インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■京都へ

俺が国際IS委員会の会議に出てから翌日、IS学園では全校集会が行われていた。

壇上では楯無先輩がマイクに向かって話しかけている。

 

「それでは、これより秋の修学旅行の説明をさせていただきます。今回、様々な騒動により延期となっていた修学旅行ですが、またしても第三者による介入がないとは言い切れません。というわけで、生徒会からの選抜メンバーによる、京都修学旅行への下見をお願いするわね。メンバーは専用機持ち全員、そして引率には織斑先生と山田先生。以上です」

 

楯無先輩の発表に対し、周囲のからはいいなあ、私も行きたいなどの声が上がっていた。

 

(修学旅行の下見か。だが楯無先輩の口ぶりからすると、既に第三者の介入があることは予測済みのようだな)

(気楽に旅行するのは厳しそうですね)

(第三者の介入があるってわかってるだけまだましさ。しかし京都か。できることなら歴史ある街並みを戦火に巻き込みたくはないな……)

 

「おお、京都か。やはり日本古都といえば京都だな!」

「わあ、初めての京都かぁ。楽しみだね、ラウラ!」

「うむ!」

 

シャルとラウラは初の京都のようで旅行を楽しみにしているようだ。

一方、既に何度も京都に行ったことのある鈴はぶつくさとぼやいていたが。

 

(さて、この下見旅行、果たして何が起こるやら――)

 

俺の心の中では既に不安が渦巻いていた。

 

 

「では、本当の目的を話します」

 

楯無先輩の招集命令に従い、専用機持ち全員は生徒会室に集まっていた。

そこには1年生以外の専用機持ち、2年のフォルテ・サファイアと3年のダリル・ケイシーの姿もある。

 

「今回は本国でのIS修復を終えたフォルテとダリルも参加する全戦力投入作戦となるわ」

 

全戦力投入作戦、という言葉を聞いて専用機持ちたちがざわつく。

やはりただの修学旅行の下見ではなかったか。

大方そんなことだろうと思っていたよ。

 

「あー、やっぱりやるんスかぁ、『亡国機業』掃討作戦……だるいなぁ」

「あら、あなたにはもう情報が入っていたのかしら?」

「ええ、本国(ギリシャ)のほうからちらっと耳にしてたっス」

 

そう言ったのは2年のギリシャ代表候補生、フォルテ・サファイアだった。

どうもマイペースな性格なようで、今も気だるげにソファーにもたれかかっている。

 

「いよいよってわけか、生徒会長。んまァ、オレの専用機『ヘル・ハウンド』もバージョン2.8にアップデートされたしなー。そんな予感はしてたわ」

 

3年生唯一の専用機持ち、ダリル・ケイシーは自信満々といった感じで壁に背を預けている。

 

(……なるほど、今まで会ったこと無かったからどんな人物なのかわからなかったが、先輩2人の性格はなんとなくわかった。まあ、あまり深く期待はしないほうが良さそうだな)

 

「というわけで、みんなには嘘偽りなく国際的テロ組織への攻撃をおこなってもらうわ。私は情報収集担当になるからあんまり戦闘には加われないと思うけど、みんなはISを抑えてちょうだい。それでは各自、出撃に備えて。解散!」

 

ピシャリと楯無先輩の扇子が閉じられる。

さーて、本当に迷惑なことになったな。

いくら専用機持ちが多いからってテロリストへの対応までやらされるとは思ってなかったぜ。

……仕方ない、研鑽の一つとして割り切るか。

それにあのグストーイ・トゥマン・モスクヴェのパイロット、イリーナ・シェフテルのような凄腕のパイロットと巡り合えるかもしれないしな。

 

俺たちは生徒会室を後にすると、各自準備へと奔走するのであった。

 

 

「間もなく京都、京都です――」

 

東京駅から新幹線に乗り、気付けばもう京都についていた。

各自準備を済ませぞろぞろと車内から降りると、京都駅名物の長い階段が姿をあらわしていた。

 

「お、ここで集合写真を撮ったらすごい良さそうだな」

「そうだな。記念に一枚撮っておくとしよう」

「えっ、いいんですか?織斑先生」

「ああ、すまないが山田君、シャッターを押してくれるか?」

 

織斑先生は一夏から古びたアナログカメラ取り上げると、山田先生へと手渡した。

 

「あっ、シャッターなら俺が」

「こらこら、アンタが映らなくてどうすんのよ!じゃ、山田先生よろしく!」

 

そう言うのは鈴である。

確かにカメラの持ち主は一夏だが一夏は今回の作戦の要でもあるからなあ。

 

「じゃあ撮りますよー。3、2、1」

 

カシャッとシャッター音が鳴る。

しかしこのようなアナログカメラを持ちだすとは。

一夏の趣味は写真だったのか、初めて知ったぜ。

 

「さて、それじゃあ気合い入れていきますか!」

「あ、いいわよ。今は京都を漫遊してて」

「え?」

 

意気込む一夏に対し、楯無先輩は落ち着いている。

 

「実は情報提供者を待ってるんだけど、どうも昨日から連絡がとれなくなってね。仕方ないから私が捜そうと思うの。京都にはいるはずだから、向こうから接触してくるはずよ。だ・か・ら、京都漫遊、行ってきなさい?お姉さんに任せておけば大丈夫だから」

「は、はぁ……」

「撮りたい写真、あるんでしょ?」

「それは、まあ」

「一夏!何やってんのよ!ほら、一緒に回るわよ!」

「ずるいぞ、鈴。一夏は私と回るのだ!」

「お待ちになって!元々はわたくしと回る予定だったことをお忘れなく」

「いや、そこはあえて私だろう。嫁の面倒を見るのは私だ」

 

なんだか騒がしくなってきたので俺は一人、こっそりと目的の場所へ向かおうとする。

 

「あっ、紫電、待って!」

「……!」

 

俺を呼びとめたのはシャルだった。

 

「ね、ねぇ、僕京都初めてなんだけど……一緒に回ってくれない?」

 

シャルはやや下方向からこちらを覗きこんでくる。ぶっちゃけあざとい。

できることならシャルを巻き込みたくなかったが、こうなったらやむを得ないか。

 

「紫電、さっきから怖い顔してる。どうせまた重要な何かをしようとしてるんでしょ?わかってるんだからね!」

「……お見通しか。わかった、だが余り時間の余裕はない。近くのカフェにでも入るとしようか」

「やった!紫電ありがとう!」

 

そういうとシャルは手を差し出してくる。

……繋げってか。度々思うけどシャルは結構勇気あるんだよなあ。

俺はシャルと手を繋ぐと、目的地のすぐそばにあるカフェに向かって歩いて行った。

 

「ところでなんで眼鏡なんてかけてるの?紫電って視力悪かったの?」

「いや、視力は悪くないよ。こいつは眼鏡型のディスプレイだ。更識簪がかけているのと似たようなもんさ。今回の任務のために用意しておいたんだ」

「ふーん……」

 

実はこの眼鏡型のディスプレイ、シオンのISコア探知能力を使用して専用機持ち全員の位置情報をリアルタイムで監視できる機能が搭載されている。

狙いはもちろん、何かあった時にすぐにでも専用機持ちの傍へ駆けつけられるようにするためである。

今のところは誰もおかしな動きはしておらず、特に問題は無いようだ。

 

「さてシャル。駅からすぐそばで悪いが、着いたぜ。ここが京都で最も高さのある建物、京都タワーだ」

「へえ!おっきいねー!」

「高さは約130メートル、木造であまり高さの無い建物が多い京都の中では一際目立つだろう?ここの地下にカフェがあるから、そこに行こう」

「うん!」

 

手を繋いだ先のシャルはとても嬉しそうだ。

思わず俺も笑顔になるが、心の中では相変わらず不安が渦巻いていた。

なにも起こらなければいいのだが……。

 

 

「紫電が言ってたカフェってここ?」

「いや、ここはただのクレープ屋だ。先にここで和風なクレープをご馳走しようと思ってね。すいません、抹茶黒蜜きなこバニラのクレープを二つください」

「まっちゃくろみつきなこ……?」

 

クレープはフランス発祥のお菓子だが、フランスと日本とで食べられ方がだいぶ違う。

フランスのクレープは以前シャルたちに食べさせたクレープ・シュゼットのように生地に果物とフルーツソースをかけたものを指す。

それに比べて日本のクレープは生地に生クリームや果物を挟んだ形式のものがほとんどである。

まさに抹茶、黒蜜、きなこ、バニラをそれぞれ挟んだこのクレープのように。

 

「そう、これが日本を代表する食べ物を挟んだクレープだ。さ、バニラアイスが溶ける前にどうぞ」

「う、うん……。こ、これはなんておいしいんだろう……!?」

 

シャルの目が輝く。

バニラアイス自体は世界中に広まっているものではあるが、そこに抹茶、黒蜜、きなこをかけるのは日本しかない。

それらは一見バラバラの食材のように見えるが、混ぜることで絶妙なハーモニーを奏でるのだ。

抹茶の苦みと黒蜜、きなこ、バニラアイスの甘みがうまく調和したそれはそこそこの大きさがあったにもかかわらず、あっという間に食べられてしまうのであった。

 

「うーん、おいしかった!日本のクレープって食べやすくておいしいよねぇ!」

「ああ、それにこの味は京都じゃないと味わえない代物だ。来てよかったな」

「うん、でもまだこれからカフェに行くんだよね?何を頼むつもりなの?」

「京都といえばお茶だ。だからちょっと変わった茶を頂こうと思ってね……ああ、ここだ」

 

クレープ屋からほんの少しだけ歩いた場所にそのカフェはあった。

茶色と緑色に彩られた和風なその店はいかにも京都、といったような雰囲気を醸し出していた。

 

「シャンゼリゼ通りのカフェも洒落てたが、京都も中々捨てたもんじゃないだろう?」

「うん、和風ってこういうのを言うんだよね。わびさびっていうものを楽しむんだってラウラが言ってたよ」

「ほう、ラウラがねぇ。そういえばあいつは茶道部所属だったか。ま、ここでは茶道部では楽しめない茶を頼むつもりなんだがね。すいません、抹茶ラテを二つください」

「抹茶ラテ?ただの抹茶じゃないの?」

「ただの抹茶だと苦くて飲めないやつがたまにいるからな。まずはこの抹茶ラテで慣れてみるといいと思ったんだ。といってもここで使ってる抹茶は本場京都のものだ。抹茶を飲んだと自慢しても問題ないぞ」

「なるほど、流石紫電だね。実は僕、抹茶を飲むのって初めてなんだ」

「ならなおのことこの抹茶ラテから始めた方がいいな。ほら」

 

俺はできたての抹茶ラテをシャルに手渡す。

 

「……うーん、これは飲みやすいね。抹茶ってこんな味なんだぁ……」

「……あぁ、甘すぎず苦すぎず、ちょうどいい味だ。やはりこの味はIS学園でも飲めるようにしたい……そうか!今度は茶を栽培すればいいのか……!」

「紫電、まさか園芸同好会でお茶を栽培するつもりなの!?」

「開発作業には甘いものが必要だ。だがいつも同じような甘いものでは飽きてしまうだろう?そこでこの抹茶ラテのような一味違ったものを用意する必要があるんだ。この前デュノア社に資源を売ったし、その金で茶葉の栽培研究をするか」

「えええええ!?ISの研究開発費用じゃないの!?」

「シャル、これはISの開発に必要なものだ。だから研究費として使っても問題ない」

「……うち、新星重工と提携して大丈夫だったのかな……?」

「大丈夫大丈夫、こうして余裕見せてる内が一番安全なんだから。さあ、次は展望台へ行くぞ」

 

俺はシャルの手を再び取ると、展望台へと続くエレベーターの下へ歩いていくのだった。

 

 


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