インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■VSメイルシュトローム

「そう。ついにこのイギリス空軍基地にもテロリストが現れるなんて……舐められたものね」

 

目の前に座るアンジェラさんは拳を強く握りしめている。

白式を奪還してから俺たちは空軍基地内にてアンジェラさんに状況説明していた。

一応白式が奪われていたことについては喋っていないが、おそらくアンジェラさんは気付いているだろう。

いずれにせよ基地から迎撃に出たラファール・リヴァイヴが撃墜された際の戦闘データを見れば、篝火ヒカルノが雪片もどきを使っていたこともわかるだろうしな。

 

「先に連絡のあった篠ノ之さんはともかく、織斑君が私たちの基地に入ってきたことについては、千道君がテロリストを撃退してくれた功績に免じて不問にします。千道君と織斑君は納得いかないかもしれないけど、組織にもメンツっていうものがあるわ。……ごめんなさいね、テロリストを撃退してくれた英雄さんたちなのに」

「お気にせずに。むしろ一夏の不法侵入を不問にしてくれて助かりました。ありがとうございます、アンジェラさん」

 

そう言って俺は頭を下げる。

 

「それにしても、織斑君と篠ノ之さんは本当に明日帰ってしまうの?一緒に試合をしてからでもいいんじゃないかと思うのだけれど……」

「それについては織斑先生から用件が片付き次第すぐにIS学園へ戻ってこいという命令ですので、申し訳ありません」

 

箒が丁寧に断りを入れる。

……正直なところ、まだ一夏も箒もアンジェラさんには歯が立たないだろう。

それこそまだまだ楯無先輩との間に大きな壁があるように。

 

「わかりました。それではせめて帰りのホテルまでは見送りましょう。誰か、三人をホテルまで車で送って行ってあげてちょうだい」

「はっ、了解いたしました!」

「千道君はまた明日、ね?寝坊しちゃだめよ?」

「もちろんですよ。そっちこそ、メンテナンスが間に合いませんでした、なんてことないようにお願いしますよ」

 

アンジェラさんが微笑を浮かべる。

俺たちは若い女性兵に着いて外へ出ると、それぞれのホテルまで送ってもらうのだった。

 

 

翌日の朝、俺はホテルで朝食を終えると、出迎えの車に乗って再びイギリス空軍基地へと向かった。

 

「おはよう、千道君。昨日はよく眠れたかしら?」

「ええ、ホテルのベッドが良かったのですぐ眠れました。もし今日の試合で負けたとしても、体調不良を言い訳にはしませんよ」

「ふふっ、それなら安心したわ。私の機体もメンテナンスは完了したし、私のコンディションも問題ないわ。早速アリーナへ行くとしましょう」

 

俺はアンジェラさんの後ろを着いて基地内の廊下を歩いていく。

たどり着いた先にはIS学園のアリーナに負けず劣らずの立派なアリーナがそびえ立っていた。

 

「おお、こりゃまた大きいアリーナですね。流石は空軍基地」

「ただ流石に軍事用だから観客席も無くてデザインはいまいちなのよね、ここ。あ、あと知ってるかもしれないけれど対外試合は全て国際IS委員会に公開されるから、手を抜いちゃだめよ?」

 

アンジェラさんは微笑みながらアリーナの中央付近まで歩いていくと、セシリアのブルー・ティアーズとは少し違った青色、というよりはペールブルーといった感じの機体、メイルシュトロームを展開する。

 

「さて、早速だけど準備はいいかしら?私はもう準備できているのだけれど」

 

アンジェラさんに続き、俺もフォーティチュード・セカンドを展開する。

 

「こちらも問題ありませんよ。では――」

 

ビーッという試合開始のサイレンが鳴り響き、俺は一気に距離を詰める。

二次移行してからメインウェポンが射撃武器から近接用ブレード「オブシディアン」になったため、一夏のように距離を詰めての攻撃が主体となりつつあるためだ。

 

「っ!」

 

一方対面のアンジェラさんは距離を取る。

メイルシュトロームはどちらかというとミドルレンジでの戦いを得意とする機体だったはずだ。

近距離での斬り合いはお望みじゃないってことか、ならばこちらも新兵装の出番だな。

俺はメイルシュトロームを左手で指差すと、指先からエメラルドの弾丸を発射した。

 

「えっ!?」

 

流石のアンジェラさんも指先から発射された高速ライフル弾には意表を突かれたようだ。

見事にメイルシュトロームの腕部装甲に弾丸は直撃した。

 

(……まさか胴体目がけた狙撃を腕で防ぐとは……お見事!)

(あんな小さいモーションで指先からライフル弾撃てるなんて反則じゃないかしら……!)

 

内心、両者は互いに驚きあっていた。

片や反応の早さに、片や機体性能の素晴らしさに、驚いた観点は違えどこの結果は互いの警戒心を高めることになってしまった。

 

(さーて、どう攻めたもんかな……)

(さて、どう手を打つべきかしら……)

 

両者間の空気が張り詰める。

そんな状況が数秒続いた後、先手を打ったのはアンジェラだった。

 

「そこっ!」

 

右手のビームライフルをこちらに向けて連射してくる。

 

「ちっ……連射型(ガトリング)か!」

 

俺はスラスターを吹かしてスライド移動し、ビームの弾丸を回避する。

銃身の向き、弾丸の軌道、着弾位置――!

今日も俺の目は冴えている。相手の射撃攻撃の全てがよく見えていた。

 

「……えぇ!?」

 

これには流石のアンジェラも驚いていた。

 

(データでは射撃に滅法強く、IS学園のほとんどの試合では被弾していないと聞いてはいたけど、まさかこのガトリングまで全弾避けきるというの!?)

 

はっ、と気付くと目の前に赤いレーザーが迫っていた。

なんとか身を捻って直撃は避けたものの、カスタム・ウイングの一部が欠けてしまっていた。

 

(肩部のレーザーキャノン……!直撃していたら即エネルギーが0になりそうな威力ね。それにしてもっ……!)

 

先ほどの赤いレーザーに続き、こちらがガトリングガン弾幕を張っているというのに、ちょくちょく合間からエメラルド色のライフル弾が高速でこちらを狙ってきている。

フォーティチュード・セカンドの指先から瞬時に放たれるそれは非常に避けづらく、威力も馬鹿に出来ないほど大きいものだった。

 

(指先一つでこんな精密射撃をしてくるなんて……!)

 

そうこうしている間にまたしてもエメラルドの弾丸がこちらの機体をかすめていく。

ガトリング弾幕の隙間から狙い澄ましたように撃ちだされるエメラルドの弾丸が急所に直撃することだけはなんとか避けているものの、避けきることはほぼ不可能といってもおかしくはない。

 

(……このままでは削りきられてしまう……こうなったら賭けに出るしかない!)

 

アンジェラさんはビームガトリングを撃ちながら徐々に距離を詰めてくる。

 

「……もらったわ!」

 

アンジェラさんはいつの間にかビームガトリングを左手に持ち替えていた。

代わってその右手に持っているのはその機体名を名乗る武装、ワイヤー・ウィップ「メイルシュトローム」だった。

俺の左側からは鋭くしなる電撃を纏ったワイヤー・ウィップが迫って来ていた。

 

「……っ、オラアッ!」

 

俺はオブシディアンを投擲し、こちらへ向かってくるワイヤー・ウィップに絡みつかせる。

 

「なっ、剣を投げてメイルシュトロームを無理やり止めるなんて……!」

 

ビームウィップを絡めとったオブシディアンが床に突き刺さる。

 

「まずいっ、メイルシュトロームが固定されて……!」

「これでチェックメイトだッ!」

 

肩部レーザーキャノン「ルビー」と同時に指先からエメラルド弾を発射する。

赤と緑、二色の強い閃光がアンジェラさんのメイルシュトロームに直撃すると同時に、試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

――勝者、千道紫電。

 

 

「お疲れ様、千道君。まさか剣を投げてメイルシュトロームを絡め取るなんて思わなかったわ。今までいろんな人と戦ってきたけど、君のような戦い方をする人は初めてよ。いい経験になったわ、ありがとう」

「いえいえ、こっちもエメラルドをあんなに避けられたのは初めてですよ。それに被弾したときも全部急所を外していましたよね?」

「急所を守るのは癖みたいなものね。いくら絶対防御があるからって、衝撃は全て抑えられるわけじゃないわ。頭や首への攻撃はなるべく防がないとね」

「なるほど、それで腕のアーマー部分が――」

 

その後も俺とアンジェラさんの反省会は続く。

また、語るにつれて段々とアンジェラさんの性格もわかってきた。

やはりアンジェラさんは細かいことによく気付くタイプのようだ。

それが実力につながっているということは間違いない。

 

(なるほど、これが努力してきた人の強さか。今回は勝てたが次は同じ手は通用しないだろう。俺もまだまだ研鑽する必要があるな……)

 

初の対外試合は無事勝利を収めることができたが、それ以上に大きな収穫を得られた。

やはりIS学園の中だけでは世界のことはわからない。

井の中の蛙大海を知らず、というのはこういうものだなと俺は心の中で実感していた。

 

 


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