仮面のタフガイ   作:piguzam]

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本日から一人称、三人称がランダムで切り替わります。


第2話

 

 

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!

 

 

 

「うおっ……朝か……」

 

朝を報せる目覚まし時計のやかましい音で、俺の意識が覚醒。

でもコレって俺のじゃなくて隣の姉ちゃんの部屋の目覚ましなんだけどね。

 

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!

 

隣の部屋で、しかもそれなりに防音効果のある壁なんだけど、そんなものまるで無いかの如く音が突き抜けている。

しかも目覚ましの音が複数聞こえる辺り……”また”何台か増えたんだろうな。

一向に消える事の無いという事は、まだ部屋の主である姉ちゃんは『起きてない』という事だ。

 

「……まぁ、姉ちゃんの起きなさは良く知ってるけど」

 

なにせつい数日前までは一緒の部屋で寝起きしてたんだし。

パジャマを脱いで布団の上に起き、学校の制服に袖を通し、ズボンを履く。

 

――ひにゃあああああああああああああああッ!!

 

ウワハハハー思い知ったかご主人~~

 

「ん?起きたのか……良い天気だ」

 

隣の部屋から聞こえた悲鳴をBGMにカーテンを開けた窓の外から見える青空を一瞥。

鞄を持って扉を開け、一階へと向かう。

 

ガシャァアアアアンッ!!

 

「ヌハァアアアア!!」

 

「よっ。おはよう姉ちゃん。コガラシさん」

 

チラッと見た先に、ビショビショのパジャマ姿で肩で息をする姉ちゃんの姿。

そして窓を突き破って下へ落ちるコガラシさんの姿。

うん、何時も通りの朝だね。

部屋の扉をブチ破って竹刀でコガラシさんを窓の外へブッ飛ばす姉ちゃんに挨拶を交わして階段を降りる。

 

「ふ、ああぁ~……しっかし、アレも見慣れたなぁ」

 

洗面所に入って身嗜みを整え、顔を洗いながらすっかりと変わった我が生活を思い返す。

 

 

 

爺ちゃんが連れてきてくれたコガラシさん、フブキさんを受け入れてから早数日。

 

 

 

その数日でこの家に溜まっていたゴミの類は全て捨てられ、家の中も綺麗に清掃された。

さすがにあのゴミの雪崩に潰され、しかも俺と爺ちゃんに説得されれば、さすがの姉ちゃんも折れざるを得なかった訳だ。

しかも二人を受け入れると決まったその日には、この屋敷のゴミはほぼ片付けられちまった。

コガラシさんとフブキさんの二人だけで直ぐに終わっちまったもんだから、さすがに俺も姉ちゃんと一緒に驚くしか無かったよ。

 

「ガラガラ……ぺっ……フゥ……爺ちゃんにはかなり世話になっちまったなぁ……なんかお礼しねーと」

 

歯磨き粉を水でうがいして流しながら、ここまでしてくれた爺ちゃんに対するお礼を考える。

何せゴミの撤去だけで無く、必要な生活用品一式すら用意してくれたんだから。

口元や顔をタオルで拭いてネクタイを整え、鞄を玄関に置いてダイニングに入る。

ダイニング奥のキッチンには、優しい微笑を携えたフブキさんが立っていた。

 

「おはようございます、幸助様」

 

「あぁ、おはようフブキさん」

 

「どうぞ、お座り下さい。今コーヒーをお持ちしますので」

 

態々キッチンからダイニングに出てきたフブキさんは椅子を少し引いて「どうぞ」と言ってくれる。

……やっぱ良いな、メイドさんって。

献身的にお世話をしてもらえる優越感に浸りながら「ありがとう」とお礼を言って椅子に座る。

俺の言葉に「いいえ♪」と言ってからキッチンに戻るフブキさんの後ろ姿から目線を外し、コーヒーが来るのを待つ事に。

 

ガチャッ。

 

「やれやれ。朝から破廉恥なご主人め……ム?お早う、ご主人の弟よ」

 

「おはようっす。コガラシさん」

 

と、何やらアレな言葉を呟きながらダイニングに入ってきたコガラシさんに挨拶を返す。

その挨拶に満足したのか、コガラシさんはひとつ頷いてからフブキさんと同じくキッチンに向かう。

さっき二階から突き落とされたってのに、コガラシさんの体には怪我らしい怪我も汚れも無い。

……初対面から思ってたけど、色々ブッ飛んでるなぁこの人。

規格外にして謎な人だなと思ってると、コガラシさんは皿を持ってテーブルに近付いてくる。

 

「今朝のメニューはオムレツとベーコン、コーヒーだ」

 

「うぉぉ……相変わらず美味そうだ……」

 

何時ものニヤリとした笑みを浮かべながらテーブルにメニューを並べるコガラシさん。

サラダにフワフワのオムレツ、綺麗に焼けたベーコン。

香りの高いコーヒーにパンのセットは、高級ホテルを思わせる豪華ぶりだ。

朝からこんな美味そうな食事にありつける俺は間違いなく勝ち組だろう。

ありがとう、爺ちゃん。

 

「クククッ。朝食は健康の基本!!冷める前にガツガツ頂くが良い!!」

 

「では、いただきま――「行ってきまーす」――ほえ?」

 

コガラシさんの言葉に倣ってありがたく飯を頂こうとした俺の耳におかしな言葉が聞こえた。

俺と同じく怪訝な表情をしたコガラシさんと共に振り返る。

と、其処には扉を開けて制服に身を包んだ姉ちゃんが立っているではないか。

 

「……あ。今日から私朝ご飯いらないから」

 

「――え?どうしたんだよ姉ちゃん?あんなに「朝から美味しいご飯が食べられる!!」って喜んでたじゃん?何でいきなり?」

 

「……何でもよ」

 

目を丸くしながら問いかけた俺の言葉に視線を逸らす我が姉君。

一体何事であろうか?

 

「朝ご飯は食べられた方がよろしいですよなえか様」

 

と、さすがに朝食抜きという不健康なのは許せないのか、フブキさんもこっちへ援護射撃。

しかしそんなフブキさんの言葉に姉ちゃんは相変わらずだんまりでそのまま玄関へ向かおうとする。

んー?……今日の朝食、別に姉ちゃんの苦手なモノ無いよな?

っていうか「今日から」って言ってるって事は暫く要らないって事だし……。

 

「そうだぞご主人。三日で体重が1.8キロ増えたくらい気にするな」

 

「ッッ!?」

 

え?体重?……あぁ、朝ご飯要らないってそういう……成る程。

コガラシさんの言葉にビクッとなった姉ちゃんの反応から察するに、間違いじゃ無いらしい。

ゆっくりと、それこそギギギって油の切れたブリキ人形みたいに振り返る我が姉。

 

「……どうして”それ”を気にしていると……?1.8キロなんて、そんな具体的な数字がどこから……!?」

 

冷や汗を流しながら戦慄した表情を浮かべる姉ちゃんの反応。

……ありゃ?そういえばコガラシさん、何で姉ちゃんの増えた体重の正確な数値を知ってるんだ?

姉ちゃんのこの反応を見るに、教えたって事は絶対無いだろうし。

朝食のオムレツを食いながらその様子を見ていると、不敵な笑みを浮かべたコガラシさんが姉ちゃんをビシッと指差す。

 

「フフン!!貴様のことなら何でもお見通しだ、ご主人!!このメイドガイの眼力を持ってすれば、例え服を着ていても貴様は全裸も同然よ。ウハハハハハーー!!!」

 

その高笑いと共に、赤く光るコガラシさんのマスクの目の部分。

 

「が、眼力!?」

 

「マジか」

 

思わず呟いた俺の眼前で、コガラシさんが何か、怪しい動きをしている。

瞳が怪しく輝き、手は意味ありげに動き、しかもキュインキュインなんて怪しい音を立てているのだ。

これはある意味、眼力などより驚くし怖い。

っていうか何処からこのキュインキュインって音が出てんの?

 

「ぜんらって……え?や、ちょ…まさか?」

 

と、コガラシさんの言葉に顔を赤くした姉ちゃんは、鞄と腕で胸の前を庇う仕草をする。

眼力、そして「全裸」とは即ち……透視って事か!?

そ、そんな人間離れした技使えちゃんのかこの人?……あれ?コガラシさんなら何故か納得してしまう?

 

「クックック……見えるぞご主人!!ハハァン……ホッホォ!!乳と尻に数%のボリューム増を確認。スクスク成長実に結構!!」

 

「あ、あわ……!?」

 

「トンデモねぇなこの人……」

 

やっべぇ、めっちゃ欲しいんですけどその眼力……ッ!!

健全な男子なら水涎モノの能力を惜しげなく披露するその姿、正に漢である。

やってる事は実にセクハラなのに、この人からは一切邪気を感じないところが凄い。

 

「しかし安心しろ。上のサイズの下着は既に用意して……」

 

「きゃあああっ嫌あああああああああッ!!!」

 

「ちょっ姉ちゃん!?あぁもう!!」

 

まぁ、確かに凄い。凄いんだけど……。

そんな乙女の機密情報を暴露され、姉ちゃんは悲鳴を上げてしまう。

しかも泣きながら走って家を出るというオマケ付きだ。

っつうかコガラシさんのフォローが果てしなくOUT過ぎる!!

 

「ガツガツガツ!!ゴクッゴクッ!!ッぷ。ごっそさん!!今日も美味かったっす!!行ってきまーっす!!」

 

「行ってらっしゃいませ、幸助様」

 

さすがにあの状態の姉ちゃんを放っておく訳にもいかないので、速攻で飯を平らげて俺も家を出る。

笑顔でお辞儀して見送りしてくれたフブキさんい「はいよー!!」と返事を返す。

朝から飯も食ってないのに全力疾走する姉に追い付くべく、俺もスピードを上げていく。

ったくもー!!朝から騒動極まるなぁおい!!

 

 

 

――やれやれ。朝から騒がしいご主人だ……。

 

 

 

――コガラシさん?――ちょっとお話が……ッ!!

 

 

 

ん?何か聞こえた様な……?気の所為だろ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「――」

 

「……大丈夫か、姉ちゃん?」

 

「――あはは……大丈夫に見えるとしたら幸助クン。君は目医者に行くべきだね」

 

「なら安心してくれ。俺は目医者に行く必要は無いわ」

 

飛び出すように家を出てきた俺達。

その通学路でコガラシさんのセクハラを受け、重度のショックを受けてグロッキーしている姉ちゃん。

さすがに居た堪れなくって声を掛けたけど……まぁ、聞くまでも無いよね。

フラフラと人魂っぽいもの浮かばせる姉ちゃんの姿は有体に言って生きる屍だろう。

 

「確かに服はいつもよりパリっとのりが利いているし、思わず寝過ごすほどベットは快適だし、1.8キロ体重が増えるほどご飯もおいしいわよ」

 

「だよなぁ。正に至れり尽くせりって具合か」

 

姉ちゃんの言葉に俺は腕を組みながらウンウンと頷く。

フブキさんは当然としてコガラシさんもあの奇抜なナリの割りに仕事は超・有能。

正に文句の付けようの無い仕事ぶりなのだ。

しかし――。

 

「でも!!それとこれとは話が別!!女の子の……17歳の清純が、衣食住と引き換えに踏みにじられても良いって言うの!?良いって言うのかしらーー!?」

 

「姉ちゃん?」

 

何処に目線向けて言ってんの?

 

「それとも私には踏まれても汚されても、強く立ち上がって咲き誇るタンポポのような花を目指せと言うことなのかしらねぇ神様ぁーーー!?」

 

「おーい?しっかりしろー?戻ってこーい姉ちゃーん」

 

まるで舞台の演劇の様にクルクル回りながら何処かへシャウトする我が姉。

しかも背景にタンポポの花畑が現れるほどにトリップしてる。

どうやら度重なる心労で遂に限界迎えかけてるっぽい。

……まぁ、さすがにあんな激烈なご奉仕は……男の俺でも遠慮したい。

寧ろ男だからこそだわ。俺フブキさんで良かった。

そんな事を考えている間に我に返ったのか、姉ちゃんは地面に四つん這いになって地面を激しく叩き始める。

 

「あのセクハラメイドのせいで、ここ最近私の乙女のプライドはしっちゃかめっちゃかよーッ!!うわーーー!!おヨメにいけないよーーッ!!」

 

「……姉ちゃん…………処で姉ちゃんの言う清純ってどの辺りが――

 

ドグシャアアアアッ!!

 

「こうなったら、おじい様に直談判してでもあのやろーーっ!!!」

 

姉ちゃんは再び四つん這いになりながら発狂したかの如く叫ぶ。

……態々ジャンプして俺の頭を鞄でブン殴ってから四つん這いになる必要があったのだろうか?

殴られた頭を摩りながら溜息を吐いていると、歩道の傍に見慣れた高級車が止まった。

 

「わしに何か用かな、愛しの孫よ」

 

「え!?おっ、おじい様!?」

 

「あっ。爺ちゃん。おはよー」

 

と、高級車から降りて杖を突きながら立つ朗らかな笑顔を浮かべた爺ちゃん。

そして俺が前に会ったメイドさんが爺ちゃんの後ろに控えている。

姉ちゃんは地面に四つん這いになりながら驚き、俺は手を挙げて挨拶を返す。

 

「おはよう、清々しい朝だな。マイラブリーグランチャイルズ」

 

「あぁ、良い朝だよなーホント。でも、どうしたん?こんな朝早くに?」

 

「そ、そうです。おじい様、どうしてここに……?」

 

「何、たまたま近くまで来たのでな、お前達の顔を見に来たのだ……ところで、どうしたのだねなえかは?こんな所で大騒ぎして?」

 

俺達の疑問に笑みを崩す事も無く、爺ちゃんは答える。

しかし直ぐに爺ちゃんは首を傾げて地面に四つん這いになってる姉ちゃんに顔を向けた。

まぁ、確かにこんな所でこんな事してたら浮かぶ当然の疑問だわな。

でも今朝の出来事を姉ちゃんに話させるには少々酷だし……代わりに説明してあげようか。

 

「あー……掻い摘んで言うと……」

 

「うんうん?」

 

「姉ちゃんがコガラシさんに、女の子の大事な物を奪われちゃって、めちゃくちゃに汚されたんだとか……」

 

「うんう――何ぃ!!?」

 

「ちょ…待…っ!?な、なんでそんな誤解受けるような言い方になるわけよ馬鹿ああああッ!?」

 

俺の的確に端折った言葉に爺ちゃんは驚愕し、姉ちゃんは顔を真っ赤にして反論してくる。

いや、朝の出来事を簡単に、しかも姉ちゃんの尊厳護って説明するにはこれくらい端折らねぇと無理なんですけど?

 

シュ~。

 

「ん?って爺ちゃん!?」

 

「え?ってうわぁ!?」

 

と、姉ちゃんから爺ちゃんに視線を移すと、そこには大変な事になった爺ちゃんの姿が。

湯気の様な蒸気音と煙を発し、顔色は真っ赤。

しかも額にはぶっとい筋が何本も浮かんでる状態である。

 

「…………わしのマゴが……奪われ……汚され……」

 

「……いや、おじい様?今の幸助の言葉には少々御幣が……」

 

「あっちゃ~……思考、ショートしちまってるか、こりゃ」

 

「アンタの所為でしょーーが!!!」

 

「おぶしっ」

 

 

 

二撃目はさっきより腰の入った一撃でした。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

キキィーーーーーッ!!!

 

 

「?あら御前様」

 

「コガラシーーーーッ!!コガラシはおるかーーーーーッ!!」

 

さて、場所は変わって再び我が家。

先陣を切って飛び降りるかの如き勢いの爺ちゃんの後ろに着いて行くと、箒を持ったフブキさんと玄関前で遭遇。

どうやら掃き掃除をしてくれてたらしい。

しかしそんなフブキさんに構う事無く、怒れる爺ちゃんは荒々しく門を開いて吼えていた。

今の爺ちゃんの瞳には冗談ではなく、本当に殺意が宿っている。

さっき車の中で見た瞳には「殺」の一文字が浮かんでたぐらいだ。

そんな爺ちゃんの後ろで困った顔をする姉ちゃんと、苦笑いの俺。

こりゃ今回も学校、行けそうにないな。

 

 

 

と、そんな鬼神の如き表情の爺ちゃんにフブキさんは恐れる事も無く、庭の隅に視線を向ける。

 

 

 

その視線の先を3人揃って追っかけ――。

 

 

 

(ケムリケムケムー……ブヘァ)

 

 

 

「――うわぁあッ!!!?」

 

「――え゛?」

 

そこには……赤い何か、否――血塗れな上に黒焦げたコガラシさんの死体が……。

 

その光景にさすがの爺ちゃんも怒ってるどころじゃなくなったのか、悲鳴をあげて俺に縋り付いてしまう。

一方の俺も顔を引き攣らせて変な声を出してしまった。

え?何これ?何で平和な我が家の庭先に撲殺体があんのさー?

 

「貴様、何をそんな所で血塗れで倒れておるかーーーッ!?」

 

「い、一体何が……?」

 

当然、帰宅したらいきなり撲殺死体なんて見せられた俺達は驚愕してしまう。

あのコガラシさんに怒ってた姉ちゃんですら、少し震えながらフブキさんに質問してるくらいだ。

そんなパニック極まる俺達に、フブキさんは何時もの微笑を浮かべて――。

 

「言っても分からない人は、叩いて分からせるまでです♡」

 

血塗れの釘バットを持ちながら、美しい笑顔でそんな事を仰ったのだ。

ピチャンッピチャンッと血の滴る釘バット。

凶器発見。というか犯人発見しました。

 

「……」

 

「……」

 

俺、絶対にフブキさんには逆らわない様にしよう。

 

そう、固く決意いたしました。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「さてそれでは、第一回、コガラシさんをなんとかしよう、緊急家族会議を始めます」

 

あの後、家の中に入ってこんな展開になってしまった我ら富士原家。

俺の隣の席では、姉ちゃんがパチパチと手を叩いて賛同しているが、表情は明らかに不機嫌そうだった。

ちなみに、学校は爺ちゃんの一言で休校となっている。

他に登校してくれていたであろう教職員並びに同級生、先輩方。

今日もウチの我侭で休校にしてしまってスイマセン。

 

ドカッ。

 

「フゥ、あやうく撲殺される所だったぜ」

 

そしてその原因である撲殺されかかったコガラシさんはというと、体のいたるところに包帯を巻いてはいるものの、見事に復活していた。

瀕死のあの状態から、凄い回復力である。

逆に言えば不死身っぷりが既に人間の範疇から出てません?

そんな俺の疑問の何のその、コガラシさんはテーブルに片足を乗せたままここにいる人間を見渡す。

 

「……で?一体これは何の集まりだ。昼飯にはまだ早いと思うが」

 

「ッ!!あなたを断罪するために集まってるのよ!!被告人はテーブルから足をどけなさい!!」

 

「何時の間に裁判の席になったのよここは……」

 

と、コガラシさんの態度が気に入らなかったのか、姉ちゃんはテーブルをばんっ、と叩き、コガラシさんに敵対するような視線を向ける。

その勢いや、テーブルの上に置かれた紅茶のカップが再び浮き上がる程だ。

しかしそんな姉ちゃんの怒りの視線に怯む事も無く、コガラシさんは不敵に笑う。

 

「ククク……この俺を断罪だと?」

 

「まぁ、この会議の議題はそれらしい(ガシッ)って?」

 

と、会議の進行を取り持とうとした俺の頭に手を置いて、視線を強引に変えたコガラシさんは俺と至近距離で目を向けてくる。

 

「どういうことだ?説明するがいい、ご主人の弟よ」

 

そして、コガラシさんはこの会議自体が不服そうな声で俺にそう問うてきたのだ。

……あー……やっぱり無自覚ですか、そうですか。

予想してたとは言え、さすがの俺も苦笑いを隠せない。

コガラシさんの本当に凄いところは、この人は全部無自覚だと言うことである。

あの行き過ぎた体重や衣服の管理も全て、コガラシさんの中では100%の善意らしい。

だから自覚が無いんだよなぁ……女性にはこれ以上ないセクハラだっていう。

ともあれ、このまま頭を鷲掴みにされて至近距離で男と見詰め合う趣味は俺にはありません。

なので、俺は手早く問題点を語る事に。

 

「え~っと、コガラシさんが姉ちゃんをまるきり女扱いしない事が問題となっているみたいっす」

 

手早く、この議題の趣旨を話すと、姉ちゃんも紅茶を飲みながらウンウンと頷く。

どうやら今ので姉ちゃんの言いたい事はちゃんと要約できてたっぽい。

 

「ホホゥ、この俺がご主人を女扱いしていない………と?」

 

「まぁ、そういう事っすね」

 

「フムゥ……」

 

と、俺の言葉を意外にも紳士に受け止め、考え始めるコガラシさん。

そんなコガラシさんを訝しそうに見ながら、姉ちゃんは紅茶に口をつける。

……どうやら、言えばちゃんと考えてくれるらしいな。

さすが爺ちゃんの連れてきたメイドガイ。その理解の早さはさすが……。

 

「やれやれ、つまりはもっとセクシーな下着をご所望と……」

 

「ぶーーーーっ!?」

 

「大暴投きたなこれ!?」

 

呆れたように、まったく見当違いの答えを述べるのだった。

そして、何故こうなったのか理解できずに、コガラシの発言に飲んでいた紅茶を吹き出す姉ちゃん。

どんな思考回路ならそっち(アダルト)向きのご要望と取れるんですかねぇ……。

戦慄する俺の横で、コガラシさんは手を額に当てていたポーズから、注意する様に姉ちゃんへと指を向ける。

 

「おのれご主人!!学生の分際でそんな紐の様なパンツをもう穿きたいとは!!ダメだダメだ!!このメイドガイの目の黒い内は、そんな風紀の乱れは許さ――」

 

「誰もそんなのほしがったりしてないわよこのバカーーッ!!!」

 

ガッシャァアアアアアアアンッ!!

 

「ゲフゥゥゥア!!?」

 

最早明後日の方角へ向かったコガラシさんの言葉にプルプル震えていた姉ちゃんが遂に噴火。

傍に置いてあった紅茶満載のポットで、コガラシさんの顎にカチ上げアッパーを繰り出す。

その一撃は見事にコガラシさんに決まり、一撃で彼をKOした。

 

「ちょ!?危ね!!」

 

「ふおぉ!?ナイスキャッチじゃ幸助!!」

 

「まぁ。お見事です、幸助様」

 

そして、取っ手の折れた紅茶のポットをダイビングキャッチした俺に爺ちゃんとフブキさんが拍手を送ってくれた。

いやー、どうもどうも。

奇跡的に中身が零れなかったポットをゆっくりとテーブルに降ろし、テーブルに片足を置いて倒れ付したコガラシさんを見下す姉ちゃんへと視線を向ける。

まぁ、溜まったものを吐き出すガス抜きも必要――。

 

「あなたのそういう所が問題だって言うのよ。この迷惑魔人!!おじい様から無理やり押し付けられたメイドだから我慢してやってれば!!そうじゃなきゃ、今ごろ叩き出してるわ!!」

 

「――」

 

「あ!?ちょ、姉ちゃん!?」

 

「いい事……?」

 

「姉ちゃん待った!!ステイだステイ!!」

 

コガラシさんに怒りをブチ撒けようとしてるのは結構だけど、それ今言っちゃ駄目だろ!?

俺は慌てて”禁句”を漏らした姉ちゃんに駆け寄り、その肩を掴んで台詞を中断させる。

勿論今から積年の思いをブチ撒けようとした所を中断された姉ちゃんは俺にも剣呑な視線を向けてくる。

 

「何よ幸助!!私はまだ――」

 

 

 

「……無理やり、押し付けたと……?」

 

「――はっ」

 

 

 

悲しみに暮れた弱弱しい声に、姉ちゃんはハッとするがもう遅い。

そう、この場にはこのコガラシさんを連れてきた張本人が居るというのに、姉ちゃんは無理矢理押し付けられたと、迷惑だと言っちまったんだ。

そりゃ俺達の事を可愛がってくれてる爺ちゃんにはさぞ、大ダメージだったろう。

 

「このわしの心尽くしは、孫にとってただの迷惑だったと……?かわいい孫たちに不憫な思いはさせられないと、あてがったメイドが迷惑だと……!!このわしが苦労して探し出したメイドを、愛しの孫は必要ないと……!!このわしの世話になるくらいなら、またあのゴミ御殿に戻った方がまだましだと……………!!!」

 

「そ、そんな事無いって爺ちゃん!!俺は爺ちゃんの心遣いを迷惑なんて思った事は一度も無いから!!な!?」

 

「うわ!!思いがけない方向にダメージが!?」

 

おおう……うっうっうっ……と、嘗て無い程に落ち込んだ爺ちゃんが丸まりながら泣く様に居た堪れない気持ちがムクムクと湧いてくる。

両手で目元を抑えて泣く様は、とてもじゃないが見てられない。

落ち込んだ爺ちゃんの背中を摩りながら、俺は溜息を吐きながら姉ちゃんに視線を合わせる。

 

「姉ちゃん……さすがに言って良い事と悪い事あんだろ。コガラシさん断罪しようとして爺ちゃん泣かすかフツー?」

 

「泣きたいのはこっちよバカーーッ!!」

 

「やれやれ、困ったご主人だ」

 

「うわぁ、どうしてぇ?どうしていつの間に私の方が悪者にーーー!??」

 

そして何時の間にか復活したコガラシさんの言葉に、さしもの姉ちゃんも頭を抱えてちょっと涙目。

もうカオス過ぎてわかんねぇなコリャ。

と、俺もやれやれと首を振りながら溜息を吐きつつ、爺ちゃんを慰める事に集中するのであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「はあっ……私、間違ってたわ」

 

時間は更に進み、今は夕食前の余暇時間。

姉ちゃんは自分の部屋のベットに座りながら大きく溜息を吐く。

あのカオス極まる空間で爺ちゃんを宥めすかす事に成功した後、会議はうやむやの内に閉会。

爺ちゃんは少し肩を落としたまま帰ってしまい、その姿を見た姉ちゃんはかなり気にしてたっぽい。

態々俺を自分の部屋に呼んで話をしてくるくらいだ。

コガラシさんとフブキさんは多分下で仕事をしてくれているだろう。

 

「どんなに問題があっても、これはおじい様が、私達のためを思ってしてくれたことなんだわ。それを忘れて自分勝手ばかり……」

 

「ん~……まぁ、なぁ」

 

姉ちゃんの言葉に頬を掻きながら曖昧に頷く。

コガラシさんの行動には問題があっても、あくまで爺ちゃんは俺達のためを思ってしたことであり、コガラシさん達がいなければ我が家が再びゴミ御殿に戻ることなど、目に見えているのだ。

だが、だからと言ってコガラシさんのあのご奉仕に我慢できないものがあるのも事実。

それを証明する様に大きな溜息を吐いているんだから。

 

「……大丈夫か、姉ちゃん?」

 

「いいのよ、幸助」

 

俺の問いに大丈夫だと答え、姉ちゃんは上を向いて目に力を取り戻す。

 

「戦国武将、山中鹿之助、三日月に願って曰く、我に艱難辛苦を与えよ」

 

「んあ?」

 

だが、その大丈夫だと言う意味の台詞を、俺はイマイチ理解できなかった。

……そう言えば姉ちゃんは、戦国武将や剣豪の類が大好きだったっけ。

 

「現代風に言うなら『若いうちの苦労は買ってでもしろ』ってことよ!!私だって剣の道に生きる女子高生として、鹿之助を見習って逆境の人生を生きてやるわ!!変人メイドだろうがなんだろうが、試練と思って受け入れてやろうじゃないの!!」

 

俺にその山中某の意訳を喋りながら、姉ちゃんはベットの上に立って竹刀を掲げる。

それはまるで、誓いを新たにした侍の如し、である。

……つまり要するに、これから襲い来るであろう出来事は不幸ではなく、自身が願った試練と捉えるという発送の逆転的な意な訳だ。

自分が願った試練だから、コガラシさんのセクハラ攻撃も我慢、というか乗り越えてやる、と。

 

……でもなぁ。

 

「……その山中某って、悲運のまま非業の最期をむかえた武将じゃなかったっけ?」

 

「人のやる気に茶々入れないでよ幸助!!」

 

「……まぁ、姉ちゃんが気にしないならいいんだけどさ」

 

俺としては姉ちゃんがコガラシさんを受け入れてくれるならそれで良い訳ですし。

俺には特に被害は来てないからなぁ。

 

「……でも、幸助は良いわよねー。あんな美人で良識あるメイドさんが専属なんだから」

 

「早速僻んでるし……」

 

ベットに寝転んでブー垂れる姉ちゃんに苦笑いが隠せない。

しかしまぁ、姉ちゃんの言いたい事も分かる。

 

「まぁ確かに、フブキさんはとても美人だし、気配り出来て最高の女性だと思うぜ?あんな人が彼女だったら人生薔薇色だろうな」

 

「……幸助。再三言っておくけど、フブキさんを襲ったりしたら……」

 

と、少しばかり剣呑な視線を向けてくる姉。

しかし俺は反論したい。

そんな無茶が出来る訳無いだろうと。

 

「あのなぁ姉ちゃん。俺は分別の無いケダモノじゃないっての……それに――」

 

訝しい表情を浮かべる姉に、俺は少し溜めを作ってから真剣な目を向ける。

 

「仮に俺が無理矢理襲ったら、間違い無く撲殺されちゃうよ俺?あの釘バットを微笑みながら持つフブキさんの構図が、今も俺の脳裏にはっきり浮かんでくるし」

 

「……あー」

 

カタッ。

 

ん?何か聞こえた?……気のせいか?

俺の言葉に少し冷や汗を流しながら相槌を打つ姉ちゃん。

 

「綺麗なバラには棘がある、だっけ?俺は今日から、綺麗な花にはがあるって覚えておくよ。しかも発射機能付きの、近寄れないタイプ」

 

「そこまで言うかね君は」

 

「あの構図を見てから、さ……フブキさんの微笑みが名前の通りこう……冷たい笑みに見えちまって」

 

――タタタッ。

 

「?姉ちゃん今、廊下で走ってる音聞こえなかったか?」

 

「別に聞こえなかったけど?」

 

外を走る様な音が聞こえたと思ったんだが、姉ちゃんは聞こえなかったらしい。

俺の質問に首を傾げるので、気のせいみたいだ。

どうやら今日は気の所為ってのが多い日らしいなぁ……少し気を張りすぎてんだろうか?

 

「まぁ良いか。じゃあ俺は部屋に戻るよ」

 

「はいはい」

 

夕食前だってのに未だ制服を着ていたので、着替える為に部屋へと戻る。

時間もあるし、少しパソコンでパーツ探しでもするか。

そうそう、新しいCDも買った事だし、ヘッドホンを刺してっと……。

ヘッドホンから聞こえるアップテンポなレゲエに身を任せ、画面をスクロールしていく。

 

 

 

 

 

――(アナタノセイデスワコノオバカーーッ!!!)

 

――バゴォオオオオッ!!

 

――(ヌフゥゥアアアアアアアアアアア!?)

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

さて、新しいパーツも買えた事だし、そろそろ降りるか。

パソコンの電源を切って部屋を後にした俺は、階段を下りてダイニングに向かう。

 

「お?~~……ん~。良い匂いがしてくるなぁ」

 

一階に降りてダイニング前の扉の向こうから、とても良い香りがしてくる。

確か今日は中華だって言ってたっけ?

炎の料理と言われる中華、その真髄はやはり温度にある。

そして、料理とは作ってる段階でも人を楽しませてくれるのだ。

肉の焼ける芳しい香り。そして肉が焼ける音。

 

 

 

ほら、耳を澄ませば肉の焼けるジュージューという良い音が――。

 

 

 

――ゴオォォオッ!!

 

――グウォオオオオオオオオ~~~~ッ。

 

 

 

「……ん?」

 

あれ?これ肉の焼ける音っていうか……悲鳴じゃね?

っていうか……ダイニングの向こう、真っ赤じゃね?

 

『きゃーーーーッ!?こ、幸助ッ!!水ッ!!消火器ーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』

 

ん?姉ちゃんか?

扉の向こうから聞こえた声に従い、ダイニングのドアを開ける。

 

ガチャッ。

 

「姉ちゃん、一体どうし――」

 

 

 

「……ヌウァアアアアアアアアアアアア~~……ッ!!」

 

 

 

「ヌオワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!?」

 

ドアと開くと、其処には――。

 

「ヌオォ……やってくれたなご主人~~……ッ!!」

 

「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」

 

何故かキッチンの向こうで火達磨になってるコガラシさんと、そのコガラシさんを前に何時も通りの所作でたたずむフブキさん。

そして悲鳴を挙げて俺の背中に走って隠れる姉ちゃんの姿が。

幾ら何でも許容量をオーバーしたとんでも光景にさしもの俺も大口を開けて固まってしまう。

い、一体ここで何があったんだよ!?家族団らんのキッチンが何時から処刑場に早代わりしちまったんですかーー!?

顎が外れんばかりに口を開いた俺と、俺にしがみついて震える姉ちゃんに、フブキさんは微笑みながら視線を合わせてくる。

 

「お気になさらずに。メイドのしつけは主人として当然の事。これで少しはコガラシも、主人の怒りの深さを思い知ることでしょう」

 

「だからって姉ちゃんこれはちょっとやりすぎじゃね!?」

 

確かにセクハラされてたけど、相手を燃やして苦しめてブッ殺す程にですか!?

燃えゆくコガラシさんを指差して言う俺に首を横に振る我がお姉様。

もしかしてまだ足りないとおっしゃるか?

 

「ち…違う!!違うの!!わざとじゃない!!わざとじゃないのーーーーー!!!」

 

「と、兎に角消火器を……ッ!!ってぇ!?」

 

玄関の隅に置いてあった消火器を持ってきたは良いが、ラベルを見て俺は絶叫してしまう。

最早涙目で震える我が姉に、災難はまだ振りかかるらしい。

 

「大変だ!!消火器の使用期限が三年前!!どうしよう!!姉ちゃんこのままじゃ殺人犯ルート一直線!!」

 

しかも放火殺人という普通より一味も二味も残酷な方です!!

 

「くっくっく、火遊びは許さんぞ、ご主人ん~~~~!!」

 

「ギャーーーーー!?キョンシーよろしく出て来たーーー!?」

 

「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?艱難辛苦続き過ぎーーーーーーーーーーーーーッ!?」

 

使えない消火器を捨てて、俺は庭先にあるホースの場所へと向かうのであった。

背後から「見捨てないでーー!?」と叫ぶ我が姉の声が。

スマン姉ちゃんっ。少し一人で耐えてくれ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……つ、疲れた」

 

やっと騒動が片付いた所で、俺は部屋のベットに腰掛けて溜息を吐く。

先ほど、庭先の水で無事消火は果たしたものの、黒焦げなコガラシさんを前に焦る姉を沈めてきたところだ。

最早近年見た覚えの無い程に焦った我が姉は「どうする!?埋める!?埋める!?」と物的証拠隠滅にかかろうとしてた程である。

すかさず証拠隠滅にかかる辺り、さすがの一言だった。

とりあえずスコップを持ち出した辺りで首筋に手刀を落として意識をシャットダウン。

ついさっき部屋に放り込んできた所だ。

 

「はぁ……腹減ったけど、さすがにあの後はなぁ……」

 

現在キッチンは火事の後やら何やらで大惨事。

さすがにあの状況で飯を待つのも無理があるからなぁ。

 

コンコン。

 

「幸助様。フブキです。入ってもよろしいでしょうか?」

 

「あっ。フブキさん?どーぞ」

 

と、先ほどの状況でも普段と変わりなかったフブキさんがノックしてきたので、入室を促す。

すると「失礼します」という言葉の後に、襖が開かれる。

其処には、何時もの美しい微笑みを浮かべるフブキさん――。

 

「ッ!?こ、この匂いは……!?」

 

「燃えてしまったコガラシの代わりに私がご用意させて頂きました。チンジャオロースと白米。餃子です♪」

 

「お、おぉぉお……ッ!?」

 

トレーに乗せられたホカホカの料理達に、思わず喉が鳴ってしまう。

そのまま部屋に入り、俺の部屋のちゃぶ台に食事を並べてお茶の用意までしてくれる。

 

「本当ならダイニングでお出ししたかったのですが、先のコガラシの所為で今は汚れておりますので、こちらでご辛抱下さい」

 

「辛抱なんてとんでもない!!こんな美味しそうなご飯が出てきたらお礼しか言えないって!!ありがとう、フブキさん!!」

 

「くすっ。はい、どうぞお召し上がり下さい」

 

「勿論!!いただきます!!」

 

笑顔で手を合わせて挨拶を済ませ、チンジャオロースと白米を口いっぱいに頬張る。

うーん……シャキシャキの筍にピーマン、牛肉の絡んだタレの味。

それが白米と合わさると……もう堪りませんなぁ!!

それに、パリパリの羽根付き餃子にラー油を混ぜたタレを漬けて噛む。

すると、中から溢れる肉汁がこれまたとんでもない旨味を味合わせてくれる。

あぁ……笑顔が止まらん。

 

「そうやって沢山食べて頂けると、作り手冥利に尽きます♪」

 

「ガツガツ……こんな美味い飯なら、毎日食ったって飽きませんよ!!」

 

「ッ!?そ、それは……コ、コホン。それはありがとうございます」

 

んあ?何か少しだけフブキさんの頬が赤かった様な……?

まぁ一瞬で戻ったし、勘違いだろ。

一息付いて、お茶を啜る。

 

「ズズッ……そういえば、コガラシさんは放置して大丈夫なのか?真っ黒だったけど」

 

「え?は、はい。もう既に復活して下の掃除をしておりますが」

 

「あっ、そう……復活て」

 

あの人は不死身なのだろうか?最早人類のカテゴリーから外れまくってるな。

まぁフブキさんの態度も普通だし、気にしなくても良いか。

それからは特に会話も無く、飯を食い終え、フブキさんが食器を片付けてくれた。

 

「ふぅ~……ご馳走様でした。美味かったよフブキさん」

 

「はい。お粗末さまです」

 

「はぁ。腹いっぱいだし、今日も良く眠れそうだ」

 

 

 

満腹になった腹を摩りながら、この後はどうしようかなと考えていたが――。

 

 

 

「――所で幸助様?先程、少し小耳に挟んだのですが……」

 

 

 

「んー?どうしたの?」

 

のんびりとした声で答えながら、フブキさんに顔を向けて――。

 

 

 

「綺麗なバラには棘がある、という諺を、幸助様は今日から、綺麗な花にはがある、と覚えておかれるとか?しかも発射機能付きの、近寄れないタイプ――でしたか?」

 

「」

 

 

 

ちょーっと洒落にならない微笑を浮かべたフブキさんと目が合ってしまった。

いや、笑みの質は何時もと同じだよ?でも……そこには何か、氷の様な微笑みと申しますか……。

 

「……ふふふっ♡お仕えするご主人様に誤解されたままなのはこのフブキ。悲しゅうございます」

 

と、悲しそうに眉を少しへの字にしてしまうフブキさん。

 

「……いや、あのねフブキさ――」

 

「ですので♪」

 

まだ何も言ってないんですけどー?

どうにかして言い訳しようとした俺の言葉をピシャリ、と切って捨てたフブキさん。

彼女はその微笑みのままにコテンと可愛らしく首を傾けながら両手を顔の横で合わせる。

仕草は抜群に可愛いのに背景が吹雪いてるのはドユコトー?背景さん仕事してー。

 

 

 

「本日はお互いの事を知る為にも、私とお話をして頂きたく思います――お願いしますね?ご主人様♡」

 

 

 

 

 

この後滅茶苦茶お話した。

 

 

 

 

 

冨士原幸助、16歳。

フブキのお話し(説教)が終わるまで、後――。

 

 




うーむ。

本来の主人公がなえかとコガラシの二人だから、あの二人からスポット外れると難しい……というかお色気しーんが半減してしまう。





じゃあ追加すれば良いよね?

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