外の気温が暖かくなって草花や妖精が顔を出し始めた頃、博麗神社には二人の巫女がいた。
1人は背が高く黒く美しい艶のある長い髪をした女性。
「それにしてもいきなりね。お父さんが帰ってくるだなんて」
「あら、霊夢は知らないかもしれないけど、お父さんいきなり行動するからいつものことよ」
「そう、私は小さい時の記憶しか無いからはっきりと覚えていないのよね」
「まあ、そうでしょうね。霊夢が3歳の時に外の世界に行ったんだから」
思い返すように天を仰ぐ朱鳥。溜息を吐きながら呟いた。
「もうあれから10年が経つのね……」
振り返って霊夢に笑顔で言った。
「あの人に『お父さ~ん、怖いよ~』って泣きついていた霊夢がねぇ、こうやって博麗の仕事頑張っているの見たらどんな反応するのかしら」
「む、そんなこと私いってたの!?お母さん!」
「ふふ、雷にビビってお父さんに抱きついてピーピー泣いて困らせたのよ」
「ぐぐぐ、お、覚えてない」
顔を赤くして箒を握り締める娘の仕草に、母は笑っていた。
すると鳥居のしたに1つの線が引かれ空間が開く、そこからはオレンジのシャツに青い羽織を着た黒髪の男性が出てきた。
空間の中にはスキマ妖怪の紫が居て、少し言葉のやり取りをした後、スキマが消えた。
男性は左手を掲げて言った。
「よお、……ただいま」
「それじゃあ、私は寝るから」
「ああ、ありがと紫。お休み」
「ええ、お休みなさい」
俺はそう紫とやり取りした後、境内にいる家族の元へと足を進める。
俺の名は
生まれも育ちも幻想郷、しかし、霊夢が生まれてしばらくした後、外の世界からやってきた吸血鬼との戦いで呪いを受け、俺は外の世界で心臓病の治療をしなければならなくなった。
外の世界では心臓病の薬もあるし、何より呪いとかの影響を受けないし呪い自体が消滅するから治療さえすればまた幻想郷に帰って来ればいいとのことで10年間外で暮らしていた。
しかし、霊夢に泣き付かれたときは心が傷んだ。泣きながら「お父さん行っちゃやだ!」て言われたら誰だって躊躇うだろう。
この時霊夢は3歳だったはず。霊夢には辛い思いをさせてしまった。10年経って俺を父親と見てくれるか心配だ。
2人は俺のことに気づいている。ここでなんて言えばいいのか解らない。とある蛇みたいに「待たせたな」というべきか、普通にただいまっていうべきか。そうこう迷っているうちに自然と言葉が出た。
「よお、……ただいま」
くっそ、やっちまった。何照れてんだ俺!ふつうに言えばいいのに間を空けてしまった。朱鳥め、照れた事に気がついて、にやにや笑っているし霊夢は……って、涙目!?
「お父さん……お父さーーん!!」
泣きながら俺に向かって突っ込んでくる娘をしっかり抱きとめてあやす。
「おー、よしよし、ただいま霊夢」
「ううっ、おかえりっ……」
「……大きくなったな、霊夢。見違えたぞ、母さんにそっくりだ。目は俺に似ているかな」
「そんなことはないわ。霊夢が貴方に似ているのは勘が当たるだけね」
俺の言葉をバッサリ否定しながら笑顔なのは我が最愛の妻の朱鳥。10年間見なかったけど何も変わっていない。胸も小さいままだ。
「なんか無性にあなたを吹き飛ばしたくなってきたわ」
「気のせいだ」
やはり、あいつも感がいいな。主婦の勘ってやつか?
「女の勘よ」
無い胸を張る朱鳥。怖い、怖いよ……朱鳥。
「お父さんはこれからどうするの?」
ふと霊夢がそんなことを聞いてきた。なんか不安そうな顔をしているし、俺がどこかに行くのが怖いのか?
「いや、霊夢と一緒にいるよ。嫌か?」
霊夢の頭を撫でながら聞くと霊夢は嬉しそうに「ううん、それがいい」って抱きついてきた。ふふ、可愛いな霊夢。
10年ぶりに全員集合だぜ。
「よお、……ただいま」
黒いシャツを着たお父さんが少し照れながら挨拶をした。
顔はなんとなくしか覚えてなくて、声もなんとなくしか覚えてなくて、ハッキリ覚えているのが私の頭を優しく撫でてくれた大きな手の感触だけで。この人が私のお父さんだって言える証拠は私の記憶には無いけど、それでもすぐに私のお父さんだって理解した。
物心ついた時には、お父さんは気づいたら目の前からいなくなってて、お母さんしかいなくて、どこに行ったのかわからなくて、外の世界に行ったのが判ったけど私のことを忘れていないか心配になったりして、怖くなって。泣いてお母さんに迷惑かけたりして、そんな色々な思いとかが込み上げてきて気が付いたらお父さんに飛びついていた。
お父さんはそんな私を昔と同じように優しく頭を撫でてくれた。泣いているのを起こらないし笑わないし、ただ優しく頭を撫でてくれた。
今日だけは思いっきり泣いてもいいよね、お父さん。甘えてもいいよね。
心の中でお父さんに聞きながら私はお父さんの腕の中で泣きじゃくった。
「お父さんはこれからどうするの」
落ち着いた私は不安になって聞いた。お母さんと一緒に人里の家に行くのかどうか。すると、お父さんは私の思っているのを見破ったのか微笑んで「霊夢と一緒にいるよ。嫌か?」と言ってくれた。
「ううん、それがいい」そんなこと言った私は恥ずかしくなってお父さんの胸に顔を埋めてしまった。
晩飯を食べ、風呂に入った俺は、自分の部屋へと向かったが1つ変わったことがある。
俺の部屋が、霊夢の部屋になっていた。
別に霊夢が使っていいのだが、俺はどこで寝ればいいのか。朱鳥と寝れば勘だが明日俺はイっているだろう。どこへとは言わないが……。
仕方がない、明日は犠牲に……。考えていると突然後ろから霊夢が声を掛けてきた。
「どうしたの?お父さん、私の部屋の前で」
「ん、ああ、ここは俺の部屋だったんだが、そういえば霊夢の部屋になっていたんだな。今夜は母さんの部屋で寝ようかと考えていたんだ」
すると、霊夢が俯いて何か考えているようだ。まさかね、「一緒に寝ようよお父さん」って言うか迷ったりしてないよね。
ダメだ、何考えてんだ俺。こんなこと霊夢に知られたら、渋谷の女子高校生みたいに「マジうちの父親キメーわ」って言われそう。(注:綱吉の勝手な考えです。)
そうなったら、俺が異変起こしちゃうよ、マジで。題して「泣き目のおっさん異変」
……慧音先生に俺が居たという歴史自体が消されるね。絶対。
すると霊夢が何かを決意した表情で言った。
「お、お父さん……そのね、い、一緒に寝よ」
「は?」
うおえええ!!当たったよ、俺の勘当たったよ!やばい、冷たく返事してしまった。霊夢がハッて顔してる。
「すまない、なんて言ったんだ。よく聞こえなかった」
うん、聞こえていたのにこの誤魔化しかたはひどいね。霊夢ごめん。
「うっ、……べ、別に寂しいわけじゃないのよ?そ、その、ね?」
「ん?いやいや、何言いたの。ハッキリ言いなさい」
いきなり誤魔化し始めた霊夢に突っ込む俺。悪いのは俺だぜ、勿論。
「うう~、今晩一緒に寝よ」
半分泣き目になってたのは俺の気のせいだろう。勿論、霊夢にはイエスと答える。
「ああ、そうだな。一緒に寝るか」
笑顔で言ったら、霊夢も可愛い笑顔でうん!と返事をした。
そうそう、女の子は笑顔が一番だぜ。
お母さんと食器の片付けをして部屋に戻って着替えて、お父さんの所へ行こうと思ったら、私の部屋の前で何か考えてるお父さんがいた。
どうしたんだろう。そう思ってお父さんに声を掛けた。危なく昔みたいに飛びついて「おとーさんどーしたの?」って聞きそうになったけどそこは理性でなんとか抑える。
「ん、ああ、ここは俺の部屋だったんだが、そういえば霊夢の部屋になっていたんだな。今夜は母さんの部屋で寝ようかと考えていたんだ」
そう言ったお父さんの言葉に気が付いた。そうだった、ここはお父さんの部屋だった。今でも部屋の中にはお父さんが読んでいた本とか使っていた箪笥とかそのまま置いてある。
別に、私と一緒に寝ればいいじゃないの?
そう言おうとして気が付いた。何言おうとしてるんだ私。
私の同い年のやつらで親と一緒に寝る奴なんて居ないでしょ!
いやいやいや!待て、私は10年甘えていないからいいじゃないかしら。それなら誰も笑いやしないわ。って誰笑うのよ、誰も笑う人なんて…………居たわ。
霊夢の頭の中にはスキマ妖怪と友人の魔法使いの顔が出てきた。けれど、言わないでいつ言うの、今でしょ!?
「お、お父さん……そのね、い、一緒に寝よ」
勇気を振り絞ってとぎれとぎれ言ってみたけどお父さんには聞こえてないらしく「は?」っと低い声で言われてしまった。
お父さんは男だから声が低いけど、今のはちょっと以上に怖かった。なんというか、こう、背筋がゾクゾクッと寒気が襲った。そしたら、お父さんが苦笑いしながら「すまない、なんて言ったんだ。よく聞こえなかった」って言われてほっとした半分がっかりもした。
案外聞こえてたりして、って思ったけどもう一度勇気を振り絞って言おうとした。ところが、緊張してしまったため言い訳を言ってしまった。
お父さんがはっきり言えって怒ってたし、もうこの際いいわ。
「うう~、今晩一緒に寝よ」
半分涙目になりながら言ったら笑顔でいいよって言ってくれた。
あ~もう、お父さんの前では隠し事はできないな。正直でいよう。
――――深夜
ふと、霊夢は夜中に目が覚めた。暗くてよく見えないが、暖かい温もりに包まれているのを自覚した。
「おとう、さん」
その声で気がついたのか寝息を立てていた父が目を覚ました。
「む、ん?どうした、霊夢」
「ごめん起こしちゃった」
「ん、気にするな。まだ朝にはなってないから寝るぞ」
そう言って霊夢を抱き寄せる。霊夢は父の胸の中で意識を手放していく。意識が完全に落ちる前に霊夢は言った。
「おとうさん………だいすき」
霊夢は優しく頭を撫でられたような気がした。
博麗 綱吉 tunayoshi hakurei
能力:勘が当たる程度の能力
勘が当たる能力は、彼が『なんとなく』やピンと閃いて予想したのが当たる能力である。
例えば、『雨が急に降る』と思ったら当たるし、嘘も判る。
性格
基本的にあまり親しくない人には喋らないが、来たものは受け入れるため案外知り合いが多い。
あまり喋らなくても、心の中では騒いでいる。ただ単に騒ぐ自分を表に出したくないから、喋らないらしい。
戦い
人間なのに妖怪と互角、それ以上の戦闘が可能。妻が使うような札や結界は使わず、「波動」と呼ばれるエネルギーを使って戦う。
大きな岩を持ち上げたり、敵を氷漬けにしたりと話が人々のあいだで広まっている。
異変
「婚約異変」
これは、まだ綱吉が博麗ではなく、村上の性を名乗っていたとき、妖怪の賢者が彼に博麗の夫になって欲しいと縁談を持ちかけた。
ところが彼は「俺より強い奴しか興味がない。俺を気絶させたら受け入れる」と言って先代巫女と勝負を申し込んだ。
人里の人々が見守る中で決闘は行われ、最初の戦いは僅か9秒で彼が勝利した。
その結果に悔しがった巫女は後日再戦を申し込むが返り討ちにあい、彼女が勝利したのは28試合目だそうだ。
2人の戦いは人々の間で言い伝えられている。
対処
基本的に挨拶をすれば返してくれる。見方にすれば頼りになるが、敵に回したら恐ろしいこと限りない。