今から十五年ぐらい前、イタリアの教会で子供が捨てられたことからすべてが始まる。
もとから心優しい少女は信心深く育ったが、しかし彼女の人生に転機が訪れる。
それは強力な癒しの力。彼女は大けがすら簡単に直す治癒能力を持っていたのだ。
その後彼女は聖女と担ぎ出され、またそれにふさわしい力を持つ少女は崇められることとなる。
信仰に生きる教会の人間は、聖女と呼ばれる少女にとても良くしてくれた。また、彼女自身他人のけがを治すのは嫌いではない。もちろん治癒の力を与えてくれた神に感謝したこともある。
だが、祭り上げられ崇められる彼女には友と呼べるものが一人もいなかった。それだけがどうしても寂しかった。
同時に、根本的に人と違う異能を持っている彼女に対する異物としての視線もあった。
まあ、当然だろう。人間は異物を恐怖する生き物だ。
だが、其れがあることが原因で爆発した。
きっかけは、教会に大けがを負った悪魔が侵入したことだ。
彼女は、生来のやさしさのあまりその悪魔を治療してしまった。それが、転落のきっかけになった。
治癒の力を持つものはほかにもいたらしいが、その力が該当するのは基本的に信仰心を持つもの、よくて人間が限界らしい。悪魔を治療するなんてことは、彼女以外にはできなかった。
ましてや一神教っていうのは排他的になりやすい側面がある。十字軍やらコンキスタドールやらが有名だろう。
そして、聖女と呼ばれた彼女は魔女と呼ばれて追放された。
流れ流れて堕天使の組織の庇護を受けることになった彼女だが、しかし信仰を捨てたことは一度もない。
そして、彼女に神の奇跡が訪れることは一度もなかった。
なんていうか、どういうか、うん。
これが現実、なんだろうな。
こういう人を見ていると、信仰している人に見返りを与えないなんて何事かって思う。
だけど、見返りが与えられたら与えられたで、見返り前提の信仰になっちまったら本末転倒だとも思う。
ワールマターとかがいい例だろう。あれは先に見返りを与えてから信仰しろって感じだったりするわけだしな。
日本の神様とかはなんかすごい存在ってわけだから、ギブアンドテイクによる信仰でいいのかもしれない。だけど絶対存在の一神教の神様は、どうしたもんかと思うわけだよ。
だから、神様にとやかく言うのは無理がある。
無理があるから・・・。
「じゃあ、俺が友達になってやるよ」
まあ、これぐらいはさせてもらうぜ、神様。
「え、でも・・・」
「俺も実は悪魔なんだ。だから、同類を助けてくれたアーシアは恩人。だったら俺に友達にしてくれよ」
そうおれは告げる。
ああ、どうせ追放されたんだからそれぐらいはいいだろう。
うん、メルアド交換しようか。あ、でもスマホ持ってなさそうだな。
「い、いいんですか?」
「OKOK! 俺可愛い子大好きだし、ぜひ俺と契約して友達になってよ!」
俺が笑顔でそう告げると、アーシアは涙まで流し始める。
そ、そこまで友達欲しかったのか。なんかすごいことをした気分になってきた―
「無理よ」
―聞き覚えのある声が響いた。
おいおい、まさかとは思ってたけど、アンタが来るのかよ。
俺は振り返ると、その懐かしい姿を目に焼き付ける。
「久しぶりだな、夕麻ちゃん」
「レイナーレって呼びなさい、下等な悪魔くん」
心からさげすむ目で見てくることで、デートの時の態度が演技だったってよくわかる。
ああ、まったく俺の二度目の恋は無残に砕け散ったぜ!
「アーシア、下がってろ」
「い、イッセーさん!?」
ああもう。追手が来るとは思ったけど、いくらなんでも早いだろ!!
「その子を返してもらえるかしら? そろそろ儀式が始まるから、その子には戻ってもらわないと」
うわぁ、むちゃくちゃいやな予感がする。
「させると思ってんのかよ!」
「そう? なら死んでもらわないとねぇ?」
にやりと、レイナーレは笑う。
なめんじゃない。こっちだってさすがに対策の他の字ぐらいは立てている。
部長に頼んで用意してもらった警棒を取り出すと、俺はジグザグに移動しながら攻撃を仕掛ける。
さすがに武器無しはヤバイと思ったんで、反撃準備は整えてたんだよ!
だが、レイナーレはそれを簡単にかわすと空を飛ぶ。
あ、ヤベ! これじゃ届かない!!
糞! こんなことなら銃の一丁でも用意してもらうんだった!
夕麻ちゃんはそのままにやりと笑うと、光の槍を生み出して投げつける。
うぉおおおお! このままじゃなぶり殺しだ!!
「あらあら、なりたての悪魔は飛ぶのも大変だから苦労するわね!」
クソ! 動きからして接近戦に持ち込めればやりようはあるってのに!!
何度も何度も光の槍が飛んできて、それが体をかすめて激痛が走る。
なぶり殺しの状態で、俺は心から嫌な気持ちを味わっていた。
クソが! なんでこうなる!
少年兵の時は、何かを守るだなんてできなかった。
当然だ。あの時の俺は機械的に殺し合いに参加していたようなもの。守りたいものなんてないのに、何かを守れるわけがない。
だけど、今は違うんだ。
この子は俺なんかよりもっとひどい目にあった。
持ち上げれて落とされたんだ。プラスを味わった分、落差は大きいし苦しい思いもあったはずだ。
それなのに、この子は誰も恨まない。悪意なんかとは無縁なんだ。
こんな子が報われる世界じゃなきゃ嘘だろう! 神様はうかつに動けないかもしれないけど、目の前の俺ぐらいは動かなけりゃ嘘だろう!!
俺は、この子を守りたいのに!!
「・・・待ってください、レイナーレさま!」
アーシアが声を上げる。
俺はすごい嫌な予感がした。
待て、待つんだアーシア。
それは言っちゃだめだ。言っちゃだめだ。
「・・・私、戻ります」
俺様ことリアス・グレモリーは大体の事情をつかんでいた。
どうやら、あの堕天使は少人数の独断行動をとっているらしい。悪魔の管轄であるこの駒王町で動いているのがその証拠だ。
以前家出していた堕天使の同類に聞いてみた。調べてもらったが、レイナーレとかいう堕天使が受けた仕事はイッセーの始末だけ。悪魔に転生したことで当面は問題なしという結論になって見逃すことも把握済み。つまりあいつはもう戻ってなければおかしい立場だ。
勝手に動いていることが分かったなら何の問題もねえ。死なない程度にボコって、お前ら監視しろと突っ返せば特に揉めることなく終わるだろうよ。
「祐斗、小猫。イッセーを呼んだらすぐに仕掛けるぞ。・・・人様の管轄で好き勝手やる連中にゃあお灸をすえてやらねえとな」
「いうと思いました」
「同感」
いうじゃん。だいぶ俺様の思考が読めてきたようだな。
さて、それじゃあ落とし前をつけるとするか。
そういうわけでイッセーを呼ぶとするか。なんでも堕天使側にいるらしいシスターのことが気になってるようだ―
「部長!!」
と、イッセーが飛び込んできやがった。
ふむ、眼の色がかなりヤバイな。こりゃいらん事考えてるぞ?
「これを、受け取ってください」
そういってイッセーは封筒を出した。
そこに書いてあんのは辞表の二文字。
あーあーあーあー。つまりそういうこと?
「・・・イッセー。これを俺様に出すってことは、覚悟できてんのか?」
「はい。・・・一人じゃ死ぬかもしれませんけど、俺はアーシアを助けに行きます」
はぁあああああ。調べておいてよかったぜ。
この手の目をした連中は、口で言ってもいうこと聞いてくれないからよ。
だが、その前に聞いとかねえといけねえことがあるよな、うん。
「アーシアって娘が助けてくれって言ったのか? お前が勝手に助けに言って傷ついて、死んだらそいつはもっと苦しむぞ?」
「わかってます。これは俺のわがままで、下手したらアーシアはもっと苦しむってわかってます」
そういって、だがイッセーはまっすぐ俺の目を見た。
・・・いい目、してんじゃねえか
「それでも、俺はあの子みたいなやつが報われてほしいって心から思う。道具になって人を殺した俺みたいな屑なんかじゃない、ああいうイイ子がいい目に合わなきゃ嘘だって思うから!!」
なるほどな。
確かに、理由はどうあれ悪いことした俺らよりも、悪いことしてねえそういうやつらが得しなきゃ嘘だ。
アーシアは、そういうやつだってことだな。
「だから―」
「みなまで言うな。安心しろ!」
俺はそう言って、イッセーの肩をがっしり掴んだ。
「堕天使側のパイプで調べた。あいつらは独断専行だから、殺さずボコるにとどめときゃあ大丈夫だ!」
「え、マジですか!?」
イッセーはなんか驚いてるが、堕天使側とのパイプがあるとそんなに不思議か?
どこの国だってそういうつながりの一つぐらいあんだろ。個人的な親交だから組織の損得には関われねえが、勝手に動いてる馬鹿の報告ぐらいは受けれるんだぜ?
「大丈夫。あの人は穏健派の重鎮の娘だから戦争を起こそうとはしないよ」
「変態なのが難点ですが、意識は高いです」
そういうことだ。今頃報告して「総督の意向を守るためです。ですが示しをつけていただきたい!」・・・と喜んで尻を出してるところだろう。意識高いMだからな、あいつ。
ま、そういうわけで俺様達の行動はすでに決定。やることやるぜ。
「行くぜ野郎ども! これから殴り込みだ!!」