インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■学園祭と生徒会長と(1)

楽しかった夏休みは矢のように過ぎ去り、気付けば九月三日。

二学期最初の実戦訓練は1組と2組の合同で始まっていた。

 

「でやあああああっ!」

「遅いッ……!」

 

俺は早速鈴と対決していた。

勢いよく振り回される双天牙月を軽く回避し、スイッチブレードで斬りかかる。

 

「くっ……!ほんと速いわねっ、アンタ!」

「それが売りなんでなッ!」

 

今度は一気に距離を取り、鈴の視界から急速離脱すると、マークスマンライフル「エメラルド」の引き金を引く。

バシュッと小さな射撃音と同時に発射された弾丸は吸い込まれるように甲龍へと直撃していた。

それと間もなく、試合終了を告げるアラームが鳴り響いた。

 

――試合終了。勝者、千道紫電。

 

 

午前中の練習は終了した昼休み。

俺たち専用機持ちは食堂に集まって昼食をとっていた。

 

「あーもう!紫電にだけなんでこんなに勝てないの!?」

「それは鈴だけじゃないからあんまり気にしない方がいいと思うよ?」

 

俺に一太刀浴びせることもできずに敗れた鈴に対し、シャルがフォローに入る。

専用機持ち同士で行われた実戦訓練は大きな問題が起こることもなく終了した。

現状、1年1組と2組の専用機持ちたちの間ではその戦闘能力について明確にヒエラルキーが付けられている。

 

まず絶対的な壁を挟んで俺が頂点に立ち、ラウラが次点に立っている。

次いで機体性能の差でシャルロットが続き、好戦的な鈴が続く。

それから箒、一夏、セシリアと続くが、セシリアと一夏はとにかく相性が悪い。

パイロットの腕としてはセシリアのほうが上だが、主力装備がほとんどビーム兵器なブルー・ティアーズとビーム兵器無効の白式・雪羅では流石に勝負にならないのである。

一方、紅椿という最新鋭の機体を篠ノ之博士から貰った箒もまだその機体性能を活かしきれていないといったところであった。

 

「くっ、紅椿のスピードはどの機体よりも速いのではなかったのか、姉さん……!」

「そりゃ多分フォーティチュード・プロトよりは速かったんじゃねーかな」

「白式・雪羅でも追いつけねえんだよなあ、どうなってんだよお前の機体……」

 

そう、俺の機体であるフォーティチュードはとにかく速い。

瞬時加速を使わなくても紅椿、白式・雪羅以上のスピードが出せるのである。

さらに瞬時加速には前方方向にしか加速できないという欠点があるが、俺のフォーティチュードにそんな制限はない。

前後左右どころか上下にも自由自在に加速可能なのである。

ただし、通常の機体でこの加速を行うと人体に莫大な負荷がかかる。

これは俺の単一仕様能力である重力操作と併用しなければ非常に危険な機体なのである。

 

「ま、そのうち目が慣れれば俺に攻撃を当てることもできるだろうよ。ほら、もう昼飯の時間が終わっちまうぞ?」

「うおっ、ちょっ、待って!」

 

流石に遅刻すると困るので待たない。急げよ一夏。

俺は再度アリーナへ向けて歩いて行った。

 

結局一夏は午後の演習に遅刻し、織斑先生に怒られていた。

 

「……遅刻の言い訳は以上か?」

「いや、あの、見知らぬ女生徒が――」

「その女子の名は?」

「だ、だから初対面ですってば!」

「ほう、お前は初対面の女子との会話を優先して授業に遅れたのか」

「ち、違っ――」

 

バシンッと出席簿が一夏の頭に振り下ろされた。

ご愁傷様である。

 

 

翌日、ショートホームルームと一時間目の半分を使っての全校集会が行われた。

内容は今月中ほどにある学園祭についてである。

 

「やあみんな。おはよう」

「……!?紫電、昨日俺が言った女生徒ってあの人だよ、あの人!」

 

俺の隣で一夏が小声で話しかけてくる。

 

「今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。生徒会長よ。以後、よろしく」

 

一夏、壇上にいるのは生徒会長だってよ。

良かったな、誰と会ったのか分かってすっきりしたじゃないか。

 

「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容というのは名付けて、『各部対抗織斑一夏争奪戦』!」

 

生徒会長が扇子を開くと同時にモニターに一夏の写真が堂々と映し出される。

 

「え……」

「ええええええーーーーーっ!?」

 

ホールに大歓声が響き渡る。

 

「静粛に。学園祭では毎年部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思いましたので――織斑一夏君を一位の部活動に強制入部させましょう!」

 

再度ホール内に雄叫びが上がる。

 

「おおおおおっ!」

「素晴らしい、素晴らしいですよ会長!」

「会長!千道君はダメなんですか!?」

「今いい質問が上がりました。千道君なんですが残念なことにもう既に部活動に参加しているので強制入部させることはできませんでした。ごめんなさいね!」

「そ、そんなぁ……」

 

ちなみに俺が入っているのは園芸同好会であり、部員は俺一人である。

しっかり宇宙で作った野菜のレポートも書いており、時折活動内容の確認に来た生徒会の人にも農作物を見せては驚かれているので、同好会活動自体に問題は無い。

しかし、部活動してなきゃ俺もどっかの部活に強制入部だったのか、あぶねー。

 

「なんだ、一夏部活入ってなかったのか」

「うっ……だって女子ばかりで入りづらいじゃないか。っていうか紫電、お前が部活動してるなんて初めて聞いたぞ!?」

「ああ、園芸同好会。部員俺一人。証拠に今度俺が作った野菜食わせてやるよ」

「あ、ありがとう……って今はそんな場合じゃねえ!俺の了承とか無いぞ!?」

 

一夏が生徒会長のほうへと目を向けると生徒会長は穏やかな表情でウインクを返してきていた。

 

「ま、がんばれよ。景品君」

「景品じゃねえよ!?」

 

さーて俺も園芸同好会の物販と展示で使う用の作物を準備しないとな。

 

 

同日、放課後は特別ホームルームで盛り上がっていた。

そう、クラスごとの出し物を決めるためである。

 

「……IS男子パイロットを前面に押し出しすぎじゃねえか?これ」

 

出てくる案はホストクラブやらツイスターやら、ポッキーゲームに王様ゲームて。

 

「アホか!誰が嬉しいんだ、こんなもん!」

「私は嬉しいわね、断言する!」

「織斑一夏と千道紫電は共有財産である!」

「他のクラスからも織斑君と千道君ともっと触れ合えるものにしてくれって言われてるんだってば」

「山田先生、ダメですよね?こういうおかしな企画は……」

「え、えーと……うーん、わ、私はポッキーのなんかいいと思いますよ……?」

 

教師公認かよ、それでいいのかIS学園。

 

「メイド喫茶はどうだ。客受けはいいだろう。それに飲食店は経費の回収が行える。それに招待客の休憩所としての需要も少なからずあるはずだ」

 

意外な意見を出してきたのはラウラだった。

 

「ラウラの意見は面白いな。確かにその意見は一理あると思う。それと、こう見えて俺、料理得意なんだ。厨房を任せてもらえると嬉しいんだが」

「何っ、紫電も料理得意だったのか!?俺も料理なら自信あるぜ!」

「……いいんじゃないかな?でも紫電と一夏には厨房だけじゃなく執事もこなしてもらえればもっといいと思うんだけど」

「執事!それはいい!」

「それでいきましょう!」

「メイド服はどうする!?」

 

かくして1年1組の出し物はメイド喫茶改め「ご奉仕喫茶」に決まったのだった。

また、シャルの提案により俺と一夏は執事として接客することになってしまった。

できれば俺は厨房一本のほうが良かったんだが……まあたまには執事も悪くないか。

 

 

それは一夏が職員室の織斑先生に報告に言った後のことだった。

 

「紫電、生徒会長がお前のことを連れてきてほしいって」

 

一夏曰く、生徒会室に来てほしいとのことだった。

ふむ、生徒会長が俺に用事?

俺からは全く用事がないんだが、ここはとりあえず手土産でも持っていくとするか。

 

「「失礼します」」

 

俺と一夏は生徒会室の重厚な扉を開けた。

 

「いらっしゃい、一夏君、紫電君もわざわざありがとうね」

「わー……、おりむーだー……」

「あれ、のほほんさん?なんで?」

 

中央の来客と思われるテーブルと椅子には意外なことにクラス一の癒し系、のほほんさんの姿があった。

 

「今、お茶を入れますね」

 

そう言うのは眼鏡に三つ編みの3年生の女子だった。

この人とは以前園芸同好会で活動していたときに会ったことがある。

確か名前は布仏虚さんだったかな。

……あれ、ってことはのほほんさんのお姉さんなのか?

 

「ああ、お茶は結構。俺がお土産にジュースを持ってきましたので」

「ジュース!?わー、でんでんありがとー!」

「こら、はしたないわよ本音。気を使ってくれてありがとうございます。紫電君」

 

でんでんって俺のことか?

まあ呼び名なんて気にしないが。

 

「ささっ、お好きなものをどうぞ」

 

俺がテーブルの上に広げたのはドーム状のメロンに砲丸のような大きさの桃だった。

その名もドームメロンと砲丸ピーチ、そのままである。

 

「メロンとピーチがあるんで好きな方にこのストローを差して飲んでください」

「わー、でっかい桃!」

「うおっ、どっから出した!?ってかなんだこのメロン、見たこともねえ形してるぞ!」

「……私もいろんな名産品は見たことあるけど、こんな桃とメロンは見たことなかったわ……」

「というより、これに直接ストローを指して飲むんですか?ヤシの実ジュースみたいですね」

 

流石の生徒会長も目を丸くしている。

意表を突くことには成功したようだ。

一夏と生徒会長はメロンを、のほほんさんと虚さんはピーチをそれぞれ手に取る。

 

「うわ、なんだこれ!?滅茶苦茶甘え!」

「甘いだけじゃないわ。すっきりとしててすごく喉越しが良いわ」

「こっちの桃もすっごくいい匂いがするー」

「口に入れた瞬間の甘い匂いがたまりませんね。味もとてもおいしいです」

 

おお、中々の高評価のようだ、自信持って育てただけある。

 

「実はこれ、今度の園芸同好会の出し物にしようとしてる作物なんですよ。ジュースとして売りに出そうと思いまして」

「……これを販売で出されたら一夏君、園芸同好会に所属することになっちゃうんじゃないかしら」

「紫電、俺これ絶対買いに行くから!取り置き頼むぜ!」

「あーおりむーずるいー!私の分もー!」

「私も今度はそっちのメロンの方を味わってみたいです」

「ああ、まだいくつかあるんで置いておきますよ。結構日持ちしますけど、なるべく早めに飲んだ方が美味しいですよ」

 

テーブルの上にドームメロンと砲丸ピーチを三つずつ並べる。

 

「紫電君、ありがとう。まさか園芸同好会がここまですごいとは私も思ってなかったわ」

「いえいえ、ほぼ趣味みたいなもんなんで」

「っていけない、本題を忘れるところだったわ。あまりにもお土産がすごすぎて、ね」

「次来るときはもっとすごいもん持ってきますよ」

「期待して待ってるわ。と、先に虚、自己紹介を」

「はい、紫電君とは前に何度かあっていますが一夏君のほうは初めまして。布仏虚です。妹がお世話になってます」

「へえー、のほほんさんも姉がいるのか。ってか姉妹で生徒会ってのもなんかすごいな」

「むかーしから、更識家のお手伝いさんなんだよー。うちは、代々」

「なるほど、だから揃って生徒会なのか」

「そうよ。生徒会のメンバーは定員数になるまで好きに入れていいの。だから、私は幼馴染の二人をね。っとそろそろ本題に入らせてもらうわね?」

 

そう言うと改めて生徒会メンバー三人が俺たちと向き合う。

 

「まず最初に、一夏君が部活動に入らないことで色々と苦情が寄せられていてね。生徒会はキミをどこかに入部させないとまずいことになっちゃったのよ」

「それで学園祭の投票決戦になったんですか……」

「それで、交換条件としてこれから学園祭までの間、私が特別に鍛えてあげましょう。ISも生身もね」

「遠慮します」

「まあまあ、そう言わずに。今のキミじゃ弱すぎて見てられないのよ」

「……それなりには弱くないつもりですが」

「ううん、弱いよ。滅茶苦茶弱い。だからもう少しでもまともになるように私が鍛えてあげようというお話なの」

「……なあ紫電、俺そんなに弱いか?」

「まあまだ俺に一太刀かすらせた程度だしな……。それにセシリア以外に負け越してるじゃねーか」

「うぐっ……そう言われれば……」

「それで、一夏が呼ばれた理由はわかりましたが、俺も同じ理由ですか?」

「うーん、キミのほうは弱いとは思ってないんだけど、1年生同士の戦いだとどうもよく分からないし、生身のほうがどうかまでは情報もないから、一夏君と一緒にどんなものなのか見てみようと思ったのよ」

「なるほど、俺は構いませんよ。俺も楯無先輩の実力を見てみたいですしね」

「……それもそうか、俺も先輩の実力、見させてもらいますよ。俺が勝負で負けたら何でも言うことに従いますよ」

「うん、いいよ」

 

楯無先輩は微笑んでいた。

これは勝者の余裕ってやつか。

……だが一夏はともかく、俺の前でも同じように笑っていられるかは分からないぜ?

 

 




原作(アストロノーカ)の砲丸ピーチは希釈して飲む作物でしたが、本作では直接ストローを刺して飲めるように品種改良されてます。
ドームメロンも原作では普通のメロンですが、砲丸ピーチと同じようにジュースとして飲めるように改良しています。


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