使っても、後方全体までは見えないはずだが、何か仕込んでいたのかもしれんな」
(……入学試験の時から既に高い実力を持っていると思っていたが、やはりそのとおりか)
織斑千冬は改めて目の前のモニターに映し出される男に注目し直した。
◇
ブルー・ティアーズのビットが二つ、続けざまに破壊された。
おまけにハイパーセンサーで視認した男は再度残りのビットに照準を合わせている。
(っ!まずいですわ、残り二基のビットまで破壊されるわけには……!)
セシリアがビットの距離を操ろうとした瞬間、体が後方へと吹き飛ばされる。
(きゃあっ!シールドエネルギーが!……今いったい何が!?)
再びハイパーセンサーで対象を視認しなおすと、スナイパーライフルの銃口がこちらを向いていた。
(まさか、狙撃されましたの!?先ほどビットに狙いをつけていたのはフェイントというわけですの!?)
対象との距離は戦闘開始時から少し開いており、約30メートルとなっていた。
初心者が浮遊しているISを狙撃するにはかなり高難易度なレベルである。
セシリアは相手がほとんどISを起動させていない初心者だと思って油断していたのだった。
(くっ……先ほどのビットの破壊といい、少しはできるようですわね、千道紫電!)
セシリアは戦闘前の紫電との会話を思い出していた。
――革命は起きるさ。
「革命など、あってたまるものですか!」
◇
オルコットはスターライトmkⅢを構えると、再度俺に照準を合わせてきた。
しかし、最初の銃撃を見たときから感じていたこの弾丸の遅さはなんなんだ。
「遅い、遅すぎる……。これじゃハエが止まるぜッ!」
連射されるスターライトmkⅢの銃弾を回避しつつ、全速力で距離を詰める。
30メートル離れていた距離は一気に縮まり、ついには近接武器での攻撃すら可能な距離まで近づいた。
「なっ、なんて速さですの!?もうこんなに近くに……!」
「……いくぞオルコット!ここからが本番だッ!」
ブルー・ティアーズの機体に照準を合わせると、躊躇わず連装ショットガン「レイン・オブ・サタディ」の引き金を引く。
ドンッという激しい炸裂音と共に散弾が飛び出すと、最適な距離で放たれた弾丸はブルー・ティアーズを大きく弾き飛ばした。
「きゃああっ!」
「そこだッ!」
後方へ吹き飛んだブルー・ティアーズに向けてスナイパーライフル「ワールウインド」の照準を合わせる。
間を置かずに三連射するも途中で回避に意識が集中しだしたのか、一発は回避されてしまった。
(三発中二発命中、上々といったところか。そろそろ立て直してくる頃か?)
俺の予想通りオルコットは体制を整え直すと、スターライトmkⅢを構えてこちらを狙っていた。
「よくもやってくれましたわね!先ほどは油断しましたが、ここからはそう簡単にはいかせませんわ!」
「悪いがもう勝負はついている、こいつで終わりだッ!」
俺は大きく振りかぶり、オルコット目がけてグレネードを投擲する。
「っ、グレネードなんて喰らいませんわ!」
宣言通り、オルコットはグレネードが自身に近づく前に狙撃して破壊した。
だがそのグレネードはお前にダメージを与えるために投擲したもんじゃあないんだぜ――
「なっ、スモークグレネード……!?」
撃ちぬかれたグレネードからは大量の煙幕が溢れだす。
丁度俺とオルコットまでの距離約10メートルはあっという間に煙幕に覆われてしまった。
「くっ、煙幕とは姑息ですわね。ですが姿を隠したところで無駄ですわ!」
セシリアは冷静になって煙幕周辺の動向を伺っていた。
そして煙幕の中から飛び出してきた何かにスターライトmkⅢの銃口を向けると――
「ショットガン……?っ、しまっ――」
セシリアから次の言葉が出てくることは無く、目の前に見えたのはニヤリと笑みを浮かべる対戦相手の表情。
ブルー・ティアーズ本体が近接用ブレードによって切り裂かれたのがわかると、戦闘終了を告げるブザーが鳴り響いた。
――試合終了。勝者、千道紫電――
「おう、大丈夫か?」
「……お見事でした。煙幕から最初に飛び出たショットガンに気を取られ、その隙に反対方向から一気に距離を詰めて近接ブレードで切り裂く。踊ってもらうどころか、踊らされてしまったのはこちらのようですわね」
「ああ、うまいこといって良かったぜ。革命、ここに成れりってね」
「お、お待ちになって。最初にブルー・ティアーズのビットを狙撃したときあなたは間違いなく下の方を向きっぱなしでしたわ。それなのになぜ上空にあるビットの位置を把握できましたの?いかにハイパーセンサーが優れていようと、ビットは確かにあなたの死角をとらえていたはずです」
「……ああ、それか。それのタネはここにある」
俺はそう言うと自らの足を指さす。
「まだ塗装すら済んですらいない俺のISは銀色でピッカピカだ。脚部の金属部分に反射して映ったビットから位置を計算して狙撃したんだよ」
「……っ!?あの一瞬でそんなことを……!?」
「じゃ、俺は行くぜ。連戦で大変だと思うけど、がんばれよ」
「あぁっ、ちょっと!」
さて、男の意地ってやつを一発見せつけてやったぜ、一夏よ。
今度はお前の意地ってやつを見せつけてくれよ?
俺はオルコットを無視してピットへと下がっていった。