インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■デュノア社襲撃(1)

無人機がIS学園を襲撃してから翌日。襲撃者が残した爪痕は甚大だった。

一夏、箒、鈴、セシリア、シャルロット、ラウラ、簪といった俺を除いた1年生専用機持ちメンバーのISが全て深刻なダメージを背負ってしまったのだ。

それだけでなく2年生と3年生の専用機持ち二人もISに大ダメージを負ったうえ、楯無先輩はISに加えて自身の肉体にも大きなダメージを負っている。

そんな中、俺宛てに朗報とも凶報ともいえる連絡がフランスから届いたのだった。

 

「何、フランスへ行くだと?」

「ええ、デュノア社と共同開発していたシャルロット用のISが完成間近だと連絡がありました。丁度いい機会ですのでシャルロットの機体修復も兼ねてフランスに行ってきます」

 

朝のショートホームルームが始まる前、俺は事の次第を織斑先生へと報告していた。

来週までにはイグニッション・プランに向けた、シャルロットの新型専用機が完成しそうなのでぜひ来てほしいとのことだった。

 

「……よりにもよって専用機持ちが軒並み動けないこの状況で唯一まともに動ける千道が国外へ出る、か。だがデュノアの新機体の引き取りも兼ねるのであればやむをえまい。行って来い。ただし、必ず無事で返ってくることだ、いいな?」

「ええ、問題ありませんよ。では、俺はこのことをシャルにも伝えに行きますので」

 

俺は職員室を後にすると、そのまま教室へと歩いていった。

 

 

「シャル、重要な話がある。今日の授業が終わったら俺の部屋に来てくれ」

「えっ……!?」

 

俺はシャルに一言、ただそれだけ告げると自分の席へと戻っていく。

……もうすぐ織斑先生と山田先生が来る。

出席簿で殴られるのだけはごめんだからな……。

 

一方のシャルロットは困惑していた。

 

(重要な話って何!?しかも紫電の部屋に呼ぶってことは他の人には聞かれたくないってことだよね!?ひょっとして、ひょっとしてだけど、告白なのかな!?)

 

シャルロットの脳内では桃色の妄想が浮かび上がっていた。

そんな舞い上がった状態がバレバレだったのであろう、その頭には織斑先生の出席簿攻撃が直撃していた。

 

 

「よく来たなシャル……ところで今日は何回織斑先生の出席簿攻撃を受けたんだ?真面目なお前が珍しいな」

「う……4回かな……。流石に今日は頭が痛いよ」

 

そう言うシャルは若干涙目である。

 

「まあ、重要な話とは他でもない、シャルのISのことについてだ」

「……えっ?」

 

(告白……じゃないよね、やっぱり。そうだよね……)

 

シャルは少し落胆しているように見える。なぜだ?

 

「デュノア社長から直接連絡があった。イグニッション・プランに向けたシャル用の第3世代型ISがもうすぐ完成だそうだ。だから直接フランスに行き、ISを受け取りに行く」

「え!?もうできるの!?」

「イグニッション・プランへの参加表明は年内までだ。今完成ってことにしないとトライアルに間に合わない。だからむしろギリギリってとこにもほどがあるんだよな……。もちろん稼働テストも未実施だから、現地でなんとか稼働実験を繰り返すしかないぞ」

「で、でも僕のISコアはしばらく休憩が必要だって山田先生に言われちゃったよ?」

「それはフランスに着くまでの飛行機の中で俺が修理してやる。即座にテストできる程度までは直せるだろう」

「……紫電、ISコアの修理もできるの?本当、万能だね……」

「勉強すれば誰でもできるさ。さて、早速だけど出発の準備をしてもらいたい」

「え?いつ出発なの」

「明日の早朝だ。今から準備しないと間に合わないぜ」

「……本当に急だね。でもわかったよ。久々の帰国に新しいISだなんて、楽しみだなあ」

「俺もフランスには一度しか行ったことないんでな。迷った時は案内を頼むぜ?」

「うん!任せてよ!」

 

そう言うとシャルは俺の部屋を出ていった。

 

「さて……幸い飛行機のチケットもビジネスクラスが二つ取れた。目的地のパリ=シャルル・ド・ゴール空港までは約13時間もかかるのか。エコノミーじゃ行く気にはなれないよなあ……」

 

ぶつくさ言いながら俺も旅行の準備を始めるのだった。

 

 

パリ=シャルル・ド・ゴール空港についたのは昼を過ぎたあたりだった。

俺とシャルは背を伸ばして体をほぐす。

 

「流石にビジネスクラスだけあって中々の快適さだったが、やはり狭い空間に長時間いると体が固くなるな」

「う、うん。でも紫電、ビジネスクラスって結構高いんじゃないの?僕も一緒で良かったの?」

「シャルだけエコノミークラスとか、そんな鬼畜じゃないぞ俺は。それにこれはれっきとした仕事で来てるんだからビジネスクラスが適切だろう。……あぁ、仕事っていうよりデートって言った方がいいか?」

「でっ、デート!?」

「シャルと二人っきりでのフランス旅行ってのも悪くねえな。時間が余ったらどこか観光にでも行こうか。俺幼少期に一回パリには来たことあるんだけど、ルーヴル美術館くらいしか記憶に無いんだよなー」

「う、うん!どこでも行くよ!どこでも案内するよ!だから絶対にどこか行こうね!約束だよ!」

「そ、そうか?ならさっさと用事を済ませないとな……」

 

シャルはえらく上機嫌なようだ。

地元に戻ってきてご機嫌なのもあるだろうが、そんなにデートという言葉に反応してくれるとはね。

こちらも言ってみたかいがあるというものだ。

 

「ムッシュ・センドウ、よくパリまで来てくれましたね。シャルロットも元気そうで良かった」

「お久しぶりです、デュノア社長。わざわざお出迎えありがとうございます」

「いやいや、礼には及びませんよ。ムッシュ・センドウのおかげでイグニッション・プランに間に合いそうなんですから。ところで到着して早々にすまないんですが、早速本社まで来てもらっていいですかな?」

「ええ、わかりました。シャルも問題ないよな?」

「うん。大丈夫だよ」

「では早速こちらへ。車を待たせているので、それで本社まで移動しましょう」

 

空港を出た先に停まっていたのはリムジンだった。

流石にデュノア社の社長ともなればリムジンを用意することくらいは容易いのだろう。

……おお、流石リムジン、初めて乗ったが結構広いなあ。

 

「デュノア社長。詳細を聞いていませんでしたが、シャルの第3世代型ISの完成度としてはどれくらいなんですか?」

「ムッシュ・センドウに送ってもらった設計書に書かれていたパーツは全て揃えたところですよ。残りは組み立てですが、それもほぼ完了しています。おそらく我々が本社に到着する頃にはISも完成しているでしょう」

「本当ですか!よかったな、シャル。到着したら早速新しいISを動作させてみようぜ!」

「うん!」

「……ムッシュ・センドウのおかげでシャルロットは本当に明るくなりましたね。あらためて礼を言わせてもらいたい。ありがとう」

「いやいや、まだ気が早いですよ。これから新しいISを起動させてイグニッション・プランのトライアルにノミネートされなきゃいけないんですから。ようやくスタートラインに立った、というところですよ」

「いやはや、本当に手厳しい。そういうところが日本とフランスの違いなんでしょうなあ。わが社の人材はいかんせん時間にルーズ過ぎて困ったものです」

「ハハハ、俺はシャルにもっと休めとこの前怒られたばかりですよ。どっちもどっちでしょう!」

「も、もう!」

 

デュノア社本社に到着するまで、車内は終始和やかなムードのままだった。

 

 

「さあ着きました。ここが我がデュノア社の本社です」

 

リムジンを降りると、目の前にあったのはかなりの高さを誇るビルと広大な敷地に広がる大規模な工場だった。

 

「こちらの本館ではISのソフトウェアを中心に開発しています。ハードウェアは向こうの工場で。今最新機は向こうの工場の方に準備してあるので、早速行きましょう」

「ついに最新機とご対面か。楽しみだな、シャル」

「……うん、ついに僕にも第3世代型ISが来たんだね……」

 

俺たちは三人並んで工場までの道を歩く。

シャルは感慨深そうに周囲の施設を眺めていた。

 

「これがムッシュ・センドウの設計に基づいて開発された第3世代型IS『稲妻(エクレール)』です」

 

目の前のISはオレンジ色のカラーリングながらも、強く輝いているように見えた。

 

「なるほど、ついにできましたか。渾身の傑作でもあるカスタム・ウイングも見事に形にしてくれたようですね」

「ええ、この機体で一番苦戦したのはやはりカスタム・ウイング部分でした。何せ今まで見たことの無い仕様でしたからね」

「その分、機体性能は素晴らしいものに仕上がってますよ。早速装着できますかね?」

「ええ、もちろん。さ、シャルロット。『エクレール』はお前のために作ったんだ。早速装着してみせてくれ」

「うん、わかった。……ありがとうね、ラファール・リヴァイヴ……」

 

シャルロットは名残惜しそうにISコアにセットしている武装、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを解除すると、ISコアに『エクレール』のセッティングを始めた。

 

――新たな武装『エクレール』の装着を完了。一次移行を開始します。

 

「よし、順調だな。後は調整――」

 

そう言いかけた俺にパシュッ、と微かな音が耳に入る。

今のは……サプレッサー付きのハンドガンの発射音か……!?

 

「シャル、デュノア社長を連れて本社内に避難しろ!侵入者だッ!」

「えぇ!?わ、わかった!いくよ、お父さん!」

 

そういうとエクレールを装着したシャルはデュノア社長を抱えると工場外へと飛び出していった。

工場内に赤いランプが点灯し、警報が鳴り響く。

 

――緊急事態発生、作業員は直ちに工場内を脱出し避難すること。繰り返す、作業員は――

 

俺はフォーティチュードを展開し、ハイパーセンサーで周囲を確認すると警備員が倒れているのが確認できた。

おそらく、先ほどの銃声はこの警備員を撃ったものだろう。

だとすると相当近い!

いつの間にテロリストがデュノア社の工場内まで入り込んだんだ!?

 

「あらあら、まさかもう気付かれちゃうとはね。流石、オータムやエムがやられただけのことはあるわ」

「……なッ!?その機体は――!?」

 

振り返った先には見知らぬ白いISが一機佇んでいる。

そう、その機体はまだ俺も正式には見たことが無いが知識だけはあった。

その機体の名は『モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)』という。

楯無先輩のIS『ミステリアス・レイディ』の基礎となったロシアの機体だった。

 

 




ワールド・パージのほうは紫電たちが海外遠征してる間に一夏たちがなんとかしてくれたようです。


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