インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■奪われた白式

楽しかった修学旅行も無事終わり、カレンダーも十一月に切り替えられた直後のことだった。

俺は一夏、箒と共に会議室に集められ、織斑先生から衝撃の一言を受けていた。

 

「白式を持ち逃げされた……!?」

「ああ、先ほど倉持技研から連絡があった。修学旅行の後、白式のISコアを解析してもらっていたのだが、そこの研究所所長である篝火ヒカルノが白式を持ったまま行方をくらましたとのことだ」

 

一夏が壁に拳を打ち付ける。

その表情には怒りではなく困惑が浮かんでいた。

 

「くそっ……なんでだよ。なんでみんな裏切るようなことをそんな平気でできるんだよ……!」

「一夏……」

 

流石の箒もかける言葉が見当たらないようだ。

一夏と同様に箒は困惑の表情を浮かべている。

 

「それで、織斑先生。篝火ヒカルノの逃亡先は分かっているのですか?」

「ああ、それについては渡航履歴が残っていた。どうやら逃亡先はイギリス……ロンドン・シティ空港だ」

「ロンドン……既に国外逃亡を許してしまったということですか。織斑先生、白式の奪還作戦はどうされるのでしょうか?」

「無論、白式の奪還作戦は実行する。しかしこれは国際的な問題になる。白式が奪われた、ということについては他国に知られるわけにはいかない。だから今回の白式奪還作戦は日本のメンバーのみで行う」

「む、織斑先生。ならなぜ簪はいないのでしょうか?」

 

箒の言うとおり、確かにこの場に簪はいない。

日本のメンバーのみで作戦を行うのなら一人でも戦力が多いほうがありがたいのだが。

 

「更識はIS学園に残り、情報収集を担当するよう言ってある。今回の作戦は少しばかり特殊な内容となっているからよく聞け。まず表向きは千道が対外試合を受けたことにし、一人で先にロンドンへ向かってもらう。千道はそのままロンドンで対外試合を行い、周囲の注目を引き付ける。その後一便遅れて一夏と箒にも内密でロンドンへ向かってもらう。その後は更識の指示に従って白式を探せ。いいか、周囲に白式を奪われたことについては可能な限り秘匿しろ」

「俺は対外試合をするだけでいいってわけではないでしょう?他に何かやらされるんですか?」

「ああ、対外試合といっても常に誰かの監視が付くわけではないからな。空いた時間を利用して一夏と箒をサポートしてやってくれ」

「了解です。だとしたら自由時間は対外試合終了後の夜くらいしか自由に動ける時間はねえな。一夏、箒、俺はあまり協力はできないだろう。……気を付けろよ?」

「ああ、ぜってえ白式は取り返す!」

「私がいるのだ、一夏は無事に守ってみせる」

「……頼もしいね」

 

しかしまた随分と難しい作戦だな。

こんなスパイじみた行為、俺がやるならまだしもメインが一夏と箒とはね。

良くも悪くも二人は素直すぎてあんまりこういう隠し事をするのには向いてないと思うんだよなぁ。

 

「それで早速だが、千道には今日からロンドンへ向かってもらう。イギリス空軍とはすでに話もついているからあとは現地へ行くだけだ」

「了解です。じゃ、一夏、箒。うまいことやれよ?」

 

俺は織斑先生から飛行機のチケットを受け取ると自室へ戻り、遠征の準備を始めるのだった。

また、よくよくチケットを見るとエコノミークラスだったことについては少々イラッとした。

 

 

「あー、流石にロンドンは遠いぜ……。しかもエコノミーだから余計に疲れた気がする」

「あら、あなたね。IS学園からやってきた千道紫電さんという方は」

「ん、そうだけど。ひょっとしてあなたが俺の対外試合のお相手さん?」

「ええ、そうよ。私がイギリス代表のISパイロット、アンジェラ・ウィルクスよ。覚えておいてね」

「どうも、俺が千道紫電です。よろしくお願いします」

 

俺は目の前に立つ栗毛色ショートカットの美人と握手を交わす。

 

アンジェラ・ウィルクス――

BT適性以外についてはセシリアをも上回る能力の持ち主と織斑先生からは聞いている。

第3世代型ISブルー・ティアーズの前身である「メイルシュトローム」を駆使して第二回モンド・グロッソにも出場しており、惜しくも入賞はできなかったものの若手のホープとしてイギリス代表に抜擢された天才だ。

 

「来てすぐで悪いんだけど、今日のところはまだ機体のメンテナンス中で試合はできないの。それに君も時差の影響で厳しいだろうし、試合は明日になったら行うわ。今日のところはホテルでゆっくり休んでいてね」

「お気遣いどうもありがとうございます。いやーずっとエコノミー席だったんで疲れちゃいましてね、今日が試合じゃなくて良かったですよ」

「ふふっ、じゃあ表に車を待たせてあるから。ホテルまでは私が案内するからよろしくね」

 

俺はアンジェラさんの後ろを歩いていく。

なんというか、セシリアとは全く雰囲気の違う人だと感じていた。

まあもっともセシリアは貴族の家系だし、そこも関係しているのであろうが、握手したときその手が全てを物語っていた。

その手と指はしなやかさと美しさを保ちながらも、柔軟な筋肉がしっかりとついていた。

まごうことなき努力家の手をしていたのである。

 

(これは相当な実力者かもしれねえな。油断とか慢心とか、そういう雰囲気が全然ねえ。同国出身のセシリアあんな高慢だったってのに)

 

俺は初めての対外試合ということもあり、IS学園以外の人物と戦うのはテロリストやら謎の無人機以外では初めてである。

それもいきなり強者であるとわかった俺は胸の高鳴りを隠せずにいた。

 

 

「それじゃ、また明日迎えに来るからコンディションをしっかり整えておいてね」

 

そう言ってアンジェラさんは去っていった。

案内されたホテルは中々高級なレベルだ。

ロンドン市内のホテルともなるとやはりレベルの高いホテルが多いのだろう。

俺は部屋に着くなりさっそく一夏と箒にプライベート・チャネルを繋いだ。

 

「よう、そっちもそろそろロンドンに到着したころか?一夏、箒」

「ああ、もうすぐ空港に到着するところだ。まずは宿泊予定のホテルに行くつもりだ」

「そうか。俺の方は明日からイギリスの国家代表と試合になった。早くてもお前たちに協力できるのは明日の夜からになるだろう。今のうちにしっかり寝て、時差ボケの対策をしておけよ」

「無論だ。時差程度で私の剣は鈍ったりはしない」

「ならいい。だが一夏、お前には今白式は無いんだ。あまり考えなしに動くんじゃないぞ?」

「ああ、分かってるって。箒もいるから大丈夫だよ」

「……そうか、まあどちらかがブレーキになってくれればいいさ。それじゃ、また明日」

 

そう言って俺はプライベート・チャネルを切る。

さて、俺も一休みしておくか。

 

(シオン、白式のコア位置は分かるか?)

(ええ、分かりますよ。ロンドン市内に存在しているみたいですね)

(よし、もし何か動きがあったら教えてくれ)

(わかりました)

 

シオンにそう告げると俺は大きなベッドに倒れ込んだ。

 

 

(紫電、起きてください。白式のコアに動きがあります。どうやら郊外にあるイギリス空軍の基地へ向かっているようです)

(……何だと?今は夜の11時だぞ?こんな時間に何を――!)

 

俺はベッドから飛び起きると、急いでISスーツに着替えた。

イギリス空軍基地に向かっているだと!?

まずい、確かメイルシュトロームはメンテナンス中だったはずだ。その隙を突くつもりか!

俺は急いでプライベート・チャネルを繋ぐ。

 

「一夏、箒。まだ起きてるか?」

「ああ、たった今簪から連絡があって起こされたよ」

「大丈夫だ、起きている。今簪もプライベート・チャネルに加える」

「……千道君も気付いたの?白式の動きに」

「ああ、どうやらロンドン郊外のイギリス空軍基地に向かっているようだな?」

「……よく分かったね。その通り、白式のISコアはイギリス空軍基地に向かっているみたい」

「今日会ったイギリス代表との話によると、イギリス国防の要であるメイルシュトロームは今日一杯メンテナンス中らしい。その隙をついて基地に奇襲をかけるつもりかもしれん。一夏、箒。急いで準備して基地に向かってくれ。俺もすぐ行く」

「わかった!気を付けろよ、紫電!」

 

俺はプライベート・チャネルを切ると、イギリス空軍基地までへの最短距離を考えていた。

 

(ここから空軍基地まではタクシーだと1時間弱ってところか?だがそれだと絶対に間に合わねえ!向こうの方が先に基地に着いちまう!)

 

こうなったらやむを得ない。

俺はホテルの部屋の中で一番大きな窓を全開にすると、そこから勢いよく飛び出し、フォーティチュード・セカンドを展開した。

 

(フォーティチュード・セカンドならイギリス空軍基地まで10分もかからねえで着くはずだ!もっとも、途中で迎撃されなきゃいいけどな!)

 

俺はフォーティチュード・セカンドになって更に大型となったカスタム・ウイング「アメジスト」の出力を強めると、一気にイギリス空軍基地へと向かうのだった。

 

 


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