インフィニット・ストラトス -Supernova- 作:朝市 央
俺が白騎士を倒し、一夏を旅館まで運んでから早数刻。
一夏は包帯でぐるぐる巻きにして寝かせてからまだ起きていない。
「すいません、織斑先生。一夏と篠ノ之博士の相手で手一杯だったせいで、亡国機業の連中には逃げられてしまいました」
「そのことならお前が気にすることではない。
「……ところで織斑先生。亡国機業の一人が使用していたISを篠ノ之博士は黒騎士と呼んでいましたが、あれは篠ノ之博士が開発したものなのでしょうか?それと、一夏のISが白騎士になったことと何か関係があるのでしょうか?」
「……黒騎士、か。あいにくだがあいつの考えは私でも読めん。一夏が白騎士になった原因もさっぱり不明だ。一夏の目が覚めたら一度開発元の倉持技研にコアを見てもらうしかないだろう」
「……そうですか」
俺は織斑先生の部屋を出て自分に割り当てられた部屋へと戻る。
(織斑先生はおそらく嘘をついていない。本当に黒騎士と白騎士については何も知らないようだな。……だがあの黒騎士を開発したのは間違いなく篠ノ之博士だ。あんな強力な機体を作れるのは篠ノ之博士しかいない。しかしなぜ篠ノ之博士は亡国機業に協力するようなことをしたんだ?あの織斑先生にそっくりなパイロットと何か関係があるのか?)
(あの亡国機業のパイロットは織斑マドカと名乗っていました。ただし紫電も予想できていると思いますが、織斑家にマドカという人物は戸籍上存在しません)
(だろうな。それにあの風貌……織斑先生に似すぎていると思わないか?まるでクローンみたいだった)
(織斑マドカが織斑千冬のクローン、ですか。確かに織斑千冬は
(……いや、だめだな。情報が少なすぎてどんなに思考を重ねても推測の域を出ない。これ以上の思考は時間の無駄だ)
というよりも実際のところはもう疲労で頭が正常に働く状態ではなかったのだ。
俺はそそくさと布団に潜り込むと、深いまどろみの中へと落ちていった。
◇
翌日の朝、俺たちが帰りの新幹線へ乗り込んだときのことだった。
俺は一夏から衝撃の一言を聞くことになる。
「……何、アリーシャさんが亡国機業に降った?」
「ああ、昨日俺の部屋に来てそう言ったんだ。なんでも、千冬姉と戦う舞台を亡国機業が用意するからだとか――」
「……」
表面上はポーカーフェイスを装っていたが、俺の内心では苛立ちが炎のように燃え上がっていた。
(織斑先生と戦いたいが為に世界ナンバー2が亡国機業に降るだと?アリーシャ・ジョセフターフ、ふざけているのか?……今分かってるだけでも向こうには元世界ナンバー1狙撃手のイリーナ・シェフテルだっている。明らかにパワーバランスが崩壊しているじゃないか!)
(もし亡国機業が総力を結集させてIS学園を奇襲した場合、いくら織斑千冬がいるといえど戦力としては不利な状況に立たされることは間違いないでしょう。なんらかの対策をしておくべきかと考えます)
(……まず一つ目の対策としては既存戦力の強化か。まず俺が二次移行して強くなったな。ただ、今日の朝気付いたことだが、フォーティチュード・セカンドの稼働率がたった27パーセントっていうのはどういうことだ。まだまだ実力の三割も引き出せてねえってことか?)
(フォーティチュードのときの稼働率は常に80パーセントを超えていました。セカンドになってからはまだまだその機体に潜在的な力が眠っているようです。また分析が必要になりますね)
(また分析と努力の日々が始まるだけだ。それについては時が経つのを待つしかないだろう。二つ目の対策は戦力の増加だな。織斑先生に聞いたところでは、どうやら山田先生に専用機が与えられたらしい。ラファール・リヴァイヴのカスタム機らしいが、これは果たして戦力になってくれるだろうか?この際織斑先生にも現役復帰してもらったほうが良いんじゃないか……?)
(山田真耶は一応代表候補生に選ばれただけの実力はあるようですし、多少は期待できるのではないでしょうか。ただ紫電ほどの戦闘能力があるとは思いにくいですが)
(だろうな。IS学園防衛の為にも、もっと強い戦力が欲しいな……)
東京へと向かう新幹線の中、窓から外の風景を眺めながらそんなことを考えていると、流石に不機嫌だというのが周囲にも伝わったのか、誰とも話すことなく東京駅へと到着するのだった。
◇
京都での亡国機業掃討作戦が終了して早数日、俺たちは再び京都へ向かおうとしていた。
今度は何かの作戦ではなく、れっきとした修学旅行である。
目の前の新幹線は1年生全員が乗り込むため、半ば貸切の状態にも近かった。
「えへへ、おりむーの隣の席だよっ。なにげに私、愛されてるぅ~」
IS学園で散々揉めた新幹線での一夏の隣の席はどうやらのほほんさんに決まったらしい。
通路を挟んで向かい側ではのほほんさんが一夏と楽しそうに喋っている。
そんな中、何事も無かったかのようにスムーズに俺の隣の席に座ったのはやはりシャルだった。
「ねえ紫電。ようやく息抜きで旅行ができるね。京都ってゴールド・キャッスルっていうのが有名なんだよね?一緒に見に行こうよ!」
「ゴールド・キャッスル?ああ、金閣寺のことか。シャル、そこは
「え、そうなの?日本には金色のお城があるのかなって思ってたよ。でも金色のお寺っていうのもすごいよねぇ。僕、見たいなあ」
「そうか、じゃあ自由時間は一緒に金閣寺に行くか。ちょうど俺が行こうと思っていた場所も金閣寺のすぐそばだしな」
「へー、紫電もどこか行こうとしていた場所あるの?どこ?」
「それは着いてからのお楽しみってことで。あ、京都タワーじゃあないからな?」
シャルと何気ない話をしている内に新幹線はあっという間に目的地、京都へと到着した。
駅から少し離れた場所にある旅館で荷物を置いたら夕食の時間までは自由時間である。
俺とシャルは二人でバスに乗り、早速金閣寺へと向かっていた。
「この間来たときは全然ゆっくり見れなかったけど、京都の街並みって綺麗だよねぇ。紅葉も綺麗だし、これが日本の秋ってやつなんだね」
「ああ、ようやくゆっくりできるな。フランスの時は案内してもらったが、今度はこっちが案内する番だな、シャル」
「ふふっ、よろしくね。紫電」
シャルがこちらに笑顔を見せる。どうやらご機嫌らしい。
◇
「ここが金閣寺だ。正式名称は鹿苑寺っていうんだが、あの金色の舎利殿が有名だから金閣寺、って呼ばれてるんだ」
「わぁ、本当に金色なんだね!紅葉の赤い色とも合わさってすっごい綺麗だよ!」
シャルの目も金閣寺に負けないくらい輝いている。
確かに金閣寺は世界的にも価値があると一目で分かる建物だもんな。
「しかし先日の亡国機業襲撃の際、こっちにまで被害が出なくて本当に良かったな」
「……そうだね。ここに戦火が飛び火してたら観光どころじゃなくなっちゃってただろうね」
「それを俺たちは守ったわけか。これなら少しは自信を持ってもいいかな?」
「……うん、いいと思うよ!」
隣でシャルが微笑む。
文化的な遺産だけでなく、シャルのような仲間たちも守れるようにならないとな――
俺は密やかに心の中でそんなことを考えていた。
「それで、紫電が行こうと思ってた場所ってどこなの?」
「ああ、ここから少し歩いた場所にあるんだ。以前から一度は行っておこうと思っていたんだ」
「へえー、どんな場所か気になるなあ」
「シャルにはちょっとつまらないかもしれないけどな」
そんなことを話しながら京都の街中を歩く。
目的地には意外と早く着いた。
「ここは……お寺、なのかな?ここもまたすごい紅葉だねぇ」
「ああ、ここは北野天満宮っていうんだ。ここには学問の神様といわれる菅原道真公が祀られているんだ」
「へえ、っていうことは学業成就のためにここに来たの?」
「ま、そういうことさ。あともう一つ、この北野天満宮は天神さんとも呼ばれていてね。古くから天のエネルギーが満ちる聖地としても言われてるんだ。天と付き合いの深い俺たちが願をかけるにはぴったりの場所だとは思わないか?」
「なるほどね」
俺とシャルは社殿の前で参拝を済ませると、お守り売場へと足を運んでいた。
「おや、学業成就以外のお守りも売ってるんだな。まあ当たり前か」
「これが日本のお守りなんだね。紫電はどれを買うの?」
「んー、学業成就にしようかと思ったが、紫色のお守りがあったからこいつにしようかと思う。ちょうど身体安全とか健康回復ってのはぴったりじゃねーか」
「色で選んだんだね。じゃあ僕はこのオレンジ色のにしようかな。えっとオレンジ色のお守りの効果は――!」
「ん、どうした?」
「いいい、いや、なんでもないよっ!ほ、ほらっ、お守りも買ったし、そろそろ旅館に戻らないと!」
「おっと、もうそんな時間だったか。じゃ、またバスで帰るか」
「う、うん!」
オレンジ色のお守りの効果は良縁成就、縁結び――
シャルは手の中にぎゅっとお守りを握りしめると、もう片方の手で俺の手を握ってきた。
「なあシャル、ようやくそれっぽいデートができたな」
「……!う、うん!」
夕日のせいかもしれないが、俺にはシャルの頬が赤らんでいるように見えた。
UA70,000&お気に入り1,000オーバーだと……。
この程度!想定の範囲外だよ!アハッアハッ!