インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■2人の転校生

謎のISの乱入により、クラス対抗戦が中止となって早六月。

俺はシオンと新開発の武装の試し撃ちに来ていた。

 

(肩部レーザーキャノン「ルビー」の出来は上々だった。今回はもう一つの新武装を試すぞ)

(了解です。いつまでもスイッチブレードのみでは両手ががら空きのままですからね。今回開発したアサルトライフル「アレキサンドライト」は弾速、装弾数に優れたライフルです。フルオートモードでは弾幕を張るのに適しており、セミオートモードにすれば高精度な命中性能も兼ね備えています。また、実弾だけでなくビーム弾と撃ち分けることもできますが、その分重量があります。もっとも、それに見合った性能は確保できていますが)

(これで目標としていた武装三つが完成したか。残る武装はあと一つだな)

(一番作るのが困難な武装ですし、時間がかかってしまうのはやむをえません。ですが今月の学年別トーナメントには間に合うでしょう)

(本当にぎりぎりになってしまったか。それより早くカスタム・ウイングをなんとかしたい所だな……)

(カスタム・ウイングはやむをえません。最もデリケートな部分であると同時に性能要求が高すぎるのですよ)

(ああ、いつになったら次の開発に入れるやら……?)

 

「ねえ、聞いた?」

「聞いた聞いた!」

「え、何の話?」

「だから、織斑君と千道君の話よ」

「いい話?悪い話?」

「最上級にいい話」

「聞く!」

「まあまあ落ち着きなさい。いい?絶対これは女子にしか教えちゃダメよ?女の子だけの話なんだから。実はね、今月の学年別トーナメントで――」

「えええっ!?そ、それマジで!?」

 

聞こえていますよ、悪いんだけど。

ここはアリーナ、ISを展開している俺のハイパーセンサーなら十分聞こえる範囲だってのに気付かないのかねえ?

――そして一夏よ、また何かやらかしたな?

 

 

「諸君、おはよう」

「お、おはようございます!」

 

妙な噂を聞いた翌日でも一年一組の朝は礼儀正しい。

皆それほどまでに織斑先生のことを恐れているのだろうか。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始するから、そのつもりで挑め。訓練機ではあるが、ISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように、いいな。では山田先生、ホームルームを」

「は、はいっ!ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二名です!」

「え……」

「「「えええええっ!?」」」

 

耳がキーンとするほどクラス中が一気にざわつく。

たしかIS学園の転入は滅茶苦茶基準が厳しかったはず。

とするとやはり鈴のようにどこかの国の代表候補生か――?

そんなことを考えていたら教室のドアが開く。

 

「失礼します」

「……」

 

教室の中がしんと静まる。

片方はどうやら男……のようだ。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

「お、男……?」

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を――」

 

大人しそうな顔立ち、礼儀正しそうな振る舞いはさながら『貴公子』と呼べるような出で立ちだった。

クラスではきゃあきゃあと凄まじい歓声があがるが、俺は早速違和感を抱いていた。

 

(……骨格がどうも男性っぽくないな?肩もなで肩だし、おまけにさっきの歩き方。どうみても女性のものだ。シオン、どう思う?)

(見た目は何とも言えませんが転入できたことを考慮すると、フランスの大手ISメーカーであるデュノア社の関係者とみられます。しかしデュノアの関係者にシャルル・デュノアという人物は存在しませんでした)

(……へえ、そいつはまたきな臭いな。大方一夏か俺の情報を狙った産業スパイってところか。だがあまりにも潜入方法がお粗末すぎるな。そもそもデュノアの名前を使っているのにIS学園側がその出自を調べずに入学させるなんてありえない。絶対にIS学園はこいつが何者か知っているはずだ。だがそれにもかかわらず入学させたっていうことは……国家レベルの介入があったってとこか?)

(それで紫電はどうするつもりですか?)

(どうもこうもないさ。俺の邪魔になる存在かどうか確かめるだけだ)

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから!」

 

自己紹介が終わっていないもう片方の転校生はこっちとは逆に異端に感じた。

腰近くまで下ろした銀髪は綺麗ではあるが、整えずにただ伸ばしたというようなもの。

左目には黒い眼帯を付け、醸し出す雰囲気は軍人そのもの。

IS学園は強烈なインパクトが無いと転入できないのかね?

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではない。私のことは織斑先生と呼べ」

「了解しました。……ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「……あ、あの、以上ですか……?」

「以上だ」

 

(シオン、ラウラ・ボーデヴィッヒの情報はあるか?おそらく名前と見た目の雰囲気からしてドイツ辺りの軍関係者じゃないかと思うんだが)

(ご明察の通りです。ラウラ・ボーデヴィッヒはドイツ軍のIS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の隊長を務める正真正銘の軍人です)

(こっちは余計に転校してきた理由がわからないな。既に軍の所属ならなんで今更IS学園なんかに来る必要があるんだ?)

(先ほど織斑先生のことを教官と呼んでいました。そのことが関係あるのでは?)

(……まあこっちはあまり気にしなくてもいいか。重要なのはデュノアのほうだ)

 

「――!貴様が――」

 

ラウラはつかつかと歩くと、いきなりバシンッと一夏に平手打ちをかましていた。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!」

「いきなり何しやがる!」

「ふん……」

 

今度はすたすたと空いている席に座り、腕を組んで微動だにしなくなった。

 

(……ドイツには初対面の人間に平手打ちをかます風習ってのはないよな?)

(ありませんね。ですがやはり転校してきた理由には織斑千冬が関係しているようですね)

(十中八九そうだろうねえ)

 

「ではホームルームを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は2組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!あと織斑と千道はデュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

「君が織斑君?よろしくね」

「ああ、だが今はとにかく移動が先だ。女子が着替えはじめるから!」

 

一夏の説明と共に俺も教室を飛び出す。

 

「紹介が遅れたが、俺は千道紫電。世間じゃISを動かした第二の男って呼ばれてる。よろしくたのむぜ?三人目君」

「う、うん。よろしく」

「とりあえず男子は空いてるアリーナ更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから早めに慣れてくれ」

「う、うん……」

「ああっ!転校生発見!」

「しかも織斑君と千道君と一緒!」

「まずい、他のクラスもホームルームが終わったらしい。一夏、シャルル、走るぞ」

「了解!」

「な、なに?なんで皆騒いでるの?」

「……そりゃ世にも珍しい男性ISパイロットが転校してきたからさ。皆お前のことを見たがってるんだぜ?」

「あっ!――ああ、うん。そうだね!」

(……こいつの反応、どうもおかしい。反応が素人すぎる。わざとか?)

 

「よし、なんとか到着できたな」

「それにしても良かったな、紫電!これで男三人だぜ!」

「そうだな、二人よりは心強いな」

「ふーん……そうなの?」

「ま、何にしてもこれからよろしくな。俺は織斑一夏、一夏って呼んでくれ」

「ああ、俺のことも紫電で構わない」

「うん、わかった。よろしく、一夏、紫電。僕のこともシャルルでいいよ」

「わかった、シャルル。って時間ヤバイな!すぐに着替えちまおうぜ」

 

確かに一夏のISスーツは見ていて着辛そうだ。

俺のISスーツは黒い半袖TシャツにカーゴパンツとIS適性試験の時と変わりがない。

なぜかというと、あのボディスーツみたいなISスーツを着るのがいやだったので真っ先に自前のISスーツを自作したからだ。

それにこの服の場合、黒シャツは制服の下に着たままで良い。

ズボンをはき替えるだけで済むので着替えが楽なのである。

 

「うわ、シャルル着替えるの超早いな。なんかコツでもあんのか?」

「い、いや、別に……って一夏まだ着てないの?」

「これなんか着辛いんだよなぁ。引っかかって」

「……」

 

シャルルは顔を赤くしている。

 

(……シャルルよ、それは男のする反応ではないぞ……?)

 

「……さっさと行くぞ。遅刻したくはないんでな」

「ああっ、僕も行くよ!」

「げっ、ちょっ、まっ――」

 

もたもたしている一夏を置いて第二グラウンドへと駆け出して行く俺とシャルル。

案の定遅れた一夏は織斑先生の出席簿攻撃を喰らっていた。

ついでに鈴とセシリアも喰らっていた。大方余計なことを言ったのだろう。

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

「はい!」

「今日は戦闘を実演してもらおう。凰、オルコット、前に出ろ」

「くうっ、どうしてわたくしが……」

「一夏のせいなのになんであたしが……」

「お前ら少しはやる気を出せ。あいつにいいところを見せられるぞ?」

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」

 

……単純な二人だな。

 

「それで、相手はどちらに?わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」

「ふふん。それなら返り討ちよ」

「慌てるな馬鹿ども。対戦相手は山田先生だ」

「「ええっ!?」」

「ええ、お二人とも、よろしくお願いしますね」

 

そういうと山田先生はラファール・リヴァイヴを展開し始めた。

 

「山田先生は元代表候補生だ。実力に関しては申し分ない」

「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし……」

「さて小娘ども、いつまで呆けている。さっさとはじめるぞ」

「え、あの、二対一で……?」

「いや、流石にそれは……」

「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」

 

今の一言でセシリアと鈴にスイッチが入ったようだ。

先ほどより遥かに闘志を感じる。

 

「では、はじめ!」

 

 

勝負はあっという間だった。

 

「まさかこのわたくしが……」

「あんた、何回回避先読まれてんのよ……」

「鈴さんこそ!無駄に衝撃砲を撃ちすぎですわ!」

「それはこっちの台詞よ!あんたエネルギー切れるの早すぎでしょ!」

 

専用機持ち二人の株価がストップ安である。

……ところで山田先生はなんであの動きを俺との試合の時にしてくれなかったのかねえ。

 

「これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように。さて、専用機持ちの織斑、千道、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰はグループリーダーとなって操縦方法を指導しろ。いいな?では分かれろ」

 

案の定俺、一夏、シャルルの傍にばかり人が集まってくる。

そろそろ男性パイロットも珍しいものと感じなくなってきたんじゃないか、なあ?

 

「織斑君、一緒にがんばろう!」

「デュノア君の操縦技術、見たいなあ」

「千道君、どうやったらあなたみたいに操縦できるのか教えて!」

「……この馬鹿どもが。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ!順番はさっき言った通りだ!」

 

織斑先生の一声のおかげでわらわらと男子に群がっていた女子たちは数分で各専用機持ちグループに分かれていた。

 

「やった!千道君だ!」

「千道君、よろしくね!」

「ああ、よろしく。だが俺のグループでは一切手加減するつもりは無いから覚悟しろよ?」

「……え?」

「各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやってもらうので設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かすところまでやってくださいね!」

「……なるほど、では俺の班ではISを装着して走れるようになるまでやるぞッ!」

「千道君、眼がマジだ!?」

「とんでもない班に入っちゃったかも!?」

「……お、お手柔らかに……」

 

 

「よし、いい調子だ。皆やればできるじゃないか!余計な時間を極限まで削ったおかげでなんとか全員ISを装着して走れるところまでいけたな。これならブリュンヒルデも夢ではないぞ、みんな」

「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」

「……!」

「……っ!」

 

皆声にならない声を上げている。

まだ序の口だというのに、これしきで音をあげて貰っては困るのだがな……。

 

「おーい、紫電、シャルル、着替えに行こうぜー。俺たちはまたアリーナの更衣室まで行かないといけないしよ」

「え、ええっと……僕はちょっと機体の微調整をしてからいくから、先に行って着替えててよ。時間かかるかもしれないから、待ってなくていいからね」

「いや、別に待ってても平気だぞ?待つのには慣れ――」

「いいから、いいから!」

「……ほら、一夏、シャルルもいいと言っているんだし、さっさと行こう」

「お、おう。わかった」

 

シャルルよ、それでは自分が男ではないと露骨に晒しているようにしか見えないぞ……。

 

 

「よし、整備も無事終了だ。今日やったことは全て頭の中に叩き込んだな?忘れた、なんて言うやつは論外だ、俺の班から消えてもらうかもしれんからそのつもりでな」

「あ、ありがとうございました……!」

「お、鬼だ……鬼がいるっ……!」

「絶対復習しないと……!」

 

午後の授業も俺たちの班は絶好調だった。

他の班よりも圧倒的に早く、そして深い所まで教えることができた。

着いてこれないやつ?そんなやつはいない、いいね?

 

「そろそろ他の班も終わった頃か。おーい一夏」

「ん、どうした紫電?」

「お前確か今一人部屋だったよな?ってことはお前の部屋にシャルルが入るんじゃないかなと思ってね」

「ああ、そう言われればそうだな。おーい、シャルル。お前の部屋何処になるか聞いてる?」

「え?ええっと、一夏と同じ部屋になるって聞いてるけど?」

「そうか、良かったな一夏。二人部屋に一人だけってのは寂しかっただろ?」

「そうだな。確かにあの広い部屋で一人ってのはなぁ。これからよろしくな、シャルル」

「うん、よろしくね、一夏」

「そうだ、シャルル。お前の専用機ってどんな機体なんだ?同じ専用機持ちとして気になってたんだ」

「僕の専用機はラファール・リヴァイヴを自分用にカスタムしたものだよ。だからあんまりラファール・リヴァイヴとは変わりないかなあ」

「ほう。ところで知っているかもしれないけど、俺は自分でISを開発しているんだ。よければシャルルのカスタムしたラファール・リヴァイヴを見せてもらえないだろうか。参考にしたいんだ」

「うん、それくらいならいいよ。いつがいい?」

「今日の放課後に第四アリーナを予約しているから、そこのピットで集合しよう。ついでに実戦訓練もできるとありがたいんだが、ISの機動は大丈夫か?」

「うん、それも大丈夫。じゃあ片付けが終わったら行くよ」

「ああ、第四アリーナは第三アリーナのすぐ隣だ。じゃ、先に行って待ってるぜ」

「俺もついて行っていいか?紫電」

「一夏……第三アリーナで箒やセシリアがお前のこと待っているんだろ?そっち行ってやれよ。大丈夫、実戦訓練が終わったら俺たちも第三アリーナの方へ向かうから」

「うっ、そうだった。じゃシャルル、迷わないようにな」

「心配しなくても大丈夫だよ、一夏」

 

ああ、一夏は心配しなくても大丈夫だ。

ただしシャルル、お前がこの俺にとって害となる存在なのか、見極めさせてもらうぜ?

 

 


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