『猿神』   作:城元太

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 バルモア砦の外側の壁に、白と青と金色をした、古ぼけたコマンドウルフが日向ぼっこをして寝転んでいました。

(これが猿神が恐れる〝シュンケン〟なのか。前の戦争のコマンドウルフNEWじゃないか。NEWとは言っても古びていて、とてもこれではあのアイアンコングには勝てるとは思えない)

 旅人は少しがっかりしましたが、とにかくそのコマンドウルフに近寄ってみました。

 コクピットにパイロットはいませんでしたが、旅人が近づくと頭を下げて挨拶をします。

 旅人はコマンドウルフに話しかけました。

「シュンケン、お前にこの映像を見せる。もしお前が本物だったら、きっと何か反応があるはずだ」

 旅人はシュンケンのコクピットに座り、撮影した映像を流しました。すると、最初落ち着いていたシュンケンは、やがて猛々しい遠吠えをして落ち着きがなくなりました。

「お前に分かるのか」

 コンソールに電磁波の一定の波形が現れます。

「これはあのコングと同じか。でもあまり高度な言語を操る事は不可能だ。

 そうだ、“はい”か“いいえ”で答えられる質問だけをすればいいんだ」

 古ぼけたコマンドウルフは、電磁波を使って旅人と会話を始めたのです。

 

「君の名はシュンケンですか」

――はい。

「君は白いアイアンコングを知っていますか」

――はい。

 旅人は問いかけを繰り返し、コマンドウルフ〝シュンケン〟と、猿神と呼ばれているアイアンコングとの関係を知りました。

 戦争の終わりごろに作られたコマンドウルフ〝シュンケン〟には、少しの間だけならもの凄い力が出せる能力がありました。シュンケンは、そのころ操縦していたパイロットと一緒に、手強い敵を倒しに行ました。

 それはアイアンコングイエティと呼ばれる寒冷地仕様のMk-Ⅱ量産型で、戦争の終わりごろ投入された機体でした。戦場の白い悪魔と呼ばれ、いつも3機で活動していたそうです。

 シュンケンは必死に戦って、その内2機を倒しました。でも1機を逃がしてしまい、ずっと探しましたが、見つけることができなかったのです。

 そしてある日、燃える石が空から降って来て大きな地震が起き、パイロットとは離れ離れになってしまったそうです。

「操縦者が生きているのか、死んでしまったのかわからないのですね」

――はい。

「もしかすると君は、ここでずっと操縦者が戻って来るのを待っていたのですか」

――はい。

 

 旅人は驚くと共に、帰ってこない主人を待ち続けているこのシュンケンというコマンドウルフに、切ない気持ちでいっぱいになりました。惑星大異変と戦争が終わってもう何年もたちます。きっとその主人は死んでしまったに違いありません。でも、シュンケンは待ち続けているのです。必ず主人が帰ってくることを信じて。

 

「君のことはわかりました。そしてお願いです。その白いアイアンコングの生き残りは猿神を名乗り、ある村で人間を襲っています。それを倒してほしいのです。協力してくれますか」

――(反応なし)

「協力するのはいやですか」

――(反応なし)

「質問を変えましょう。君は帰ってくる主人をここで待っていたいのですね」

――はい。

「そのことなら心配はない。もし君の主人が戻ってきたらシュンケンという白いコマンドウルフが待っていたと伝えるようにします。だから猿神退治に協力してくれますか」

――はい。

「君はあのコングに勝つことはできそうですか」

――(反応なし)

「やってみなければわかりませんね。では最後の質問です。僕と一緒に戦ってくれますか」

――はい。

 

(少しの間だけならもの凄い力が出せる能力……。あのシステムに違いない。それに奴はあの歌のように、昔戦ったシュンケンに天敵の様な意識を持っている。

 そう、きっとこのゾイドなら、猿神をやっつけられるに違いない)

 旅人は事情を話し、砦からシュンケンを借りることにしました。

 

 シュンケンの背中にネプチューンを載せ、旅人は2週間かけて村に戻りました。そしてにせの供え物をして、猿神を誘き寄せようと村人たちに相談しました。

 不思議なことに、前は何を言っても話を聞いてくれなかった村人たちが、今度は真剣な顔で旅人の話を聞いてくれました。

「どうしたんだろう。何かあったのかな」

 旅人はまた、村長の家にいって話をすることにしました。

 村長もシュンケンを見ると真剣な顔になり、旅人の話を熱心に聞いてくれました。なぜなら丁度その時、この前の生贄がよっぽど気に入ってしまったらしく、猿神がまた娘を生贄に差し出すようにと白い矢で伝えてきていたからなのです。

 狙われたのは、なんと同じ家の、娘の妹でした。村長も、いつもなら6年に1度の生贄なのに、たった2か月の間に二人も娘を捧げていてはこの先村には若い娘がいなくなってしまうのではと困り果てていた所です。

「こんなことは許さない」

 旅人は作戦を考えました。

「シュンケンよ、僕が煙幕弾と光学迷彩の装置をつけて敵に見つかりにくくしてやる。味方がいない分、ぶつかったゾイド全部を倒せばいい。葛篭を囮に使って、奴らをやっつけてくれ」

 そして作戦の内容を村長に話し、猿神退治を申し出ました。村長は頭を下げて言いました。

「村の平和はあなたにお任せします」

「いいえ、僕だけが戦うのではありません。〝シュンケン〟といっしょに戦うのです。頼むぞ、シュンケン」

――はい。

 シュンケンはいつものように電磁波で答えると、生贄を捧げる日を待ちました。

 

 それから一週間あと。生贄を捧げる日です。

 城の前には空っぽの朱色の葛篭が置かれ、林の奥には光学迷彩で姿を隠したコマンドウルフ〝シュンケン〟が、旅人といっしょに猿神達を待ち伏せていました。

 夜が更け、月が二つ空に懸るころ、前と同じようにギーギーというアイアンコングの鳴き声が聞こえてきました。

 大きな白いアイアンコングMk-Ⅱに、4匹のハンマーロック。前と同じようにレアヘルツを発生させています。

 

 とてもえらい猿神様は、今年も娘を手に入れた。

 猿神様に逆らえば、どんな奴でも許さない。

 大きな腕でひと殴り。大きなゾイドもいちころだ。

 でもあいつだけには秘密だぞ。

 

 ミーバロスのバルモア砦、シュンケンは恐ろしい奴だ。

 絶対にシュンケンには伝えるな。

 ミーバロスのバルモア砦、シュンケンは強い奴だ。

 絶対にシュンケンには見つかるな。

 ミーバロスのバルモア砦、シュンケンは悪い奴だ。

 いつかは仲間の仇をとって、滅ぼしてやる。

 

 そして同じように、葛篭の蓋を引き剥がしました。ですが中は空っぽで何も出て来ません。

 怒ったアイアンコングとハンマーロックは激しくドラミングしています。左肩の十連装ミサイルランチャー発射口が開き、村を狙っています。このままでは昔と同じように、村が焼かれてしまいます。

 その時シュンケンは突然、旅人をコクピットから強制射出しました。

「どうしたんだシュンケン。僕も戦うぞ」

 シュンケンは振り落とした旅人に振り向きます。

 

――あなたは私と一緒に死んではいけません。

 

 まるでそう言うように。

 

 一斉にコマンドウルフの煙幕弾が発射され、辺り一面煙に覆われました。ときどき金属を引き千切る音とコマンドウルフの唸る声、そしてアイアンコングのギーギーという鳴き声が聞こえるだけで、闇の煙幕の中は全然見ることはできません。ただそこで、激しい戦いが行われているのだけがわかりました。

 

 朝が来て旅人が見たものは、バラバラに引き千切られた白いアイアンコングの残骸でした。

 コアが食い破られています。もう半分石になっていて、そのゾイドは完全に死んでいました。

 周りには4匹のハンマーロックの残骸も飛び散っていました。やはりコアが食い破られ死んでいます。

 でも、シュンケンの姿はありませんでした。

 旅人はアイアンコングの残骸をよく調べました。

 コングの胸の部分を調べてみると、コアに奇妙な皺が寄っています。

「これはレアヘルツの影響で異常が発生したコアだ」

 そして破壊された頭部の記憶媒体(メモリーバンク)に、茶色く色褪せた写真が挟まっているのを見つけました。そこに写っていたのは綺麗な若い女の人でした。

「記憶媒体から取り込んだあの写真の情報が、野良ゾイドとなったコングの暴走のきっかけになったに違いない。人を喰うのは、野生体の本能に目覚めると同時に、あの写真の女の人と同じ様な人間を取り込もうとしたんだ」

 朝日を浴びた写真は急に色が変わり、微風が吹くとボロボロと崩れていきます。

「きっとこのコングの操縦者は、写真のひとを強く想いながら最期を迎えたのだろう。その想いに応えようとして、お前は猿神になった。お前も可哀想なゾイドだったんだな」

 旅人は手の中に残った写真の端を、こわれた記憶媒体の脇に置き、静かに祈りを捧げました。

 その時、吹き飛んだアイアンコングの頭の中からうめき声が聞こえてきました。旅人が驚いて駆け寄ると、中に人影が見えます。よく見ると、それは生贄にされたあの娘でした。身体中にいろいろな色のケーブルがしめ縄のように絡み付いていて身動きがとれないでいます。

 ケーブルを切って娘の身体を自由にしてあげると、その娘はまるで眠りから覚めるように気が付きました。

「猿神様に呑み込まれたことまでは覚えているのです。でもそれからは眠っていたみたいです」

 旅人は優しく言います。

「恐らくは貴方の身体を有機体の頭脳として利用していたのでしょう。6年に一度の人身御供の儀式も、定期的に有機体の交換を行うための有効期間であったに違いありません。戦闘ゾイドとして機獣化され、その後戦争の終結により野良ゾイドと化したこのコングは、これまでの戦闘データーを元に意識とも呼べるものを形成した。しかし操縦者を失ったゾイドには、操縦者以上の行動はできない。だから人を取り込んで、疑似的に操縦者を操縦する立場で自分の行動を逆転して裏付けるようになったのだと思います」

「はい、よくわかりました」

 そう言って娘はにっこりと微笑みました。

 

 娘は旅人に礼を言うと、嬉しそうに家に戻って行きました。

 地面を見ると、ミーバロスに向けて点々とコマンドウルフのものらしき足跡が続いていました。所々に漏れ出した潤滑油が垂れています。きっと戦いで傷ついたのに違いありません。

「シュンケン、お前はまたミーバロスで帰らぬ主人を待ち侘びるのだろうか」

 傷つき老いた白と青と金色のコマンドウルフは、また南の果てに向かったのです。

 旅人は足跡の続く方に向かって手を振りました。

「ありがとう、シュンケン」

 

 そしてまた旅人は、別の土地へと旅立って行きました。

 それから村では生贄の儀式は無くなり、みんなが平和に暮らせるようになりました。

 

 

 旅人が旅立って数日後、髪飾りで髪を束ねた女の人が村を訪ねて来ました。オルディオスという珍しいゾイドに乗っていましたが、オルディオスは翼が壊れていて空を飛ぶことができないようでした。コクピットから降りると、その女の人は村人に聞きました。

「この村に、ネプチューンを連れた人が来ませんでしたか」

 これまでの村人たちだったら、きっと黙って立ち去ったでしょう。でもネプチューンを連れた旅人が猿神を退治してくれたので、これからは外から来た人にも優しくしようと思うようになっていました。

 飲み物や食べ物を女の人に渡すと、村人たちが口を揃えて言いました。

「その方だったら少し前に旅立ちました」

「そうですか。ミーバロスで噂を聞いて、やっと追いかけて来たのに、また行き違いになってしまいました。あの人はいつも自由に旅をしているから、なかなか会えません。困ったものです」

 女の人は飲み物と食べ物のお礼を言うと、オルディオスに乗って旅人を追いかけて行きました。

 

                  おわり

 

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