一条定家の奮闘記   作:笑 花弥

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 自分がかるたを取らないから試合描写が分からない。とりあえず、やっと主人公がかるた取るけどちゃんと描写出来てないと思います。分かるかな。


本歌 五首目

 耳にこびりつく、序歌を読む嫌な声。普段は感じない奇妙な感覚に、僕は嫌な予感がしていた。

 

『かく――』

 

 相手の利き手側上段。つまり、僕から見て左上にある札一枚を静かに抑える。

 

『――とだに えやはいぶきの……』

 

 たった一枚だけが少し動く敵陣から、当たり札の【かくとだに】を自分の左手側に置くと、送り札を一枚渡す。

 

(敵陣の利き手側には二字決まり、逆側の下段に三字決まりが比較的多く並べてるいうことは、手を戻すときに取りやすくなるようしとる。聞き分けをしっかりせんと、ポロポロ落とす)

 

『あさじ――』

 

 今度は自陣の左上段。

 

『――うの おののしはら……』

 

 音がしない、一枚だけを確実に取るかるた。流れる歌を、言葉を、声を邪魔しないかるた。

 

(僕の耳に特別凄いもんはない。今名人してはる周防さんや千早先輩みたく『感じ』がええ訳や無い。やからこそ、聞こえた札を確実に)

 

『よの――』

 

 聞こえてきた札を確実に取る。どちらかというと守りがるたをメインにするからこそ、自陣の札を低く隙が無いように塞ぐ。

 

『――なか()……』

 

 そして、しっかりと札を抑える。

 

(当たり前のことをするからこそ、当たり前のことだからこそ強い。反復して積み上げた土台は、そう簡単には崩れれん)

 

「良いぞ一条! 三連取! どんどん波に乗るぞ!」

 

 部長のかけ声に、はい。と落ち着いた返事の後、相手の札を確認のために見る。序盤でどれだけ差が開けれるか。でも、無茶に暴れる切り込み隊長をするのは千早先輩で、僕の役割はしっかりと勝ちを取ること。

 

(詩暢は、札の一枚一枚が小さい妖精? 人形? 神様やったかなんかに見えるなんてアホなこと言うとったけど)

 

 ――綺麗な景色やわぁ。お祖母ちゃんもこない思っとったんかなぁ。

 

 歌一つずつにあったエピソード。それを見せる景色が、札を通して見えてくる。【みかきもり】であれば、静寂の闇の中に浮かぶ篝火であったり、【たきのおとは】であれば、滝の流れを見ながら友のことを思う景色であったり。

 

『こころあてに――』

 

 出たのは空札。競技線ギリギリに置いた手を1ミリも動かさず、次の札を待つ。

 

(さて、詩暢ほどのもんはもっとらんけど、それでも僕はそこそこの選手や。どれぐらいやってくれんのか)

 

 二枚連続で空札が出ている間、僕はそんなことを飄々と考えていた。

 

 ◆◇◆◇◆

 

「あ、あの……なんで俺にチャンスくれたんですか? 失礼なことたくさん言ったのに……」

 

(しっ! 声大きいよ)

 

(す、すみません)

 

 試合に出ない、控えに回った筑波が、二回戦に出すとチャンスを与えた駒野に尋ねる。

 

(去年は尖ってたな。机くん)

 

 そう西田に茶々を入れられるが、それも良い思い出である。試合に勝てず、経験者の三人が勝ち続け、終いには自分と大江は数合わせだと言ってしまった去年の予選。

 

(俺もあるから……。チャンスを貰ったことが)

 

(まあ、筑波君は焦らないで良いよ。絶対に強くなるしな。かるたの経験が長いおれと、頭脳明晰の机くんが保障する)

 

(熱意も才能もある。大丈夫だ)

 

 かっこいい。今までに何回も発してきたはずの言葉なのに、しっかりと目をかけて言ってくれる駒野の姿にピッタリと噛み合う言葉だと思った。

 

(それにしても……)

 

『たま――』

 

 三人の視線の先にあるのは、女性にしか見えない男子生徒、一条定家。

 

(部室じゃあ緩い感じですけど、一条って強いんですね。相手のお手付きもあったし、さっきから一条ばっかりが札取ってますけど)

 

(そっか、もともと内地のかるたは詳しくないんだもんな。まあ簡単に説明すると、一条はバケモノの一人だよ。言い方は悪いけどな)

 

 そこで、改めて西田は筑波に一条のことを説明する。

 

 一条定家。高校一年生で、早生まれのため十五歳。 

 

 そして、ここ最近では、大会で滅多に読手にならない専任読手九頭竜葉子(くずりゅうようこ)の推薦で試験を受け、今現在八名しかいない『専任読手』の一人になった人物。

 

 小学校の頃は全国大会で優勝しかしたことがない程、昔から強い。

 

(百人一首を作った藤原定家の直系の子孫で、家族も全員かるたの選手。おまけに祖母は、今は亡き専任読手の一条敦子。今のクイーンと同じで小四の頃にはA級になってたんだ)

 

(専任読手になる条件の一つは、選手としてある程度強い。つまり、綾瀬たちと同じ舞台に立つA級の選手じゃないといけないんだ)

 

『はなの――』

 

 しっかりと札を取る真島、力強く払う綾瀬、とれなくて悔しそうにする大江、相手に教えられて札を取る花野。そんな皆とは違い、美しく清らかに一枚だけを抑える一条。

 

「やらかしてしもた」

 

「瑞沢の()()()が二十六枚差! お手付き含めたパーフェクト」

 

「まあええか、気にしたらアカンな。瑞沢一勝」

 

 瑞沢と秀龍館の試合で一番最初に聞こえてきたのは、後悔の念が入った京都弁。観客の誰かが堪らずに声を出すと、自分たちにアドバンテージがついたことを伝える。

 

「もう一人の女の子もパーフェクトだ」

 

(綾瀬。ますます男扱いだな)

 

(もう、綾瀬と一条性別交換すれば良いのに)

 

(ほんと、二人色々と損してる。けどとりあえず)

 

「瑞沢二勝!」

 

「大江さん、花野さん。落ち着いて、ゆっくりしっかり取って行くぞ」

 

 かなり優勢な場面を展開している部長の声掛けに続き、その後瑞沢高校は秀龍館に対し、四勝一敗の成績で予選リーグ二戦目の西高との試合へと向かった。

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