予選リーグの二戦目と三戦目。去年対戦した西高と、今回初めて戦うことになる戦う東宮との試合は、危なげなく勝ち進み、順調に決勝リーグへと進むことが出来た。
しかし問題はその先。決勝トーナメントでのオーダーをどのようにするか。本来であれば、オーダーを決めるのは顧問である宮内先生だが、彼女は素人で、なおかつ今日は兼任しているテニス部の方に顔を出しているため遅れてくる。
(どうする? 万全を尽くしても負けるときは負ける。なら、せめて万全のオーダーで臨みたい。強さ重視で行くなら、大江さんを除いた二年に一条を組み込むオーダー)
「相手はCリーグから出て来はった無名? の朋鳴高校さん。奏先輩は知ってはります?」
「いえ。去年はいなかったはず――」
奏先輩との会話を遮るように、ブーッ、ブーッっと、瑞沢の控え室に電話の着信音が響き、その発生源である鞄の中から携帯を取りだした僕は、ディスプレイに映る名前に焦る。
「どうかしたんですか?」
「ん? あぁ、普段は僕にかけてこない方の姉が電話をかけてきたのでちょっと出ますわ。オーダーは外しといてて下さい。長くなると思うんで」
画面に映った『
「もしもし高子姉さ――」
『定ッ! アンタ今どこで何してんのっ!』
携帯から聞こえてきたのは、姉のものではないがとても聞き覚えのある声。次姉の高子では無く、幼馴染みの詩暢のもの。
「それよりも、詩暢こそ誰の携帯で僕に電話してんのや?」
『あ、アンタの電話番号ウチ知らんかったから高子さんのケータイ借りたんや。って、それはええねん。アンタ今何してんの。ウチの高校には入学しとらんし、他の高校にも入ったって聞いとらんやないの』
「まあ、東京に来とるからな。こっちでかるたやるために」
『アンタが? ウチの居らん所でかるた』
直ぐに携帯から、詩暢からは想像できない不気味な笑い声が聞こえてきた。自分のことを嘲笑うかのような、とても重たく冷たい笑い声が。
『分かっとらんなぁ、定』
「何をや。何を分かっとらん言うんや詩暢」
『簡単なことや、良う聞いとき』
控え室の外にいる自分の耳にも、もうすぐトーナメントを始める時間であるというアナウンスが聞こえてくる。が、今はそんなこと良い。初戦で感じていた違和感。それが何のことか、うすうす感じ始めているから。
『アンタはかるたを、自分のためでも相手のためでも、ましてや仲間のためにも取ってない。定は、ただ大好きやったお祖母さんの姿見るために取ってる』
読手をするのは憧れを追うため。決して、言葉を愛してなんか無い。札を押さえて取るのも、昔見た祖母のかるたを真似するから。
『何より、アンタは私の世話をするんやのうて、ウチが近くに居らんとアカンかった』
「ちょっと待ち。意味が分からん」
『いいや、分かるはずや。ウチが取るときはよう読手をした。アンタは自分が読めばウチが絶対に勝つ思うとるんやけど、ウチには良く聞いとるだけのこと』
――アンタは、自分が何かする理由をウチにしてた。
かるたを始めたきっかけは祖母。札を取り始めたきっかけはは祖母。歌を詠み始めたきっかけは祖母。専任読手を目指したきっかけは祖母。
大会に出るようなったきっかけは詩暢を一人で取らせんようにするため。昇級するのは、詩暢を一人にしないため。
「はあ? 詩暢は一人でかるた取ってきて周りには誰も居らん。居るのは僕一人、手伝うわけでも無くただ横に居っただけや。そうなるために僕は――」
『今、この時期にかるた取ってる言うことは、近江神宮の団体戦か。まあ、そんな『皆で仲良く』やるかるたなんてしてる奴、ウチには要らんけどな』
「じゃあなんやねん! アンタは!」
『ウチは若宮詩暢や、現クイーンのな。ほな、どっかで会いまひょ。隣の家に住む一条定家はん』
携帯からは何かに当たる音がし、直ぐに「ちょっと! 詩暢ちゃん」と制止の声が聞こえてくる。
『ご、ごめんね定くん。ちょっと詩暢ちゃん追いかけてくるから、切るわ』
ぷちっと回線が切れ、耳に入ってくるのは機械音のみ。先程出した大きな声に部員たちが反応して様子を見ようとしていたが、それも気にならないほどに、僕の頭はぐちゃぐちゃになっていた。
「部長。オーダーに私と定家くんは入れないで下さい。ちょっと、かるたを取れそうに無いので」
「えっ!? ちょっと、大江さん!」
短く、部長にそれだけを言った奏先輩は、僕の腕を掴むと、会場になっている施設から出て行く。
「定家くん。ちょっと私とお話ししましょう。何も話せなくても、隣にいてあげます」
何か感じていたおかしな感覚。その答えがハッキリしたこと、そしてその中身の大きさに、僕はただただ下を向き、先輩に引かれるまま足を動かしていった。
次話は会話文(定家と奏ちゃん)がメインになります。