一条定家の奮闘記   作:笑 花弥

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 所謂閑話です。サブストーリー的に軽くお読みください。

 あと、一日に三話投稿はきつい! 今日投稿したこの三話、下書きも何も無いんだぜ!


本歌 送り札一枚目

「ま、待ってください! 定家君!」

 

 近江神宮で行われる全国大会の東京都予選まで、残すところあと半月程になった頃。ますます熱が入る部活の帰りに、僕は校門を出たところで奏先輩に呼び止められた。

 

「あ、あの、帰る方向が同じなんですから、一緒に帰りませんか?」

 

 その言葉に、優征先輩と勉先輩はアタフタしているが、僕は特に断る理由もないのでその提案に乗ることにした。

 

 因みに、勉先輩が「専任読手の肩書きか……」なんて呟いていたが気にせずに行く。

 

 つい先日、京都の実家から持ってきていた着物や袴を直したりして貰うために、何も知らずにアパート近くの『呉服の大江』に持っていったのだ。

 

「まさか家が近いなんて思ってませんでしたよ」

 

「僕もですよ。アパートの近くに呉服屋があるのは知っとったんやけど、それが奏先輩の家とは知らんかったです」

 

 ホントですよぉ。なんて笑い合いながら僕たちは帰路を歩いていく。

 

「あ、それで、今日一緒に帰ろうって誘ったのには理由があって……。あの、こんなタイミングで言うのもどうかと思ったんですけど、定家君の余裕があるときだけで良いので、読手の練習に付き合ってくれませんか?」

 

「ふふっ。予想よりも言い出すん遅かったから待っとってたんよ。もちろん、喜んでさせて貰います」

 

 そう。僕が予測していたよりも、奏先輩の申し出は遅かった。初めて会ったのは三月の部活動体験の日。今日はもう五月の半ば。

 

「あと、地が京都の方言なのに共通語の敬語って難しいんじゃないかなって、だから敬語じゃなくて良いですよ。それに、私の先生になるんですから」

 

「せやねん。ホンマ助かるわ奏先輩。ほな、二人の時は気楽に喋らしてもろうて、他の先輩達が居るときは今まで通りの言い方にするわ」

 

 改札に定期券を通しホームへ上がると、タイミング良く電車がやってくる。降りてくる人に道を空け、続いて電車に乗り込む。

 

 部活が終わる時間はだいたい六時過ぎ。あまりサラリーマンは多くないが、それでも部活帰りの学生達や、夜勤に就く人なんかも疎らにのいる。

 

「先輩。空いてるとこ座り。僕は立っとくさかい」

 

「そんな、悪いですよ。私が」

 

「ええからええから。空いてんのは一つやし、家の最寄りまで三十分ぐらいなんやから気にせんと。それより、読手の話せんでええの?」

 

 分かりました。と丸め込めれた奏先輩に僕は普段何かしてるのかを問いかける。

 

「普段は特に、と言うより、ここ最近になってしっかりと出来た目標なので、どうすれば良いのか分かってないんです」

 

「せやったら……。家に専任読手の音声データはあるんか?」

 

「一応山城今日子さんのがありますけど……どうするんですか?」

 

「いや、簡単な話や。山城さんのやったら、それ流しながらそのリズムと同じリズムで復唱すればええ。僕はとなりにお祖母ちゃんが居ったから、普段やってるかるた会の練習とかでお祖母ちゃんの歌い方ばっかり聞いとった」

 

 上達するには真似から入る。上手な人にはその人なりの心情があって、それがコツになる事が多い。技術は盗むのと同じである。

 

「4-3-1-5方式のリズムを頭ん中に叩き込むんや。気づいたらそのリズムになるくらいに。声が震えるとか、大きさなんて後やで、後」

 

「それじゃあ定家君は今もそんな風に?」

 

「それが、東京に来てからできとらんのや。家は集合住宅やから、いくら防音が施されてる言うても限度かあるから。まあ、前は朝起きたときと寝る前に発声練習して、かるた会の練習するときでもできるかぎり詠ませてもろうてた」

 

 重要なのは、密度の濃い練習をどれだけ出来るか。

 

「山城さんのとか小峰さんとか五十嵐さんとか。色んな人の声聞くのはええ練習になるし、必要やったら僕のとお祖母ちゃんの音声データ渡すから、土日とかにやるのがええと思うわ」

 

「分かりました。そうしてみます。部活内でやるときは色々言ってくださいね」

 

「もちろんや。ビシバシ行くから途中で止めたらアカンで」

 

 大丈夫です! と元気よく返事する奏先輩に笑みが溢れ、それに対して怒られるが、そんな楽しい時間もあっという間に駅に着く。

 

 改札から出て、家までの道のりの途中にある『呉服の大江』まで先輩を送ると、そのまま誰もいない家へと歩く。そんな中、思うことは一つ。

 

「お祖母ちゃんが僕に読手の練習付けるとき、こんな気持ちやったんかなぁ」

 

 今胸にあるのは純粋な喜び。同じ歌が好きで言葉が好きな人にらその力を授ける行為。

 

【かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける】

 

「お祖母ちゃんから奏先輩へのかささぎに、僕はなれるんかな?」

 

 小さなつぶやきは、夜に響く様々の音に掻き消され、霜のようにいつの間にか消えていた。

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