白と黒   作:303

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2話

 

 

 

大小の建物が並ぶ街並み。相墨はビルの屋上に腰かけその風景を眺める。

 

平日の夕方。この規模の街であれば、車と人の流れが盛んになるだろう時間帯に、それらの影はどこにも見られない。

 

「……まあ、当たり前か」

 

オレンジ色の陽に眼を細め、気怠げに呟きながら、ゆるりと右手で頬杖をついた。

 

自問自答にもなりはしない。彼の眼下に広がるのは、旧東三門。警戒区域に区分された、近界民との戦場なのだから。

 

 

取り留めのない思考を遊ばせながら、相墨は口元を左手で覆い、くあっと間の抜けた声を漏らす。

……これ以上ない大欠伸だった。

 

 

「シオー、起きなよー?」

 

そんな彼の耳に、明るい少女の声が届く。すでに聴き馴染んだその響きに、相墨は振り向く。

 

トコトコと歩み寄る彼女に、いや、と否定の言葉を返す。

 

「……起きるもなにも、まだ寝てないよ」

 

「ほら、まだっていった。その気満々じゃない……!」

 

「……揚げ足を取るのは感心しない」

 

雪谷の言葉に小さく零せば、そんなことないと彼女は続けた。

 

「休み時間は、いっつも机でグデ〜ってしてるんでしょ?」

 

その内容に、はて?と思う。

高校のことなど話した憶えが無い。疑問に思い口に出す。

 

「誰から聞いたのさ?」

 

「時枝先輩」

 

その名前に納得した。

 

「ああ、充がいたか」

 

気まずさに頬を掻き、そっと目をそらす。普段は頭の下がるクラスメイトの面倒見の良さも、今は少しばかり恨めしい。

暇さえあればとりあえず眠る。

自身の行動をそのまま伝えられていたのなら、欠伸一つでこのツッコミも納得だった。

相墨は、まいったなぁと独り言ちる。

寝不足の理由を口にするのもなんとなく躊躇われる。どうしたものかと思案する。

 

 

 

『志生くん、愛ちゃん、ゲートの反応があったわ』

 

言い訳が浮かぶその前に、通信が2人に割って入った。

 

「フワさん、座標は?」

 

立ち上がり、声の主に短く問う。

 

『誤差0.27、そこから9時の方向800メートルよ』

 

オペレーター、灰本歩羽は、落ち着きはらった声音で答える。

 

「……了解、マナ」

 

「うん!」

 

先ほどの不満は何処へやら。相墨に応え、雪谷が勢い良く飛び出した。そのすぐ後に彼も続く。

 

 

屋根を伝い、軽快に家々を跳び駆ければ、そう掛からずに敵影を捉えた。

 

「バムスター4、モールモッド2、援護は?」

 

「いらない」

 

「どっち?」

 

「多い方!」

 

「じゃあ、ぼくはモールモッドだね」

 

やり取りを交わし、それぞれの標的へ狙いを定め距離を詰める。

 

 

「ハウンド!」

 

雪谷は、背面に光のキューブを作り出し、鈍重な巨体へと追尾弾を放つ。

 

「レイガスト」

 

山形に降り注ぐ光弾を横目に、相墨が剣を水平に向ける。

地に蹴り込む様に強く跳躍、同時にスラスターを起動。急加速した相墨はアスファルトを掠める様に滑空し、敵とのすれ違いざまに、鋭い一閃を叩き込んだ。

 

モールモッドの片割れは、初撃で眼を割られて地に沈む。

 

次いで大きな振動が二度響いた。

視界に投影されたレーダーからは、傍の1つに加えて、後方2つの反応が消えている。

彼方の相手も所詮バムスター、すぐに残りも終わるだろう。

 

「……さて、と」

 

残骸を一瞥し、もう1体に眼を向けた。ジリジリと迫る敵に対して、相墨は腰だめにレイガストを構える。

 

ギシリと関節を軋ませて、モールモッドがブレードを広げる。刃をむける挙動、そして自身の構えから次の手を予測。

 

 

相手が一歩を踏み込む瞬間、再びスラスターを唸らせた。

 

 

 

 

 

防衛任務を無事に終え、2人はボーダー本部に戻る。

 

 

相墨は作戦室のソファに腰掛け、眠たげな瞳で端末を見詰める。

 

バムスター12、バンダー2、モールモッド7。出現箇所とその時間、諸々から推測される問題点……

 

次々に活字を入力。タップの度にカタカタと、電子音が室内に響く。

 

 

「なんだかシオじゃないみたい」

 

唐突に、あどけない声が頭上から降る。頼りない重みがトサリと掛かった。

 

「……いきなり何さ? 」

 

「マジメな感じが、なんか変?」

 

ボサボサの頭に小さな顎を、隊服の肩に華奢な手を乗せ、雪谷は小首を傾げ言う。

 

「失敬な。てか、寄りかかってこないでよ」

 

「あたし体重軽いもん……!」

 

「……いや、そうじゃなくてさ」

匂いであったり、柔らかさであったり。あまりに無防備で心臓に悪い。

表情は変えずに溜息を一つ、そんなことを内心で呟く。

 

 

そこにクスリと、控え目な笑いが耳に入った。

 

 

「2人とも、またじゃれてるの?」

 

右手側のオペレータールーム。そこからの穏やかな声に眼を向ける。

 

シニヨンに纏めた栗色の髪に、スッキリとした顔立。すらりとしたスーツ姿の女性が視界に収まる。

 

「あ! フワさんお疲れさま〜」

 

「お疲れ様。本当仲が良いわねぇ」

 

雪谷に応えて、灰本は表情を緩めた。

 

「……いや、フワさん。ほっこりしてないでマナを止めてよ」

 

「でもシオくん、満更でも無さそうじゃない?」

 

「でしょ〜?」

 

灰本の言葉に雪谷が頷く。

 

「……2人してなに言うのさ」

 

相墨は疲れた様に2人に返し、端末をポケットにしまい込む。

その動作に、雪谷がパッと彼から離れた。パーカーを揺らし、扉に向かう。

 

そこを察せるなら、他もできないものだろうか?

 

一瞬そう考え、それはそれで恥ずかしいかとすぐに打ち消し、席を立つ。

 

「報告書はいいの?」

 

灰本の疑問に一つ頷く。

 

「……アレはただのメモ。提出日には、ストックをまとめて書き直すから、だからこれでいい」

 

「なら安心ね」

 

 

 

「シオー、フワさーん、早く行こー?」

 

既に扉を潜り、急かす少女に少年が返す。

 

「……食堂は逃げないし、混み始めるのはもう少し後だよ」

 

「シオはいっつも遅いじゃない……!」

 

「……この時間なら、そうは変わらないって」

 

 

繰り広げられるいつものやり取り。言葉とは裏腹に、楽しげな雰囲気が2人から滲む。

 

 

 

微笑ましいその様子に、灰本がまた笑みを零した。

 

 

 

 

 

 




Fuwa Haimoto
灰本歩羽(ハイモト フワ)

Profile
本部所属 A級9位相墨隊 隊員 オペレーター
21歳(大学生)4月30日生まれ
169cm O型 ねこ座

好きなもの
家族 チームメイト グラタン

Parameter
トリオン1 機器操作9 情報分析8 並列処理8 戦術7 指揮7
Total39
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