サキサキの誕生日と近かったのでいっしょくたにしてみました。手抜きじゃないよ?
「お兄ちゃん!トリックオアストレート!?」
「何言ってんだお前」
朝も早よから飛び出したわけわからん文言に半眼で返す。いやホント何言ってんのこいつ?まぁ直球か変化球なら断然後者だが。
時計を見るとまだ6時半。
こんな時間に叩き起こして何のつもりかと非難の視線を送るものの、小町には通じた気配もなく逆にほっぺたを膨らませて威嚇してきた。ウム、実に可愛い。
「むぅ、お兄ちゃんこそ何言ってるの?ハッピーハロウィンだよ?お菓子かいたずらかに決まってるでしょ」
あちゃー、やっぱそれだったか。違ってる可能性を期待してわからないふりしてたんだけどなぁー。
「それストレートじゃなくてトリートな。文字数すら合ってねぇぞ」
「ほへ?トリートメント?」
だから違ぇよ。何、美容院行きたいの?俺そんな金無いよ?
「それでお兄ちゃん!お菓子といたずらどっち!?」
「トリックで」
「即答!?」
いやだってなんも用意してねえし。
そもそもこの質問してくる奴ってのは菓子貰う事しか考えてねえからな。いたずらして良いと言われても何していいかわからんもんだ。
どうせ小町もそうだろうとタカをくくっていると、小町はハァやれやれとやたらムカつく仕種で肩をすくめた。
「まったく、これだからごみいちゃんは……」
そして妖しい笑みを浮かべ、おもむろにベッドに上り身を寄せてくる。
「……おい、何の」
「いたずら。して良いんでしょ?」
俺は危険を感じ、小町を押し退け
「~~っ!?!?」
ようとする間も無く、これまで体験した事の無い刺激が脳を突き抜けた。
「お、おお、おおおまっ!?」
「んふっ♪慌てちゃって、お兄ちゃん可愛い♪」
「やかましい!」
そら慌てるわ!いきなり人の耳噛みやがって!
「……つーか本当何のつもりだ。今日なんかあったか?」
「別に?可愛い妹からの単なるモーニングコールだよ。目、覚めた?」
「バッチリな」
いやもう本当。効きすぎるくらい。
「うんうん。明日からもこれでいこっかな♪」
普段俺の寝起きが悪すぎるせいか、しきりに頷く小町。心臓に悪いからできれば今後は控えてほしい。いや、俺が悪いんだけど。でもたまにならよくってよ?
結局目が冴えてしまった俺は、いつもよりずいぶん早く家を出た。
「てなことがあったもんでな」
「それで今日は珍しくこんな早くに来てたんだ?」
昇降口で出会ったクラスメイト川崎沙希は、そう言って納得したように頷いた。
「しかし……相変わらず行き過ぎなくらい仲良いね、あんたんとこの兄妹は」
「まあな。つうかお前こそこんな時間にどうしたんだよ?バイト辞めてから遅刻は無くなったけど、別に朝早い方でもなかったろ?」
「ああ、なんかウチでも大志がハロウィンがどうとか言い出してね。色々あって追い出されたよ」
「え……お前弟に耳噛んでもらったりしてんの?」
「んなわけあるか!?」
だよな。ああびっくりした。
俺は胸を撫で下ろして続ける。
「にしてもあの二人が揃って似たようなこと言い出すってのはなんなんだろうな」
「……さあね。昨日こそこそしてたしなんか企んでんのかもね」
「そういやなんかやってたな、二人して。と、忘れてたけど昨日はありがとな、小町の勉強見てもらって。数学は俺じゃどうにもならんから助かった」
「別にいいよ、大志の勉強見るついでだし。むしろ迷惑じゃなかった?お邪魔しちゃって。あんたのことだから俺のパーソナルエリアに踏み込むなとか言うかと思ったんだけど」
「気にすんな。小町を男と二人きりにするのに比べたら、俺のプライベートなんぞ些細な問題だ」
「シスコン」
「ほっとけブラコン」
そこで一度会話が途切れる。
しかしなんだな。こいつとは話し安いっていうか、会話しててストレスを感じなくて良いな。というか話しなくても特に気にならないのが良い。
一緒にいて気を遣わなくていい相手ってのは、実はものすごく貴重なんじゃないだろうか。由比ヶ浜が相手だとなんだかんだで気を遣うしな。雪ノ下?論外だろ。話さなくても気にならない代わりに暴言が飛んでくんだぞ?
「……そういやこないだ誕生日だったんだってな」
「え?……ああ、あたしのか」
……こいつ今、素で忘れてやがったな?まあボッチってそういうもんだよな。俺もよく忘れる。
「礼も兼ねてなんかプレゼントでもしようと思うんだが、なんか欲しい物とかあるか?」
「……あんたってそういうこと絶対しないタイプだと思ってたんだけど」
「昨日小町に命令されたんだよ。だから拒否は受け付けんぞ。このミッションに失敗すると、俺は小町に口を利いてもらえなくなる」
「そりゃ大変だ」
川崎はそう言って苦笑すると、少し考えてからポツリと呟いた。
「……トリックオアトリート」
俺は意味が分からず聞き返す。
「……何言ってんだ?」
「いや、そういえばあたしって、こういう季節もののイベントに参加したことなかったなと思って」
ああ、確かにイメージ沸かんわ。だけど今回は弟に影響された、と。
「だからまぁ、せっかくだしね。それで?トリックオアトリート?」
「トリックで」
「……即答だね」
いやだってなんも用意してねえし。カバンにはマッ缶が入ってるけどこれは俺の命だしな。
川崎はしばらく思案顔をしていたが、やがて何かを思い付いたのか、意を決したように口を開いた。
「……よし。ちょっと目ェ閉じて歯ァ食い縛んな」
「え。待て、何する気だ?」
「何っていたずらだろ?」
いや、歯食い縛るっていたずらに対する備えじゃないよね?あと表情がすげえガチなんですけど?
川崎は戸惑う俺に構わず間合いを詰めてくる。
「じゃ、いくよ」
その声に思わず目を閉じ、さらに耳をガードする。おおう、小町のいたずらの影響が。
きたる衝撃に身構えていると……
「!?」
本日二度目の感触。ただし、今度は耳ではなく唇に。
「なな、なななななぬを!?じゃない、何を!?」
「……だから、いたずらだよ。そう言っただろ」
川崎はそっぽを向いてそう答える。そして
「じゃ、先に教室行くよ」
そう言い捨ててスタスタと歩いて行ってしまう。しかし、その耳やら首筋やらが発光しそうなほど真っ赤に染まっていたのを、俺は見逃さなかった。
「オッハヨ~!首尾はどう?」
「バッチリっす!姉ちゃんも乗り気だったっす!でもホントに上手くいくんすか?」
「だいじょぶだいじょぶ!お兄ちゃんならトリックオアトリートって聞かれれば絶対トリックって答えるから!小町も朝試したし!」
「だったら後は姉ちゃんが根性見せるだけっすね!」