インフィニット・ストラトス -Supernova- 作:朝市 央
クラス代表決定戦第二戦目、織斑一夏VSセシリア・オルコットの試合は終始オルコット優勢の状況で進んだ。
中盤から一夏がビットを破壊し、一次移行も終えてさあ逆転だ、という時点で一夏の専用機『白式』のシールドエネルギーが切れ、一夏は敗北してしまった。
――試合終了。勝者、セシリア・オルコット――
「一夏、お疲れさん。惜しかったぜ」
「うぅ、あと少しだったのに……」
「おいおい、まだ俺との試合が残ってるんだから、引き摺らないでくれよ?」
「う、そうだった。大丈夫だ、次こそ勝つ!」
「おう、だが俺も負けてやるつもりはないぜ。全力でかかってこいよ」
一夏を立ち直らせると俺は反対方向のピットへと歩いて行った。
(とは言ったものの、一夏の専用機『白式』はかなり強力な機体だな)
(ブルー・ティアーズ相手に良い機動を見せていました。現状のスペックでは紫電のフォーティチュード・プロトよりも最高速度が上です。それに試合の終盤に使用したあの刀剣、どうやら単一仕様能力があるようです)
(単一仕様能力、か。自身のエネルギーを減らしていたところを見ると、その分相手に大ダメージを与える両刃の剣、ってところか?)
(詳細は分かりかねますが、十分に警戒をすべきですね)
(まあ、戦い方はもう決めてあるからあとは本番次第さ……)
さて、俺の想定通りになるか――?
◇
アリーナの中央部、俺の対面には白式を纏った一夏が立っていた。
「織斑、千道、両方とも準備はできているな」
「おう、準備バッチリだぜ!」
「ええ、問題ありません」
「それでは、試合開始!」
織斑先生の号令とともにブザーが鳴り響く。
それと同時に一夏が一直線に距離を詰めてきた。
「紫電、悪いけど一気に勝負を決めさせてもらうぜ!」
「それはこっちの台詞だぜ、一夏」
俺の両手にはアサルトライフル「焔備」が握られていた。
距離を詰めてくる一夏に対し、俺は後方へと加速して逆に距離を取る。
さらに両手に持ったアサルトライフルをフルオートモードにし、一夏目掛けて引き金を引く。
「うおっ、危ねえ!って避けきれねえっ!?」
追いかけてくる一夏に対し、両手のアサルトライフルで弾幕を張りながら引き撃ち。
俺が一夏対策として真っ先に考えたのはそれだった。
(先のオルコット戦で一夏はまったく射撃武器を使っていなかった。それに自身のシールドエネルギーを消費するような危険な刀剣。ここは遠距離からの射撃で削らせてもらうぜ、一夏)
予想通り白式の機動力はかなり高いものであり、両手で持ったアサルトライフルからの射撃も結構な頻度で回避されていた。
「どうやらブルー・ティアーズのビット攻撃を回避し続けたのはまぐれじゃないようだな」
「そりゃ、まぐれなんかじゃ――って汚いぞ紫電、さっきから!近寄れないじゃないか!」
「おいおい、早々得意な間合いなんて取らせるわけがないだろう。斬り合いはこっちのほうが不利みたいだからな」
「ぐっ……!」
そうこうしているうちに両方のアサルトライフルの弾が切れる。
フルオートで常に連射していたせいか、弾切れも想像以上に早かったようだ。
「ちっ、もう弾が切れたか」
「へへっ、耐えたぜ。もう弾は残ってないみたいだな!」
「ああ、できることなら今のでお前のシールドエネルギーを空にしたかったんだがな」
「そいつは残念だったな!」
多少のシールドエネルギーは削れたはずだが、まだまだ一夏はピンピンしている。
「弾が切れたんじゃあしょうがない。こっからはお望み通り――インファイトといこうか」
俺は空になったアサルトライフルを捨てると、近接用ブレード「葵」を取り出した。
ライフルを捨てたのを見て安心したのか、一夏はじりじりと地に足を付けて距離を詰めてくる。
剣道の癖がしみついてるのだろうか、相手の隙を窺っているようにも見える。
(……やべえ、剣道のことはさっぱりわからん。どう動いてくるんだろうな)
のんきにそんなことを考えていたら一夏はスラスターを吹かして一気に距離を詰めてきた。
「てええええい!」
「甘いッ!」
一夏の選択は上段からの振り下ろしだった。
俺はブレードを斜めにして受け流すと、反転して薙ぎ払いを返す。
「ぐあっ、接近戦も結構できるじゃないか!?」
「できないとは一言も言ってないぞ、一夏。それにお前の太刀は読みやすいぜッ!」
続けざまに突きを放つが、これは一夏に弾かれてしまう。
「よしっ、今だ!喰らえっ!」
白式の主力武装であるブレード、雪片弐型からエネルギーの刃が形成される。
(ぐっ、これは……!?)
咄嗟に身をよじってクリーンヒットは逃れたものの、フォーティチュード・プロトのシールドエネルギーは大きく減っていた。
(当たり所が悪かったのもあるが、クリーンヒットなしでこの威力……!)
「まじかよ、避けやがった。完全に当たったと思ったのに……」
「どうやら運が味方したようだ。クリーンヒットしていたら流石に危なかった……!」
(一夏のシールドエネルギーはあと少しか。俺の方はまだ余裕があるが、さっきの一撃が直撃すれば逆転負けの可能性もありうるか?)
俺と一夏は再びクロスレンジに入っていった。
互いに次の一太刀で決着をつける、という考えに変わりは無いらしい。
「これで、終わりだっ!」
「……!」
一夏が大きく振りかぶる。
隙ありッ――!
アリーナ中央部で二人が激突し、白い閃光が走る。
閃光が収まり、周囲の明るさが戻ると、そこには片膝を着いて立っている俺と、織斑一夏が倒れている光景が広がっていた。
――試合終了。勝者、千道紫電――
戦闘終了を告げるブザーが鳴り響いた後、勝者を告げるアナウンスが入る。
「っつ、今、何が……?」
「おう、一夏。やるじゃねーか。俺に切り札を使わせるなんてね」
「切り札……?」
「ああ、最後の一太刀が直撃する直前、俺はこいつをお前にぶち込んだんだ」
フォン、と音がして俺の左手甲から白いレーザーブレードが飛び出る。
「こいつはスイッチブレードって言って、ほんの一瞬だけ高威力のレーザーブレードを作り出す武装だ。一夏は俺の近接ブレード「葵」のほうばかり気にしてたからこっちのほうは全く気付かなかったようだな」
「あっ!そう言われれば最後に鍔迫り合いになるかな、って思ったら予想外の方向から突き刺されたような……」
「そう、そういうこと。こいつの開発が間に合ってよかったぜ。最初っからお前と斬り合ってたら多分俺が負けてたと思うぜ。中々やるじゃねーか」
「良く言うぜ。最初の逃げ撃ちはどう考えても汚ねえ作戦だったって!」
「あれは近づけなかったお前の方が問題なんだ。武装がその近接ブレードしかないなら何が何でも近づいて切るしかねえんだからよ?」
「うぐっ……」
図星を突かれると一夏は黙ってしまった。
「二人とも、反省会は後でしろ。何にしても今日はこれでおしまいだ。帰って休め」
織斑先生からクラス代表戦の終了が宣言される。
「ま、さっさと帰ろうぜ、一夏。流石に俺もちょっとばかし疲れた」
「あれだけ動いてちょっとかよ。俺はもうへとへとだぜ……」
「そうだ、一夏。お前のブレード、随分威力があったがあれはどんな原理なんだ?」
「ああ、あれは
「なるほど、それでシールドエネルギーに直接ダメージを受けたからあれだけダメージを受けたのか。それならあの威力も納得だ」
(なるほど、あれが単一仕様能力ってやつか。ISとパイロットの相性が最高のときに自然発生する固有の特殊能力、だったか。シオン、俺にも単一仕様能力使えないか?)
(ご心配なく。もうすでにフォーティチュード・プロトには単一仕様能力が使える兆しが見え始めています。あとは紫電の努力次第でしょう)
(へえ、そいつは楽しみだ!待ってろよ、俺の単一仕様能力。すぐにこの機体にふさわしいパイロットになって見せるからな――)
連戦で足取りの重い一夏よりも少し早く、俺は第三アリーナを後にした。