学校に行くと、俺とリノが今度こそ仲違いをしたという事になっていた。あいつとは違うクラスだからそういう情報はフェオ伝いに入ってくる。心配そうに申し訳なさそうにしているフェオへと罪悪感が積みあがる。
しかし、まだ俺は逆転魔法の事も『惚れ魔法』の事も言えないでいた。
苦笑いで言葉を受け流して、久々の学食を食べる。フェオとの会話も弾まず、ロキには少しだけ勉強を教えて貰うだけの一日は終わった。
対して何も無い日は、案外リノの存在が無くても回るもんだ。
本来ならば、俺はここで逆転魔法を掛けた犯人、悪魔落ちを探すべきなのだろう。
だが、そのつもりは全く無かった。
この平穏で平和な日常を保ち続けたい。あいつとの騒がしい日々は、もう終わったのだ。悪魔落ちの掛ける魔法は通常の何倍も強いため、俺程度じゃあ何回『ディスペル』を掛けても逆転魔法は解けないし、何よりリノと顔を合わせる事すら無理だろう。
授業中に窓から校庭を見ると、長い金髪ストレートの少女が魔方陣を操っていた。魔法戦闘の授業だろうか。相手の男は、可哀想に『メテオ』を数発撃ちこまれている。
当たり所が悪ければ勿論大けが。勝敗が直ぐに分かり、黒板へと視線を向けなおす。
中間試験が近いからか、先生も生徒も段々とピリピリしてきていた。フェオすらも最近は俺との談笑を早めに打ち切って帰るし、ロキに至っては成績優秀者の為色んな人に勉強を教えている。今日も、どこかに集まって勉強をするらしい。
フェオとは同じクラスだが、ロキとリノとは違うクラス。
……今ほど、それが有り難いと思った事は無い。
一人で帰り道を歩きながら、石畳の地面をじっと見つめる。青い空に白い雲、晴れやかで爽やかな風が吹くような日だった。
学校が終わり、飛び出すように家へと向かう。フェオは長い付き合いで、俺の悩みやうじうじした事の相談に良く乗ってくれていた。
だからこそ、あいつは俺の今の姿を見ても何も言わない。寧ろ、態度を変えない。
家に帰っても勉強せず、授業には集中しない。挙句の果てにはクラスメイトの挨拶も無視する様な状態が、今の自分だ。どうやら、予想以上に休日の精神的ダメージは大きかったらしい。休み明けの今日、特に何も出来ないままに一日が終わった。終わってしまった。
端的に言うと、自分を客観的に見ても自分で見直しても、俺は腐っていた。
やる気が起きない。首に掛けていた鍵束を外して机に放り、ベッドへと倒れこんだ。
きっと今の俺じゃあ、目の前で誰かが酷い目にあってたとしても動かないだろう。
動けない、では無く動かない。自分にある力……魔法や、今までの経験。それらを全部使ったとしたら助けられる状態でも、きっと何もしない。
めんどくさかった。
何もかもが、全て色褪せて見える。中間試験の結果なんて目に見えている。
補修地獄が待っていると頭では理解しているも、体は動かない。この先にある事を、簡単に受け入れてしまっていた。何もかもを、諦めていた。
窓から太陽の光が差し込む。明かりがそれだけの部屋で、右手を天井に伸ばす。
……届かない。ただ虚空を空しく切るだけの右手は、あの時と同じように何も掴めないのだろう。
力を抜いて、腹の上に右腕を落とす。一回跳ねてから落ち着いた右腕の重みを感じながら、俺は目を閉じた。
何も出来ない。何も守れない。
じゃあやらないし、守らない。
――――簡単な、事じゃないか。