ある補佐役の日常・・・星導館学園生徒会にて   作:jig

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PRIDE

 

フェニクス、3回戦。

 

生徒会室の大型空間モニターの中で、沙々宮紗夜/刀藤綺凛ペアの勝利が告げられた。

 

予想はしていたが、ほっとした空気が流れる。

といっても室内には涼の他は会計の澪と秘書のリオしかいない。

 

そのリオは、モニターの前で手をたたき満面の笑顔だ。我が事のように喜んでいる。

刀藤綺凛の同級生、同クラスにして、生徒会スタッフとしても彼女をフォローするべき立場なのだが、その生徒会業務で充分な対応ができない事をもどかしく思っているはずだ。それだけに勝利は嬉しいだろう。

 

涼も少しだけ気分が和らぐ。

天霧/リースフェルトペアは既に3回戦突破しているので、これで星導館から2組、本戦出場だ。

そして彼らは更に上に進める実力がある。

今回のフェスタ、好成績が期待できると思っていたが、その通りになりそうだった。

 

なればこそ、下らない事で水を差されるのは我慢ならない。

 

 

今回の事件、何としてもその影響を抑えてやる。

 

そう決意して席を立った。

 

「リオ、会長は戻られているよな?」

 

「あ、はい。少し前に。今は在室されているはずです」

 

「わかった」

 

 

 

 

夕刻。

 

調査資料を揃えて駐車場に向かうと、何故か優がいる。

 

「何か用か?」

 

「行くんでしょ。ガラードワースの」

 

「ああ」

 

「一緒に行く」

 

「・・・」

 

黙って車に乗り込む涼だが、優も隣に乗って来た。

 

「お前さんは招待されていないんだが」

 

「私だって当事者なんだけど」

 

それは事実ではある。最初に現場に駆け付けて、最後まで残った。

あのガラードワース側の風紀委員も見ていただろう。

 

「向こうに行っても頭下げる位しか出来んぞ」

 

「構わない」

 

「仕方ない。貸し一つだよ」

 

諦めて車を出した。

 

 

 

 

聖ガラードワース学園。

 

アスタリスクにて最初に設立されたジェネステラの教育機関。

その歴史と規模、教育レベルから名門と見做されている。

 

先に連絡されていた通り、正門ではなく業務用の通用門らしき場所から車を入れると、駐車場が見えたので停車させた。端末で校内位置を確認、生徒会室がある校舎を目指す。

 

優と二人、学園内を歩く。

流石に星導館学園の制服は目立つのだろう。学生からの視線を集めるが、控えめな物だった。

恐らくこちらでも、星導館と同様今回の事件は情報規制されていて知る学生はほとんどいないのだろう。向けられる雰囲気に敵対的な感じは無い。それは優も同感だったようだ。

 

「まあ、礼儀も重要らしいし」

 

「そうだな・・・あれか」

 

特に咎められもせず、指定の校舎に入った所で初めて出迎えがある。

 

「当学園にようこそ。生徒会書記、パーシヴァル・ガードナーと申します」

 

一言で言うと男装の麗人。

そんな印象のガラードワース側生徒会スタッフだが、序列5位の実力者で純星煌式武装の使い手である事は知っていた。

 

「お世話になります。星導館学園生徒会の志摩 涼です。そしてこちらは・・・」

 

「風紀委員、七海 優。よろしく」

 

「伺っております。ではこちらに」

 

優の同行は直前にメールで一報入れておいたが、どうやら問題にはされないようだ。

案内されるままについて行くと、すぐに会議室らしい一室に通される。

 

「こちらでお待ち下さい」

 

特に変わった所の無い室内。中央の大きな会議机を、窓から差し込む夕日が照らしている。

部屋の中程、通路側の席に着く。

 

「優、お前はそこで立っていろ」

 

「・・・わかった」

 

流石に緊張してきたのだろう。素直になっている。

 

時間は・・・まだあと10分位ある。しばらく待つか、と思ったところでドアが開き、相手が入ってきた。

 

レティシア、そしてこの前現場で会った風紀委員だ。たしか名前は・・・フォルカーと聞いていたが。

そして先のガードナー。だが彼女はトレーを持っている。そこから机上にグラスを置いていく。中身は多分アイスティーだ。

レティシアが彼女に頷くと、一礼して出て行く。

 

「しばらくですわね。シマ。この場ですので一応名乗っておきます。聖ガラードワース学園生徒会副会長、レティシア・ブランシャールですわ」

 

「星導館学園、生徒会長代行、志摩 涼です」

 

レティシアの形の良い眉が一瞬動いた。これは予想外だったのだろう。今、涼は星導館のトップとしてここにいる、そう受け取れる発言だからだ。クローディアと相談して打った手だが、効果が見込める。

 

「ウチの生徒会の規定です。代行とは言え会長と同等の権限がある。つまり『一旦持ち帰って』と言う必要がない。この場ですべて決定できます。面倒が無くて良いでしょう」

 

「それはご配慮どうも。そちらの方は?」

 

「星導館学園、風紀委員。七海 優です」

 

「報告は受けています。では、こちらも」

 

レティシアが隣の男に頷く。

 

「聖ガラードワース学園、風紀委員。アルマッド・フォルカー」

 

涼と恐らく同年代のその男はそれだけ言うと表情を消した。

現場で会った時も落ち着いていたが、少なくとも話はできる相手のようだ。

 

「よろしく。では始めましょうか」

 

「よろしいですわ。まずはお互いの認識を合わせましょうか」

 

お互いの調査資料を提示して読み合せる。事件の内容についてはお互いの風紀委員がまとめている。

 

「幾つか不足の点はあるが、この資料の内容については概ね、同意できます。そちらは?」

 

「私も同様の認識ですわ。それで、この件に関して星導館側の考えを伺いたいですわね」

 

「今回の件、大半の責任はこちら側にあると判断する」

 

「大半?全てではありませんの?」

 

すかさず斬り込んで来るレティシア。

 

「ちょっと・・・それは無いんじゃないの?」

 

優が口を挟む。

当然レティシアの表情も硬くなった。不味い流れだ。

 

だが、確かにそう言えない事はない。しかし言い方は気を付けないと。

 

「全て、となると、貴校の問題も考慮しなければないが?例えばそちらの学生が煌式武装を使おうとした件についてなど」

 

「・・・」

 

星導館側の学生は武器を所持していなかった。これは連中が武器の学外持ち出しを規制されていたからで、不幸中の幸いだった。一方ガラードワース側は・・・学生の喧嘩でも、武器を出したとなると、問題は大きくなるだろう。

 

「どうかな」

 

「わかりましたわ。それで、貴校としてはどのような決着を望まれていますの?」

 

「本件は完全に学園間で処理する。シャーナガルムを含む外部機関、及び学園上部機構に対し、公開しない」

 

「その対価は?」

 

「損害に対する賠償。ああ、現場となった店の賠償はこちらで済ませる。そして対象学生の処罰。それから・・・非公式であっても正式な謝罪」

 

「それはどういう事ですの?」

 

「この場だけ、での事だが生徒会長代行が頭を下げる。後で良いなら謝罪文も書く。公表しない前提ならば」

 

「・・・よろしいですわ。それでこちらも鉾を収めるとしましょう」

 

何とか山は乗り越えたらしい。少しだけ気が楽になった。

その場で席を立つ。

 

「では本件、星導館学園生徒会として謝罪します。ご迷惑をおかけしました」

 

深く頭を下げる。優は見えないが、一応でも頭は下げているだろう。

顔を上げるとレティシアは何とも言えない微妙な表情だった。案外こういう形で正面から謝罪を受けた事は無かったのかもしれない。

 

「・・・謝罪を受けましょう。二度とこのような事が無いようお願いしますわ」

 

反応はため息交じりの言葉だった。

 

どういった形であれ、ガラードワース側は受け入れた。

代行とは言え、星導館の生徒会トップに頭を下げさせたのだ。悪い結果ではないはず。

受けたのはレティシアだが、会長のアーネスト・フェアクロフもその性格からしてこれ以上は求めないだろう。

 

「それでは、今後の具体的な対応について協議しましょう。よろしいですわね」

 

「了解。ではこちらから―――」

 

会談は今後どのような対応をしていくか、実務の打ち合わせに変わる。

トップ同士で方針は決定しているので、多少の意見の食い違いがあっても話がひっくり返る事はない。

合意が必要な内容が多いが、淡々と処理していって、1時間程度で終わらせる。

レティシアもだが、フォルカーと名乗った風紀委員も有能だった。あまり口は出さなかったが、意見を求められれば判断は正確だった。

 

最後に非公開の合意文書をエビデンスとして作成し、打ち合わせを終える。

 

「ありがとう。こういった形だが、話ができて良かった」

 

「私もそう思いますわ。いずれまた、もっと良い協議の場で再会したいと思います」

 

フェニクスが終われば『会合』で会う事になるのは分かっているが、非公開事項なのでそうは言えない。ただ意味深な視線を送ってくるレティシアの表情を見ると、あるいはそこで蒸し返してくるかもしれない。今度はこちらの立場が弱いのでそれもやむなしか。

ただ、優はその視線を別の意味にとったらしく、目付きがきつくなった。

 

ここでこれ以上揉めるのは困るので、手を差し出す。

レティシアとの握手で会談は終了の合図となる。

 

一礼して室外に出ると、すでにパーシヴァル・ガードナーが控えている。

無言で彼女に従って校舎を後にした。

夏の空から残照は消え、星が見え始めていた。

 

 

 

 

 

「涼さん、本当にご苦労様でした。七海さん、同行ありがとうございました」

 

学園に戻って、会長室。

結果をクローディアに報告する。口頭でざっと会談内容を告げると、暖かな笑顔でねぎらいの言葉をもらった。

 

「上手く交渉して頂けましたね。お見事です」

 

「ま、何としてもまとめるつもりでしたからね」

 

「そうは言っても、あっさり頭下げ過ぎじゃないの?」

 

優の方は、あまり満足していないようだった。

 

「俺の頭一つで片付くなら安いもんだね。どうという事はない」

 

「・・・」

 

それだけじゃないらしい。どうやらレティシアにあまり良い印象を持てなかったのかもしれない。あるいは生真面目なタイプとはそりがあわないのか。

 

「優、おまえはもう帰っていいよ。生徒会はまだ仕事がある」

 

「そう。わかった。じゃお疲れ~」

 

少し投げやりな態度で出て行く。案外クローディアとも合わないのかもしれない。

 

「会長、いくつか急ぎの書類がある。今から作るんで、同時進行でチェック、頼みます」

 

「はい。何時でもどうぞ」

 

決着はついた、とは言えその後も事務処理がある。

今日も遅くなりそうだった。

 

 

 

 

 

翌朝。

寮の自室で目を覚ます。端末に着信があったが気分最悪で見る気になれない。

昨夜は仕事の後、何となく眠れなくて寝酒をしたのが良くなかったらしい。

 

本当は校則違反だが、煙草を咥えて火を点ける。

いつもなら落ち着く煙だが、今は口内が更に苦くなっただけだ。

 

再び端末にコール。あまり考えずに出ると、モニターにはレティシア。

 

「おはようございます、シマ。・・・何しているんですの!」

 

「見ての通りだが、何か?」

 

画面のレティシアに煙を噴きかけてやる。まだ頭が働かない。

 

「なっ、何をなさいますの!貴方、ちゃんと起きなさい!」

 

「起きてるって。何の用だ」

 

「昨日の事について、個人的にお話してみたかったのですが、日を改めた方が良さそうですわね」

 

「そうしてくれ」

 

「ではよしなに。しっかりなさい」

 

そう言って画面が消える。

一体何を言いたかったのか。

 

 

窓を開けると今日も快晴。

 

フェニクスは試合が無く、4回戦―――本戦の組み合わせ抽選会が行われる。

 

これからが本当の激戦になる。

星導館からは二組。

そのサポートも重要だ。

 

「ま、やれる事をやるだけだ」

 

自分に言い聞かせると、今日の活動を開始だ。

 

 

 

 

 

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