星の鍵は、次第に泥に塗れていく。暮石も、俺も、雨が濡らしていく。
何も守れなかった。……リノも、サータも、父も。結局俺は、ただ単に何も罪を償えてなんか居なかった。
――――サータを殺した事を、星の鍵を持ちつづける事で償える何て事は無い。
彼女の言葉は、何よりも鋭く突き刺さる。人殺しの罪を、その道具を持ち続けて使わない事で背負っていると思っていたのに。一生をかけて、償えると思っていたのに。それは叶わないんだ。
……何も守れない。
リノ・クェーサーの言葉が、脳にこびりついて消えない。
その言葉は、俺がずっと逃げてきた言葉だったから。自分が弱い事を理由にして、ずっと顔を背け続けてきた。あの日、傍観しているだけしか出来なくて。それなのに、父から託された星の鍵で、人を殺してしまった。
あの時の感触は、今も右手に染み込んでいて、離れない。
まるで、それは呪いの様に。
結局あの時も今も、俺の力が足りないせいで全てが崩れ去ってしまう。弱い自分が、殺したい程に憎らしい。それでも自殺する勇気が無いから、今までのうのうと生きている訳だけど。
どこかに居る悪魔落ち。逆転魔法に掛けられた『惚れ魔法』。
何かが、何処かで、どうして、狂った。誰なんだ。俺の日常を崩したのは。
いや――――原因は、全部俺にあるんじゃないのか。
誰かが、じゃなくて。何も変える事が出来ない自分が、自分こそが全部の元凶で。あの時だって、傷つけられるリノをただ見ているだけじゃ無くて。もしも、もしも強かったのならあいつを守れたかもしれない。姉を、救えたかもしれない。父も、命を落とさなかったかもしれない。
悔やむ思いが、堰を切ったように溢れ出す。曇っている天を見ていると、雲の隙間から差していた太陽の光は、風に流れた雲によって塞がれた。
光が消える。暗く重たい、灰色の空が世界を覆う。
ただ一人、雨に濡れる中で。やがて足音がして、俺の傍で立ち止まる。地面に落ちている星の鍵を拾った人物は、泥を自分の服で迷いなく拭った。
そして破れた紐を俺の首に巻き付けて、魔力を展開、変換する。
瞬時に起動する魔法。それは千切られた紐を直し、チャリンと首に鍵が掛かった。
ずっと上に向けていた視線を、下ろす。前に立っていたのは、傘を差している女の子だった。
青い瞳に、黒髪のショート。王国の人は大体が金髪か銀髪だから、黒髪は珍しい。
確か、東洋の種族に多かったはずだ。その国も、星屑の鍵を持っていた筈。
「……風邪引きますよ! 雨に打たれてても元がダメならカッコよくないので止めた方がいいと思います!」
「あー、うん……そうだね」
「どうしたんですか、傘忘れたんですか? なら家に来ますか、お姉ちゃんの傘上げます!」
俺より大分身長の低いこの子は誰だろうか。
完全に初対面の筈だが、どこかで見た事がある気がする。学校に居たか……?
「いや、良い。……うん、じゃあね」
「待ってください! 風邪引きますよ!」
「大丈夫。俺は頑丈なんだ」
弱弱しく笑って呟く。
しかし、この子は真面目な表情で叫んだ。
「ばかは風邪引かないんですよね!!」
「うっせえ!」