インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■VS打鉄白式

イギリス某所にある空軍基地では急速接近する二機のIS反応を感知していた。

 

「ウィルクス中佐、大変です!こちらに向かって急速接近するISが二機!片方は新星重工のフォーティチュードと分かりましたが、もう一機は所属不明の機体です!」

「まったく、こんな時間にどういうことなのかしら。メイルシュトロームはまだ出撃できないし、そもそも寝不足は美容の大敵なのよ?」

 

こんな状況にもかかわらずアンジェラ・ウィルクスは平静を保っていた。

 

(良い方向で考えるなら所属不明機に気付いた千道君が助けに来てくれたってところかしら。悪い方向だと千道君が所属不明機と手を組んでここを襲撃に来た、ってところだけど流石にその線は薄いかしらね。千道君は何度もテロリストを撃退してるしね)

 

「……敵の狙いはおそらくメンテナンス中のメイルシュトロームでしょうね。防衛用のラファール・リヴァイヴを二機、所属不明機のほうへ出撃させなさい。テロリストと判断したら即迎撃してかまわないわ。千道君の方には私が行くわ。武装はまだメンテナンス中でも飛行くらいは問題なくできるでしょう」

「了解です。お気をつけて!」

 

アンジェラは急いでメイルシュトロームのコアを回収すると、外へ向かって飛び出すのだった。

 

 

ホテルを飛び出して数分、俺はハイパーセンサーを利用して周囲のISの位置情報を確認していた。

 

(やはり基地からISが迎撃に出てくるよな……!向こう側には二機、こっちには一機か。頼む、敵と誤解して撃ってこないで来てくれよ……!)

 

まもなくこちらに飛んできた一機がハイパーセンサーの視界内に入ってくる。

その機体はメイルシュトロームだった。

 

(あれはメイルシュトローム……ってことはアンジェラさんか!?でもまだメンテナンス中のはずじゃ……?)

 

俺は空中で静止し、両手を挙げる。

両手を挙げていようが攻撃できるのがISではあるが、少しでも攻撃の意志がないことを示したかったのだ。

やがてこちらに近づいてきたメイルシュトロームからオープン・チャネルが入ってきた。

 

「千道君、こんな時間にISで来るっていうのはどういうことなのかしら?場合によっては国際問題になるんだけど」

「既にそちらも気付いているようですが、テロリストが一人イギリス空軍基地に向かって接近しているとの情報がありました。昼にお会いした際、アンジェラさんのメイルシュトロームはメンテナンス中と伺っていたので、援軍に来た次第です。それにこのテロリスト、俺の読みが正しければ日本からやってきた者の可能性が高いので、日本のほうでもなんとか捕まえようと必死なんですよ。その証拠に、もうすぐあの『紅椿』も援軍に来ますよ」

「紅椿……あの篠ノ之博士が開発したと言う第4世代機ね?ちょっと待っていなさい。今確認を取るわ」

 

アンジェラさんが空中で静止する。どうやら基地と連絡を取っているようだ。

俺の言っていることが事実かどうか、紅椿の位置情報から判断しようとしているのだろう。

その会話は数分もしないうちに終わったようだ。

 

「千道君の言うとおり、紅椿がこちらに近づいているのは間違いないようね。……元々疑ってはいなかったけど、あなたがテロリストの一味じゃなくて本当に良かったわ」

「信じてもらえて何よりです。今はテロリストには二機のISが対処に向かったようですが――!」

 

近くでテロリストと戦っていたIS二機の内一機からのIS反応が突如消失した。

これはおそらくシールドエネルギーが0になったということだ。

つまり――

 

「……!千道君、気付いたかもしれないけど今うちから出ている迎撃隊の内片方がやられたわ。相手の情報は無いうえに私も戦力になれないこんな状況だけど、加勢を頼めるかしら?」

「元よりそのつもりですよ。それに美人の頼みは断らない主義なんで」

「ふふっ、そうやってIS学園の女の子たちも落としてきたのかしら?」

「いいえ、残念なことに女の子の撃墜数は未だ0ですよ。それでは俺はテロリスト討伐といきますんで、アンジェラさんは基地に戻っていてください」

「……わかったわ。私の部下をよろしくお願いするわ」

「了解です」

 

俺はそう言って一気にスラスターを吹かすと、テロリストの方へと向かって行った。

 

 

イギリス空軍基地から少し離れた荒れ地にて。

篝火ヒカルノは白くカラーリングされた打鉄を装着し、基地から出てきたラファール・リヴァイヴと交戦していた。

 

「ふふふ、やはり白式は強いねぇ。もう少し零落白夜のデータが集まれば量産化も不可能ではなさそうだナー」

 

そう言って目の前のラファール・リヴァイヴを撃墜したのは、白い打鉄を身に纏った篝火ヒカルノだった。

 

「ちっ、援軍には間に合わなかったか……。だが篝火ヒカルノ。てめーが奪った白式のコアは返してもらうぜ」

 

俺がテロリスト、篝火ヒカルノを射程にとらえたと同時に、イギリス空軍のラファール・リヴァイヴは撃墜されてしまったようだ。

地上には大破したラファール・リヴァイヴが二機不時着していたが、幸いにもパイロットは無事なようだった。

 

「おや、君は確か千道君だったかな。わざわざこんなところにまで来てくれるなんて丁度良かったよ。君にはこの『打鉄白式(うちがねびゃくしき)』の稼働データ採取に協力してもらおうかにゃあ!」

「『打鉄白式』だと……!?」

 

外見は打鉄のカラーリングを白に変更したものに見えるが、特徴的なのはやはりその武装である。

その手に持った剣はどう見ても白式の雪片弐型そっくりだった。

雪片弐型と違うところといえば、それは刃と柄の接続部分に見えるISコア――

 

「なるほど、白式のコア一つを丸ごと使って雪片弐型と同じような形の剣を作り出したというわけか」

 

白式のISコア反応は確かに篝火ヒカルノのすぐそばにある。

篝火ヒカルノが持つ剣の刃と柄の中間にある結晶体、それは間違いなく白式のISコアだった。

 

「白式の零落白夜はISの中でも最強の単一仕様能力だけど、エネルギー消費も馬鹿にならないからねえ。こうして武器一本にISコアを一つ使うことでエネルギー消費の問題を片付けようってわけさぁ」

「なるほど、確かに理には適っている機体構成だ。ISと武装でコアを一つずつ使用するとは、なんとも贅沢な機体だな」

 

……それ以上にISコアを融合させている俺も人のこと言えたもんじゃないが。

 

「だがなぜ倉持技研から白式のISコアを持ち去り、こんなテロリスト紛いの行為をすることになったんだ?篝火博士」

「そんなの簡単だよ、自分のやりたい研究が倉持技研ではできなかったからさ。ISコアを複数用いた機体の研究は、さ」

 

ISコアを複数使用した機体――

確かにそれは理論上可能なものではあるが、貴重なISコアを複数利用するうえに単純に強力すぎるため、アラスカ条約で禁止されている研究だ。

 

「それで研究のために現状警備手薄なメイルシュトロームを狙った、というわけですか。」

「そういうこと。流石の私も協力者が必要だったからね。その命令には逆らえないってわけだよ」

 

篝火博士との会話中、突然プライベート・チャネルが入る。

それは箒からだった。

 

「紫電、簪からこちらに所属不明の機体が一機向かってきていると連絡があった!私はこれから迎撃に向かうが、白式は見つかったか!?」

「ああ、目の前にあるぜ。一夏を早くこっちに呼んでくれると助かるな」

「そうか!一夏はこのままタクシーでそっちまで向かわせる!紫電、なんとか相手を倒してくれ!」

「ああ、そっちも気を付けろよ。しばらく援護には迎えそうにないからな」

 

箒からのプライベート・チャネルを切断すると、あらためて目の前の篝火ヒカルノに話しかける。

 

「まさかまた亡国機業か?」

「そこはご想像にお任せだよ。そろそろおしゃべりも切り上げにしようじゃないかっ!」

 

そういうといきなり篝火ヒカルノは雪片もどきを構えてこちらへ突っ込んできた。

俺もフォーティチュード・セカンドの新武装「オブシディアン」を構え、振り下ろしを受け止める。

 

「おや、君のフォーティチュードは射撃メインの機体だったはずだけど、二次移行で機体特性が変わったのかな?」

「いいや、機体は特に変わってない。元々ただのスピード狂の機体さ。接近戦も不可能ではなかっただけだ、やる必要がなくてなッ!」

 

鍔迫り合いの状態のまま相手の打鉄白式を蹴り飛ばして間合いを取ると、俺は肩部レーザーキャノン「ルビー」を発射する。

 

「……なるほど、白式・雪羅のエネルギー無効化防御か。確かにそれがあればエネルギー系兵器が中心のこのイギリスでは有利に立ち回れるだろうな」

「噂には聞いていたけど、実に察しが良いみたいだねぇ君は。確かにイギリスの空軍基地を狙ったのはそれが理由だよっ!」

 

赤い閃光が走ったその向こう側には、薄い光のバリアーを形成している打鉄白式の姿があった。

今度は篝火博士がこちらに向かって荷電粒子砲を撃ってくる。

俺はそれをオブシディアンで切り払うと、そのまま距離を詰めて突きを放った。

 

(……そこだッ!)

 

突きはギリギリで回避されたが、そこからの薙ぎ払いは回避させない。

刃を地面と水平な状態にしてから放つ突きからの薙ぎ払い、平突きは相手の不意を突くのに最適な技である。

 

「……ぐっ!」

 

オブシディアンによる平突きはガリガリと凄まじい音を立てて打鉄白式のシールドエネルギーを削っていった。

 

「ぐっ……突きからの薙ぎ払いなんて、中々えぐいことするじゃーん!」

「白式のコアを騙して奪い取ったアンタには言われたくねーな!」

 

俺は再び薙ぎ払いを放つが、今度は雪片もどきで受け止められてしまう。

すると篝火ヒカルノは空いた片手にアサルトライフル「焔備」を構えだした。

 

「ちっ、ラピッド・スイッチか!」

「その通り、この状況なら避けられないっしょ!」

「いいや、避ける必要なんてねえな!」

 

そう言うと俺は左手で篝火ヒカルノを指差す。

刹那、バシュッという音と共に緑色のマズルフラッシュが発生した。

 

「……っ!」

 

俺の指先から放たれた緑色の弾丸は焔備を弾き飛ばし、篝火ヒカルノの腕に命中していた。

そう、俺の指先から放たれたのはマークスマンライフル「エメラルド」の弾丸である。

二次移行した際に剣を持つようになったため、銃が邪魔だと判断されたのかエメラルドとアレキサンドライトの機能は指先部分に集約されていたのだった。

これが二次移行で得た俺の新たな武装『指先銃(フィンガーショット)』だ。

 

「くっ……まさか指先からこれほど強力な射撃を行える機体なんて……」

「……どうやらお遊びはここまでのようだ。重力操作・陥没(ぶっ潰れろ)!」

「ぐあっ!」

 

篝火ヒカルノの打鉄白式に強力な重圧がかかり、地面へと墜落していく。

ドゴンッと大きな音を立てると、機体は見事に地表へと陥没していた。

 

「今だ一夏、白式を起動させろッ!」

「……しまった!」

 

俺のハイパーセンサーは一夏の姿をすぐ近くに捕捉しており、地表に叩きつけられた際に雪片もどきを手放してしまったのを俺は確認していた。

そしてそれはちょうど到着した一夏のすぐそばに弾き飛ばされており、一夏が白式を装着するには十分な距離となっている。

 

「おう!来い、白式っ!」

 

雪片もどきとなっていた剣が光の粒子と化し、一夏の下へ集まっていく。

そこには白式・雪羅を装着した一夏が立っていた。

 

「ようやく取り戻したぜ、白式。すまなかったな」

 

そう言って一夏は装着した白式を撫でると、雪片弐型を構えた。

 

「篝火ヒカルノ!懺悔の準備はできているか!」

「……!」

 

一夏が篝火ヒカルノに向かって勢いよく雪片弐型を振り下ろす。

ガキンッと強い音が響いたが、その刃が篝火ヒカルノに届くことはなかった。

 

「なっ、誰だ!」

 

突如一夏と篝火ヒカルノの間に真っ黒いISが割り込み、盾で雪片弐型を受け止めていた。

 

「篝火博士、潮時です。撤退しますよ」

「丁度いいところに来てくれるねぇ。助かったよ」

「逃げる気か!待てっ!」

 

一夏が追撃しようとするが、黒いISは盾の裏から大量の煙幕を撒き散らし、俺たちの視界を遮ってしまった。

やがて風に吹かれて煙幕は散っていったが、肝心の篝火ヒカルノも黒いISも姿を消してしまっていた。

 

「くそっ、逃げられた!」

「まあ落ち着け、一夏。俺たちの目的はあくまで白式の奪還だ。それが成功したんだからもう十分だろう。それに相手の狙いだった空軍基地襲撃も阻止できたわけだし、成果としては十分だ」

「一夏、紫電、無事か!?すまない、黒いISに逃げられてしまった!」

 

後方から箒が飛んでくる。

あの黒いISは紅椿を振り切ってこっちに来たってのか。

 

「おお、箒も無事か、よかった。突然簪から謎のISが近づいてるって連絡があったから驚いたぜ」

「……あのIS、中々の腕をしていた。凄まじい機動能力で私の攻撃をあっさりと回避するせいで中々攻撃を当てることができなかった。まるで紫電と戦っているようだったぞ」

「へえ、俺くらいの高速機動戦闘ができるとはね。俺としては篝火ヒカルノよりもそいつのほうが気になるな」

 

それなら随分な機体スペックと操縦能力を持っているようだが、一体どこの機体なのだろうか?

亡国機業が入手した全く新しい機体か、それともまた別の勢力なのだろうか――

俺の思案は深まるばかりであった。

 

 


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