インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■銀と紅(1)

合宿二日目。

今日は朝から夜まで丸一日ISの各種装備試験運用とデータ採取に追われる日だ。

特に専用機持ちは大量の装備が待っているのだから大変らしい。

ちなみに俺のISは当然管理者も俺なので、大量の装備が待っているということもない。

俺が試験するのはようやく完成したカスタム・ウイングともう一つの追加武装であるライフルぐらいなものだ。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

現在地はIS試験専用のビーチであり、四方を切り立った崖に囲まれている。

これならセキュリティ性も十分だろう。

 

「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

「はい」

「お前には今日から専用――」

「ちーちゃーーーん!!」

 

砂埃を挙げながら凄まじい速度で走ってくるその人は間違いなく篠ノ之束博士だった。

 

「……束」

「やあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!さあ、ハグハグしよう!――ぶへっ」

「うるさいぞ束」

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」

 

織斑先生のアイアンクローから抜け出した篠ノ之博士は今度は箒の方へと振り返る。

 

「やあ!久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」

 

ガツンと大きな音を出すほど勢いよく箒が篠ノ之博士を殴りつける。

 

「殴りますよ」

「な、殴ってから言ったぁ……。ひどい、箒ちゃんひどい!」

「え、えっと、この合宿では関係者以外――」

「んん?珍妙奇天烈なことを言うね。ISの関係者というなら、一番はこの私をおいて他にいないよ」

「えっ、あっ、はいっ、そ、そうですね……」

 

山田先生、見事に言いくるめられてますよ。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒達が困っている」

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり!」

「はぁ……。もう少しまともにできんのかお前は。そら一年、手が止まっているぞ。こいつのことは無視してテストを続けろ」

「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

「うるさい、黙れ」

 

俺はこの時違和感を抱いていた。

山田先生が言いくるめられたのは置いておくとして、織斑先生はなぜ篠ノ之博士に自己紹介をさせた?

確かにIS開発の第一人者であることは間違いないが、IS学園の関係者ではないだろう。

織斑先生が篠ノ之博士と旧知の仲であるということは明白だが、こんなに堂々とさせていて良いのだろうか?

 

「それで、頼んでおいたものは……?」

「うっふっふ。それは既に準備済みだよ箒ちゃん。さあ、大空をご覧あれ!」

 

俺たちだけでなく他の生徒達も空を見上げると、間もなく金属の塊が砂浜に落下してきた。

 

「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

金属の塊がパカッと開くと、その中身は赤い装甲のISだった。

それにしても全スペックが現行ISを上回る、か。

……中々興味深いことを言うじゃないか篠ノ之博士。

 

「さあ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか!私が補佐するからすぐに終わるよん」

「……それでは、頼みます」

「堅いよー。実の姉妹なんだし、もっとキャッチーな呼び方で――」

「はやく、はじめましょう」

「んー。まあ、そうだね。じゃあはじめようか。箒ちゃんのデータはある程度先行していれてあるから、あとは最新データに更新するだけだねっと!」

 

空中投影型のディスプレイをずらっと並べると、篠ノ之博士は慣れた手つきでデータを入力していった。

 

「近接戦闘を基礎に万能型に調整してあるから、すぐに馴染むと思うよ。あとは自動支援装備もつけておいたからね!お姉ちゃんが!」

「それはどうも」

 

俺は手を止めて篠ノ之姉妹のほうを見ていた。

なんというか見た目はどことなく似ているのだが性格がまったく似ていない、というのが感想だった。

俺としては二人を足して割ったくらいがちょうどいいんじゃないかと思う。

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの……?身内ってだけで?」

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

ふと生徒たちの中からそんな意見が漏れた。

いや、逆だろ?

なんで身内であるはずの箒が専用機を持っていないんだ、と俺は心の底から言いたい。

 

「おやおや、歴史の勉強をしたことがないのかな?有史以来、世界が平等であったことなど一度も無いよ」

 

篠ノ之博士から指摘を受けた生徒達はきまずそうに作業に戻っていった。

 

「あとは自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」

「え、あ、はい」

 

束博士は一夏が白式を出すなり装甲に次々とコードを刺していく。

 

「……んー、不思議なフラグメントマップを構築してるね。なんだろ?見たことないパターン。いっくんが男の子だからかな?」

「あの、束さん、そのことなんだけどなんで俺はISを使えるんですか?」

「ん?んー……どうしてだろうね。私にもさっぱりだよ。ナノ単位まで分解すればわかる気がするんだけど、していい?」

「いい訳ないでしょ……」

「あはは、そう言うと思ったよん。まあ、そもそもISって自己進化するように作ったし、こういうこともあるよ。あっはっは」

「あ、あのっ!篠ノ之束博士のご高名はかねがね承っておりますっ。もしよければ私のISを見ていただけないでしょうか!?」

 

驚いたことに篠ノ之博士に声をかけたのはセシリアだった。

中々勇気のあることをするがそれは……ちょっと無謀じゃないかな。

 

「はあ?誰だよ君は。金髪は私の知り合いにいないんだよ。そもそも今は箒ちゃんとちーちゃんといっくんと数年ぶりの再会なんだよ。そういうシーンなんだよ。どういう了見で君はしゃしゃり出てくるのか理解不能だよ。っていうか誰だよ君は」

「え、あの……」

「うるさいなあ。あっちいきなよ」

「う……」

 

流石のセシリアもしょんぼりとして戻っていった。

予想通りである。

今まで集めた情報をまとめると、篠ノ之束博士は人格的に問題があり、コミュニケーション能力に激しく難を抱えている。

そしてそれはおそらく実の妹である箒と旧知の仲である織斑姉弟だけにしか開かれていないのだろう。

だから第三者がコンタクトを取ろうとするのは非常に困難。

それが俺が出していた推測だった。

 

「あの、こっちはまだ終わらないのですか?」

「んー、もう終わるよー。んじゃ試運転も兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

「ええ。それでは試してみます」

 

紅椿に連結されたコード類が外れていくと、次の瞬間にはものすごい速度で飛翔していた。

 

(なるほど、中々早い。たしかに現行ISのスペックを上回ると宣言しただけのことはある。だが――)

 

ハイパーセンサーを使って箒の方を見てみると二本の刀を振るって武器の動作を確認しているようだった。

 

「そいじゃこれ撃ち落としてみてね、ほーいっと」

 

篠ノ之博士は十六連装ミサイルポッドを呼び出すと、次の瞬間に一斉射撃を行った。

 

「――やれる!この紅椿なら!」

 

一回転するように刀を振るうと、十六発のミサイルを全て撃墜したようだった。

 

「すげえ……」

 

爆炎が収まっていく中、全員がその圧倒的なスペックに驚愕し、その赤い機体に魅了されていた。

そんな光景を篠ノ之博士は満足そうに眺めて頷いていた。

 

(……やはり篠ノ之博士は宇宙開発目的ではなく、兵器を作ろうとしているようだな。アルフレッド・ノーベルのようにならないか、なんてのは俺の杞憂だった。篠ノ之博士はどちらかというと狂気の科学者、無自覚な死の商人のようだ)

 

視線を元に戻した俺はフォーティチュード・プロトの動作チェックへと戻ろうとした。

 

「ねえ紫電、昨日はどこ行ってたの?」

「ん?」

 

話しかけてきたのはシャルだった。

俺のすぐ隣でラファール・リヴァイヴのメンテナンスを行っていたようだったが、今は手を止めている。

 

「昨日はずっと海の底にいたぞ。フォーティチュード・プロトの耐水性チェックのためにな」

「ええっ!?昨日も動作確認なんてしてたの!?ちょっと真面目すぎるんじゃないかなぁ?折角の自由時間だったのに……」

「仕方無かったんだ。今日はカスタム・ウイングのテストをやらなきゃいけないし、耐水性のチェックは昨日しかできる時間が無かったんだからさ」

「それはそうかもしれないけどさ……。僕はたまには息抜きに遊ぶことも必要なんじゃないかな、って思うよ?」

「……それもそうだな。しいて言えば昨日もっとシャルの水着姿をこの目に焼き付けておくべきだったかな」

「み、見てたの!?僕の水着……」

「ああ、別館に戻る前にな。オレンジと黒の水着、良く似合ってたぜ」

 

シャルの顔がカーっと赤くなっていく。

男装してIS学園に入学してきたときもそうだったが、こいつは反応が分かりやすくて面白いな。

 

「さて、じゃあ今後はシャルの言うとおり適宜休憩をとるようにしよう。そのときはシャル、付き合ってくれるか?」

「つ、付き合う!?ぼ、僕で良ければいつだっていいよっ!?」

 

シャルはばたばたと手を振りながら顔を真っ赤にして肯定する。

……こいつちゃんと話聞いてたのかな。

若干不安になりながらも俺とシャルは作業に戻った。

 

 

「たっ、大変です!織斑先生っ!」

「どうした?」

「こ、これをっ!」

 

山田先生から受け渡された小型端末の画面を見て織斑先生の表情が曇る。

 

「……専用機持ちは?」

「ひ、一人欠席していますが、それ以外は」

 

なにやら先生方が小声で話をしている。

……こういうのは大体いい話じゃあないんだ。

 

「そ、それでは私は他の先生たちにも連絡してきますのでっ」

「了解した。――全員、注目!」

 

織斑先生が手を叩いて生徒全員を振り向かせる。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」

「え……?」

「中止って……?なんで?特殊任務行動って……?」

「状況が全然わかんないんだけど……」

 

周囲はざわざわと騒がしくなる。

予想通り良くないことが起きたな。

でもってこの後専用機持ちは更に不運な目に合いそうだ。

 

「とっとと戻れ!以後、許可なく室外に出た者は我々で身柄を拘束する!いいな!」

「「「はっ、はい!」」」

「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、千道、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、鳳!――それと、篠ノ之も来い」

 

……どうやら本当についてない日になりそうだ。

 

 




突然お気に入り数やらUA数やらが伸びまくって何事かと思ってたら日間ランキングに載ってました。
正直、こんな自己満足小説に期待してくれる方がいるとは思っていませんでした。
内容はともかく、デイリー更新だけは続けられるように頑張りたいと思います。


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