序歌 一首目
「なぁ、僕のおる意味あるんかぁ? これ」
気怠い夏の暑さの上に鳴り響くセミたちの合唱。そして、果てしなく続くように感じてしまう階段。幼馴染みによるメールによって開いた携帯に写る文字はたった一言。
「来いの一言て……。地味に遠いんやけどなぁ」
自宅があるのは京都の嵐山。招集を受けた場所は滋賀の近江神宮。なんだかんだで移動がめんどくさい。それに電車内の人が多い。酔う。
くだらないことを考えながら朱色に燃える奇麗な楼門を潜り抜け、ちらほら見える参拝客を横目で流しながら、拝殿で5円玉を投げ入れる。願うことはただ一つ。
「面倒なことに巻き込まれませんように……。ホンマ頼んます。どうか、どうか頼んます」
トラブルメーカーの彼女と出来る限り関わりたくない。なんて思っていても、この場にきている時点で無駄である。
夏の近江神宮。陽炎が立ちこめるような日の中で外界と隔たれた室内では、高校生たちの暑い夏が広がっていた。
◆◇◆◇◆
始まりは小さな物だった。
『ものやおもうと ひとのとうまで』
たった四畳半に響く声。その声に僕は憧れた。流れた言葉の意味は分からなかったが、清流のような三十一の音が、ただただ美しいと思った。
僕の前にいるのは兄と姉。向かい合う2人の向こうで正しい姿勢を保つ着物を着た女性。自分から見ても祖母の姿は凛々しく美しく格好いい。その彼女が、一拍を置いて札を構え、ゆっくりと口を開く。
『こぬひとを――』
発せられた声に反応した2人の手は、弓矢のように一直線に札へと伸び、それを払う。自分の名前になっている、歌人《藤原定家》の歌を。
『対戦者が動き出すには、必要なんが1つあるよ』
普段は見せない笑顔は、また見たいと思える温かい物だった。
――言葉と声は何にも勝る芸術や。
1度だけ。祖母と共に暮らした生活の中で1度だけ、その言葉を祖母から言われた。本当に歌が、言葉が好きなのだと幼心に感じたのを覚えている。
『せやけれど、かるたする人は言葉と声をただの音としか考えへん。定家。あんたがかるたをするん言うなら、歌をちゃんと愛してや』
かるた界で最も美しいと言われた専任読手の一条敦子。厳しい祖母との数少ない温かいエピソード。その中で最も大切なそれは、
◆◇◆◇◆
「これより、A級の部一回戦を行います」
(若宮詩暢)
(当たりたくねぇ)
(北央の甘糟さんとか)
漏れ出た小声を耳が捉え、その小さな物が彼女の強さを物語る。
若宮詩暢。去年、圧倒的な強さで前クイーンを倒し女性1位の座に輝いたかるた取り。小学校四年生の時点でA級の舞台に立ち。中学生の終わり頃にはその強さ。
「ホンマ頼むで、天智はん」
近江神宮の祭神である天智天皇。百人一首の1番に入る彼に、僕は必死に頼んだ。
自分の書いた文が気に食わなくなり書き直すと宣言してからデータが吹っ飛び、やる気がマイナスまで落ちました。
今度は諦めない! データが飛んでも諦めない!
現にパソコン使えないけど気にしない!
頑張りますのでよろしくお願いします。