俺はあの日決闘して綾人と友達になった。最初俺は綾人の事を疎ましく思っていた。誰にでも優しくて人当たりがよくお人好しの綾人を。だが今思えばそんな部分にただ俺は嫉妬していただけだと思う。綾人は俺には無いものを全て持っている、それは俺には決して手に届かなくて、暖かくて、それでいて柔らかな…………今は亡き母親のように。俺にはここに来る前の記憶がほとんど無いに等しい。ただ覚えているのは自分の名前と獣の本能のような戦い方と、両親に特殊な細胞を埋め込まれた事だけ、だがなんとなくわかる。母親は強くて優しくてそれでいて海のように広い心を持っていると。そして理解している。母親が死んだ原因は…………俺自身にあると。父親の事はまだ思い出せない。いつか思い出せるだろうか、そして俺は全て思い出した時に正常出いられるだろうか。間違いなく俺は過去に過ちを犯している。それと右手首の痣が関係しているのかは不明だが。
春の風が心地よく俺の髪を撫でる。俺は今ようやくストーカーの矢吹や友達の綾人と離れ1人で六花を散歩している。街を歩くと星導館の生徒や見かけない制服を来ている生徒がチラホラと見える。
「(……あまり遠くに行くと迷子になるかもな。)」
ここはまだ俺が知っている行動範囲の中だ。そんなに遠くに行かない限り迷子にはならないだろうな。そんな事を思いながら俺は奥へと歩みを進めた。そして………………
……………………………………迷った。
どうやら俺は迷子になってしまったらしい。両耳にイヤホンを当て適当に歩くのは今度からやめにしよう。そんな反省を冷静にしつつ俺はこれからどうするかを頭で整理した。
まず一つ目は、矢吹や綾人に連絡をする。しかしこんな事であいつらの手を借りるのは少々恥ずかしい気もする。矢吹なんて、この話で2日3日はいじられそうだ。うん、これは最後の手段にしよう。
そして二つ目は、人に尋ねる。これもあまり実行しようとは思わないな。何せ俺は初対面の相手との口の聞き方がわからない。いきなり話しかけて相手に不快な思いをさせるのはやはり胸が痛む。よし、この手段も最後の手段にしよう。
そして三つ目は、当てもなくフラフラと歩いてみる。これは1番簡単だが1番危険だな。下手に動いてまた迷ったりなんかしたら本末転倒だ。……この状況だとあまり佐々宮の事を悪く言えないな。
結局俺はどの選択肢も一旦保留にし休憩することにした。とりあえず俺は近くの自販機でジュースを買おうと思い自販機に近づく。すると、
「うーん、どっちにしようか迷うな。この新商品も美味しそうだし、あ!でもこっちも美味しそうだな。」
自販機の前には何故か帽子を深く被り長袖長ズボンの女が自販機の前で格闘していた。俺は女が買い終わるのを後ろで待っていることにした。てかジュース選ぶのにそんな時間掛けなくてもな。
「うーんやっぱりこっち……イヤでもこっちもなぁーはぁ。何で私ジュース買うのにこんなに時間掛けてるんだろ。」
「(……それはこっちのセリフだ。)」
俺は前で悩む女に声をかける事にした。えっと、綾人曰く初対面の人には笑顔で話しかける、だよな。俺は話しかける前に無理やり笑顔を作り意を決して女に話しかける。
「……お、おい、そんなに悩んでるんだったら先に俺がか、買ってい、いいか?」
「え!?あ、ごめん後ろで待ってたんだね。全然気づかなかったよ。」
「…………。」
振り返って視界に入った女の顔は正しく絶世の美女。という表現が正しく、顔が恐ろしいほどに整っていて、俺は思わず女の顔に見とれてしまった。
「あれ?そんなにじっと見ちゃって私の顔になんか付いてる?」
「…………あ!いや、そうじゃないさ。」
「そ、そう?じゃあ先に買ってもいいよ?」
「あ、あぁ、そうさせて貰う。」
俺は小銭を取り出して自販機に入れいつもの葡萄ジュースを買おうとする。しかし何故か女は俺のその様子をじっと見つめていた。
「……そんなに見られたら買いづらいんだが。」
「あ、ごめんごめん気にしないで!」
いや、気にしないでって言われてもな。なんというか、はずかしい。俺は女の言う通り気にしないように葡萄ジュースのボタンを押す。がたん!という音がして俺の目当ての物が下の取り出し口に落ちてきた。
「ねえ?それって美味しいの?」
「……美味しいっていわれてもな、まぁ俺の好きな者の一つだし。」
「へぇー!そんなにか!じゃあ私もそれにしよ!」
「あ、ちょ!」
女は俺の静止を聞かずお金を入れて俺がさっき押してボタンを押す。
「はい!お揃いだね!」
「あ、アンタ俺と同じのでいいのかよ。さっきあんなに迷ってたじゃないか。」
「うーん、今思ったんだけど今度また買えばいいだけなんだよね。だから私もこれでいいんだ!」
女は嬉しいそうにジュースを口に含み飲み込んでから俺にまた話しかける。
「てか、いつまでそんなわざとらしい笑顔作ってるの?」
「うぐ、……ば、バレてたのか。」
「そんなわざとらしい笑顔誰でも分かるって。」
俺は女に指摘され、笑顔をやめる。ふぅ、慣れない事はするもんじゃないな、頬が疲れる。俺は買った葡萄ジュースを口に含む、だが何故か緊張してほとんど味がしなかった。
「あ、でも今の顔よりさっきの方がまだいいかもね!」
「……どっちだよ。それより用事とかあるんだったら行かなくてもいいのか?」
「あ、そうだった……。すっかり忘れちゃったよ!ごめんね時間取らせちゃって!えっとー名前なんだっけ?」
「……ソーマだ、好きに呼べばいい。」
「わかった!じゃあね!ソーマ君!」
女は俺に手を振って走ってどこかへいってしまった。ていうか俺に名前聞いといて自分では名乗らんのか。まぁ、別に興味ないからいいけどな。すると突然電話がかかってきた、名前を確認すると…………矢吹か。
「……なんだ。」
「なんだって。ソーマを探してたんだけどどこにもいないから電話したんだよ!今どこにいるんだよ!」
「……何処っていわれてもなぁ。」
実際何処かと聞かれてもまず俺は迷子なのでここがどこなのかよくわからない。
「あ、もしかしてソーマ。」
「……(ギクリ。)」
「迷子になっちゃったんだろ!お前いいとしこいて迷子とか恥ずかしすぎるだろ!これから佐々宮の事わるくいえないぞ?」
「……チッ、後でおぼえてろよ。」
「わ、わかったって、そんなに怒るなよ。そうだな、じゃあ近くに何あるか教えてくれよ。迎えに行くから」
近くか。何があるって言われても、カジノ、bar、キャバクラ、って、思いっきり歓楽街じゃないか。
「……悪い、どうやら俺は歓楽街にいるらしい。」
「そ、そんなに遠くにいったのか。わかった、今から向かうからそこでまってろよ!」
そう言うと電話が切れて俺は近くの椅子に座り込んだ。チッ、だから矢吹に言いたくなかったんだ。俺はイスに座り耳にイヤホンを当ていつも聞いてる曲を流した。
「……ん。なんかこの歌の声をさっき聞いたような…………いや、まさかな。」
俺はそんな事あるはずないと鼻で笑い飛ばして矢吹が来るのを待った。
〜〜〜〜〜〜
「あ!ソーマ君に私の名前言うの忘れてたよ。」
急いでてうっかり自己紹介するのわすれちゃった。自分だけ名前聞いて自分では名乗らないってなかなか酷いよね。
「ふふ、面白い人だったな、ソーマ君。また会えたらいいな。」
私は何故か自然と笑みが零れていた。あれ!なんで私ソーマ君の事でわらってたんだろ。可笑しいな、あ!そんな事よりもウルスラを見つけなきゃ!ウルスラには聞かなきゃいけない事沢山あるんだから!
そう言うと彼女、シルヴィア・リューネハイムは歓楽街の街へと消えていった。しかし、この時まだソーマは知らない。彼女がソーマの記憶を取り戻す可能性だと言う事を。そして、彼女がソーマにとってかけがえの無い人になるということを。
PS.この後ソーマと合流した矢吹はボコボコにされ、ソーマが迷子になった記憶をを強制的に失いました。
矢吹可哀想。
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