1話もの 俺ガイル単品   作:まーぼう

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バレンタインネタ。
ある古いラブコメ漫画のパロディでもあります。元ネタ分かった人は親友です。


二月十四日にて

「うーっす」

 

 いつものように奉仕部の戸をくぐると、いつものように読書していた雪ノ下が目配せだけで挨拶してきた。

 ……普通に考えれば失礼と思うところなのかもしれんが、シカトされなくなっただけマシとか思ってしまうあたり俺もずいぶん丸くなったと思う。飼い慣らされてるとも言う。

 

「由比ヶ浜さんは?」

 

 雪ノ下がこの場に居ないもう一人の奉仕部員、由比ヶ浜のことを尋ねてきた。まあ俺と同じクラスなんだし当然の流れではあるが。

 

「あー、その、あいつ今日は休むらしいぞ」

「……何かあったの?」

「……いや、別に」

「…………」

「いや、ホント何もないですよ?」

「何も言っていないのだけれど」

「あ、ああ。そうだったか」

 

 その後も雪ノ下は数秒間ほど無言で俺を睨み続けていたが、やがて視線を外すと「まあ良いわ」と呟いた。

 ……助かった。

 いや、別に負い目とかそういうのがあるわけではないが、正直今由比ヶ浜の名前を出されると動揺せずにいられる自信が無い。

 

 

 本日は2月14日。世に言うバレンタインデーである。

 毎年、いつもと変わらぬ365分の1日だと自分に言い聞かせ、当日の朝小町にチョコを貰って自己暗示をぶち壊されるあの日だ。今年は小町がチョコをくれなかったため、学校に着くまで本気で忘れてた。あれ?目から汗が……

 で、戸塚から友チョコ貰って昇天しかけたり、それを見た海老名さんが昇天しかけたりしながら放課後を迎えたわけだが、由比ヶ浜に呼び止められたのは部室に向かう廊下でのことだった。

 

 正直に言えば、可能性を考えなかったわけではない。それでも俺が女子からチョコを贈られることはないだろうと思っていた。だからこれもいつものように、一緒に部室行こうとかそういうものだと思っていた。

 振り向くと、顔を赤くした由比ヶ浜が立っていた。

 彼女は後ろ手に何かを隠し持っていて、ガチガチに緊張しているようだった。

 俺はもしかしてと考え、即座にそれを否定し、なら体調でも悪いのかと思って声をかけようと口を開いた。それと同時だった。

 

「ヒ、ヒッキー!これっ!」

 

 ズバシュッ!と効果音の付きそうな勢いで突き出された由比ヶ浜の手には、赤と黒を基調としたチェック模様の包装紙で綺麗にラッピングされた小さな箱。角にはピンク色のリボンも付いている。

 

「え、えと、ヒッキー……?」

 

 俺が思考停止して固まっていると、反応が無いことに不安を感じたらしい由比ヶ浜が、俯いていた顔を上げてこちらの様子を伺ってきた。

 その上目遣いの眼の端に浮かんだ涙を見て、俺はようやくそれを受け取る。

 

「お、おう。サンキューな」

「う、うん……」

 

 それだけ返すのがやっとだった。由比ヶ浜もどうしていいか分からないらしく、ただお互いに足元に視線を落とすのみ。

 

「えっと、その……それじゃ!」

 

 やがて由比ヶ浜はそれだけ言い残し、逃げるようにーーいや、まさしく逃げ去った。

 

 

 これがついさっきのことだ。

 俺は何も考えられずにフラフラと部室までたどり着き、先ほどのやり取りに至る。由比ヶ浜は今日は来ないだろうなと思ったのは、実は雪ノ下に聞かれてからだった。

 

 いつもの席に腰を下ろし、本も出さずに呆然とする。

 

「……何?」

 

 突然雪ノ下に声をかけられた。

 

「何がだ?」

 

 何のことを言われているのか分からず聞き返すと、雪ノ下は呆れたようにため息を吐く。

 

「さっきからチラチラこっちを見ていたでしょう」

「は?」

「……無自覚だったの?」

 

 うっおマジか。

 白状してしまうと、ちょっとだけ期待してしまっていたのだ。

 いや、雪ノ下が俺を好きだとか、さすがにそこまでは思ってない。でも由比ヶ浜がくれたんだし、同じ部のよしみで義理チョコくらいは貰えるかもとか思っていたのは確かなのだ。それが無意識に表に出てしまっていたらしい。つーかなにこれ、死ぬほど恥ずいんですけど。

 

「その、すまん」

「……まあ、別にいいけれど」

 

 どうにかお許しを得たことに安堵する。この様子ならもしかしてということは無さそうだ。

 そのことを安心する反面、少しだけ寂しく思っていると、雪ノ下が不意に立ち上がった。

 

「そろそろお茶にしましょうか」

 

 そう言ってティーカップと湯飲みを出す。

 ケトルからお湯を注ぐと、いつもとは違う甘い香りが鼻を突いた。

 

「ココアか、珍しいな」

「違うわ」

 

 あれ?この独特の匂いは間違えようがないと思ったんだが。

 首をひねる俺の前に、コトリと湯飲みが置かれる。その中の焦げ茶色の液体を見て改めて口に出す。

 

「……やっぱココアじゃねーか」

「違うわ」

「いや、ココアだろ?」

「違う」

 

 えー、なんなのこの娘?どっからどう見てもココアなのになんでこんな頑ななの?

 納得はいかないが、こうなった雪ノ下はテコでも認めないだろう。それを経験則から知っていた俺は、黙って湯飲みを持ち上げる。

 口に含んだ液体は、やはりココアの味がした。

 

 

 

「お兄ちゃんお帰り!はいこれ!」

 

 家に着くなり出迎えてくれた我が天使がマグカップを手渡してきた。

 

「おう、ただいま。つーかどうせならMAXコーヒーが良かったんだが……」

 

 マグカップの中身はまたもやココアだった。いや、ありがたいんだけどね?外寒かったし。

 俺の呟きを聞いた小町は「チッチッチッ」と、やたらムカつく仕草で指を振ると、分かってないなーごみいちゃんはとため息を吐いた。

 

「あのね、お兄ちゃん。今日はバレンタインだよ?これは小町からのチョコなのです!」

「あ、忘れてたわけじゃなかったのか。学校で気がついてうっかり自殺するとこだったぞ。で、なんでバレンタインにココアなんだ?」

「だからー、これはココアじゃないの。味は似てるけど。今年は趣向を凝らしてホットチョコレートにしてみました!」

 

 ホットチョコレート。

 部室でも嗅いだ鼻腔くすぐる甘い芳香に、思わずカレンダーを見る。

 本日は2月14日。

 世に言うバレンタインデーである。

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