インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■邂逅のち邂逅

「千道紫電だな。無駄な抵抗はせず、私と共に来てもらおうか」

「だが断る。そういうセリフを言いたいんだったら俺より有利な状況に立ってから言ってもらおうか!」

 

俺はスラスターを吹かして相手の射撃線から逃れると、勢いよくオブシディアンを振り下ろす。

しかし黒い機体はシールドでオブシディアンをうまく受け流していた。

 

「っ!やはり抵抗しますか。ならば無理やりにでも連行させてもらいましょう!」

「……そのシールドに黒い機体。お前、ロンドンで篝火博士を助けに来たやつだな」

「……!」

「図星を突かれたって感じだな。もっともあんな暗い中だろうと俺のハイパーセンサーはお前の機体をバッチリ捉えていたんだ。見間違えるはずもないだろう」

 

俺がそんなことを言ってる間にも相手はこちらに向かって銃口を向け、射撃してくる。

 

(げ、そいつはまずいぞ!ここは発電所の中だ、どこに当たってもIS学園への影響はでかい――!)

 

悲しいことにも俺の予想は見事に当たり、発電所内の機械に銃弾が命中し、漏電を始める。

間もなく発電所は真っ暗になり、IS学園周辺の電気系統はたちまち落ちていった。

 

(幸い今が午前中だったってのはラッキーだったな。予備電源への切替も起こるはずだし、今日は快晴だ。ひょっとしたら停電したこと自体に気付かない連中も多そうだ)

 

ただし、この発電所の中には日光が差してこないため、一時的に真っ暗になっていた。

そのせいで黒いISが余計に見難くなってしまっている。

 

「ちっ、辺りを暗くして黒い機体をカモフラージュしたってわけか。だが俺のハイパーセンサーまではごまかせないぜッ!」

 

俺はハイパーセンサーの機能の一つ、サーモセンサーを起動することで熱による機体感知を行っていた。

 

(闇夜に紛れて黒い機体を隠せても、機体から発せられる熱ははっきりわかるぜッ!)

 

俺は相手の機体目掛けて指先からエメラルドの弾丸を放つ。

ガキンッという音から察するに、どうやらシールドで防いだようだ。

一瞬その機体を見たときから特徴的に思えていたのが両腕にあるシールドだった。

さほど大きさはなかったものの、防御目的としては確かに効率的ではあるなとは思っていた。

しかしこんな暗闇の中でシールドを使って防ぐとは、相手もなかなかのやり手らしい。

だがそうしている間にもバシュッ、バシュッと射撃音が続き、撃ち合いは続く。

暗闇であることも相まって互いに有効打を生み出せずにいたのだった。

 

(……これほどの腕がありながらISパイロットランキングに入ってこないとは、世界は広いもんだな)

 

俺がそんなことを考えながらオブシディアンを振り下ろすと、今度は強く手ごたえを感じた。

おそらく相手としてはシールドでうまくブロックしたつもりだったのだろうが、シールドがオブシディアンの強度に耐えきれなかったのであろう。

バキッと金属が砕け散る音がし、シールドの欠片が周囲に飛び散る。

 

「……っ!」

「随分脆い機体だな。これほどの攻撃も耐えきれないとは、どうやら大した機体ではないらしいなッ!」

「紫電っ!大丈夫!?」

「……!」

 

暗い発電室のドアが開かれると、そこに姿を見せたのはシャルだった。

 

「きゃっ!?」

 

しかし、ドアが開かれたと同時に黒い機体のISはシャルを突き飛ばし、勢いよく飛び出して逃げてしまっていた。

……なるほど、まさかこの俺から二度も逃げおおせるとは見事な逃げ足だ。

速度に比重を置いた機体だったからあんなにシールドも脆かったってわけか。

 

「シャル、無事か?というかよく俺がここにいるとわかったな?」

「うん、大丈夫だけど……。たまたまこの近くで爆弾探しをしてたんだ。一瞬C4センサーに反応があったのがわかったから発電所にも爆弾が仕掛けられてたのかなと思ってね。それで急いで駆け付けたらそこで紫電が戦ってたってわけだよ。……ところで今の機体は一体何だったの?」

「それはこれから突き止めるところだ」

 

俺はシャルの無事を確認すると、後ろを振り返って残されたシールドの欠片に目をやるのだった。

 

 

俺はシールドの欠片を自分の部屋へと持ち帰ると、さっそく解析を始めていた。

一概にISといってもその作り方は国によって様々である。

そのため、例えシールドの欠片であろうとも構造を調べてしまえば、どこの国で製造された機体なのかというのははっきりとさせることが可能なのであった。

 

(このシールド、構造が()()()()と同じじゃないか……。ということはあの黒い機体の開発国はあの国か?そもそもなんであの国が今になって手を出してきたんだ?狙いは俺の身柄のようだったが、やはり俺の存在自身を狙ってきたか……?)

 

そんなことを考えている最中、部屋のドアがコンコン、とノックされる。

 

(特に誰か呼び出した覚えはないが……誰だ?)

 

「鍵は開いています。入っていいですよ」

 

しかし返事は無く、俺はやむを得ず自らドアを開けに行く。

ガチャ、とドアを開けるがドアの前には誰も立っていなかった。

 

(……誰かのいたずらか?小学生でもあるまいし――!)

 

俺は最高速度でオブシディアンを展開し、背後の気配に向けて剣先を突きつける。

その剣の矛先には予想外の人物、篠ノ之束博士がニコニコとした微笑を浮かべて立っているのだった。

 

「あはははは!ほんっと君ってば器用だねぇ。あんなに気配を消して近づいたのに、こんなにあっさり気付かれるなんて!」

 

俺が剣先を向けたにもかかわらず、篠ノ之博士は相変わらず笑みを浮かべている。

これが天災の余裕というものだろうか、確かに隙らしいものは見当たらない。

 

「それで、何か用でしょうか篠ノ之博士。わざわざこんな真似までしておいて」

「うん、君と話をするには丁度いいタイミングだと思ってね。束さんは世界中から追いかけ回されてて中々自由な時間が得られないからね!」

「……それでしたら丁度いい場所がありますよ。誰にも邪魔されない場所が、ね」

 

そう言って俺はオブシディアンの展開を解除して指をパチンと鳴らすと、周囲はいきなり宇宙が見えるレストランへと変貌する。

座標操作を使って俺と篠ノ之博士の位置を宇宙船内のレストランへと移動させたのだった。

 

「これは……!へえ、もう宇宙までたどり着いてたんだ。これは先を越されちゃったねぇ」

「ええ、十年ちょっとかけて作り上げた最高傑作ですよ。ガキの頃からずーっと、この宇宙へ向けて準備してきた結果です」

「……君、いっくんたちと同い年だったよね?それなのにここまでできるなんて束さんもびっくりだよ。ひょっとしたら私と同じくらいの頭脳、あるんじゃない?」

「篠ノ之博士にそう言われるとは恐縮ですね。ところで、ここなら誰の邪魔も入りませんし、何でも話せますよ」

「おっと、そうだったね。まずは以前君から質問された件への回答を先にしようじゃないか。宇宙への夢、宇宙への意志はどこへやった、っていうやつね」

 

篠ノ之博士はゆっくりと椅子に腰かける。

どうやらここが本当に宇宙だと理解し、危険性が無いと理解してくれたようだ。

俺も篠ノ之博士の対面側の椅子へと腰を下ろす。

 

「まず言っておこうかな。君に質問されるまで私は宇宙のことなんてすっかり忘れてた。目の前にあったのは私と私の発明を侮辱した科学者たちへの復讐。ただそれだけだったよ」

 

心の中で俺はやはりそうか、と思っていた。

ISが発表された当時は篠ノ之博士への評価はろくでもない物ばかりで侮辱の言葉が殺到したらしい。

現にISという存在がが見直されたのはかの白騎士事件が起きてから、というのがそれを物語っている。

 

「忘れていた、ということは今は思い出したということですか?科学者たちへの復讐など、白騎士事件だけでも十分すぎるほどだったと思うのですが」

「まあ復讐は今更どうでもいいかな。宇宙進出も先をこされちゃったけど、宇宙のことはまだ諦めてないよ。それと、白騎士事件のおかげで世界は変わった。そこまでは束さんの予想通りだった。そしていっくんがISを起動させることまではね。束さんが求める世界に少しずつだけど、変えていくことには成功してたんだよ。でも君がISを動かせることについては完全に予想外だった。……なんで君はISを起動できるのかな?」

「……天才と呼ばれた篠ノ之博士ですらそれについてはわかりませんでしたか。申し訳ないですがその理由は俺にもわかりません。俺もISに触ったら動かせてしまった、としかいいようがありませんから」

 

もちろん俺が言っているのは嘘だ。

シオンの存在が篠ノ之博士にばれるのはリスクが大きすぎる。

流石にシオンとの出会いを正直に話す気にはなれなかった。

 

「……そっか。だとするとやっぱりISコアに愛されたっていうのが事実かな。知っていると思うけどISコアには人格のようなものがある。普段それは眠っているんだけど極稀にそれが目を覚ましてパイロットと心を通わせることがある。通常はそれを二次移行とか言うんだけどね」

「今度は俺から質問させてもらいましょう。宇宙のことは諦めていないと仰っていましたが、篠ノ之博士は具体的に何をするつもりなのですか?」

「んー?束さんの宇宙進出計画が知りたいのかな?それについては私からも提案があってねぇ、それで今日わざわざ君に会いに来たんだぁ」

 

そう言いながら篠ノ之博士はガタン、ガタンと椅子で舟を漕ぐ。

 

「私の宇宙進出計画にはどうしてもアメリカが必要なんだ。そこでどうしても近いうちにアメリカを襲撃しなくちゃいけないんだけど、そのとき君に手を出さないでほしいんだ。現時点で君の実力はおそらくちーちゃんと同じくらいあると私は思ってる。君に邪魔されると流石に束さんも困ってしまうんだよねぇ」

「……テロ行為を知っていながら黙認しろとは随分なことを言いますね。ところでそれは亡国機業も絡んだ話ですか?」

「亡国機業は関係ない話だよ。元々私は亡国機業に興味なんて無いし、最初っから協力するつもりもないよ。興味があるのは亡国機業の一員になっている織斑マドカだけだよ」

「織斑マドカ?あの黒騎士のパイロットのことですか?」

 

あの織斑先生に似た雰囲気のパイロット、やはり篠ノ之博士が絡んでいたのか。

 

「そうだよ。私が協力したのはあの子の機体を開発したことだけ。亡国機業なんかにはこれっぽっちも興味はないんだよ。それでもアメリカを狙うのは私が宇宙へ行くために必要なことだからだよ」

「……別にアメリカが狙われようと俺の知ったことではありませんね。それに宇宙進出を実行する人が増えるというのであれば、俺としてはむしろありがたいことだ。ただ、IS学園に被害が出る、という場合は話は別ですよ?」

「ああ、IS学園には被害を出すつもりは無いから安心していいよ。箒ちゃんやいっくんもいることだしね。今回のターゲットはアメリカ国内だけに絞るつもりだから」

「……俺がそのアメリカ襲撃を止める理由はありませんね。どうぞご自由に、としか言いようがありません。俺は世界を守るヒーローではないですし、別段アメリカに思い入れがあるわけでもないですからね」

「話が早くて助かるねぇ。あ、あとついでに聞きたいことがあったんだ」

 

篠ノ之博士が椅子から立ち上がると無表情になってこちらを見つめてきた。

 

「君はちーちゃんといっくんのこと、どれくらい知ってるの?」

 

それは先ほどまでとは違う、冷たく、怒気を含んだ声だった。

俺はその声色の変化に思わず眉をしかめる。

 

「織斑先生と一夏について、ですか?特に何も。先生と友人という関係以外何もない、ただそれだけですよ」

「……そう、それならいいんだ。ちーちゃんには気を付けてね。それじゃ私は帰るよ」

 

俺は再び指をパチンと鳴らして座標操作を発動させると、自分と篠ノ之博士をIS学園の自室へと戻す。

 

「ここまで戻ればあとは自力で帰れますかね?」

「うん、大丈夫だよ。……それにしても本当に便利な能力まで持ってるねえ。それは君の努力の証かな?」

「まあそういうことです」

 

そう言って振り返った先にはもう誰も残っていない。

俺の座標操作もチートじみた能力だが、やはり篠ノ之博士という存在には敵わないな、と思うのであった。

 

 


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