一条定家の奮闘記   作:笑 花弥

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 今更ですが、ちはやふるの二次小説なのに主人公がかるたを取っていない。

 それではどうぞ。


本歌 四首目

 気が付けば六月。入学してからの二ヶ月でついに、全国高等学校かるた選手権大会の東京都予選が始まった。

 

 今は大会が始まる少し前、瑞沢高校のかるた部は全員袴で試合をすると言う事で、定家は京都から引っ越す時に持ってきていた袴の内の一つを手に持っていたのだが……。

 

「机君の指示通り、一応女物を私のを除いて三組持ってきましたけど、なんでなんですか? 女子生徒は私と千早ちゃんとすみれちゃんですよね」

 

「いや、大会の組み合わせ次第で色々と考えたんだけど、その作戦の一つだよ」

 

(嫌な予感がするのは僕の気のせいやんな)

 

 若干の予想がついている定家は、そんなことは無いはずだと邪念を払うように首を振り、予選リーグの表を作戦参謀的な役割をこなす駒野と共に見ていた。

 

「瑞沢はAリーグ。秀龍館に西高。東宮の三校とやるみたいやね」

 

「秀龍館と西高は去年も戦ってるからデータが使える。一回戦は秀龍館だから丁度良い。一条は今すぐかなちゃんから女物を貰って着替えてきて」

 

「そんなことや思うたわっ!」

 

 定家の叫びは、男のものにしてはえらく可愛らしい叫び声だった。

 

 ◆◇◆◇◆

 

「定家君、速くこっちに来て下さい! もうすぐ初戦が始まりますよ」

 

 奏先輩に手を引かれ、僕は先輩達の前に姿を見せた。のだが……。

 

「おい一条。その格好って」

 

「なんて言うか……。その……」

 

『私/千早ちゃん/綾瀬/先輩よりも……女子だ』

 

 定家を除いた部員の七人に、部員たちの着付けの手伝いをしてくださった奏先輩の母親である利恵子さんにまでそう言われてしまった。

 

 薄い紫の生地に梔子(クチナシ)がところどころに散りばめられた長着に落ち着いた今紫の袴。髪は普段と違いポニーテールにされており、クールな印象なのに若干恥ずかしそうにしているため、控えめに言って美人になっている。

 

「姉のせいやけど、この姿で普通におれる自分が哀しいわ。ホンマなんでや……」

 

「とりあえず、一条は予選リーグの間それだから。それより、オーダーなんだけど」

 

 そう言った勉先輩は、二年中心で書かれたオーダー票を部長に渡す。

 

「そうだな。初戦の秀龍館戦で勢いに乗りたいし、これでいいんじゃないか?」

 

 一番から順に、西田、大江、綾瀬、駒野、真島。去年の経験もある先輩達が試合をするのは正しいのだろう。とりあえず僕は、何かと世話をしてくれる奏先輩に、髪型やら衿元を正されていたのだが、その時だった。

 

「なにやってんだテメー! ありえねえぞオーダー書き換えなんて!オーダーに文句があんなら口で言えよ!」

 

「だ、だって……、おれ、駒野先輩には三枚差までいったことあるし、もう実力では追いついていると思うし……っ」

 

 ペシッと、秋博の頭が部長によって叩かれ、瑞沢の部員がいた場所が静かになる。

 

「頭冷やせ。出来ないなら帰れ」

 

 そう言い放つ部長の横で、勉先輩は何か考えた表情を見せる。

 

「どうしたの机くん」

 

「いや、最初は波に乗ろうと思ってあのオーダーを渡したけど、それなら一条に女物着せた意味が無くなるんだよ。だから、とりあえずオーダーを組み直そう」

 

 確か、僕の記憶が正しいもんやったら、初戦の秀龍館は男子校やったはず。だとすれば、花野と僕が入るいうことか。

 

「秀龍館戦は二人入れ替えで、肉まん君の代わりに一条定家。僕の代わりに花野菫(はなのすみれ)

 

「へ? 私?」

 

「二試合目の西高とは、一条に変わって肉まん君。かなちゃんの代わりに筑波秋博(つくばあきひろ)で行こう。秀龍館のメンバーは去年とほとんど変わってないから、女子にはめっぽう甘い。女子三人を中心プラス一条を女にしていくのが得策」

 

 手に持つメモ帳には、他校のことがびっしりと書き込みれており、西高も、『よく声を出す。真面目で素直』と一番上に書かれている。

 

「真島と綾瀬は多分全試合出ずっぱりになる。一条は決勝に残しておきたいから肉まん君と状況によって入れ替わる。けど、僕やかなちゃんに一年は、確実に取りに行けるタイミングででるしかないんだ」

 

 ――真島、綾瀬、頼んだよ。

 

「これは、やるしかあらへんなぁ。みんな」

 

 ◆◇◆◇◆

 

(久しぶりの試合やわぁ。身体動くんかいな)

 

 分けられた二十五枚の札を、自分の陣に並べていく中、僕はそんなことを考えていた。

 

(前の大会は確か三月の終わりとかやから、まあ、二カ月ぐらい試合しとらんのか……)

 

 どの札をどう取るかを考えながら一枚一枚丁寧に札を置き、暗記時間の十五分に入る。

 

(一字決まりはそない無いな。二字決まりは多いけど三字決まりは少ないんか。五字と大山もあるんやったらバランスええなぁ)

 

 札の位置を叩き込む中でどう戦うかをある程度決めると、身体の筋をゆっくりと伸ばしながらもう一周。久しぶりだからこそ念入りに。

 

「奏先輩」

 

「どうしたんですか?」

 

「二分前なったら起こして下さい」

 

「え? ちょっと」

 

 念入りに覚えれば、記憶の整理と気持ちを落ち着かせるために目を閉じる。昔からやっていることの反復は、それだけで頭のスイッチを切り替える。

 

 正しい正座の美しい姿勢。鼻から吸った空気は真っ直ぐ気管を通っていき、肺の中で酸素を受け渡す。目を閉じるのはそのイメージを起こすため。そしてそのまま眠るため。

 

「……て下さい。もう直ぐ試合ですよ。起きて下さい」

 

 次の瞬間、目を開いた先には秀龍館の相手、下には自陣敵陣に並べられた五十枚の札。空っぽの頭にすんなりと入ってくる。

 

『なにわづに さくやこのはな ふゆごもり はいまをはるべと さくやこのはな――』

 

「ほな、よろしゅう頼んます」

 

 静かな会場に響く序歌が、えらく僕の耳にこべりついた。




 別に今回の話でやるとは言ってない。
 どんな試合展開にするかにするか考え物です。
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