目と目で合図して、先頭は俺。最後尾はフェオ。真ん中に梓が入り、彼女は何時でも魔法が起動できるように右手を構えていた。曲がり角の度に用心深く周囲を見渡し、全方位を警戒しながら歩く。目指すのは外に張られた結界。
悪魔落ちが張ったであろう結界だが、まずは強度等を調べなければ策も立てられない。
転移魔法……ある事にはあるが、まだ使用は出来ない。魔法式も知らないし、何よりそれを使うのは軍の人間くらいだ。学生が使える代物では無い。
静かな校内を歩き、昇降口へ辿り着く。階段横の壁からそっと様子を伺うと、
(……三人、居る。それも左手に黒い炎を纏ってる……)
梓とフェオも気づいたようだ。眉を潜めて、これからの事に思考を巡らせる。
と、思いきや。
突然、フェオが魔力を放出した。壁の陰から相手を見ていた俺は、突然の魔力に肩を跳ね上げる。監視していた三人も魔力に気づき、此方へと虚ろな視線と左手を向けた。
「ちょ、ちょっと!? 何をしてるんだい!?」
「三人なら、行ける! それにあいつらは、そんなに強くない連中だろうし!」
フェオは右手と左手で同時に魔法を起動。魔力が展開、変換され二つの魔法が行使される。無駄に高度な技術を使用した彼は壁の陰から飛び出して、光の魔法を放った。
両手から飛び出した光の槍はかなりの速度で三人の内の一人に迫る。額を貫くかと思われた寸前、しかし左手の黒い炎が突如膨張し槍を弾いた。
「……あ、やばくね?」
呆然と固まるフェオへと、狙われなかった三人目が左手を向ける。
そして放たれる、とてつもない量の魔力。黒い炎が揺らめき、大きくなり、展開と変換が瞬時に行われる。フェオの防御魔法が間に合わない。お返しとでも言わんばかりに、光の槍が――フェオの打った奴の、威力三割増しで帰ってきた。
息を吸い込む、その時間でもう槍はフェオの眼前に迫っていた。目を見開く俺の後ろから、何よりも速く防御魔法が行使されて、槍を防いだ。
間一髪。50センチも無い槍とフェオの間に生成された薄い防御魔法の壁には亀裂が入っていて、今にも割れそうだった。
「う、うおおおお!?」
慌てて階段横の壁へとダイブするフェオ。一瞬前に居たその場所を、上級魔法と思われる巨大な炎と激流が通り過ぎていった。
熱風が頬を撫でる。熱さに歯を食いしばるも、直ぐに俺たちは元来た道を駆け戻る。
後ろは見ずに走り、開いていた教室に飛び込んだ。ドアを閉めて、すかさず梓がドアの窓を凍らせて中を見えないようにする。
そのまま呼吸を整えて、俺はフェオの頭をべちん! と叩いた。
「お前アホだろ! どうしてあそこで応戦したんだよ!」
「行けると思ったんだよ! ほらあるだろ、お菓子食べようと思ったら予想以上に固かったっての! あれだよ!」
「無い……いや、あるけど! 確かに歯が崩れかけたけど! 一緒にするんじゃねえ!」
「何が違うんだよ!」
「危険度だよ!!」
思わず言い合いになる。リノの一件で久しく忘れていた様な会話が繰り広げられて。
突如、凄まじい音と共に教室の壁が吹き飛んだ。顔を向ければ、見えたのは黒い炎を左腕に宿す三人。
……大声で言い合いをすれば、見つかる。それに今更気づいた俺とフェオは、焦りながら魔力を放出した。梓はイライラをぶつける様に魔法を起動、一瞬で2、3個の魔法が右手から放たれる。やっと一個目の魔法が起動し、風の中級魔法が右手から炸裂した。空を飛ぶ、渦巻く風弾。それは途中で三つに分裂。三人それぞれの元へと風弾が撃たれる。
俺の狙いは、倒す事では無い。攻撃は梓とフェオに任せ、弱い自分は相手を攪乱する。
風弾はそれぞれ三人の目の前に落ちた。次の瞬間、それらは破壊された壁の破片を巻き込んで小さな竜巻となる。
壊れた壁。それを中心に、教室内と廊下での魔法の打ち合い。
狭い範囲だからこそ、強力な魔法も当たりやすい。しかし、魔法式の展開を阻害する砂利を伴う竜巻。……小さくとも、それは確かに邪魔となった。
「ナイス!」
フェオが俺に声を掛け、同時に威力の高い炎の中級魔法を起動。
梓も右手を向けて、無数の水の槍を作り出した。貫通力に優れる一撃だ。
攻撃魔法が展開されて、相手に防ぐ術は無い。俺も追撃の魔法を起動し、構えた。
――――その時。
「『メテオ』」
凛、とした声が聞こえた。廊下の奥から聞こえた声は、聞き覚えのありすぎる声。
刹那。廊下を、赤熱した魔力の塊が貫き、粉砕し、消し飛ばした。
『メテオ』。最上級の攻撃魔法は、三人を一蹴した。パラパラと崩れる校舎の外壁。魔法を中断した梓とフェオは、まだ警戒を緩めない。
……が、この学校で『メテオ』を使える人間なんて数少ない。声からしても、該当者は一人だけだった。
崩れた壁の向こうから、ひょこりと顔が出される。長い金髪が見えて、此方を見ていたのは、案の定……。
「り、リノさん!?」
フェオが叫んだ通り、リノ・クェーサーだった。