振り下ろされた聖魔剣を前に、フリードはなすすべもない。
なぜなら、フリードは獲物をなくしている。
もしあったとしても、合一化されたエクスカリバークラスで初めて勝負になるようなものをどう知ればいいというのか。
脳内で適当な念仏を唱えたそんな俺の前で、しかしフリードは一つの行動をとった。
「・・・
そんな言葉がぽつりと漏れた瞬間に、フリードの両腕から光が漏れる。
それは一瞬で剣の形になると、二刀流となったフリードがあっさりと木場の聖魔剣を真正面から受け止めた。
「ほう、やるじゃないかフリード」
コカビエルが感心する中、さっきまで優勢だった戦いは互角にまで持っていかれる。
というより、狼狽した木場が押されているといってもいい。
ああ、そうだろう。
俺も驚いている。
部長もアーシアも小猫ちゃんも驚いている。
ゼノヴィアとバルパーに至っては目も口もでかく開いている位驚いている。
そうだろう、なんてったって・・・。
「合一化されたエクスカリバーが・・・二本も!?」
今フリードが持っているのは、さっき砕かれたばかりのエクスカリバーだった。それも、二本だった。
「な、な、なんでだぁあああああああ!? エクスカリバーが、エクスカリバーがそんなにあるはずがないだろう!?」
特にバルパーの狼狽がすさまじい。
これ、どう見てもバルパーは何も知らなかったということだろう。
ああ、マジかよさすがに驚きだよ。どういう状況なんだよこれは!!
「あ、驚いた? 大丈夫大丈夫、基本的には劣化品だからさ?」
そんな風に軽く言いながら、フリードは連続で牙を攻撃する。
「・・・なめるな!」
何とか攻撃から逃れた木場は回り込んで一撃を叩き込む。
エクスカリバーを上回る聖魔剣の一撃! これならもろに喰らえばアイツだって・・・。
「あまいよん♪」
だが、その脇腹には金属製の鎧が。
気づけばその鎧は一気に全身を包み込んで、フリードは鎧騎士の姿となる。
ま、間違いない、あれもエクスカリバーだ!
「な、なんなんだそれは!? なんでエクスカリバーを、量産・・・っ」
「いいリアクションだねぇバルパーのオッサン! そう、これが俺様ちゃんの特殊能力!」
そういいながらさらに腰に二本のエクスカリバーを呼び出したフリードは、目にもとまらぬ速度で俺たちに攻撃を仕掛ける。
「グァ!?」
「きゃぁ!」
まずい、早すぎて欠片も動きが見えない!
「視認した剣を、歴史ごと再現して模造品を作る。これがフリードさんのギフト「
ぎ、ギフトだとぅ!?
「てめえもギフトを持ってるのかよ!?」
「持ちのろんさぁ! さあ、さあ、さあさあさあ!」
フリードはいやらしい笑顔を浮かべると、そのまま切っ先を俺たちに向ける。
「このフリードくんをどうやって倒すのかなぁん? 行ってごらん?」
「・・・それでも!」
ゼノヴィアは、気合を入れて立ち上がると、デュランダルの切っ先をフリードに向ける。
「それでも主の命は必ず果たす! ここでお前たちの好きになどさせる者か!!」
おお、さすがは信仰心に強い信徒だ。命かける覚悟はすでに抜群ということか!
そんな光景を見て、コカビエルはそれに対してあざ笑う。
「・・・はっ! お前たちは本当愚かな連中だ」
確かに、欲望に堕ちて神様捨てたあんたからすればそうだろうよ。
だが、その次のコカビエルの言葉に全員が固まった。
「もうとっくの昔に死んでいる者のために、命を懸けるなど馬鹿らしいぞ」
・・・ん?
ん?
んん?
「待ちやがれコカビエル! いまの、どういう意味だ?」
と、それに気が付いたのか部長も声を上げる。
あ、やっぱり気になりますよね!? そうですよね!?
そんな部長の声を聴いて、コカビエルは得心が言ったかのようにうなづいた。
「ふむ、そういえば我ら堕天使でも下のものは知らなかったな。ああ、ちょうどいいから話してやろう」
と前置きしてから、コカビエルはとんでもないことを告げる。
「かつての戦争で死んだのは魔王だけではない。聖書にしるされし神もまた、あの戦争で死んでるのさ!」
・・・な、な、なんだと!?
おい、確かキリスト教って一神教だよな。
自分たちの神様を唯一の神と崇めて奉る宗教だよな!?
そんな宗教の神様がすでに死んでるって、シャレにならない緊急事態じゃねえか!?
「・・・う、うそ・・・うそだ」
「そんな、では、私達の救いは・・・」
特にマジ信徒のゼノヴィアとアーシアが深刻だ。顔色が真っ白になっている。
「神がいなくとも神が残したシステムがあればある程度は代役がたてられる。・・・だが、切り捨てなければならないものは多くなるな」
特に何の感情も込めず、淡々と事実をコカビエルは語る。
それを聞いて二人は崩れ落ちた。
「・・・ミカエルは正直よくやってる。この数百年以上の間信仰を維持させているのだからな。だが、その結果はなんだ?」
コカビエルはわなわなと手を震わすと、俺たちをにらみつけた。
「弱体化した三大勢力はどいつもこいつも戦争に消極的で、誰一人として最強を目指そうとしない! 腑抜けているにもほどがあるわ!」
なるほど。それがお前の本音かよ。
「・・・っざけんじゃぁねえ!!」
俺は、つい我慢できなくて大声をあげちまった。
「・・・なんだ?」
演説の邪魔をされたんか、コカビエルが明らかに不機嫌な顔をしている。
ああ、これは一歩間違えたら即死だろう。
だが、それがどうした。
「聖書の神が死のうが、俺らの国になんて大した影響は出ないんだよ! んじゃ、ほかの神様頼るかで済む話なんでな! ・・・んなもん御大層に言われても、俺にはマジで迷惑だね!!」
「無宗教国家ゆえの罪か・・・。ほざくなよ、餓鬼。貴様ごとき下級悪魔が、世界の流れに逆らえると本気で思っているのか?」
コカビエルは俺をそう見据えるが、俺だって負ける気はない。
「アンタがそんな勝手な理由で戦争起こそうってなら、それを俺たちが勝手な理由で止めようが問題ねえだろうが?」
「そりゃそうだ。いいこと言うじゃねえか、イッセー」
と、部長が俺の頭に手をのせてから並び立つ。
「てめえが戦争したいっていうなら構わねえ。だが、堅気に迷惑かけるってなら、こっちも容赦は一切しねえ!」
部長はそうはっきりと啖呵を切ると、中指を突き立てた。
「てめえらはここでぶちのめす! 特にコカビエル! お前はかけらも時間がないんで真っ先にだ!!」
そういうが早いか、部長は一気に駆け出した。
俺もそれに続きたいが、それよりも反撃のためには手段が必要だ。
・・・よし、あれを使おう。
「ゼノヴィア、借りるぜ!」
「なに? いったい何を―」
ゼノヴィアが何か言うよりも早く、俺はゼノヴィアが手放した破壊の聖剣をとって走り出す。
「馬鹿め! 聖剣因子も抜きに聖剣を使えるもの―」
「ああ、言ってなかったな」
俺は素早く聖剣を侵食し、己のものとして奪い取る。
ああ、因子が無かろうが関係ない。そんなものは俺には必要ない。
「俺もギフト持ちなんだよ!!」
いうが早いか、俺はコカビエルに切りかかった。
黒に染まった破壊の聖剣が、コカビエルを押し飛ばす。
「・・・分割されたエクスカリバー風情でこの出力! いいな、お前本当にいいぞ!!」
コカビエルは光の剣を生み出すと、そのまま俺と切り結ぶ。
俺はナイフも同時に使って何とか裁くが、これかなりきつい!
ええい! 長剣は使いにくい!!
「どうした? 威力はあるが剣技のほうはなってないな!! その程度ではすぐに押し切れるぞ!!」
「言ってろこの野郎! すぐに慣れてやるから待ってろよ!!」
今度真剣に剣術教えてもらおう! さすがにこのあっまだとヤバイ!
「僕たちも忘れないでもらえるかな!」
「油断大敵」
横から木場と小猫ちゃんも攻撃を開始するが、コカビエルはものともしない。
「黙っていろ雑魚どもが! 貴様らなどで俺を倒せるものか!!」
コカビエルは翼を開くと、俺たちを一斉には時期とばす。
うぉ!? 翼も武器にできるのかよ!?
「禁手に目覚めたからといって、目覚めた手で俺を足せると思っているなら甘いわ! すでに消耗が大きすぎて出力が堕ちているぞ!!」
「くっ!」
エクスカリバーを押し切った木場を圧倒するのかよ、あの野郎は!!
「どうした? まさかと思うがこの程度か?」
「ハッ! んなわけねえだろカラス野郎が!!」
あざ笑うコカビエルの真上から、部長が一気に落下する。
おお、重量を増大化させての墜落攻撃! 部長の十八番だ!!
ライザーの眷属を一斉に吹っ飛ばしたあの一撃なら、まともに喰らえばコカビエルも。
「おっと。それは危ないな」
あっさりかわした!? そりゃそうだよね、かわすよね!!
「ぬぉおおおおおお!?」
勢い余って部長はそのまま地面に埋まる。
そして、そこにコカビエルが大量に光の槍を生み出した。
「下らん。その程度ならここで死ぬといい!」
「あ、やべ、動けねえ!?」
部長ぅうううう!? 危ない!!
「させるかこの野郎!!」
俺は割って入るが、しかしこれは防ぎきれるか?
いや、防ぎきらないといけないだろう。
そうしなければ部長が―
「・・・お待たせいたしました。もう大丈夫ですわ」
そのとき、声が響いて光の槍がすべて撃ち落とされた。
撃ち落とすのは白く輝く稲光。
雷光とでもいうべきそれが、すべての槍を問答無用で撃ち落とした。
「バラキエル? ・・・いや、その娘か!」
コカビエルがいやそうな表情を浮かべると同時に、即座に光の槍を放つ。
それが何かに直撃して爆発するが、しかしそこから声が響いた。
「・・・あまりにぬるい。戦争を望むものならば強い意志が込められていると思いましたが、その程度ですか」
「バラキエルの娘が、俺の邪魔をするか!」
蔑み交じりで煙から現れた朱乃さんに、コカビエルが吼える。
「当然ですわ。・・・
そう言い放つ朱乃さんと、コカビエルはにらみ合う。
「混じり物風情がよくほざく。お前程度で俺を倒せると思っているのか?」
「あらあら、そんなことも分からないのに戦争を起こすつもりでしたの?」
「なに?」
あざけりすら感じられる朱乃さんの言葉にコカビエルはいぶかしみ―
「―勝てる者がいるからこその余裕ですのよ?」
その瞬間、コカビエルは地面にたたきつけられた。
「ごあ・・・っ!」
「油断大敵にもほどがある。これが神の子を見張る者の幹部とは、情けないな」
そこにいたのは、白だった。
龍を模した鎧に身を包んだ男が、コカビエルを一撃で血にたたきつけていた。
「貴様・・・アルビオン!」
コカビエルはすぐに反撃の光の槍を放つが、アルビオンと呼ばれた男は人にらみでそれを縮小させると弾き飛ばす。
な、なんだあの野郎、強い!
「ああ、悪いなコカビエル。俺としては戦争には賛成なんだが、アザゼルがうるさいんだ」
そう言い放つと、アルビオンは一気に接近してコカビエルに一撃を叩き込んだ。
「・・・がぁ・・・馬鹿、な・・・っ!」
「悪いが寝てるといい。起きるころにはすべてが終わっているさ」
・・・なんだ、あの野郎。
あんなに強かったコカビエルを、一蹴しやがった!
「さて、ほかの連中もどうにかしたいところだったが・・・」
と、アルビオンは視線を向ける先には誰もいない。
「どうやら逃げ出したようですわね。私たちが近づいていることに気づかれましたか」
「実力差がわかるのは良いことさ。少なくとも、わからずに突っかかるコカビエルよりはましだ」
あいつら逃げやがったのかよ!? あれ、でもエクスカリバーはあるぞ?
あ、もうコピーが量産できるから必要ないってか? くそ、これはヤバイな。
「はあ、あなたが面白がって様子を見なければ、もっと早く決着がついてましたのに。アザゼルさまにどう報告いたしますの?」
「責任なら俺がとるさ。なに、コカビエルを捕まえられたのだから最低限の責任は果たしているさ」
朱乃さんにそう返しながら、アルビオンは気絶したコカビエルを抱え上げえる。
そのとき、視線が俺の方を向いた。
「君は面白いな。ぜひ一度戦ってみたい」
「・・・・・・勘弁してくれない?」
俺は、平和に生きれればそれでいいんだけど。
「それは残念だ。まあ、いずれ戦うことになるとは思うけどね」
そんな不吉な言葉を残して、アルビオンは空を飛んで行った。