……暫くそこに立ち尽くす。リノが居なくなった夕暮れの校舎裏で一人、呆然と地面を眺め続ける。
今までずっと一緒に居た。のに、まさかそんな風に思われているとは知らなかった。
いつからだろうか。姉と俺とリノで遊んでいた時から? 初めて会った時から?
つまりは今までの一緒の登下校もお弁当を作ってくれてたのも嫌々だったのだろうか。そうだとするならば、俺は迷惑しか掛けていない。口ではリノに好かれていないと言いつつも、心のどこかではやはり期待していた。自分の理想の未来が現実になると半分くらいは思ってしまっていた。
根本的に間違い。フェオとロキの言葉が脳内でぐるぐる渦巻き、空を見上げれば太陽は沈んでいる。藍色の空に覆われて、端っこが少し赤く燃えていた。
夜空……と言っても差し支えのない空を見上げて、手を伸ばす。輝く星々を右手で掴むように動かすも、勿論何も変化は無い。
星と言えば、今日は星屑の鍵と古代魔法をやっていた。
最強の魔法と謳われる古代魔法。これらは全てで12個だ。
その古代魔法一つ一つに対応した鍵がある。これが星屑の鍵。金色に輝く物らしい。
封印を解く星屑の鍵によって放たれる古代魔法。一つの鍵に一つの魔法。それらは余りにも強力なため、現状世界で上から十二番目の勢力を持つ国が一つずつ持っている。
この王国にも一つあった筈だ。そう、確か一個目の古代魔法だったか。
……古代魔法は現代の魔法とは一線を画す。失われた技術を全て込められた魔法だから、今のよりもずっと威力も高い。消費魔力も高い。
でも。
沢山の人が憧れる古代魔法でも、俺はそれを――――
とても、忌々しく思う。
☆★☆
「「ふ、振られたああああああああああああああああああああ!!!???」」
図書館にはまだフェオとロキが居てくれた。結果はわかってるぜ、とでも言いたげに笑顔で寄ってきた彼らは、俺の報告に全力で叫ぶ。
「うっそ! えっちょっまうっそ!! お前何したの!? この短時間で何したの!?」
「信じられないよ……本当にか……僕は成功するって思ってたけどね」
折角綺麗にした図書館を走り回るフェオ。
呆然と頭を掻くロキ。
埃臭く、魔法で付けたのであろうランプだけが頼りの暗い図書館。フェオ一人だけが世界の終わりみたいになっている中で、決して傷の浅くない俺も地面に座り込んだ。
「うがあ……きつい……」
「あれ。じゃあ、結構まずくない?」
突然、立ち止まったフェオが呟いた。腕を組みながら、首を傾ける。
「今までさ、リノさんにはセベットって言う壁があったんだよ」
「何の壁だよ」
「男除け。ほら、美人だし成績も良いしなあ。今まではお前という夫が居たから大丈夫だったんだけど……ああ、明日はきっと荒れるぜ」
「そうだね。僕もそれは思ってたよ」
ロキまで同意して、フェオは大きく頷いた。
「明日、男子はここぞとばかりにリノさんへアタックするだろう。……そこでリノさんが幼馴染でもないポッと出に取られるかもしれない」
ずしん、と心に重く圧し掛かる事実。その未来は、その可能性だけは考えたくなかった。一番俺にとってキツイことだからだ。
「それはだな。その、友人から見てると辛かったりもする。セベットとリノさんは仲良かったしな」
「クェーサーさんもセベット君も、通称夫婦だったからね。……うーん、どうして嫌われたんだろう……?」
フェオが言い、ロキが補てんする。
地面に座って俯く俺を、誰かが軽く叩いた。顔を上げれば、二人がそこに立っている。
「良いか、セベット。お前はリノさんに嫌われた。が、お前はまだリノさんが好きか?」
「……うん」
「本心からだよな?」
「勿論だ」
「それなら話しは簡単だ。お前は、頑張ってリノさんに惚れてもらうんだ」
強い口調のフェオ。言っている事の理由を噛み砕いて吸収していく内に、俺は段々と顔が青ざめていくのを感じる。
「ちょ、ちょっと待て!? それってあれだろ、振られた相手にもう一回アタックするんだろ!? 俺の精神ダメージがもう計り知れないんだけど!」
「リノさんが他の男に取られても良いなら何もしなくても良いと思うぜ? だけど、お前が嫌だと思うなら少しでも努力は出来るんじゃないか?」
「……セベット君。僕は、ちょっと責任を感じてるんだよ」
「俺もだ。お前を、急かしすぎたかもしれない。俺たちがお前らを煽りすぎたのかもしれないってさ」
二人の言葉に、心が震えた。
そして、遂に言い出せなくなる。『惚れ魔法』を当てた事を。それが原因かもしれないのに、言えなくなってしまった。
「だから、俺たちが協力する。お前とリノさんを夫婦にしてやる!!」
フェオの力強い宣言。
ビシイッ!! と彼は俺へと人差し指を突き付けて、声高らかに響かせる。
「取りあえず今日は! 作戦会議も込みで俺とロキの奢りでどっか行くぞ!」
「そうだね。今日は出すよ!!」
盛り上がる二人。取り残される、俺。
二人への隠し事を胸に、ごくりと生唾を飲み込んだ。
どうやら、これからはもっと波乱万丈な毎日が待っているらしい。他の男子全員含めて、その中から一番にならなければならないのだ。
……やるしかない。
フェオとロキが頑張ってくれると言っているんだ。俺も、頑張るんだ。
抱え込んだ罪が、また一つ増える。幼い頃の記憶が脳に少しだけ出てきて、それを無理やりに押しとどめた。
思い出したくもない事は、総じて覚えていてしまう。
それが例え、実の姉と父の死に際でも。星の綺麗な、夜だった事まで覚えていた。
フェオとロキの後を追って、図書館を出る。蝋燭のランプを消して、校舎を出て向かうのは町。親の殆ど帰らない家に連絡は必要ないだろう。
無意識のうちに、俺は魔力を放出。展開、変換を魔法式の通りにして通信魔法を発動させていた。……リノに連絡する必要は……。
無いだろう。そう思い、俺は通信魔法を中断させる。
幸い、財布にはまだお金がある。今日は、やけ食いでもしてやろうか。