発表聞いたときはまじでなきました。叫びました。
ファミレスの一角。四人用のテーブルを二人で挟み込むようにして座る男女がいた。流麗という表現を用いて余りある金髪を持った女性と糸のような柔らかい金色の癖毛が無造作にはねている中性的な少年。
片方は鼻歌まじりに会話を持ちかけ、片方は返事どころか相槌すらうたず目の前のアイスコーヒーをストローで吸っていた。
「……それで言ってやったの。ラブレターは自分で渡すものよ? お嬢ちゃんって。でもその子、お父さまに相手の男のコと会うなって言われてるらしくて、涙を流しながら縋り付いて何度も何度もお願いしますって言ってきたの。その女の子可愛いかったし涙目上目遣いで抱きつかれたからもうお姉さんびちゃびちゃよ。それでーー」
ペラペラペラペラとよく話が尽きないなと思わず関心するレベルでマシンガン下ネタトークを連発する
(何がびちゃびちゃだよー。この変態は)
「もぉ……さっきからボケてるんだから、早く突っ込みなさいよ。甲斐性なしねぇ」
そう。例えツッコミが突っ込み(意味深)に聞こえるからってツッコんでは姉からしたら突っ込んでることになるからツッコんではいけないのである。……何を言っているのだろうか。
「焦らしプレイが終わったらいつでも来なさい。もう準備完了よ。期待してすごく大きくなっちゃってるわ」
多分(ツッコミを)期待して(ボケが)大きくなってるとかそんな所だろうけど口に出しちゃいけない。絶対に口に出してはいけな──
「ほら早く口に出しちゃいなさい」
そんな彼の内心の葛藤を知ってか知らずか、完璧なタイミングのオリアナの発言に、流石の彼もどうしようもなかった。楽しく話すには
ボケられたらツッコむのは条件反射というわけで、
「……──ッッなんでやねーん!!!」
騒々しい店内を静寂が包む。
前には今までに見たことないほどの笑顔を浮かべた姉。
此方を注視する周囲の目。
引きつった顔で此方を見る店員。
「相席をお願いしてもよろしいでしょうか」
「……はぃ」
断ることはできなかった。
***
「もう……相席くらい鷹揚に応じなさい。余裕のある男のコはモテるのよ?」
「だーから気をつかってドリンクバーも汲んできてあげたでしょー」
「それがコミュニケーションを放棄してるってことなんだけど」
「いや会話だって……少し……しただろー」
「小さじ一杯分くらいね。まあ内容は評価してもいいけど……女の子ばかりでカチカチになってて可愛いかったわ」
相席をつつがなくこなし(たと思い込んで)、魔術師は店を出た。
会計を押し付けて走ったのだが、何食わぬ顔で隣を歩いている姉はやはり一流の同業者だ。
「そ・れ・に。きっとあの子たち勘違いしたわね」
「何をさ」
「あなたが女の子だって」
「なっ!?」
レオナルドの整った童顔は儚げで人形の様で、少しウェーブのかかったふわふわの金髪は陽光を反射してまぶしくひかり、きだるげな右目の三白眼の蒼い瞳は吸い込まれそうな怪しい魅力を放っている。
(これで男だっていうんだから詐欺にもほどがあるわ)
時折、姉であるオリアナでさえ本当にツいてるのかと勘違いするほどだ。
「……いや、いやいや、僕が女の子に間違われることはよくある、というかさっきあったけどー……それはあの男どもが飢えた獣だったからで」
「あら、あなたはもっと鏡を見たほうがいいわね。鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだぁれ♪ってね」
「そうですね。あの物語は広く普及していますし十字教との親和性も高い。世界を範囲として鏡に問いかけるという印象的なワンフレーズを神殿形式で再現した場合、神の子などの絶対者と問者を用意すれば簡単に」
「レオ、あなた相変わらずそればっかりね」
「姉さんこそ相変わらず、存在自体がセクハラですね。出家して一生仏門に下って禊を済ませてください」
「私の業は一生程度じゃ落とせないわ」
「……めんどくさー」
「面倒な女の子は内側から突き崩すと簡単にメロメロに」
「そういうとこだよー」
なるほど、姉弟である。
「それで……姉さんが僕に何の用ですか」
「つれないなー、用がなければ弟にも会っちゃいけないの?」
「…………」
至極正論である。
「ここは日本よ? 家族水入らず、お話を決め込むのもジャパニーズじゃないかしら」
「適当言わないでください。なんでもかんでも
「うん、でもそれ
至極正論である。
「くっ……ぼ、僕は仕事中なんですー。用事がないなら後にしてください」
「ひどく今更な言い訳だけど」
そう前置きをして、
「……まあ用ならないわけじゃないのよ」
そして。
沈黙。
いくら国際化の進む学園都市といえど、美形の金髪二人組は目立つ。
先導するオリアナは人目を避けるようにして大通りを抜け、裏路地を抜け、丁度周囲に人気のない倉庫に差し掛かったあたりで彼女は言った。
「おじいさんは元気かしら」
単語帳を握る姉を見て、なんでもない口調で彼も答えた。
「うん。元気すぎるくらいだよー」
二人の言葉は何かが足りていなかった。
二人の間では共通の認識があって、他者の介在を許さない。
姉、弟。
それは姉弟らしく、家族らしい物言いだった。
「見せて」
「うん」
「元気ね」
「うん」
「立派よ」
「うん」
そして。
決意を固めたように弟を見て、姉は言った。
「お互いの仕事が終わったら少し話しましょう。きっと良いことがおこるわ」
優しい、非常に優しい顔で姉は笑いかける。
弟は小首を傾げて疑問を表すも、頷いて了承の意を示した。
「じゃあ全て終わった後でまた会いましょう」
***
数え8つで大学教育レベルの知識をおさめ、9で最先端の数学理論を学び尽くし、10になるころ家には各国の研究者が入り浸るようになっていた。
そう考えると頭が良いなんて言葉では言い表せないかもしれない。
ジョン・フォン・ノイマンの再来、現代のレオナルド・ダ・ヴィンチなんて偉人の名前を引用するのが弟を表現するのによく使われる。
そんな風に周囲はよく持て囃すが、弟は別に数学を極めたい訳でも物理学で世界を変えたい訳でもなかった。
空を飛びたかったのだ。
自然が好きで、風が好きで、木々の香りが好きで、そして空を見ることが唯一自由な時間にすること。
弟は鳥になりたかった。弟は空に焦がれていた。
……弟は自由に憧れていた。
だから弟はその優れた頭脳で空を目指した。
飛行機だとかロケットだとか、そういう窮屈なものではない。
望むだけの自由さを持つ、まさしく鳥のように空を飛ぶことを目指していた。
だが科学は弟を見放した。
弟自身の頭に設計図があっても周りがついてこれない。
飛行するためのエネルギーだとか機構、構造は論文にして提出だってした。でもわからないのだ。
何故その形がその結果を生むのか、現代の科学者では弟についてこれなかった。
現代科学ではソレを再現するのは難しかった。
それだけの話。
どれだけ優れた論も認められなければ意味がない。
それでも弟は懸命だった。
先祖の考えたヘリコプターに似た機構をベースとし個人で空を目指した。
何度も何度も何度も練り直した。小型化、軽量化、アイデアは無限に湧き、理論上の飛行可能なところまできた。
やはり弟の才覚は本物だった。
だが、壁にぶつかる。
いくら案があろうと予算も足りず、人手も足りず。
弟は個人の限界まで、行き着くところまで行き着いてしまった。
結論として、弟はまだ子供だった。図に乗っていた。自分にできないことはないと。
協調性、弟にそんなものがあれば少しは変わっていたかもしれない。世界でAとされているものをBと書く、それでは理解されないのも当然のことだった。
結果は明らか。
弟の夢は頓挫した。
弟は段々無気力になっていった。
科学者たちの面会を断り、勉強も辞め、何もかも放棄する弟。
そんな弟の在り方が変わったのは本当に偶然で。
あるいは奇跡のようなものだったのかもしれない。
ーー見た。
空を自在に飛び回る人間を。
どこまでも自由で自適な人間を。
その人はたまたま通りがかっただけで、何もしていない。
偶然その人が強力な阻害術式を物ともせず空を飛ぶ人で、偶然弟の視界を横切って、偶然人に見られるくらいまで高度を落としていただけ。
科学ではない。魔術。
その存在に弟は初めて邂逅したのだ。
弟はまた活発に活動し始めた。
幸いにも家は熱心な十字教徒だった。望めばある程度の神秘には触れられる環境だった。
毎週通っていた教会を足掛かりして魔術にふれれば、そこからは簡単だ。
ローマ正教の本職魔術師と話す機会を得たり、弟の憧れ、あの空を飛ぶ人の情報だって調べ上げ。
今までのコネを使って世界の秘匿された蔵書を読み漁り、神話、歴史を紐解いて宗教に浸り。
ああ、でも、世界は甘くなかった。
どうしようもないほど科学に愛された弟では、魔術を受け入れることができなかった。
神話を理解しても細かいところで理論的になり、歴史を科学から切り離して考えるのは難しく、宗教は元から懐疑的であった分余計にうさん臭く感じた。
魔術は本来才能のない人間が少しでも天才との距離を詰めようと洗練されたもの。
才能にあふれる弟はついぞ魔術を習得することができなかった。
ああ、バカだった。
本当にバカだった私は。
先祖の倉庫で見つけた地下室にあった、本。
当時の私はすでに、弟を手伝う中で魔術のなんたるかを相当深いところまで理解していた。
いや、幼い自分はわかった気になっていた。
中途半端に知っていたせいで。
それが魔術の深淵が記されたもの、とだけ認識していたせいで。
それが弟のためになる、と優しさまで持って。
私はその本を弟に渡した。
それが親切な行いだと、人のためになることだと最後まで信じて疑わずに。
***
「──お前はどちらを選ぶ、オリアナ=トムソン。一回失敗したからって全てを他人に任せておくのか。たとえ失敗しても、その失敗した人達にもう一度手を差し伸べてみるのか!!」
上条の拳が飛ぶ。
オリアナの想いを超えるほどの決意がその全力を破り、吹き飛ばす。
──お姉さんは、間違ってたのかしら……ね。
宙に浮かぶ身体と思考で考えて、衝撃と共にオリアナは意識を失った。
かくして、オリアナ=トムソンによる「
黒幕であるリドヴィア=ロレンツェッティもまた、様々な想いによって逃亡を余儀なくされる。
上条当麻の長い一日もようやく終わろうとしていた。
「あー痛てて、今回も随分ボロボロになっちまったな」
「ふん、普段不幸不幸と嘆いているくせにキミの悪運だけは人一倍だな」
「まーカミやんは不幸にも巻き込まれる前提で悪運強いだけだからにゃー、この後銀髪シスターとかにどやされて不幸だーと嘆くまでがテンプレですたい」
「うわーやべえよどうしよインデックスのこと完全に忘れてた噛みつきフルコースだ毛根の危機だー!!」
上条、ステイル、土御門の血まみれ三人組はフェンスの前で大の字に横たわりながら会話をかわす。
大覇星祭のナイトパレードの光で明るく染まる空を見ながら、最近冬に近づいて冷たくなってきた風を受けると身体の熱も少しずつ冷えていった。
もう動きたくない。
どうせあれだけ派手にやったのだ。すぐに
逃げるだけの気力もなし、保護されて病院に運ばれれば後は流れだ。
そう思って上条がため息をついた瞬間だった。
「あー、でもまだ気はぬけないようだぜ」
「え?」
土御門の言葉に、遅れて上条もそれを目にする。
それはナイトパレードの光で見えなくなったはずの星々のようだった。
それは流星の様に尾を引いてこちらにむかってきていた。
それはとんがり帽子を被り箒に乗って飛翔する魔女そのものだった。
幾ら魔術に明るくない上条でも察することができた。
それが魔術師であると。
ドガンッ!! と激しい音を立てて魔術師が着地する。
コンクリートが割れ、粉塵が宙を舞う。
「大丈夫?」
魔術師はオリアナの前に膝をついて何事かを呟いているようだった。
オリアナが気絶しているだけだと確認して、丁寧に顔の汚れを拭く。
ゆっくりとオリアナの体を寝かせると魔術師は上条達のほうに歩いてきた。
明確な敵意を持って。
「やる気みたいだぞ上条当麻」
「これは交渉の余地なさそうだ。頼んだぜカミやん」
「不幸だ」
上条も重い傷を負っているが、他二名はもっと重症だ。先ほどから喋るのもやっとという状況で戦うなんてことはとても無理だった。
自分がやるしかないのだ。
アスファルトによって抉られた全身に力を込めなおして立ち上がる。
ようやく丸く収まったところなのだ。みんなの想いのつまった大覇星祭を、守り切ったところなのだ。
これ以上邪魔されてたまるか。
上条当麻は決意を改めて拳を握る。
「目的が安っぽい? 失敗したから? もう一度手を差し伸べる? 何も知らないくせによくもここまで説教垂れたね」
「確かに俺はオリアナ=トムソンのことを何もしらない。でもな、平和になるために犠牲があってもいいなんて今回のやり方は絶対に間違ってる。正義だとか悪党だとかじゃない。間違ってるんだ!」
「うるさい! その程度の考えで……
「お前、オリアナの……!?」
練り上げられた魔力が激情と共に渦を巻く。
そうして魔術師は、名を、名乗る。
「───
これはもしかしたらあったかもしれない、上条当麻とオリアナの戦いのその後。
絶対的な正義のヒーローが癇癪を起こした姉想いの子供をなだめる、あえて描写する必要もなかったであろう不毛な戦いが始まった。
連載します。
何年たってんだという話なんで当然ですが、原作読み返すと結構忘れてることが多く。
思い出しがてら次話でオリ主の事やったら短編形式でいろんなキャラのかっこいい・かわいいところを掘り下げていこうと思います。
更新は亀で不定期ですが、よかったら待っていただけるとありがたいです。