インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■IS学園入学計画

ISコアを強奪してから翌日。

俺は学校の授業が終わるや否や、即座に家に帰って自分の部屋へと飛び込んだ。

ベッドに鞄を放り投げると、一目散にシオンを手に取って感覚同調を行う。

 

(シオン、ISコアの解析は順調か?)

(お帰りなさい、紫電。解析は順調です、紫電に伝えるべきことがあります)

(何かわかったのか?)

(まずこのISコアと私のエネルギーの仕様は同じようです。なので私のエネルギーとISコアナンバー009とのエネルギーを統合し、私が操作することが可能であるとわかりました。なのでISコアを使って紫電にISコアナンバー009の武装を装着させることも可能です)

(……そうか、俺もISを装着できるのか!)

 

シオンの言葉を受け、拳を握りしめる。

 

(ただ、いい話ばかりではありません。このISコアにはあらゆるデータを特定の場所に送信するような仕様が組み込まれていました。この仕様の巧妙さを見る限り、おそらく仕掛けたのは開発者である篠ノ之博士でしょう)

(ISのデータ収集の為か?あまり気分の良い物ではないな。シオン、その仕様は解除できるか?)

(勿論です。既にISコアナンバー009の仕様は解除済みです)

(あぁ、それでいい。あまり情報漏洩などはしたくない)

(それと紫電に1つお願いがあります)

(シオンからお願いとは珍しいな、何だ?)

(このISコアナンバー009を私に融合させてください)

(融合……何をするつもりなんだ?)

(このISコアを加工し、私と一つに融合します。そうすることで私は元の形に戻り、私は今までの二倍のエネルギーを得ることができます。それに今までのようにISコアを分離させて元に戻すこともできますので、さほどリスクは無いと考えます)

(ISコアを融合、か。そんなこともできるとは本当にシオンは何なんだろうな、ISコアに似ているがISコアはシオンみたいに喋らないしな……)

(ISコアと私は似て非なる存在、といったところのようです。それで、ISコアを融合してもよいでしょうか?)

(……わかった、融合してみせてくれ。使えるエネルギーが増えるなら宇宙船開発も効率が上がるだろう)

 

自分の机の上でシオンとISコアナンバー009がほんのりと光り、浮かび上がる。

両者が徐々に近づき、くっつくいた瞬間まるでチョコレートが溶けて一つの塊になるように、あっけなく融合は終わってしまった。

そこに残ったのは綺麗なダイヤモンド型をした元の形のシオンだけだった。

 

(その形、久々に見たな)

(内部にエネルギーが満ち溢れています。おまけにISに設定されていた武装『ラファール・リヴァイヴ』も取り込むことができました。今すぐにでも『ラファール・リヴァイヴ』を装着可能ですが?)

(いや、ISはまだ起動しない。万が一にもISコアの場所がばれるとまずいからな)

(了解しました)

 

まずは計画の一つ、ISコアの入手には成功した。

次の計画はISコアを起動させるタイミング、だ。

 

(なんとか間に合ってよかったか。どうやら明日、俺の学校で男子のIS適性試験をするらしい)

(……なるほど、紫電の考えが理解できました。紫電が適性試験用ISに触れた瞬間に私が適性試験用ISのエネルギーを統合し、紫電に装着させれば良いのですね?)

(その通りだ、シオン。それとその際に俺からも頼みたいことがある)

(なんでしょうか?)

(まず最初にISに触れるほんの一瞬の間だけでいい、ISの装着を待ってくれ。本当に俺はISを動かせないかだけ確認したい)

(わかりました。ほんの一瞬でいいのですね)

(それともう一つ、できるならIS適性試験の試験結果をなるべく高い値にしてほしい。ただ、流石にブリュンヒルデやヴァルキリー相当ほどの値にはしないでくれ。IS適性試験結果を弄るのはIS学園に入るためだからな)

(わかりました)

 

IS適性試験結果をなるべく高い値にするのには理由がある。

まずそもそも無理やりな方法でISを装着するのだから、IS適性が全く無いと判断されてしまったら困るからだ。

それに、IS適性が高ければ高いほどIS学園に入学できる確率も上がるだろうと見込んだからだ。

IS学園はただISについて学ぶ場所ではない。

その特殊性からIS学園の在学中はありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない、といった何かと都合の良い条件が揃っている場所である。

そのためひっそりと進めている宇宙船開発プロジェクトを進行させるのにも都合が良いのだ。

 

(まずは明日のIS適性試験を乗り越える、乗り越えられなきゃそこで終わりだ)

(紫電と私が協力すれば失敗はありえません。心配は無用です)

(慰めてくれてるのか?これでは妹ではなく姉のようだな……)

 

この後もシオンと他愛のない雑談を続けた。

やがて夜も更けていき、自然と俺は眠りに入っていった。

 

 

翌日の学校はいつもよりどことなく慌ただしかった。

男子生徒はやたらとそわそわしている者が多く、普段よりもざわついているようだった。

 

「えー、今日は男子諸君にISの適性検査を受けてもらうことになった。名前を呼ばれた者は体育館へ行くように」

 

(ついにこの時が来たか……)

 

思わず拳を握りしめては開く。

教室内はさほど暑くないにもかかわらず俺の掌にはほんの少し冷や汗が浮かんでいた。

校内放送用のスピーカーから男子の名前が呼ばれては教室から出ていっては帰ってくる。

そんな光景が繰り返され、徐々に俺の番も近づいてくる。

 

(もうすぐ俺の番か。まあ、なんとかなるだろう――)

 

そこでふと昨日のシオンとの会話を思い出す。

 

(試験用ISに触った時、俺はISを動かせるのだろうか……)

 

脳裏に浮かぶのはISのことばかりで上の空だった俺の耳に、ついに待ち望んでいた言葉が届く。

 

「3年1組、千道紫電、体育館に来なさい。」

 

校内放送用のスピーカーから俺の名前が告げられ、ゆっくりと立ち上がると体育館へ向かって歩いて行った。

 

 

「はい、ぼーっとしてないでさっさと触る。まだ次の人がたくさんいるんだから。」

 

目の前にあるのは第2世代型IS『打鉄』だ。

これに触った時、もし装着できたら俺も織斑一夏と同じような何かがあるのだろうか。

意を決してゆっくりと打鉄へと手を伸ばした。

 

――金属特有の冷たい感触が指先から伝わる。

ただそれだけだった。

その時間は1秒にも満たなかったがはっきりとわかった。

俺がISに触れても起動させることはできない、と。

 

(今だシオン、ISを起動させてくれ!)

 

そう頭の中で言った瞬間、打鉄が強く光ると俺の体に打鉄が装着されていた。

それと同時に頭の中に流れてくるおびただしい量の情報。

ISの基本操作、操縦方法などなど……情報量こそ多かったものの、勉強が得意な俺にはなんてことはない、あっという間に知識を脳内へと浸透させていった。

 

「へぇ、これが『打鉄』か。……結構軽いもんなんだな」

 

初めて起動したISの感想はそれだった。

見た感じでは相当重量があるように見えたが、実際は何もつけていないような軽さだ。

 

「……あっ、IS適正あり……!?」

「あぁ、そうみたいですね。それで俺のIS適正値は何ですか?」

「え、えぇ、判定は……A判定!?」

「A判定……そうですか」

 

(A判定か、驚き方を見るにおそらく高いほうなんだろうな)

(ブリュンヒルデやヴァルキリークラスの人がS判定で次いでA+、A、B、Cとランク付けされているようです。A判定が妥当な所だと判断しました)

(いい判断だと思う。ありがとう、シオン)

 

「……それで、俺は今後どうなるんですか?」

「えぇと……まずは政府に連絡した後でどうなるか決まるわ。ただ、前例の織斑一夏君のことを考えるとIS学園に通うことになるんじゃないかしらね」

「IS学園、ですか」

「えぇ、IS適性のある男性はあなたが二人目だし、きっとあなたも世界中から狙われることになるわ。そんな重要人物を守れる場所はIS学園しかない。それにあなた、IS適正A判定なんだからISパイロットとして鍛えられるのは間違いないわ」

「……そうですか」

 

これもまた計画通りである。

IS学園へ入学し、ISパイロットとして自身を鍛えると同時に宇宙船開発プロジェクトを推進する――

 

(まずは計画通りIS学園に入学することはできそうだな。俺の受験戦争も終わりか)

(そもそも紫電は良い高校への推薦入学が決まっていた認識ですが)

(……まあそれはともかく、IS学園はどんな所なんだろうな……)

(私にはわかりかねます)

(しかし、これでようやく俺の計画が本格的に始められる……!)

 

打鉄を装着した自身の手を握り締めると、無表情だった紫電の口角は僅かに上がっていった。

 

 


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