インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■稲妻と嵐

放課後、俺たちは第三アリーナに来ていた。

理由はいまいち不明確だが、エリーがどうしてもシャルと勝負したいとのことだった。

しかし、非公式試合とはいえイグニッション・プランのトライアルに参加する両機の対決はなかなかの好カードだ。

俺としては二人の対決を止める気はさらさらなかった。

 

「シャルロットさん、どちらが紫電様にふさわしいかいざ勝負です!」

「なんでこうなったかよくわかんないけど、負けないよ!」

 

それぞれがテンペスタⅡとエクレールを展開し、アリーナの中央付近で距離を取る。

やがて試合開始のブザーが鳴ると両者一斉に距離を詰めはじめた。

 

(様子見から入るかと思ったが、意外だったな。とくに普段冷静なシャルがいきなり突撃するというのは珍しい)

 

それが俺の正直な感想だった。

エクレールを操るシャルはシールド内蔵パイルバンカー、ブラスト・パイルを、テンペスタⅡを操るエリーは風の拳をと、いきなり両者とも最大火力を誇る武器をぶつけ合う。

 

「「……っ!」」

 

ガキィンと凄まじい炸裂音が轟き、アリーナ中央部分に激しい閃光が飛び散ると、その風圧に押されて両者がアリーナ中央から外壁へと押し出される。

 

「……なかなかの威力の武装のようですね。私の風の拳(プーニ・ディ・ヴェント)を掻き消すとは」

「そっちこそ。それに、こっちは紫電が作ってくれた最高の機体だからね!」

「……!新星重工がデュノア社と業務提携しているとは聞いていましたが、そういうことでしたか。羨ましいです!」

 

そう喋りながらもエリーは今度は風の槍を形成し始める。

それを見たシャルはエペ・ラピエルを振るう。

細い剣先からオレンジ色のビーム弾が発射され、高速でテンペスタⅡを強襲する。

 

「……っ!」

 

エリーは慌ててもう片方の手でエペ・ラピエルのビーム弾を弾くと、お返しと言わさんばかりに風の槍を投擲した。

 

「うわっ!意外と速いね、その槍……!」

「この距離で風の槍(ジャヴェロット・ヴェント)を回避しますか……やりますね」

 

シャルは見事に瞬時加速を使って槍の投擲を回避していた。

 

(いい反応だ。エクレールならば、シャルならばそれくらいの弾速は回避できなければならない)

 

俺は内心でシャルが風の槍を避けたことに安堵していた。

シャルはどうやら俺が海外で試合していた最中も真面目にトレーニングを続けていたようだ。

 

(元より、シャルの性格上トレーニングをサボるってことは考えにくいが、エクレールもなかなかの稼働率を引き出せているようじゃないか)

 

加速の使い方、武装の使い方、空中制御、どこをとってもシャルはエクレールを使いこなしていると言っても良いだろう。

贅沢をいえばもっと稼働率は上げられただろうが、それは時間の問題だ。

今気にしてもしょうがないだろう。

 

「……やはりシャルロットさんを倒すには、本気を出さなければならないようですね!」

 

エリーがそう言うとテンペスタⅡの周りに強い風が集まっていく。

この動き、アーリィ・テンペストを発動するつもりか。

 

「……!なるほど、それがテンペスタⅡの単一仕様能力だね」

「ええ、これがテンペスタⅡのアーリィ・テンペストです!」

 

テンペスタⅡの隣に風でできた分身が現れる。

今度は分身と共に風の槍を形成して投擲してきた。

気のせいか、エリーの方も風の槍を形成するのが速くなってきている気がする。

 

「紫電じゃないけど、同じ手は何度も食わないよ!」

 

シャルは再び左右へ細かく加速を行い、風の槍を回避する。

こうして客観的にみると、シャルも非常にいい動きをしている。

もう少しエクレールの完成が早ければ、ISパイロットランキングに入っていたのはシャルだったかもしれないな。

 

「お見事、ですがこれはどうですか!?」

 

今度は分身がシャルに向かって突撃してくる。

アーリィ・テンペストで形成された分身は接触するだけでもシールドエネルギーを削ってくる非常に嫌らしい存在だ。

 

「っ!てやあああっ!」

 

シャルはシールドで分身の突撃を受け止めると、なんとそのままエペ・ラピエルによる乱れ突きで風の分身を霧散させてしまった。

多少シールドエネルギーは削られたものの、即座に分身を掻き消した方が良いという判断だろう。

それにしても見事な突きのラッシュだった。

おまけに剣先からはビーム弾を射出しており、そちらはテンペスタⅡ本体の方を狙っていた。

分身を掻き消すと同時に本体への反撃を行うとは、と俺も思わず感心していた。

 

「わわっ!」

 

対して予想外の反撃に慌てたのはエリーの方だった。

なんとかガントレットでエペ・ラピエルの射撃を弾いたものの、最初の一発は防ぎきれずに被弾してしまっていた。

 

「むうっ、もう分身が掻き消されてしまうとは……見事ですね。ならばもう一回作るまでです!」

 

再度テンペスタⅡの周りに強い風が集まっていく。

分身を形成する速さも心なしか速まっているような気がする。

エリーもまた戦いの中で成長しているのだろうか。

 

「次は分身と一緒に攻撃してみせましょう!」

「甘いよ!攻撃される前に両方とも撃ち落としてあげる!」

 

エクレールのカスタム・ウイングがテンペスタⅡのほうを向くと、六門の砲台から次々にオレンジ色のレーザーが発射される。

……素晴らしい、六門の砲台を全て使いこなしている。

そしてわざと発射のタイミングをずらすことで回避しにくくさせているわけか。

 

「えええ!そんな砲撃ありですか!?でも負けませんよ!」

 

テンペスタⅡはグレールから発射されるレーザー砲を必死に回避しながらエクレールとの距離を詰める。

ときにはガントレットで防御し、ときには瞬時加速を交えた高速移動で回避したりと、こちらも芸達者だ。

結果として本体に数発の被弾があったが、何れも急所は外れており、クリーンヒットは逃れたようだ。

分身も見事に守り切ってエリーが得意とするクロスレンジまで距離を詰めることに成功していた。

 

「……っ!」

 

一方、シャルはテンペスタⅡから距離をとろうとしていた。

エクレールもクロスレンジでの戦いは決して不得意ではない。

むしろブラスト・パイルとエペ・ラピエルがあるため、クロスレンジも問題なく戦えるはずである。

それでもシャルがクロスレンジでの殴り合いを選択しないのは、あのガントレットによる打撃が強力であることを見抜いているからだろう。

そして遠距離でのグレールとエペ・ラピエルを用いた撃ち合いならやや有利に戦えると踏んでいるからであろう。

 

「逃がしませんよっ!」

 

それに対して後退方向を塞ぐように距離を詰めているのがエリーの方だ。

間合いの取り方についてはエリーの方が若干上手かもしれない。

時折風の拳を放ち、牽制しながら徐々に壁際へとシャルを追い詰めている。

 

「くっ、そっちもなかなか速いね……紫電と戦ってる時を思い出すよ」

 

シャルはグレールでレーザーを発射しながらうまく壁際から抜け出す。

しかし抜け出した先には風の拳が待ち構えていた。

 

「くうっ!やっぱりパンチと同じような感じで打ち出してくるそれは強力だね……!」

「……ですが私の風を食らいながらも反撃してくるとは、見事です」

 

風の拳がエクレールに衝突する際、シャルはとっさにエペ・ラピエルを突き出していた。

エペ・ラピエルから射出された弾丸は見事に風の拳を振り抜いたテンペスタⅡに命中しているのであった。

 

(見事な攻防だ。どちらもただでは倒れない、攻撃をすれば必ず反撃を返している)

 

驚くべきは二人の反応の早さだ、互いの攻撃を紙一重で避けている。

おまけに被弾したときも、今のところ急所への直撃は全て避けていた。

俺は想定以上のハイレベルな戦いに興奮していた。

この目の前で行われている勝負は、それこそどちらが勝つかはわからないレベルにまで達していたのだった。

 

「はあああっ!」

「てやあああっ!」

 

再びブラスト・パイルと風の拳が激突し、激しい衝撃がアリーナ全体に響き渡る。

今度は両者とも近距離での打ち合いだったため、その衝撃が機体にも影響を与えたようだ。

衝撃波によって互いのシールドエネルギーが残り僅かとなっている。

 

(あと一発、先に命中させれば勝てる!)

(相手のシールドエネルギーはあと少し!このまま押し切ります!)

 

間合いはクロスレンジのため、一触即発というようなムードを醸し出している。

そんな中、先に動いたのはエリーだった。

 

「これで……終わりです!」

 

右手のガントレットから繰り出されたのは風の拳だった。

しかし、そのモーションは今までのものよりも小さく、速かった。

その結果打ちだされた拳も小さく鋭い弾丸のようなものとなっていた。

 

「……!」

 

対するシャルのほうもエリーに速度で劣ることなく、エペ・ラピエルを突き出していた。

最速で繰り出された突きから発射されたビーム弾は一直線にエリーのテンペスタⅡへと向かっていく。

 

「「……っ!」」

 

互いが放った最後の一撃はお互いの胸へと直撃していた。

もはや回避するだけの余裕も無い最後の一撃だったのだろう。

エクレールもテンペスタⅡも、遂にシールドエネルギーを示す値は0となっていた。

両機体は光を失くし、ゆっくりと地表へ降りてくると同時に展開が解除された。

 

「勝負は両者同時にシールドエネルギーが0になったため、引き分け(ドロー)だ。二人とも、見事な戦いぶりだったな」

「まさかエレオノーラがこんなに強いなんて……流石テンペスタⅡのパイロットに選ばれただけあるね」

「シャルロットさんのほうこそ、見事な腕前でした。それだけの腕があるのなら、確かに紫電様にふさわしいと言えますね」

「し、紫電にふさわしいって……」

「……まあエリーの戯言は放っておいて。シャル、見事だった。俺が海外に行っている間もちゃんとトレーニングしていたようだな。ちゃんとグレールの砲口を使いこなせるようになっていたじゃないか」

「う、うん!エクレールを使い始めてからはラウラにだっていい勝負ができるようになったし、紫電が海外に行っていた間はほとんど負けてないよ!」

「ほう、そりゃすげーな。実は最近、ISパイロットランキングっていうもんができたらしくてな、こっちのエリーは10位にランクインした強者だ。そのエリーと引き分けられたってことは自信を持っていいと思うぞ」

「ISパイロットランキング……?紫電もランクインしてるの?」

「紫電様は私の一つ上の9位なんですよ。といっても紫電様は6位にランクインしているイギリス代表も倒しているので、あまりランキングもあてにはできないようですけどね」

「エリーも流石といったところだな。スピードの速いエクレールを相手にうまい立ち回りだった」

「そ、そうですか?私結構がんばったんですよ!」

 

エリーは褒められて嬉しそうにしている。本当に感情表現が豊かだ。

 

「ところで勝負は引き分けになってしまいましたが、シャルロットさんが紫電様にふさわしいまでの実力を持っているということはわかりました!シャルロットさん、負けませんからね!」

「……!僕だって負けないからね!」

 

……引き分けではあったがひとまず勝負の結果はついたらしい。

イグニッション・プランのトライアルまであと僅か。

この調子ならエクレールも問題なく選出されるだろう。

俺はエクレールの出来にひとまず安堵するのであった。

 

 


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