さて、とんでもない人が降って来たクマ。
なぜ急に……しかも空から?
超弩級戦艦なのに、行動力も桁違いだニャ。
「はっはっは、最高の気分だ!」
----------------------
新「艦娘」グラフティ
:第1話<武蔵着地>
----------------------
「あっはっは」
夜の美保鎮守府の上空からは、先ほどから超弩級の笑い声が響く。
「あ、あれは?」
「ひゃあああ」
夜空を見上げて慌てふためく歩哨の艦娘たち。五月雨に朧……無理もない。輸送機が通り過ぎた夜空から、いきなり超弩級の武蔵様が降ってくるのだから。
なぜ降下中の武蔵様が笑うのか? そこは『超弩級』の名に相応しくダイナミックな行動に自ら血が騒ぐのだろう。
落下傘をつけた戦艦武蔵が空から降りてくると言う構図からして尋常ではないのだが、それがまた板についてしまうのも彼女らしい。
「撃っちゃダメクマ」
自分は『ダメクマ』ではないと思いながら叫ぶ球磨。
既に五月雨たちは腰を抜かして、それどころではない。もっとも彼女たちが撃とうとしても武蔵様が事前に美保のネットワークに介入していて、この広場周辺への攻撃は予め規制されていたから不可能なことだが。
「にゃあ!」
この多摩の叫びは特に意味はない。
騒ぎを聞きつけた艦娘たちもパラパラと宿舎から出て来ている。索敵機の妖精さんから報告を受けながら利根が腰に手を当てて言う。
「あれは武蔵じゃな」
「まあ……見れば分かりますね」
傍らの筑摩が苦笑している。彼女の言を借りるまでもなく遠目に見ても夜空から降りてきているのは明らかに武蔵様だと分かる。それがたとえ特殊スーツを着ていてもだ。
「あのスーツ、欲しいな」
これは川内。
神通が応える。
「まあ……あんなの着なくても、あなたは十分よ」
「ねえねえ」
これは那珂ちゃん。
「撃たなければ何しても良いんだよね」
神通が振り返ると、那珂ちゃんは探照灯を手にしている。もう片方の手にはなぜかハンドマイク。
やや苦笑気味に神通は応える。
「そうね……一斉に照らしましょうか」
そう言いながら彼女も懐から探照灯を取り出した。
別に敢えて照らす必要はないと思うのだが、気がつくと四方からライトを浴びながら悠然と降りてくる武蔵様だった。
「皆さぁん、さあ。今日の美保鎮守府はとっても素晴らしいゲストをお迎えしまぁす!」
……よく分からないMCである。
「わーい」
割と能天気な第六駆逐隊の艦娘たちも手を振っている。今は、ある種の『非常事態』だから起きだして来ることは軍としては悪いことではない。
「いつも寝坊しているのに……」
寝巻き姿で寮の前に出て来ている彼女たちを見ながら大淀は苦笑した。行動の速さでは定評のある彼女は既に制服に着替えていた。
ふと見ると窓から指差しながら覗いている子も居る。これが外部からの侵入者なら、こんなにノンビリした対応は出来ないだろう。
さすがに眩しいのだろう。空中の武蔵様はサングラスにかけ替えていた。それがまた特殊スーツと相まって妙に格好が良い。そんな彼女は何を思ったのか空中で堂々と手を振っている。
「わあ」
電チャンや吹雪は感嘆の声を上げている。
「はっはっは、最高の気分だ!」
そんな声が聞こえてきた。もちろん武蔵様だ。
でも、こういった状況で脚光を浴びて気分が高揚するのは、やはり戦艦か正規空母以上の艦娘だろう……大淀は改めてそう思った。
巡洋艦以下の艦娘は、そもそも支援が主だ。ましてや潜水艦に至れば『脚光』を浴びないことが『栄光』なのだから。
実際の時間は数分もなかったのだろうが、その場に居る誰もが長く感じただろう。何しろ相手は武蔵様。もちろん彼女はまだ美保には着任していない。
しかしブルネイでの出来事を始めとして時代を超え美保司令とは何らかの因縁を感じさせる艦娘でもある。それは武蔵本人だけでなく美保所属の誰もが感じていることだった。
「司令ご夫妻、到着します」
いつの間にか霞ちゃんが受電していた。
「ありがとう」
大淀は、この子も成長したなと思いながら応えた。
「じゃ、ちょっと後をお願いしても良いかしら?」
頷く霞を見ながら大淀は指令室を出た。
鎮守府本館から正面ロータリーに出ると、ちょうど司令夫妻と寛代がM-ATV装甲車で到着したところだった。
今日のドライバー兼護衛は不知火と時雨。最初に時雨が降りてドアを開ける。
降り立った美保司令に大淀は敬礼をした。
「司令……」
「ああ、あれには驚いたよね」
彼は敬礼をしながら苦笑した。
「まあ、武蔵らしいといえばそれまでだけどね」
そういう彼は嬉しそうだった。また続けて降りてきた寛代も何となく喜んでいるように感じられた。
『武蔵、着地』
無線が全体に流れた。本人の無線音声だ。
大淀は直ぐに指令室に回線を開いた。
「霞ちゃん? ……広場に武蔵さんが着地したから有志のメンバーでサポートを……ええ?」
驚く彼女に寛代が親指を立てて笑っている。
「?」
不思議な表情の大淀に祥高が言った。
「ゴメンネ大淀さん、寛代から駆逐艦向けの周波数で広場の近くのメンバーに武蔵さんの補助を依頼してたの」
申し訳無さそうに言う副司令に大淀は「いえ……」と苦笑しながら返した。
広場に着地した武蔵に周りから美保の艦娘たちが駆け寄って補助に入る。そのほとんどは駆逐艦娘であるが有志ということもあって、ある者は制服、また別の者は寝巻きや体操服と言う状況だった。
「まるで運動会の出し物みたいね」
その様子に祥高は笑った。
「運動会か。懐かしいな」
司令も同意している。
「うちも艦娘が増えたからな、ウチでもやりたいものだな」
なぜかまったく別の話題を振る司令。余裕である。
運動会と言えば海軍の伝統行事だ。今、司令が呟いたように美保で訓練はするが大規模な運動会と言うのはご無沙汰だ。
イベントをするには艦娘の人数が揃わないことと、所属しているのが駆逐艦娘がほとんどという特殊事情もあった。
広場では周りから来る艦娘たちに一瞬、驚いた武蔵だった。
しかし直ぐに状況を把握したらしく艦娘たちに落下傘の金具を外したりスーツを脱ぐのを任せていた。
「でもなぜ今、武蔵さんが?」
大淀は不思議だった。事前に公文が流れていれば必ず目を通していたはずだが。もちろん通信記録にはそんな形跡はなかった。
「そうだな」
司令夫妻も知らないはずだったが、以心伝心とでも言うのだろうか? この突然の来訪者にも、さほど驚いていないようだった。
もちろんブルネイでの演習を始めとして美保司令と武蔵との縁は誰もが知っていることだ。それでもなぜ武蔵か?
理屈を超えた『縁』という繋がりが発生するプロセスについては大淀にも不思議に思えるのだった。
そんな彼女の気持ちを察したのか美保司令は言った。
「大淀さん、頭で考えても分からないよ」
「はぁ」
ちょっと困惑する彼女に副司令も言った。
「理屈を超えた世界とでも言うのでしょうか……貴女も知っている通り、戦艦級の艦娘ほど感情や洞察力が深くなるわ」
「はい」
まだ困惑している大淀に祥高は言った。
「良いのよ、別にそれでも。そんなことで艦娘の優劣が決まるわけではないし、むしろ形式に不釣合いな感情を持つと、かつての大井のように暴走することもあるから」
「……」
口には出さなかったが、その説明でようやく腑に落ちたような気持ちになった大淀だった。
「ほら来たぞ」
司令の言葉に顔を上げると、島風に付き添われた武蔵がこちらに歩いてきた。
------------------------------------
※これは「艦これ」の二次創作です。
------------------------------------
サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
最新情報はTwitter
https://twitter.com/46cko/
------------------------------------
PS:「みほちん」とは
「美保鎮守府」の略称です。