インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■専用機限定タッグマッチ(2)

俺は着替えを早々に終わらせると、更衣室内のモニターに目を向けた。

まだ第一回戦の開始直前、といったところで依然モニターに対戦表が表示されているだけだった。

 

(開幕まであと少しか……。シードだとどうしても試合が後回しになるのがなぁ)

(紫電、シードだろうと関係なく戦いのきっかけが近づいてきているようです。正体不明のISが六機、IS学園に向かって接近中です。そのうちの一機こちらに向かってきています。お気をつけて)

(……何!?)

 

ズドオオオオンッと大きな音が響くとともに地面が大きく揺れる。

 

「うわっ、なんだ!?何が起きたんだ!?」

「……一夏、どうやらまたしてもお客さんらしい」

 

更衣室の屋根を破壊してやってきたのは見たことない形をした赤いISだった。

 

「こいつは……以前現れた無人機の発展機か!」

「ええっ!どういうことだよ!?」

「そいつは俺が知りたい……っと!」

 

無人機はこちらに容赦なく砲撃してくる。

俺は一瞬でフォーティチュードを展開すると、横っ飛びで砲撃を回避した。

 

「……一夏、お前は相棒を助けに行け」

「紫電っ!?でも……!」

「さっきの轟音と揺れは一回だけじゃなかった。おそらく他のやつらも無人機に襲われているだろう。こんな無人機、俺一人で十分だがお前の相棒はどうなんだ?一人で大丈夫なのか?」

「っ……!すまねぇ紫電、行かせてもらう!」

 

一夏は白式を展開するとピットを飛び出していった。

 

(さて……一夏も行ったことだし、緊急作戦開始だぜ、シオン)

(何をする気ですか、紫電?)

(あの無人機のISコアを強奪してお前に融合させる!)

(……!)

 

一夏を相棒の方へ向かわせたのはただ単に更識簪が心配だからという訳ではない。

ここは更衣室であり、学園内で数少ない監視カメラが設置されていない場所なのだ。

つまり――

 

(ここで何が起ころうとも、事実を知るのは俺たちだけだ。いくぜシオン、まずはISコアを露出させる!)

 

俺はアサルトライフル「アレキサンドライト」とマークスマンライフル「エメラルド」で同時射撃を行う。

 

(まずはシールドエネルギーを削らせてもらう……っと!)

 

無人機は両腕をクロスさせて必死にガードを行う。

中々やるようだがそっちのガードが崩れるか俺の弾丸が先に切れるか、我慢比べといこうじゃないか!

俺は両手のライフルの銃撃に加えて、肩部レーザーキャノン「ルビー」を発射した。

 

ズドンッという爆音と共に赤い閃光が拡散する。

無人機の両腕はボロボロになりつつも辛うじてその機能は維持できているようだった。

 

(へえ……ルビーの直撃を喰らってもまだそんなもんか。中々の耐久力だな、ならもう一発だッ!)

 

再度ルビーにエネルギーを充填すると、間髪入れずに二発目の砲撃を放った。

再び発射された赤い閃光は無人機も流石に大ダメージだったようだ。

無人機の両腕には綺麗に穴が開き、もう盾としては機能しないだろう。

 

しかし無人機はボロボロになった腕でこちらに砲撃を返してきた。

四門あった砲門は既に半分がひしゃげて使い物になっていないが、そんな状態でもお構いなしに反撃してくる辺りが無人機らしいともいえる。

俺は砲撃による反撃を冷静に回避しながら無人機を分析していた。

 

(ISコアはやはり体の中心付近にあるのか?シオン)

(ええ、ISコアのエネルギー反応を見るに胸の部分にあると思われます)

(ならまずはこの邪魔な腕をぶっ飛ばす!)

 

俺はそこが狭い更衣室内であることも忘れてしまうかのように、無人機からの砲撃を軽い動きで避ける。

やがて無人機との間合いがクロスレンジに入ると、俺はスイッチブレードを出力させ、一気に斬りかかっていった。

 

(ぐっ、硬え!スイッチブレードでも切断しきれないか……ッ!)

 

無人機はスイッチブレードをボロボロになった腕でガードしていたが、それでもまだ頑健さは残っていたようだ。

 

(……シオン、丁度誰も見てねーから反則級の切り札を一つ使うぞ!ISコアをオーバーロード!スイッチブレードの出力を1.5倍にするッ!)

 

すると途端にスイッチブレードがぐんと大きくなり、一気に無人機の片腕を切断した。

これが俺が隠し持っていた切り札の一つ、ISコア・オーバーロードだ。

通常、コアにはエネルギーの上限があり、それ以上のエネルギーを出すことはできない。

しかし、俺の場合はシオンのエネルギー統合によって複数のISコアが融合されているため、ISコア一つ分以上のエネルギーを一度に使用することができるのである。

もちろん複数のISコアを使用していることになるので、公式戦では反則扱いになるだろう。

まさに反則級の切り札なのである。

 

ただし、もちろんデメリットもある。

使用するエネルギーが増えるということはもちろん、機体や武装への負荷も大きくなるのである。

あまり大きくエネルギーを注ぎすぎれば機体が瓦解してしまうだろう。

俺の機体はかなり頑丈にできてはいるが、それでも出力2倍が限度ってところだ。

そして当然のごとく使用後には機体に入念なメンテナンスが欠かせなくなるため、使いどころが難しいのだ。

 

一方の無人機は片腕を切断されたにもかかわらず、残った腕で容赦なく反撃してくる。

 

(……スラスターの出力を1.5倍にするぞッ!)

 

今度はスラスターの出力を引き上げることでただでさえ早い機体を更に加速させる。

無人機は長い腕で薙ぎ払いを行ってきたが、既にそこに俺の姿は無かった。

一瞬で背後に回り込んだ俺は再びスイッチブレードで残った腕を切断する。

 

「……!」

 

流石の無人機も突然の攻撃には驚いたようだ。

おまけに主力である両腕を無くしてバランスを失っている。

――チャンスはここだなッ!

 

「トドメだッ!」

 

俺は勢いよくスイッチブレードを振り下ろす。

もはや回避も間に合わなかった無人機はあっさりとスイッチブレードの直撃を受けると、胸部に隠れていたISコアを露出させていた。

 

(シオン、ISコアを見つけたぞッ!)

(コアの融合準備はできています。あとは紫電がそのコアに触れればそのISコアを私の中に取り込みます)

(触ればいいんだな、わかった!)

 

俺は1.5倍の出力状態となっているスラスターを吹かし、一瞬で無人機の前へと回り込み、腕を伸ばす。

 

(触った!今だシオン!)

 

俺の指先が一瞬光ると、ダイヤモンド型をしたISコアは一瞬で消失した。

どうやらシオンがISコアの融合に成功したようだ。

ISコアがなくなると同時に、無人機の色が失われていく。

 

(……もうこいつには用は無い。ISコアは砕け散ったってことになってもらうぞッ!)

 

俺は肩部レーザーキャノン「ルビー」の出力を1.5倍にし、動かなくなった無人機目掛けて発射した。

ドカンッと無人機が襲撃してきた時と同じくらいの轟音が響き、そこには赤い閃光とバラバラに砕け散った無人機の破片だけが周囲に転がるのだった。

 

(……思わぬところでISコア・オーバーロードを実践することができたな。念のため1.5倍までの出力を試してみたが、どのパーツも無事耐えてくれたようだ)

(こちらもISコアの融合には無事成功しました。予想通りこのISコアはどの国にも登録されていないものです)

(ってことはやっぱりこの無人機を送り込んできたのはISコアを唯一作り出せる人間、篠ノ之博士ってことか。だがなぜこんなことを……?って今はそんなことを考えている場合ではないな、みんなの様子を見に行くぞ!)

 

俺はISコア・オーバーロードを解除するとスラスターを吹かしてアリーナへと飛び出すのだった。

 

 

(ちっ、プライベート・チャネルの反応がねぇ……。ジャミングでも張られてんのか?)

 

とりあえず戦力的に不安な一夏にプライベート・チャネルを開こうとしたがまったく反応は無い。

やむを得ず飛び出した先には、凄惨な光景が広がっていた。

 

アリーナはあちこちが砕け散り、無人機だったものらしき破片が瓦礫に混ざって散らばっている。

そしてその中にようやくパイロットの影を見つけた。

 

「よう、みんな。……ってひでえ怪我だな、生きてるか?」

「……紫電。ああ、なんとかな……」

「うむ、なんとか……な……」

 

一夏と箒はISも含めてボロボロである。

だがそれ以上に状態が酷いのは楯無先輩である。

 

「ふふふ、おねーさんは、不死身なのよ……」

「お、お姉ちゃん、しっかりして!」

 

楯無先輩をお姉ちゃん、と呼ぶってことはこの子が更識簪か。なるほど、確かによく似ている。

 

「……ところでなんでみんなそんなにボロボロになってる訳?」

「紫電、あの機体には絶対防御を無効化する機能が組み込まれていたみたいだ。それでみんなこんなに……。ってお前の方はなんでそんなピンピンしてるんだ……?」

「ん、絶対防御無効化だと?……一撃も喰らわなかったから気付かなかったぜ」

「なん……だと……?」

 

流石の箒も絶句している。

 

「まあなんにせよ一番不安だった一夏を見つけられてよかったぜ。楯無先輩も一緒に医務室へ運ぶぞ」

「お、俺はまだ大丈夫、一人で歩け……っ!」

「無理すんな。全身ボロボロでそんなセリフ吐いてもまったく説得力無いぞ」

「お、お姉ちゃんは、私が運びますっ……!」

「……そうか。じゃ、医務室へ行くぞ」

 

俺は一夏を背負うと、医務室へと向かって歩き出していた。

 

 

IS学園某所、地下特別区画。

そこで山田真耶は回収された無人機の解析を行っていた。

 

「少し休憩したらどうだ?」

「あ、織斑先生!見てください。やはり以前現れた無人機の発展機体で間違いありません」

「コアは?」

「例によって、未登録のものです」

「……何個回収できた?」

「……二つだけです。その他は戦闘の際に完全に破壊されています。どうしますか?」

「政府には全て破壊したと伝えろ」

「……で、ですが!」

「ISコアはどこの国でも喉から手が出るほど欲しい代物だ。余計な争いの種は生み出したくない」

「……」

「何、山田君が心配する必要はない。私を誰だと思っている?これでも元世界最強だぞ。学園の一つや二つ、守ってやるさ。命をかけても、な――」

 

 

「ふーむ……。やっとシステム稼働率があがってきたね」

 

暗闇の中、ディスプレイの明かりのみが照らす空間で篠ノ之束は一人ごちていた。

 

「それにしても、『ゴーレムⅢ』が全機破壊されちゃうとは予想外だったなぁ。それにちーちゃんも出撃してなかったし」

 

そういうと束は改めてゴーレムⅢの戦闘ログを見直す。

 

「箒ちゃんも強くなったねぇ。それは良いとして……問題はこいつかな」

 

束の目の前にあるモニターにはゴーレムⅢと相対する男、千道紫電の姿が映し出されていた。

 

「……あぁ、そっか。前から気になってた音信不通になったISコアの持ち主ってこいつだったのかぁ。それにしても妙な機体だなぁ。こんなスピードで機動してたらパイロットなんてミンチになっちゃうはずなのに……」

 

おまけにこいつの戦闘ログの最後は突然コアが消失したかのようにぷっつりと途絶えていた。

相次いで起こる想定外の事態に束は顔をしかめる。

 

「束さま」

「……!やあやあ、くーちゃん。どうしたの?」

「パンが焼けました」

「おお!……んー、うーまーいーぞー!」

「ウソです。まずいに決まっています」

 

少女が持ってきたパンは半分黒焦げだったが、束はまったく嫌な顔せずにうまいうまいと食べるのだった。

 

「あ、そうだ。くーちゃん、ちょっとお使い頼まれてくれないかなぁ?」

「何なりと。お使いというのは?」

「うん、届け物をしてほしいんだよねー。場所はIS学園、地下特別区画――」

 

そう言う篠ノ之束の表情は笑顔に変わっていた。

 

 


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