NARUTO-カルタ外伝- 転生者の独擅舞台《チーターライフ》   作:新名蝦夷守

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108.水の国撤退戦 中編

 荒れ狂う暴風。

 

 横殴りの豪雨。それに混じって大粒の雹。

 

 上空には厚く濃い積乱雲が広がっており、辺りは夜のような暗さ。

 

 そして、轟音を響かせながら落ちてくる雷によって状況を把握できる状態。

 

 この劣悪極まりない天候の中。霧隠れの里を囲んでいる山を一つ越えた先では旧政権側と新政権側の忍びによる激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 戦闘の直接的な発端は新政権側による奇襲攻撃。

 

 だが、それ以前に旧政権側が反乱を企てていたことも原因のひとつだった。

 

 旧政権側の忍びは賊軍として里を追われていたのだが、それでも尚、水の国内に留まっており、反撃の機会を伺っていた。

 それもただただ伺っていたわけではなく、密かに仲間を増やしていたのだった。

 

 血継限界を有し迫害されていた一族や現政権に不満を持っている一族などに声をかけて、その勢力は日に日に増していった。

 もちろん中には日和見する者もいたし、旧政権も現政権もやっていることは変わらないと言う者もいたし、今までお前達だって血継限界を迫害してきたのに手の平を返して仲間になれとか信じられないという者も当然ながら存在した。

 それでも現政権に対抗する意思をみせる人は増えていったのだ。

 

 そのことを察知した現政権は当然ながら看過することはできず即座に対応する。

 

 旧政権側がどうやら集まるらしいという情報を得た現政権側は集会場所を強襲。そして現在に至る。

 

「クソっ!・・・敵の数が多すぎる」

 

 戦端が開かれる前。

 戦力差は旧政権側が200人弱に対して、現政権側はその4倍強のおよそ800人。

 

 戦闘が始まると同時に旧政権側の戦闘員は奇襲に対応できず200人いた内の約4分の1が死亡するなり負傷するなりして脱落。

 その後なんとか迎撃態勢がある程度整えられたあとも徐々にその人数は減らされていき、戦力差は広がっていく一方。

 

 旧政権側の忍び1人に対して現政権側は数人で当たれることもあり、旧政権側の忍びは撤退することすら困難な状況。

 

 そんな絶体絶命の状況下でも戦意を失うどころか逆に向上させている稀有な戦闘民族も混ざってはいるものの戦況を左右させるほどのものではない。

 

「俺は理想の為に戦ってきたつもりだったが・・・」

 

 落雷と暴風雨のせいで声は殆ど届かない。

 

「これはもう駄目だろうなァ」

 

 だからそう自嘲気味に呟いたその言葉も誰の耳にも届くことはなかった。

 

 それでも圧倒的な数的不利を物ともせずむしろ逆に覆す勢いでひとり、またひとりと現政権側の忍びを屠っていく青年。

 

 その青年の後ろには少年にも少女にも見える子どもが立っていた。

 

 青年はその子どもを庇うようにして戦い続ける。

 

(どうぐ)のことは見捨ててください。再不斬さんだけならここから脱出も可能です!」

「うるせぇ!・・・ここを片付けたら国を出るぞ」

 

 一緒にな。というのは心の中だけで続けながら青年、桃地再不斬は向かってくる敵をまたひとり片付けていく。

 

 そして、その様子を祈るように見つめている幼い少年の瞳から流れているものはきっと雨の水などではないだろう。

 

 

 

 照美メイは、同志たちが次々と命を散らす状況に心を痛める間すらも与えられないほど過剰ともいえる攻撃を受けていた。

 

 なぜならば現政権側は、旧政権側の最大戦力と目される照美メイを確実にこの戦場で殺して反撃の芽を摘みたいと考えているからだ。

 

 それに対してメイは防御に徹しながらもひとり、またひとりと隙を狙っては確実に敵の数を減らしている・・・はずなのだが。

 

 メイの周りにいる敵の数は一向に減らない。むしろ時間が経つにつれて増えていた。

 

 それもそのはず。他のところで旧政権側の忍びとの戦闘が終わって手持ち無沙汰となっている新政権側の忍びが応援に来ているのだから。

 

 メイは目の前の状況に対処することに精一杯で気付いていないが、旧政権側の忍びの数はもうすでに50を切っている。

 

 旧政権側の全滅は時間の問題だった。

 

《水遁・三重水陣壁》

 

 ひとつひとつが分厚い三層もの水陣壁を作り上げ、その中でようやく一息つく。

 

 自分が作った水陣壁は簡単に破られることは無いとは思うが、それでも敵の人数が人数だ。そんなに長くは持たないだろうとメイは思考する。

 それに自分以外の同胞の状況も心配だ。

 

 そしてぽつりと呟く。

 

「ごめんなさいカルタくん。本当はあなたを巻き込みたくはないのだけれど・・・」

 

 羽衣カルタから手渡されているひとつの(ふだ)

 

 首飾りのようにしていたそれを胸の谷間からスッと取り出し、握りしめるメイ。

 自分の体温で温められた札は冷たい雨に当たって悴んだ手に温もりを与える。

 

 これはただのお守りではない。

 

 その札の効果は知っての通り、メイのチャクラを込めるとカルタが使用している時空間を通してカルタの手元にある札へ振動を起こす仕組みのもの。

 そしてカルタが使われた術式を目印に《飛雷神の術》で駆けつける。

 

 ただこれを使ってしまえば、里内部の抗争にカルタを完全に巻き込んでしまうことになるだろう。

 

 以前から今の政府側。つまり昔の反乱勢力側のアジトをカルタと協力して潰していたから今更何をとも言われてしまうだろうが、だとしてもメイは霧隠れのごたごたでカルタに迷惑をかけたくはなかった。

 

 だから、先週の定期連絡で会った際にも協力を申し出られたが、「打倒傀儡政権を目標に掲げている反政府軍が他国から助力を得ていたら意味がない」とか「木ノ葉の英雄である羽衣カルタが霧隠れの内乱に関わると内政干渉や外交問題だと戦後にケチをつけられる」などと、それらしい理由を付けて断ったのだ。

 

 それなのに最後はやはり彼に頼るしかない自分に情けないと思いつつも、術式札に自身のチャクラを込めた。

 

 そのチャクラに反応してぼわっと淡く発光して、術式札が振動する。

 

 そして・・・。

 

 

 

「メイ!大丈夫か?」

 

 心配顔とも焦り顔ともとれる表情で三つの水陣壁の中に現れたのは私が密かに想う年下の男の子。

 

 それでいて自分よりも。いやそれどころか、もしかしたらこの世の誰よりも強い男の子。

 

「私は大丈夫よ。それよりも仲間たちのほうが・・・」

「あぁ、わかった。メイの仲間もなるべく助けよう」

 

 私が伝えたい10のことも、表情や声色から察して1を言うだけで全て理解してくれる。

 

「そのためにもまずは状況を説明してくれ」

 

 今の真剣な眼差しの彼を見ていると私のお下がりの猫耳パジャマを着ていたあの可愛らしい男の子と本当に同一人物かと思ってしまうくらいギャップがある。

 

 本当に・・・頼もしい。

 

 

 

 オレがメイの術式を頼りに時空間を飛ぶとそこはドーム状の水陣壁に守られた内部だった。

 

 しかしながらそれでは不十分かもしれないと考えたオレは、メイから状況を聞き始めるのと同時にオレは重ね掛けるようにして雷陣壁も同時に展開する。

 これで敵が無理矢理突入を試みたとしても触れた瞬間に感電して戦闘不能に陥るだろう。

 

「・・・という状況よ」

「なるほどな」

 

 メイから状況説明を受けた内容を纏めると。

 

「政権奪還のために軍事行動を起こそうと集まっていたところを奇襲を受けてメイたちの戦力はもうほとんど残っていないってことか」

「えぇ」

 

 そう返事をするメイの表情は暗い。

 

 その顔を見たオレはあえて明るく振る舞って元気付ける。

 

「大丈夫!オレが来たからにはこれ以上、奴らの好きにはさせない・・・オレを誰だと思ってるんだ?」

 

 羽衣さんだぞ。と忍装のベストを開いてポーズを決める。

 

「ふふっ・・・なによそれ」

 

 そう言ったメイは先ほどとは違う表情をしていた。

 

 うん。やっぱり女の子がする表情は笑顔が一番いいよね。

 

 そのことを再確認したオレは改めてメイを無事に救い出そうと決意するのだった・・・。

 

 




次回はまだ未定。
作者は今日から1週間ほど出張の予定。

合間があって気力が湧けば今週中にもう一度更新したいと思います。

誰か元気をわけてくれぇぇ!!

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