第1話 神殺しの片鱗
目が覚めた。いつもと変わらない朝になるはずだった目覚めだ。
「ふわぁぁ〜頭いたっ・・・なんか凄い静かだな、それにこの雑木林夜来た時より深くなってる?」
普段なら朝早いこの時間にも大勢の参拝客でそれなりに賑やかになるところだが、今は足音一つしないどころか人工物の音すら少なく不気味な程静まり返っている
「取り敢えず歩くかぁ。まっすぐ突っ切ればなんかあるっしょ」
仁井奈は、まっすぐに雑木林を歩く。所々に見えるお地蔵様や小さな祠が人間の存在を認めているが、一向に人に会う気配は無い。
「んー?これまたでっかいお社だなぁ。お、人だ」
突如雑木林を切り拓いたような場所に出た。その中央の辺りに大きな社が鎮座している。その周りに人が、まるでチベットの密教のように五体投地して集まっている。
「あのうすんません、ここってどこっすか?」
声を掛けた瞬間、集まっていたおおよそ20人が一斉に仁井奈の方を振り返る。皆一様に血走った40もの眼が仁井奈を睨んでいる。
「何だあれは?巫女さんか?」
「いやいやあんな巫女さんがいるか。」
「んだんだ。きっと物の怪の類だべ」
「んじゃどうする?殺しちまうか」
「ああ、供えちまおう」
非常に物騒な会話が聞こえる。一斉に立ち上がった人々の手には長い錫杖や木で模した剣が握られている。
「えぇと・・・そのお邪魔しましひぃ‼︎」
一番近くにいた男の木剣が容赦無く振るわれる。後ろに飛び紙一重で避けたが服の一部を斬られた。殺さなけば殺られる。そんな状況で仁井奈は、自分の人生を壊し続けた養父からたった一つ得た事を思い出す。
「いいか仁井奈。殺されそうになったら相手をぶん投げちまえ、んでもって相手の武器を奪え。てめぇは小憎ったらしいが死なれちゃ困る、何か戦う方法でも教えてやる」
向かって来た相手の腕と襟を掴む。そのまま全力の背負い投げ、相手を地面に叩きつけ木剣を奪う。そのまま腰を落とし顔より上に剣を構える。
「いいか俺の生まれた地方じゃこの剣がよく流行ってたんだ。てめぇは女だから無理なやり方かもしれんがこれなら今の時代じゃ負けねぇから死ぬ気で覚えろや。」
逆上し錫杖を振りかぶって来た男の頭上めがけて
「キエェェェェェェェェェェイ‼︎」
凄まじい叫び声と共に鬼の様な気迫を纏った剣を振り下ろす。後に堕落した神や妖怪たちに恐れられる剣になるとはこの時はまだ知る由もない。気にあてられ目の前の男はおろか周囲の男も金縛りにあった様に動きを止める。仁井奈の剣が脳天を叩き割る寸前に男は錫杖でそれ防ごうとする。
果たして男の太い錫杖は確かに仁井奈の木剣を受け止めたが、錫杖は派手な音を立て粉砕され男の脳天に叩き込まれる。
「ありゃあやり過ぎちゃったかなぁ?おーいおじさん生きてるかい?」
「なんじゃありゃ・・・」
「や、やはり物の怪じゃあ祟りじゃ‼︎」
男達は皆戦意を喪失し我先にと逃げ去って行く。
「喧嘩吹っかけて来たのはそっちだろうに・・・まぁいいか。いやぁ恐かったなぁ」
最後の1人が森に逃げ込んだのを確認してから改めて社を見る。デカイ、そしてボロい。
「こんな所に何祀ってんだろ?」
「祟り神だよ。変わった祟り神さ」
後ろからかけられたに底知れぬ恐怖を覚える。振り返ると先程抜けて来た道に一人の男が立っていた。法衣なのか和服なのかよくわからない服装の若い男だ。
「祟り神って言うと牛頭天王みたいなの?」
牛頭天王とは疫病を司る神でお釈迦さまの産まれた場所に因む祇園精舎の守護神とされ京都の祇園祭はこの牛頭天王を鎮めるお祭りである。
「まあそんなところだ。しかし変わったって言ったようにここの祟り神はちょっと特殊でな」
ふーんと興味無さげな仁井奈をよそに男は話し始める
「まず姿形は狐と蛇を合わせたような姿だ。大変気まぐれな性格で・・・」
違和感。何だろう肩から頭だけ出してこっちを見てる白い蛇は・・・
「その役目は・・・ヘックション‼︎ゴホッゴホッ」
ピョコっ・・・狐の耳?
「「あっ・・・」」
二人同時に声を上げ固まること数分ようやく口が開く。
「もしかして祟り神って・・・」
「はははっ・・・僕の事だよ」
目の前の男は爽やかに開き直って自分が祟り神だと認める
「ぎゃああああ‼︎祟られるぅ‼︎」
「いや祟らないから」
社へ向かって逃げる。
「く、喰われるぅぅぅ‼︎」
「僕はカニバリズムではな!」
社に入ったところで見事に転ける。それでも這って逃げようとする少女と誤解を解くために必死に弁解しようとする祟り神。
「お、犯される・・・」
「あのそろそろいい加減にして下さい・・・」
流石にいじりすぎたかな?祟り神ともあろう人が涙目になっていく
「ごめんなさいつい」
改めて目の前の自称祟り神を見る。色白ですらっとした長身。170cmの仁井奈を見下ろすことからだいたい180cm後半といったところか、白い髪は後ろで一本に縛っている、頭の狐の耳と胸元からこちらを見て舌を出している白蛇さえいなければ女性の波に呑まれるような美しさを放っている。事実女性である仁井奈も思わずうっとりとしてしまった。
「それでさっき言いかけた変わってるってどういうこと?」
「あぁそうだったな話が途中だった。変わってるっていうのは今僕が信仰を求めて人の世にいるんじゃなくてある儀式のためにここにいるんだ」
「ある儀式?」
「そうさ、この社は五角形になっていてこの大広間を含め六つの部屋がある。部屋にはそれぞれ四つの燭台が置かれているんだ。」
「五角形、六つの部屋、四つの燭台、5,6,4・・・ころし・・・殺される!?ひぃぃぃぃぃ!!」
「君はまじめに人の話が聞けないのか・・・」
怒られてしまった
「ごめんなさい、それでなんでそんなややこしい社なの?」
ぺろっと舌を出してあやまる。謝る気が無いのがわかっている祟り神もまったくとため息をつく
「まぁいい、その四つの燭台に火をつけるわけなんだが、この燭台は古今東西それぞれの地域に住まい人に害をなす神や妖を討ち滅ぼさない限り火が付かないんだ。これはある一定の信仰を集め1000年を生きたとして神の一人になるための儀式でもあるんだ」
「んーいまいち理解しきれないけど、成人式みたいなもの?」
「そこまで単純ではないが・・・まぁ君のいた世界でならそう言い表すこともできる。実は君をここに呼んだのは僕なんだ」
「えぇとそれってどう言う・・・?」
ごほんと咳ばらいをして祟り神は言う、仁井奈が神隠しにあった理由そして後に神殺しの名を冠することになるけって的な一言を
「僕と一緒に時代を巡って儀式を手伝ってほしいんだ」