インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■ダイ・ハード(1)

専用機持ちたちが各自部屋に戻ってから数時間後、俺たちは再び生徒会室へと招集されていた。

そこには現在IS学園に残っている専用機持ちたちだけでなく、織斑先生と山田先生に加え、現役日本代表のISパイロットである芙蓉巴も出席していた。

 

「よし、みんな集まったな。ひとまず先に紹介しておこう。知っている者のほうが多いかもしれんが、日本代表ISパイロットの芙蓉だ。近頃のIS学園襲撃が多いことから無理を言ってIS学園警護の任についてもらうことになった。IS学園卒業の大先輩だ、みんな敬意を払えよ」

「皆さんこんにちは、芙蓉巴ですー。よろしくねー」

 

(((なんかのほほんさんをそのまま大きくしたような感じの人だ……)))

 

喋り方といいのんびりした雰囲気といい、のほほんさんにそっくりである。

その場にいた専用機持ちメンバーの多くは第一印象でそう感じ取っていた。

しかし、それでも織斑千冬の後を継いだ現役の日本代表であり、ISパイロットランキング4位の座につく実力者なのであった。

 

「さて、では本題に入ろう。散々ニュースでも報道されているIS無人機のアメリカ襲撃の件についてだ。現在の状況としては最悪、と言ってもいいだろう。ケープカナベラル基地が壊滅し、防衛していたアメリカ空軍とヨーロッパ各地から派遣されてきた援軍は壊滅。今のところ死者が一人もいないのことだけが唯一の救い、といったところだ」

「アメリカ軍にヨーロッパからの援軍まで壊滅って……まじかよ」

「相手はそれほどの戦力を持っているということか……?」

「それと篠ノ之。お前には少々辛い話になるが、このアメリカ襲撃の主犯が束であることがわかった」

「なっ!?」

 

俺は元々本人から聞いていたので驚くことはないが、そもそも大量の無人機をアメリカにけしかけることができる人間なんて、そもそも篠ノ之博士以外には考えられないだろう。

 

「……つい先ほど本人から連絡があった。なんでもアメリカの宇宙センターにある隕石がどうしても欲しかったらしい。執拗な追跡を止めさせる目的もあったらしいが、アメリカとしてはいい迷惑だろうな」

 

(宇宙センターにある隕石……?確か襲撃されていたのはケープカナベラル空軍基地だった……。そこから一番近い宇宙センターといったら、ケネディ宇宙センターか!)

 

ケネディ宇宙センターは俺とシオンが初めて出会った場所だった。

しかしそこにある隕石が必要だった、というのはどういうことだろう。

何かシオンと関係あるのだろうか――

 

「ただその途中で束が開発していた宇宙船を亡国機業に奪われてしまったらしい。おまけにその宇宙船にはレーザー砲も搭載されているとのことだ。それで現在軍事目的に利用されるわけにはいかないから、とこちらに救援要請をしてきたというわけだ」

「……姉さん……」

 

宇宙船、か。幸か不幸か俺の言葉は一応篠ノ之博士に届いたらしい。

しかしあの篠ノ之博士が宇宙船を強奪されるってどういうことだ?

当然のことだが、機械の知識や技術だって世界ナンバーワンクラスだ。

おまけに篠ノ之博士は織斑先生と渡り合えるほどの身体能力が高いとも聞いている。

一体どうやって亡国機業は篠ノ之博士から宇宙船を強奪したというのだろうか。

 

「それと、救援要請をしてきたのは束だけではない。国際IS委員会を通じてアメリカ政府からも救援要請が来ている。……もう動けるのは我々しか残っていないからな。海外に一時帰還している専用機持ちたちも合わせ、IS学園の総力をかけて助けてほしいとのことだ」

「そんな……」

「……俺たちしか、もういないのか?」

「……残念だけど、各国からの援軍はもう期待できないわ。全員ケープカナベラルの戦いで大破、戦闘継続は不可能との報告よ」

 

生徒会室に重苦しい空気が流れる。

アンジェラさんやリーズさんらもヨーロッパからの援軍として参戦していたはずだ。

それでも敗北した、ということは篠ノ之博士も相当な準備をしていたんだろうな。

 

「それで現在はケネディ宇宙センター付近で奪われた宇宙船を中心に、亡国機業のISが周囲を哨戒している状況とのことだ。今回の作戦は亡国機業の殲滅と奪われた宇宙船の奪還、ということになる。だが今回は束にも協力させる上、私も『暮桜』で出撃する」

「え、千冬ね……織斑先生も出撃するんですか!?」

「ああ。亡国機業にはアーリィがいるんでな。それにIS学園は山田先生と芙蓉が防衛についてくれるから私も安心して出撃できる」

 

織斑先生も出撃してくれるのか、それならば亡国機業が相手だろうとなんとかなるだろうか。

 

「……本当はお前たちに出撃させたくはないが、私一人ではこの作戦を成功させることは不可能だ。すまないが、協力してほしい」

「……俺は織斑先生を一人で行かせるつもりはないぜ!亡国機業の連中にいつまでもやられてばかりじゃいられないしな!」

「……一夏が行くのならば、私はそれについていくだけだ。紅椿はそのためにあるのだからな」

「あたしだって行くわ!舐められてばかりなんてゴメンよ!」

「お姉ちゃんは、行くの?」

「ええ、私にも行かなきゃいけない理由があるの。かつてロシア代表だったイリーナ・シェフテルが亡国機業にいるからね」

「……私も行くよ。少しでもお姉ちゃんの力になりたい」

「俺は最初っから行く気でしたよ。亡国機業が相手なら相手にとって不足ないですしね」

 

どうやら全員行く気はあるようなので一安心だ。

俺としてはそれなりに実力のある亡国機業の連中と遠慮なく戦えるので、むしろ願ったりかなったりというところだ。

それに、新しく発現した『超感覚』だって使いこなせるようにならなければならない。

そのための実戦訓練と思えば、なんてことはない戦いである。

 

「……全員出撃の意志はある、ということだな。すまないが今は一刻すらの時間も惜しい。すぐに空港へと向かうぞ」

「「「はい!」」」

 

 

俺たちが空港へ到着すると、そこには既にアメリカから招待状代わりの飛行機が待っていた。

 

「……織斑先生、アメリカ行きの飛行機ってこれですか?」

「……ああ、間違いないな。今日この空港から離陸準備ができているのはこれだけだ」

「でもこれって飛行機じゃなくて輸送機ってやつじゃない?」

「目的地であるケネディ宇宙センター付近は亡国機業の連中に制空権を取られているからな。近くまで運んでもらったらそのまま空から飛び降りてISを展開し、そのまま攻勢に移る」

「……スカイダイビングしながらISを展開するってわけか。俺、大丈夫かな……」

「大丈夫よ、もし地面に叩きつけられても絶対防御が発動するわ」

「お姉ちゃん、そこはうまく展開できるよと励ますべきじゃないかな……」

「空中から奇襲をかける、か。中々面白そうじゃないか。誰が一番早く宇宙船を奪還できるか競争でもしようか」

 

そうこう言いながら全員で輸送機に乗り込んでいく。

それにしても中は意外と広いんだな、早々輸送機に乗れる機会なんて無いし、今はこの状況を楽しんでおこう。

 

「全員乗ったな、ドアを閉めるぞ」

 

バタンと大きな音を出して重そうな扉が閉まると、体がふわっと浮き上がるような感覚と共に機体が浮き上がり、凄いスピードを出して空港から飛び立った。

 

「け、結構早いんだな輸送機って……!」

「う、うむ。絶叫マシンにでも乗っているかのようだ」

 

初っ端からかなりの速度を出しているようで、中に乗っている俺たちにもぐっと負荷がかかる。

ISを展開しているときはこれしきの速度で負荷は感じないため、中々斬新な体験である。

 

「目的地まではまだしばらく時間がかかる。全員、今のうちに休んでおけ。ヨーロッパ組も現地で合流することになっているから、到着したらしっかり位置確認することを忘れるなよ」

「「「了解!」」」

 

何度かこういった作戦を行ってきたおかげか、いくらか軍人のような性質が身についてきているような気がする。

それがチームワークスキルの向上に繋がっていれば良いんだが。

ひとまず俺はアメリカまで着くまでの間、目を閉じて体を休めることに集中するのだった。

 

 

ケネディ宇宙センター付近の上空ではオリジンに乗っ取られた宇宙船が待機していた。

その船内ではスコール率いる亡国機業の実働部隊『モノクローム・アバター』の主力メンバーが勢揃いしており、リーダーのスコール・ミューゼルを先頭にオータム、エム、レイン、フォルテと続いて通路を歩く。

また、今回はオリジンの命令により普段は別行動をしているイリーナに加えて、降ったばかりのアリーシャまでもが後方をついて歩いていた。

 

「中は結構殺風景ねぇ。束博士が造った宇宙船らしいけど、もうちょっと内装にもこだわってほしいものね」

「どうせ使用用途は空中移動要塞なんだし、機能さえまともでありゃいいんじゃねえか?」

「あら、中身っていうのは重要なのよ?使い勝手にだって影響するもの」

 

そう言いながら一行は宇宙船の中を歩いていく。

目指しているのは操舵室だった。

 

「お、外の風景が良く見えるな。ここが操舵室か」

「オリジンは……いないようね。遠隔操作でこの船のシステムをハッキングしたとでもいうのかしら?あの束博士相手に一体どうやったらそんなことができるのかしらね」

「操縦は自動操縦になってるな。……手動操縦にするのは流石に危険だからやめておいたほうがいいか」

「機体の操縦もオリジンが対応していると思うけど、大丈夫かしら」

 

スコールは周囲を見回すが、スイッチやらレバーやらがたくさんありすぎる。

うかつに触るのは危険と判断し、ひとまずは操縦席に座るだけにした。

 

「レイン、フォルテ。あなたたちは一応他の部屋も見回っておいてちょうだい」

「あいよー」

「了解っス」

「オータム、私はさっき見つけた休憩室で一休みさせてもらうとするサ。織斑千冬(ブリュンヒルデ)が来たら教えてくれればいいサ」

「あら、それじゃ私も一休みしていようかしら。後のことはスコールに任せるわ」

 

そう言うとアリーシャとイリーナも操舵室から出ていった。

 

「それでオータム。これからどうするんだ?」

「オリジンからの命令では最後に来るであろうIS学園の専用機持ちたちをその場で迎撃しろ、とのことよ」

「そうか、あの生意気なクソガキどもと最終決戦、ってわけか。腕が鳴るぜ」

「エム、あなたにも期待しているわよ?」

「……言われなくてもわかっている。織斑一夏は私の獲物だ」

 

IS学園のメンバーを乗せた輸送機が到着するまであと数時間――

今まさに亡国機業とIS学園の総力戦が始まろうとしていた。

 

 




完結まであと少し……がんばろう。


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